SHOW-HEYシネマルーム40
  
     2017年下半期お薦め50作
が出版されました!
                    (2017(平成29)年12月10日出版)
    
                         
『シネマルーム40』は2017年4月1日から2017年9月30日までに観た洋画80本、邦画30本、計110本の映画から2017年下半期お薦め50作を選び、まとめたものです。

<第1章 第89回アカデミー賞>
1)第1章は、まず『シネマルーム39』で収録できなかった、作品賞・脚色賞・助演男優賞の三冠に輝いた❶『ムーンライト』、ケーシー・アフレックが主演男優賞を受賞した❷『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、外国語映画賞を受賞した❸『セールスマン』を収録しました。続いて、作品賞、脚本賞、助演男女優賞にノミネートされながら惜しくも無冠に終わった❹『LION/ライオン ~25年目のただいま~』、次にイザベル・ユペールが主演女優賞を逃した❺『エル ELLE』を収録しました。
2)第87回と第88回は主演男女優賞と助演男女優賞にノミネートされた20名が白人ばかりで、黒人が1人もいなかったことが「白すぎるオスカー」と強く批判されました。第89回はその反動もあって、監督賞、主演女優賞など主要6部門は『ラ・ラ・ランド』が受賞したものの、作品賞と脚色賞は『ムーンライト』が、そして助演男優賞は『ムーンライト』の黒人俳優マハーシャラ・アリが受賞しました。他方、大方の予想を裏切って登場したトランプ米大統領が公約通り、7カ国からの入国禁止の大統領令に署名したことに抗議して、『セールスマン』のアスガー・ファルハディ監督と主演女優のタラネ・アリドゥスティが、事前に式典への欠席を表明していたにもかかわらず、下馬評通り見事に外国語映画賞をゲットしました。授賞式での作品賞の読み間違いは前代未聞のご愛嬌でしたが、トランプ大統領批判がてんこ盛りとなった授賞式での同作の受賞は大きな話題を呼びました。本書で「このイラン人監督作品は必見!」と実感して下さい。
3)なお、録音賞と編集賞を受賞した『ハクソー・リッジ』は第5章に、音響編集賞を受賞した『メッセージ』は第7章に収録しています。

<第2章 この巨匠のこの作品に注目!>
1)ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督が2016年10月9日に死去したことは、その遺作となった『残像』の公開と相まって大きな話題を呼びました。しかし、世界の巨匠の面々はまだまだ元気です。そこで第2章では、まず「英国病」がさらに悪化したことによって広がった格差と貧困を告発するために引退宣言を撤回してまで鋭い問題提起をしたケン・ローチ監督の❶『わたしはダニエル・ブレイク』、80歳を越えてなお毎年喜劇の演出に意欲を燃やす山田洋次監督のさらに上をゆくウディ・アレン監督がハリウッド(西海岸)とニューヨーク(東海岸)を股にかけた恋愛劇を演出した❷『カフェ・ソサエティ』、イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオが『瞼の母』(62年)ならぬ「母もの」に挑戦した❸『甘き人生』を収録しました。
2)続いて、2008年の北京オリンピックの総合監督を務めた張藝謀(チャン・イーモウ)監督が、ハリウッド俳優のマット・デイモンを主役に起用した、米中合作の❹『グレートウォール』そして、台湾の巨匠楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の❺『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を収録しました。台湾ニューウェーブを代表する、候孝賢(ホウ・シャオエン)監督の『非情城市』(89年)に並ぶ、上記作品は4時間にも及ぶ『ウエストサイド物語』(61年)にも似たストーリーですが、4Kレストア・デジタルリマスター版で蘇ったその充実感と満足感をたっぷり味わってください。
3)第2章では、さらに日本の巨匠、三池祟史監督の❻『無限の住人』、黒沢清監督の❼『散歩する侵略者』にも注目です。

<第3章 この若手監督のこの作品に注目!>
1)第3章では、まず、イラン政府によって20年間の映画製作禁止処分を受けたジャファル・パナヒ監督の❶『人生タクシー』、1969年にボスニア・ヘルツェゴビナで生まれたダニス・タノヴィッチ監督の❷『汚れたミルク あるセールスマンの告発』が必見!前者はパナヒ監督自身がタクシー運転手になって、乗客との対話を楽しむ軽いノリの映画です。しかし、何とその乗客は①映画のDVD海賊版の密売人、②交通事故で血まみれになった男とその妻、等の他、③友人の人権派弁護士、④将来の映画監督を目指す姪っ子まで・・・。そこで交わされる際どい会話(?)の数々に注目です。これはひょっとして、人権派弁護士への弾圧がより強化されている習近平体制下の中国でも参考になる映画作りの一方法かも・・・?後者はかつての「森永ヒ素ミルク事件」との対比が不可欠な社会問題提起作です。
2)続いて、フランスの道化師カップルであるドミニク・アベル、フィオナ・ゴードンが、製作・監督・脚本・主演した❸『ロスト・イン・パリ』、自らもサーミ人の血を引くスエーデン人の女性監督、アマンダ・シェーネルの❹『サーミの血』に注目です。
3)さらに、日本人も若手監督では負けていません。長谷井宏紀監督の❺『ブランカとギター弾き』、三島有紀子監督の❻『幼な子われらに生まれ』、熊澤尚人監督の❼『ユリゴコロ』に注目して下さい。

<第4章 人生とは?男の生き方、女の生き方>
1)イギリスのEU離脱と米国でのトランプ大統領の誕生。この2つに象徴される世界の潮流の変化は劇的かつ深刻なものになっています。アメリカに続く、イラン、フランス、韓国での大統領選挙もそれに輪をかけたうえ、ミサイルと核を巡る北朝鮮の動静は世界に不安と危機を与え続けています。そんな中、人間の生き方も大きく変化し、人生とは?人間の生き方とは?を考えさせる名作が次々誕生しています。そこで、第4章にはその最新作を収録しました。
2)男同士の友情をテーマとした名作は昔からたくさんありますが、そこに新たに誕生したのがスペインのゴヤ賞で主要5部門を受賞した❶『しあわせな人生の選択』です。末期ガンでの延命治療を拒否し、スペインで愛犬と共に過ごす男をカナダから古い友人が訪問。その4日間の滞在で2人の男が見せるホンモノの友情とは?幸せな人生の選択とは?何とも濃密な4日間の人生ドラマをしっかり味わいたいものです。男同士の渋い演技が光った同作に対し、イタリアのアカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で7部門を受賞した❷『歓びのトスカーナ』は、精神病院を舞台としながら、ハジけるように陽気なヒロインとそれに引きずられるようにたくましく成長していく、元々無口で陰気だったヒロイン2人の、『テルマ&ルイーズ』(91年)を彷彿させる脱出劇ロードムービーです。2人のヒロインのオードリー・ヘップバーン風の颯爽とした服装(?)にも注目しながら、たくましく生きるイタリアの精神病患者の生キザマをしっかり味わいましょう。
3)次に、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督の遺作となった❸『残像』が社会主義政権下、表現の自由を求めて生きた画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの苦悩を描いたものなら、❹『僕とカミンスキーの旅』に登場したカミンスキーは盲目の画家です。『交響曲第1番 HIROSHIMA』を作曲したのは新垣隆氏で、聴覚障害の作曲家・佐村河内氏はフェイクだったという真相に日本中が驚かされましたが、85歳の盲目の画家と31歳の自称新進の美術ジャーナリストが織りなす「弥次喜多道中」ならぬロード・ムービーは、ハチャメチャです。前者では現在の中国やイランにおける芸術家の生き方に思いを至らせながら広い教養人の確立を目指し、後者では何がホントで何が嘘かをしっかり見極める人生の達人を目指したいものです。
4)弁護士は嫌な事件の受任を拒否できますが、医師は治療を拒否することはできません。もちろん、診療時間の制約等はありますが、「もし、あの時ドアを開けていれば・・・。」そんな後悔にさいなまれる若き女医の生き様に焦点を当てた問題作が❺『午後8時の訪問者』です。他方❻『夜明けの祈り』は、ポーランドの修道院で起きた集団レイプ事件で6人の修道女が妊娠したことを知った赤十字病院に勤務する女医の活躍を描いた問題作です。赤ちゃんの命の大切さと共に、今なお世界で起きている惨状に思いを巡らせたいものです。
5)第3章には、さらに父と娘の愛をテーマにした❼『ありがとう、トニ・エルドマン』、と母と娘の愛をテーマにした名作❽『娘よ』を収録しました。『ありがとう、トニ・エルドマン』で見せる父親の娘への愛情(おせっかい)は、ありがた迷惑をこえた詐欺まがい、ストーカーまがい。こんな父親はもうイヤ!そんな娘の叫びが聞こえてきそうですが、さて162分という長尺が織り成すハチャメチャな物語の行き着く先は・・・?他方、日本でも戦国時代では大名間の「政略結婚」が当たり前だったように、パキスタンでは今でも部族間の「児童婚」があるそうです。部族間の同盟のため、10歳の娘をじいさんの嫁に。決定されれば従うしかないのが部族の掟だから、それを破って逃走でもしようものなら・・・?1999年の実話を基にパキスタン人の女性監督が魂の叫びを映画にした同作は、平和ボケした今の日本人に必見です。

<第5章 こんな戦争も、あんな戦争も!>
1)第5章では、まず、第2次世界大戦の沖縄戦における良心的兵役拒否者の大活躍(?)を描いたメル・ギブソン監督の❶『ハクソー・リッジ』、クリストファー・ノーラン監督の❷『ダンケルク』に注目!
2)続いて、日中戦争時の山東省の鉄道駅を舞台化した❸『レイルロード・タイガー』、司馬遼太郎の原作を原田眞人監督が映画化した❹『関ヶ原』に注目です。これまで俳優としてはもとより、監督・脚本・歌手・プロデューサーとして関わってきた映画が200本以上となり、2016年にはアジア人俳優として初めてアカデミー名誉賞を受賞したジャッキー・チェンは既に還暦を越えましたが、そのアクションはなお現役です。他方、大ヒットした『関ヶ原』では石田三成役の岡田准一はもとより、『三度目の殺人』で何ともクセのある殺人犯を演じた役所広司の老練な徳川家康にも注目です。
3)ヒトラー映画では新たに、ヴァンサン・ペレーズ監督の❺『ヒトラーへの285枚の葉書』、ショーン・エリス監督の❻『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』が登場します。
4)戦争は刀や剣そして銃や大砲を伴ったものばかりではなく、男同士の決斗やスパイ戦・知能戦も含まれるうえ、資本主義の確立後は経済成長・企業戦争も激烈です。第5章では、そんな視点から❼『ある決闘 セントヘレナの掟』と❽『潜入者』、そして❾『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』と❿『ゴールド 金塊の行方』を楽しんで下さい。

<第6章 「裁判モノ」あれこれ>
1)大阪弁護士会は「弁護士は、依頼者を守るために徹底的に向き合います。」というキャッチフレーズを掲げて❶『三度目の殺人』を応援しました。それは一体ナゼ? そんな視点を含めて、役所広司VS福山雅治の拘置所内での「対決」に注目し、真実と向き合うことがいかに大変かを実感して下さい。また❷『22年目の告白 私が犯人です』では今風の劇場型犯罪のあり方を、❸『HER MOTHER』では「娘を殺した死刑囚との対話」という一風変わった視点からの人間観察に注目です。
2)子供は誰のもの?産みの母?それとも育ての母? それは昔から大きなテーマですが、❹『光をくれた人』からそれをじっくり考えてみてください。他方、インドにも本格的裁判モノが登場! 日本やアメリカの「法廷モノ」とは全く異質な「カースト制度」への批判を内在させた❺『裁き』の問題提起をしっかり受け止めて下さい。

<第7章 映画から何を考える>
1)映画は娯楽であると同時に、学びの場。それが私のモットーですが、日本にあった「ナミヤ雑貨店」とフィリピンにあった「ローサの雑貨店」で起きた2つの事件を描く❶『ナミヤ雑貨店の奇蹟』と❷『ローサは密告された』から、あなたは何を学びますか? また、原発は維持?それとも廃止?それは大きな政治テーマであると同時に国民の選択の問題です。❸キム・ギドク監督の『STOP』と❹廣木隆一監督の『彼女の人生は間違いじゃない』から、それをしっかり考えてください。
2)昨今はハリウッドの大型「SFモノ」が大はやり。❺『メッセージ』はその1つです。それに対して、❻『きっといい日が待っている』はSFモノではありませんが、同じ宇宙飛行士がテーマ。さて、そこで主人公とされた宇宙飛行士を目指す少年の生きザマは・・・?
3)映画は面白い芸術で、様々なジャンルと形式があります。そこで、第7章では「グランドホテル」形式の❼『サラエヴォの銃声』と「ワンシチュエーション・ドラマ」の❽『おとなの事情』を対比しながら、それぞれの面白さを味わって下さい。映画って本当に総合的な芸術だということ、そして監督の視点によっていかようにも作ることができるものだということが実感できるはずです。
                    2017(平成29)年10月20日
                                弁護士 坂  和  章  平