洋17-25

「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」
    

                  2017(平成29)年2月11日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督・製作・脚本:ゲイリー・ロス
製作:ジョン・キリク、スコット・ステューバー
ニュートン・ナイト(元南軍の衛生兵)/マシュー・マコノヒー
レイチェル(イーキンズ家の使用人)/ググ・ンバータ=ロー
モーゼス(逃亡奴隷)/マハーシャラ・アリ
セリーナ・ナイト(ニュートンの妻)/ケリー・ラッセル
デイビス・ナイト/ブライアン・リー・フランクリン
ウィルソン/ドナルド・ワトキンス
ジャスパー・コリンズ(かつての南軍の友人)/クリストファー・ベリー
ウィル・サムラル(かつての南軍の友人)/ショーン・ブリジャース
バーバー中尉/ビル・タングレイディ
エリアス・フッド大佐/トーマス・フランシス・マーフィ
ジェームズ・イーキンズ(大型綿花農園経営者)/ジョー・クレスト
ダニエル(ニュートンの甥)/ジェイコブ・ロフランド
2016年・アメリカ映画・140分
配給/キノフィルムズ/木下グループ

<新たに、こんな歴史上の人物を発見!>
 私は近時の映画だけでも①『エゴン・シーレ 死と乙女』(16年)で画家のエゴン・シーレ、②『スノーデン』(16年)でスパイのエドワード・スノーデン、③『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』(15年)でドイツのヘッセン州検察庁検事長フリッツ・バウアー等の「歴史上の人物」を知り大いに勉強したが、本作ではニュートン・ナイトという「歴史上の人物」がいたことを発見!「南北戦争」中の1863年1月1日に「奴隷解放宣言」を発布し、1865年に暗殺されたリンカーン大統領のことは日本人もよく知っているが、さてニュートン・ナイトとは?
 本作の副題には「自由の旗をかかげた男」という邦題がついているうえ、チラシには「アメリカ史が封印してきた黒人を率いた白人の英雄(リーダー)」と書かれている。しかし、それって、一体どんな功績?中国の曹操、劉備、孫権の3人をはじめ、『三国志』にはさまざまな英雄豪傑が登場するが、ニュートン・ナイトとはどんな英雄?そしてまた、チラシに書いてある「彼の衝撃と感動の実話」とは一体ナニ?それを本作でじっくりと!

<ジョーンズ自由州とは?>
 南北戦争や奴隷解放宣言をテーマにした映画、それを時代背景とした映画は『風と共に去りぬ』(39年)、『グローリー』(89年)、『コールドマウンテン』(03年)(『シネマルーム4』139頁参照)、『リンカーン』(12年)(『シネマルーム30』20頁参照)等たくさんある。そこで描かれているテーマは日本人が知らないものも多いが、いずれも感動的なストーリーになっている。歴史が大好きな私はそんな映画をたくさん鑑賞し、勉強したことによって南北戦争のことは大体わかったと思っていたが、何の何の、本作を見るまではニュートン・ナイトという男(英雄)の存在すら知らなかった。
 この男は①ミシシッピ州の奥地にある湿原で、南軍から脱走した白人兵と逃亡奴隷たちからなる「自由軍」を結成し、②南軍のエリスビルの司令部を占拠して隣接する3つの郡を奪い、③1864年には南部からの独立を宣言して「ジョーンズ自由州」と称する自分たちのコミュニティ(国)を作り上げ、④「ジョーンズ自由州4原則」を宣言した、というからすごい。
 私は「ジョーンズ自由州4原則」はもちろん、「ジョーンズ自由州」の創設すら知らなかったから本作には興味津々!

<ジョーンズ自由州4原則とは?知られざる姿がここにも>
 古くはモーゼの「十戒」が有名だし、日本では坂本龍馬が「船中八策」で立案したとされる明治政府の「五箇条の御誓文」が有名だが、前述のとおり私は「ジョーンズ自由州4原則」は本作を見るまで全然知らなかった。その内容は①貧富の差を認めない、②何人も他の者に命令してはならない、③自分が作ったものを他者に搾取されることがあってはならない、④誰しも同じ人間である。なぜなら皆2本足で歩いているから、というものだが、なるほど、なるほど。
 近年はIS(アイエス、Islamic State、イスラム国)を名乗って、イラク・シリア間にまたがって活動するイスラム過激派組織が世界的に大問題になっている。「我々はムスリムの国だ。」「抑圧されたムスリム、孤児、夫と死別した女性、そして貧困にあえぐ人たちのための国だ」「イスラム国の人々は生命と財産の安全を保障され、(従来の国境を越えてビザなしで)自由に移動できる」と主張するISは「独立国」として徴税権まで持っているそうだから、ニュートンが創設した「ジョーンズ自由州」もそれと同じようなもの・・・?
 そう考えても間違いではないだろうが、ISにはイスラム法と合致しているかどうかを審査する宗教機関が存在し、 イスラム法の厳格な運用のための戒律が極端に厳しいらしい。たとえば、①酒、タバコは厳禁、②女性には全身を隠し、目だけを出す黒い服装の着用を義務付け、一人での外出も禁止、さらに③夜7時以降は男女を問わず全員外出禁止令を発令。ヒスバと呼ばれる宗教警察が市民を監視し、検問所を各所に設け、住民の出入りは厳格に管理されるらしい。そんなハチャメチャぶりに比べれば、ニュートンが自由州で宣言した「ジョーンズ自由州4原則」はきわめてシンプルかつ常識的なもの・・・?なるほど、なるほど、南北戦争の知られざる姿がここにも・・・。

<ニュートンの戦いの動機は?その実態は?>
 本作の導入部では、南軍の衛生兵として(いやいやながら)南北戦争に従事していたニュートン・ナイト(マシュー・マコノヒー)が甥のダニエル(ジェイコブ・ロフランド)の「戦死」を契機として南軍を脱走する中、「黒人20人法」(20人以上の奴隷を所有する裕福な家庭の息子は兵役を免除されるという法律)への反発を強め、南軍に敵対していくニュートンの姿が描かれる。
 それに協力するのが、ニュートンより先にミシシッピ州の奥地にある湿地に逃げ込んでいた、モーゼス(マハーシャラ・アリ)たち脱走奴隷だ。モーゼスの首にかけられていた鉄の輪を外し、その音を聞きつけて駆けつけてきた南軍の捜索隊を迎え撃つニュートンの姿を見て、モーゼスたち黒人が驚きかつ信頼したのは当然だ。そこにニュートンが南軍で一緒に戦った男ウィル・サムラル(ショーン・ブリジャース)やジャスパー・コリンズ(クリストファー・ベリー)も合流したが、所詮その数は500名。南軍が本気になって部隊を投入すれば、そんな寄せ集めの「自由兵」は一気に粉砕。そう思われたが、ニュートンたちの最大の武器は、拠点としている湿地帯に南軍の騎兵隊は突入できないことだ。
 本作のチラシには「自由軍500人vsアメリカ南軍1,000,000人」と書いてあるが、これは明らかに誇張。500人の自由軍が現実に100万人の南軍と闘ったわけではなく、現実に投入された討伐部隊は1000人程度だが、そのバックには100万人の南軍がいたという意味だ。しかし、孫子の兵法や諸葛孔明の軍略を知らなくても、湿地帯を本拠地にしているという「地の利」をうまく利用すれば、500人の脱走白人兵や脱走奴隷さらにそれを手伝う女たちだけでも1000人程度の南軍の正規軍をやっつけることは十分可能だったらしい。本作中盤では、ニュートン指揮の下で敢然と「ジョーンズ自由州」と「ジョーンズ自由州4原則」を守るために南軍と闘うニュートンたちの姿を堪能したい。

<南北戦争の終了は?黒人差別の終焉は?>
 本作は、チラシに書いてあるとおり「黒人の奴隷たちと白人の農民たちを率いて真の自由を求めて戦った、知られざる白人のリーダー“ニュートン・ナイト”」に焦点をあて、その「驚愕と感動の実話」をスクリーン上に描き出すことを狙った映画。そして、南北戦争の終了とともに「ジョーンズ自由州」も消滅してしまったから、それによってニュートンの戦いは終了し、映画も終了するものと思っていたが、実はそうではなかった。すると、ニュートンは南北戦争終了後一体どんな生き方を?
 他方、リンカーンの奴隷解放宣言にもかかわらず、南北戦争終了後も南部では黒人差別は一向に収まらず、本作後半に見るKKK(クー・クラックス・クラン)の台頭等の新局面も発生した。黒人差別との戦いは、『グローリー ―明日への行進ー』(14年)(『シネマルーム36』162頁参照)で描かれたキング牧師の闘いや、『マルコムX』(92年)で描かれた黒人解放家マルコムXの闘い等に引き継がれ、やっと2009年のオバマ大統領の誕生によって大きな節目を迎えることになったわけだ。
 南北戦争の終焉によって南部でも奴隷は形式上は解放され、黒人に対しても土地が与えられたが、南部で奴隷を大量に使って大型綿花農園を経営していたジェームズ・イーキンズ(ジョー・クレスト)たちの黒人差別は相変わらず続いていた。また、黒人に選挙権が与えられても、その行使は事実上大きな制約を受けていた。さらに、ニュートンが南北戦争終了頃に名誉ある戦死を遂げていれば、その功績はその後ずっと英雄として語り継がれていたはずだが、現実には本作に登場する若い黒人女性レイチェル(ググ・ンバータ=ロー)と結婚したニュートンは、南北戦争終了後、黒人に対する新たな差別的法律に強く反対する活動を続け、自由民のための学校を造ったり、元奴隷の自由民に投票権を与える活動でリーダー的活動を続け、1922年に85歳で死去したそうだから、本作は引き続きそれらを描いていくことに・・・。

<ちょっと膨らませすぎの感が・・・>
 本作は、終盤に入ると突然数十年後の裁判の場面が登場し、被告人とされているニュートンのひ孫が登場するのでアレレ・・・。南軍を脱走してミシシッピ州の湿原で南軍から脱走した白人兵と逃亡奴隷を指揮して、南軍への抵抗を続けたニュートンは、扇動罪や反逆罪で起訴されたが、そのひ孫が今起訴され裁判になっているのは一体何の罪?本来のストーリーの合い間(?)にそんな「未来の物語」がチラリ、チラリと描かれるから、きっとあなたの頭は混乱するはずだ。結局彼は、黒人の血が混じっているため懲役5年の刑を言い渡されることになったが、本作にそんな物語まで入れ込む必要があったかどうかは疑問だ。
 ニュートンが1922年に85歳で死去するまで長きにわたってさまざまな活動を続けることができたのは本人にとっては幸せなことだったが、後世に名を残すという観点からはマイナスだったかもしれない。つまり、織田信長は明智光秀の謀反によって47歳で死んでしまったし、坂本龍馬が暗殺されたのは31歳の時だったために、強く日本人の印象に残っていることを考えると、ニュートン・ナイトが長い間「“知られざる”白人のリーダー」とされてきたのは、ひょっとして彼が長生きしすぎたため?
 また、ニュートンの同志として長年戦ってきたモーゼスも、南北戦争終了後はKKKの手にかかって首つりにされてしまうが、この物語が本作に必要だったのかどうかも大いに疑問だ。これらのために本作が2時間20分の長尺となり、間延び感、詰め込み感が出てしまったのは、大きなマイナスだと私は思うのだが・・・。

<あのカッコいい弁護士役の俳優が、こんな役を堂々と!>
 本作でニュートンを演じた俳優はマシュー・マコノヒー。彼は『ダラス・バイヤーズクラブ』(13年)(『シネマルーム32』21頁参照)でアカデミー賞主演男優賞等に輝いたが、私が彼を鮮明に覚えているのは『評決のとき』(96年)(『シネマルーム1』124頁参照)を観た時だ。「目を閉じて私の話を聞いて欲しい」と切り出し「少女がレイプされた。悲惨な状況だ。よく頭の中に描いてほしい・・・」と陪審員のハートに語りかけるマシュー・マコノヒー扮する若き正義感溢れた長身のジェイク弁護士の最終弁論のカッコ良さに憧れたものだった。マシュー・マコノヒーは続いてスティーブン・スピルバーグ監督の『アミスタッド』(97年)でも、同じように若きボールドウィン弁護士役を演じて元アメリカ大統領のアダムズ弁護士と共に献身的な弁護活動を展開したから、これも強く印象に残っている(『シネマルーム1』43頁参照)。
 そんなマシュー・マコノヒーが『ダラス・バイヤーズクラブ』ではHIV患者の汚れ役を果敢に演じ、本作ではひげぼうぼうの風体でアメリカ史が封印してきたニュートン・ナイト役を演じている。本作はシネコンでの上映ではないから、日本での興行収入は知れたものだろう。したがって、チラシには「アカデミー賞最有力!」と書いてあったがそれはきっと無理。しかし私は、『ダラス・バイヤーズクラブ』に続いて、本作でこれまで全く知らなかったニュートン・ナイトという男を演じたマシュー・マコノヒーの、壮年期の円熟した演技力に注目したい。
                               2017(平成29)年2月15日記