実況中継パート3によせて
                            愛媛大学法文学部教授 矢野達雄

 坂和章平は「怪人」であるとの評を聞いたことがある。これは、彼の大学時代の友人の言である。
 以前、『実況中継 まちづくりの法と政策』 (パート1)の推薦文「実況中継によせて」を書いた時にご紹介したように、私は氏とは同じ1949年生まれで、進学した高校も大学も同じであるが、氏が早生まれのため、学年では氏のほうが先輩ということになる。
 ところが、このずれは、私たち世代の者にとって、とても大きな差となった。というのは、大学紛争の波が大阪大学にも押し寄せて来て、全学封鎖・授業ストップとなったのである。このころ、私たち新入生は一度も授業を受けないまま、待機を余儀なくされていた。一方坂和氏はすでに在学生であり、友人たちと封鎖解除・授業再開に向けて努力していた、というのは本人の弁だ。しかし、実はこの時期に、法律学の勉強に精を出して、卒業直後に司法試験に合格する素地を作ったのではないかと私は推察している。大学を卒業したその年での司法試験合格は、快挙であり、「快人」と言えそうだ。
 弁護士となってからの活躍は、パート1の「実況中継によせて」に書いたとおりだ。今やその活動は、弁護士活動の枠からはみだして、大学講師・都市法研究者・映画評論家・ラジオパーソナリティ、など八面六臂の活躍である。西暦2004年現在の法律界は、ロースクールが一番の話題だが、この面でも氏は、開設予定の関西学院大学ロースクールで、「都市法」の講師として出動予定であり、またロースクール向け教科書の出版にも取り組んでいるとのことだ。各方面に向かって、活躍の場を広げている「開人」といえるかもしれない。
 愛媛大学で「都市法政策」の集中講義をお願いしたのは、今回で三回目となる。これには「回人」という呼び名がふさわしい。厖大なレジュメを準備し、助手を同伴した精力的な講義ぶりは、前二回と同じだった。帰阪するや録音した講義テープをおこして、早速今回の出版にこぎ着けたというのも驚きだ。
 各回のテーマ、重点の置き所がそれぞれ異なっているのは、言うまでもない。パート1では、都市法の制度・枠組の基本的な理解を伝えることに重点を置き、それに震災復興まちづくりや大阪国際空港訴訟など、自身の実践活動の経験をあわせて語られた。 『実況中継 まちづくりの法と政策』 (パート2)では、破綻が表面化した都市再開発事業を中心に小泉都市再生への期待を述べていた。そして今回のパート3では、破綻する都市再開発事業のその後に目配りするとともに、さらに視野を広げて、司法制度改革や三位一体改革に話題が及んでいるのが印象的だった。
 坂和氏の講義のラインアップを拝見して感じるのは、講義はつくづく「生き物」だということである。氏は、絶えず変転する社会状況に合わせてアップ・トゥ・デイトな講義案を工夫している。われわれも、常にそうありたいと心がけているのだが、諸般の事情からなかなかそうはいかない。その点でも、見習う点が多々ありそうだと思っている。
 日本の法学教育の欠点のひとつは、現場感覚を欠いているところにある、と私は思っている。法の働く現場は、いうまでもなく現実社会である。しかし、法学のエキスパートになろうとすると、法学独特の思考方式に習熟することを優先するあまり、現実社会とのつながりが見えなくなってくる。
 そこで全国の法学を教えている大学で最近増えて来たのが、実務系の諸科目である。基本六法を学ぶのは当然として、法の働く社会の実態を知ること、いわば現場感覚を身につけさせるために、いろいろな方法を試みるのである。たとえば、裁判所見学やフィールドワークをカリキュラムに組み込むなどである。今回のロースクール構想でも、クリニックやエクスターンシップなどをカリキュラムの中に取り入れようとしている所が多いが、これはやはり同じ意味だろう。その他、実務家の協力を得ながら「先端科目」を学ぶのは、現場感覚をつかむ一助となろう。「先端科目」にもさまざまなプランがあるが、中でも「都市法」ないし「都市法政策」は注目される。第一に、いまや都市に居住する人口が圧倒的に多くなり、その意味で自分たちの身のまわりをとりまく制度の法的枠組を理解するのは身近であり、かつ実用性がある。第二に、都市法の現状は、混沌とした現代日本法の状況を善かれ悪しかれ象徴している。だからこそ、「都市法」ないし「都市法政策」は、現代法理解の素材として、格好のテーマだと思うのである。
 今後、「都市法」や「都市法政策」を授業に取り入れる大学やロースクールが増えてくるであろう。坂和氏の『実況中継』シリーズは、読者がこの分野の全貌を把握するのに絶好の伴侶となろう。
                              2004(平成16)年2月27日