SHOW-HEYシネマルーム38
  
     2016年下半期お薦め50作
が出版されました!
                     (2016(平成28)年12月1日出版)
    
                         
◆『シネマルーム38』は2016年4月1日から2016年9月30日までに観た洋画69本、邦画27本、計96本の映画から2016年下半期お薦め50作を選び、まとめたものです。

◆2016年夏、ゴジラに襲われた日本の首都東京は大パニックとなり、自衛隊の再三にわたる出動はもちろん、アメリカの核の使用まで許諾しました。その間に緊急脱出を図った総理大臣、官房長官、防衛大臣が次々と死亡したため、臨時総理としてその危機を乗り切ったのは一体誰?このままでは東京が火の海と化すこと必至という状況の中、危機管理体制や憲法の緊急事態条項の必要性はもとより、災害法制、安保法制のあり方が生々しく問われました。そこで『シネマ38』では第1章のトピックスとして、邦画では『シン・ゴジラ』を登場させるとともに、昨年、今年と大きな話題を呼んだ『64―ロクヨン―前編・後編』を収録しました。
またバランスを考え、洋画では『砂上の法廷(THE WHOLE TRUTH)』と『シークレット・アイズ』をトピックスとして収録しましたが、これはあくまで私の独断と偏見による選択です。また鑑賞時期の関係でアカデミー賞作品の紹介が遅れましたが、第1章では「第88回アカデミー賞追記」として『リリーのすべて』『スポットライト 世紀のスクープ』『レヴェナント 蘇えりし者』を収録しました。

◆近時の邦画は若者向けのピュアな純愛ものが多いものの、それに比例して(?)アカデミー賞はもとより、カンヌ、ベルリン、ベネチア等の国際映画祭のコンペ部門の話題を呼び受賞する映画が少なくなっています。しかし、2016年は意外に邦画の当たり年でした。そこで第2章では、人間の本質に切り込んだ李相日監督の『怒り』、山下敦弘監督の『オーバー・フェンス』、前田司郎監督の『ふきげんな過去』の3本を、そして突然の闖入者によって家族がぶっ壊された深田晃司監督の『淵に立つ』、黒澤清監督の『クリーピー 偽りの隣人』の2本を収録しました。『淵に立つ』が第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を見事に受賞したことからもわかるとおり、ホンモノの邦画の価値はまだまだ健在です。
次に岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』、西川美和監督の『永い言い訳』は、いずれも夫婦の仮面性に鋭く切り込んだ興味深い作品です。そして岸善幸監督の『二重生活』は少し哲学的に(?)、鶴橋康夫監督の『後妻業の女』は少し下品に(?)スリリングな展開を楽しみながら、それぞれの自分捜しにお役立て下さい。

◆『シネマ38』が出版される頃には既にアメリカ大統領選挙の結果は出ていますが、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏の「メキシコとの国境に壁をつくれ!」の主張は、良くも悪くも大きな注目を集めました。たまたま「島国ニッポン」は四方を壁ならぬ海に囲まれているため、それが自然の防衛線となり、蒙古の来襲も退け、大量の難民の流入も防いでいます。しかしパレスチナでは?メキシコでは?そんな問題点を第3章に収録した『オマールの壁』『カルテル・ランド』からしっかり学んで下さい。
アメリカ大統領選挙が「嫌われ者同士の対決」になったことはアメリカのみならず全世界の不幸ですが、アメリカにはそれ以外にもさまざまな問題点のあることが『マネーモンスター』『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』を観ればよくわかります。それに対して、ヨーロッパの小国オランダには『孤独のススメ』『ハロルドが笑う その日まで』のようなあまり世間に知られていない「小さな物語」があり、2015年11月13日のパリ同時多発テロ事件で全世界の注目を集めたフランスには『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』に見る希望と『ティエリー・トグルドーの憂鬱』に見る憂鬱の両者が併存していますので、それらをしっかり理解したいものです。

◆2015年に戦後70年を迎えたドイツでは、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』『顔のないヒトラーたち』でヒトラーの検証が、『ふたつの名前を持つ少年』『あの日のように抱きしめて』でアウシュヴィッツの悲劇の検証が進められました(『シネマ36』第1章参照)。ところが、2016年には『帰ってきたヒトラー』が大ヒット!こりゃ大変です。アウシュヴィッツの悲劇を指揮した極悪非道の男アイヒマンは、アイヒマン裁判を傍聴する中で「悪の陳腐さ(凡庸さ)」を説いた『ハンナ・アーレント』等で有名ですが、第4章に収録した『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』を観れば、さらにその理解が深まります。アイヒマンは潜入先のアルゼンチンでイスラエルの諜報特務庁モサドによって逮捕されましたが、チリに潜入してコロニア・ディグニダをつくったうえ、1973年9月にアジェンデ人民連合政権を打倒したピノチェト軍事独裁政権と結託していたナチス・ドイツの残党がいたことを、私は『コロニア』ではじめて知りました。
他方、1936年のベルリンオリンピックは『民族の祭典 オリンピア第一部』(36年)『美の祭典 オリンピア第二部』(36年)で有名ですが、ナチス讃歌と人種差別政策のため、アメリカをはじめ世界各国は参加すべき?それともボイコットすべき?が大問題になりました。1936年のベルリンオリンピックを3年後に控えた時代の政治、軍事、経済情勢と対比して、現在の北朝鮮の核ミサイル問題、中国の海洋進出問題、米中の対立問題、韓国の立ち位置等々を考えると、2020年の東京オリンピックは混乱なく開催できるのでしょうか?さらに、小池百合子東京都知事が登場する中で突然浮上してきた豊洲市場問題が長引けば、東京五輪のための道路建設が間に合わない恐れがあるうえ、バカ高くなった運営費問題にメスを入れる中で会場の縮小等々の問題が出てくれば・・・。『栄光のランナー 1936ベルリン』は、市川崑監督の『東京オリンピック』(64年)と共に必見です。
次に、歴史に興味のある方は、第4章に収録した、ド派手な演出の中で泣かせる人間ドラマを紡ぎあげた『阿弖流為(アテルイ)』と、「日帝」が支配する韓国ではなるほどこんな歴史もあったのかと納得させてくれる『暗殺』は必見!さらに近未来モノとしては、『太陽』と『エクス・マキナ』はメチャ興味深いものです。

◆第2章収録の『リップヴァンウィンクルの花嫁』『永い言い訳』では日本の夫婦のあり方が問題になりましたが、第5章に収録した『木靴の樹』では19世紀末の北イタリアの農村に生きる4つの家族の物語が、『さざなみ』では45周年を迎える夫婦に起きるさざなみが淡々と描かれています。家族や夫婦の視点から、この洋画と邦画を対比してみるのも一興です。日本では2009年頃から「AKB48」が「国民的アイドル」として大ブレイクし、その後は女性アイドルグループの元気さが目立っていますが、それは全世界共通(?)のようです。なぜか国際結婚ばかりに走る4人姉妹(『最高の花婿』)、一大決心をしてアメリカに渡ったものの2つのふるさとに悩む2人姉妹(『ブルックリン』)、閉じ込められた古い因習から強行脱出を図るトルコの若い5人姉妹(『裸足の季節』)の姿を楽しみながら、2016年7月10日の参議院議員選挙の圧勝後に発足した第三次安倍第二次改造内閣が現在強調している「一億総活躍社会」や「女性活用社会」についてもしっかり考えたいものです。

◆世界の映画関連市場における中国の存在感は近時急速に大きくなり、数年後にはトップの北米市場を抜く勢いを見せています。そのためハリウッド大作の『オデッセイ』ではわざわざストーリーの中に中国絡みの逸話を入れたり、『インデペンデンス・デイ リサージェンス』では中国の美人女優をパイロット役に起用したりと、その気の遣いようが顕著でした。しかし、これは映画の世界だけにして欲しいもので、政治や経済、軍事(安全保障)面では極東・東南アジア方面におけるアメリカが従来どおりしっかりしなければ、近い将来本気で「太平洋を二つの国で二分しよう」と言われかねません。もっとも第6章に収録した『山河ノスタルジア(山河故人)』の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督、『ラサへの歩き方 祈りの2400km(冈仁波齐)』の張楊(チャン・ヤン)監督のような第六世代監督にはそんな野心、野望は全く見受けられないからご安心を。
他方、少し古いですが、第6章では台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『冬冬の夏休み(冬冬的假期)』『恋恋風塵(戀戀風塵)』を懐かしく鑑賞するとともに、新たに芽生えてきたタイ映画(『すれ違いのダイアリーズ』)、カンボジア映画(『シアター・プノンペン』)のフレッシュな魅力にも注目して下さい。

◆都市問題をライフワークにしている私は、昭和30年代後半からの高度経済成長時代に急速に広がった団地の「建替え」問題に関心を持っています。またマンション管理をめぐる講演では、いつも私は「マンション管理は民主主義の学校だ」と説いています。2016年の今年は、石原慎太郎の『天才』が大ヒットしたことに代表されるように、1993年に亡くなり「今太閤」と呼ばれた田中角栄元総理の功績と人物像を見直すブームが起きました。
それと同時に、映画界では団地を見直す、是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』と阪本順治監督の『団地』が公開され話題を呼びました。すると、なぜかフランスでも団地を舞台にした『アスファルト』という興味深い映画も公開!第7章では、そんなテーマでくくられた3作を楽しんでください。さらに「神サマもの」では、超正統派の『復活(RISEN)』と超異端派の『神様メール』を、エンタメ作としては『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』を楽しんでください。
                                            以  上