洋17-23

「マリアンヌ」
    

               2017(平成29)年2月11日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:ロバート・ゼメキス
マックス・ヴァタン(イギリスSOEの極秘諜報員)/ブラッド・ピット
マリアンヌ・ボーセジュール(マックスの妻、フランス軍レジスタンス)
                                      /マリオン・コティヤール
フランク・ヘスロップ(マックスの上司、友人)/ジャレッド・ハリス
イギリス特殊作戦執行部(SOE) 職員/サイモン・マクバーニー
ブリジット・ヴァタン(マックスの妹)/リジー・キャプラン
ジョージ・カヴァナー(マックスの同僚)/ダニエル・ベッツ
ガイ・サングスター大佐(マリアンヌの古い仲間)/マシュー・グード
モニーク/カミーユ・コタン
ホーバー/アウグスト・ディール
ポール・デラメール/ティエリー・フレモン
2016年・アメリカ、イギリス映画・124分
配給/東和ピクチャーズ

<夫婦役を演じるスパイの大変さは?>
 「スパイもの」の面白さは、何よりも『007』シリーズでも『ボーン』シリーズでも、スパイその人のキャラクター。しかし、古くは『寒い国から帰ったスパイ』(65年)、新しくは『裏切りのサーカス』(11年)(『シネマルーム28』114頁参照)などシリアスな「スパイもの」では、「個人プレー」そのものも面白いが、それ以上に「組織vs組織」の総合力のぶつかり合い(騙し合い)が面白い。『パープル・バタフライ(紫蝴蝶/PURPLE BUTTERFLY)』(03年)(『シネマルーム17』220頁参照)と『ラスト、コーション(色、戒/LUST,CAUTION))』(07年)(『シネマルーム17』226頁参照)は中国版スパイ映画の大傑作だが、そこではスパイ同士で、誰と誰が、何のために、どんなチームを組むかが大きな焦点となっていたため、ストーリーの深みがより増していた。
 アルフレッド・ヒッチコック監督の名作『引き裂かれたカーテン』(66年)では、ポール・ニューマンとジュリー・アンドリュースが婚約者として西側から東ベルリンに入る中で引き起こされる亡命騒動とスパイ疑惑が描かれていたが、本作では、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールが夫婦役のスパイを演じている。今やブラッド・ピットはハリウッドを代表する俳優、マリオン・コティヤールはフランスを代表する女優だから、夫婦役のスパイを演じるくらいはチョロイもの・・・?いくら優秀なスパイでも、はじめて会った者同士がいきなり仲睦まじい夫婦役を演じろと言われても難しいはずだが、スクリーン上で見る二人の仲睦まじさに周囲はビックリだ。
 もっとも、6週間だというマックスの休暇中も、この夫妻は周りから監視されていることは明らかだから油断はできない。気温が高く湿気の多いカサブランカでは、夫は一人で屋上で寝ることを私ははじめて知ったが、そうすると時々マリアンヌが屋上に上ってきて「愛の交換」をするのもすべてお芝居?こりゃ大変だ。本作冒頭では、そんな夫婦役を演じるスパイの大変さをしっかり確認したい。

<夫婦の合流は?2人の任務は?>
 本作冒頭、1人でパラシュートで地上に降り立った男マックス・ヴァタン(ブラッド・ピット)は直ちに仲間たちと合流し、その後、車から降り立った時は真っ白の3ピースに身を固めた超カッコいい紳士に。そんな姿で彼が悠然と入っていくのは、アフリカにあるフランス領カサブランカにある高級レストラン。そして、そこで待つ紫色のドレスを着た、目印が「ハチドリ」と言われていた女は、マックスの妻マリアンヌ・ボーセジュール(マリオン・コティヤール)だ。なるほど、なるほど・・・。
 時代は1942年。1939年9月1日のナチス・ドイツによるポーランドへの侵攻で始まった第二次世界大戦によって当時のフランスはナチス・ドイツの占領下に置かれ、ヴィシー政権はナチス・ドイツに協力していたから、フランス領のカサブランカもドイツの支配下にあった。そんな時代状況下、それなりにフランス語を操っているものの、冒頭からレストランまでのマックスの動きを見ていると、この男は本来は英語しか喋れないイギリス人のスパイであることが明らかだ。すると、レストランの中で、周りの高級な人種たちと流暢なフランス語で会話しながら夫の登場を待っていた、このマリアンヌと名乗る女も、フランス人のスパイであることは明らかだ。すると、この夫婦役のスパイに与えられた任務とは・・・?

<任務への責任感と恋心のバランスは?>
 ブラッド・ピットは『Mr.&Mrs.スミス』(05年)で愛妻アンジェリーナ・ジョリーと共演し、スパイ同士の騙し合いのドラマを演じた(『シネマルーム9』82頁参照)が、同作は出来としてはイマイチだった。しかし、本作導入部でマックスとマリアンヌがカサブランカで演じている偽りの夫婦ぶりは実に面白い。その大半はお洒落をした美男、美女が華やかな舞台で見せる「偽りぶり」だが、ある日たまたまマックスの本性を知っているナチス軍人を見かけると、マックスは何とも鮮やかにその軍人の「処理」を・・・。これを見ると、なるほどこの男は知力だけでなく格闘能力もイギリスの特殊作戦執行部(SOE)から「優秀なスパイ」と認められている男だと納得!
 他方、ある任務に向けて夜も昼も夫婦役を演じていると、少しはムラムラしたり、イライラしても仕方ないと思うのだが、そこは2人とも職業倫理や責任感を優先させて抑えているのはさすが。しかし、ある日美しいカサブランカの砂漠に行き2人だけで語り合いムードが高まってくると・・・。私は『イングリッシュ・ペイシェント』(96年)で観たレイフ・ファインズとジュリエット・ビノシュとのラブシーンの激しさに驚かされた(『シネマルーム1』2頁参照)が、さて本作に見る、カーセックスで燃え上がる2人のラブシーンの激しさは・・・?

<ドイツ人は世界一時間に厳格な人種?>
 スペイン人もイタリア人も時間にルーズだが、日本人は時間に正確。その点、ドイツ人は世界一時間に正確な人種らしい。『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(15年)は、そのことを前提とした上でつけられたタイトルだった(『シネマルーム36』36頁参照)。
 ヒトラーの暗殺(未遂)事件として有名なワルキューレ作戦を描いたブライアン・シンガー監督の『ワルキューレ』(08年)では、プラスチック爆弾は予定通りヒトラーの臨席する会議場で爆発したものの、結果的にヒトラーは軽傷で終わってしまった(『シネマルーム22』115頁参照)。それに対して、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』では、たった一人の家具職人が1939年11月8日に開催されるビュルガーブロイケラーでの記念集会で講演するヒトラーを暗殺するためビアホールの柱の中に仕掛けた爆発装置は、予定の時間にちゃんと作動したものの、時間に正確なはずのヒトラーがたまたま当日の予定を少し繰り上げて会場を後にしたために生じた「13分間の誤差」をテーマに描いていた。このようにドイツ人は時間に厳格なのが特徴(長所)だ。
 しかして、本作でも2人の任務であるドイツ大使暗殺計画でも大使が時間通り現れるかどうかがポイントだが、さて・・・?

<ドイツ大使の暗殺任務の成否とその後は?>
 『ヒトラー暗殺、13分の誤算』と同じように、ドイツ大使の登場に合わせて建物の外に爆弾をセットしたマックスとマリアンヌの任務でも、時間が大きくズレたら作戦は大失敗。そんなマックスの心配をよそに、マリアンヌは「ドイツ人は時間に正確だから」と言っていたが、さて・・・?
 本作を観れば、やはりドイツ人は時間に正確なことがよくわかる。カサブランカにいるドイツ大使がパーティー会場に現れてオフィシャルな挨拶をするとなると、時間は余計正確になるらしい。本作の以降の展開ではドイツ人の時間の正確性を再確認することになるからそれに注目!
 もっともそれ以上に面白いのは、建物の外で爆発物が爆発した後、マックスとマリアンヌが爆発被害を逃れるかのようにテーブルを倒し、その陰からドイツ大使を銃撃して殺すこと。なるほど、こういう殺害方法もあるわけだ。その後は必然的に、韓国映画『暗殺』(15年)(『シネマルーム38』176頁参照)で観たような銃撃戦となるが、本作は第一撃で大使殺害の目的を達成しているから、その後は逃げるための銃撃戦となる。作戦の決行で死ぬか生き残るかの確率は60%vs40%だったし、2人とも生き残る確率はもっと低かったから、生き延びた2人は車の中で大喜び。夫婦役を偽装してそんな危険な任務を成し遂げた2人はイギリスに戻ったがさてそこでの2人の生活は?

<現場を離れ、内勤で幸せな家庭を?>
 プロレスラーやプロゴルファーの現役寿命は意外に長いが、ボクサーや相撲取り、野球選手等の現役寿命は短い。それに比べるとスパイの現役寿命は?本作を見る限り、ドイツ大使暗殺計画を成功させたことによって、マックスもマリアンヌもスパイとしての現役活動は終了。そして、2人は「スパイ同士の結婚などありえない」との反対論を無視して結婚式を。さらに、ナチス・ドイツの爆撃(空爆)が続くロンドンの病院で無事女の子を出産したマリアンヌは家庭に収まり、内勤となったマックスの下で平穏無事な生活を送っていた。
 サラリーマンの定年は60歳だが、功績さえあげればスパイは若くして引退するのも可能。一人娘を中心とした幸せそうな2人の姿を見ているとそう思ったが、有能なスパイを内勤においておくほどイギリスのSOE(特殊作戦執行部)には余裕がなかったらしく、マックスには新たな任務が言い渡される事態に・・・。マックスの現場への復帰にマリアンヌは反対したが、根が仕事人間のマックスが直属の上司フランク・ヘスロップ(ジャレッド・ハリス)の命令通りに出頭すると、そこでは「マリアンヌに二重スパイの疑惑がある」との意外な情報を知らされたうえ、「“疑惑”は72時間以内に判明する。マリアンヌが二重スパイであれば、マックスの手で殺すこと。」という何とも過酷な任務を命じられることに。さあ、マックスはどうするの・・・?

<なるほど、こうやって二重スパイのあぶり出しを!>
 2月15日の新聞各紙は「金正男氏 暗殺か」とのニュースとともに、トランプ大統領が国家安全保障担当大統領補佐官に任命していたマイケル・フリン氏が、2月13日に「対露密約疑惑」で辞任したとの大ニュースを報道した。この辞任は、フリン氏がトランプ政権発足前の昨年12月29日に駐米ロシア大使と複数回にわたって電話で接触し、トランプ政権発足後に対ロ制裁を見直す意向を伝え、対抗措置をとらないよう働きかけたという疑いが急浮上したためらしいから大問題だ。さらに、フリン氏とロシア大使との通話をFBI(アメリカ連邦捜査局)が傍受しているそうだから、まさに1月28日に観た『スノーデン』(16年)の展開と同じようなことが現実に展開していたわけだ。
 それと同じように(?)、本作ではマリアンヌがドイツの二重スパイで、マックスの機密情報を秘かにドイツ側に流していることを立証するため、「ある作戦」が命じられることに!なるほど、こうやって二重スパイのあぶり出しを!しかして、計画どおり「ネタ」が仕掛けられ、後はマリアンヌがどんな動きをするかを72時間待つだけだが、さてマリアンヌの行動は・・・?他方、その間マックスがこの作戦の妨害になるような勝手な行動をとることは厳禁とされたが、さてマックスの行動は・・・?
 本作後半は、一方ではSOEが仕掛けた「ある作戦」に従って、その結果を待ちつつ、他方では独自の人脈と調査方法でマリアンヌが二重スパイかどうかを探ろうとするマックスの苦悩と行動力が示されることになる。『Mr.&Mrs.スミス』ではスパイ同士の夫婦生活とその騙し合いは少し漫画じみていたが、本作後半の展開(夫婦の騙し合い)はシリアスそのもので、マックスの苦悩のサマがひしひしと伝わってくるのでそれに注目!

<二重スパイを殺すの?それとも愛を貫くの?>
 朝鮮半島では1950年から1953年の朝鮮戦争は未だ終了しておらず、今なお「停戦状態」のまま。そんな状況下で現在韓国は大統領不在状態に陥り、北朝鮮はそれをもっけの幸いとばかりにミサイル発射等の挑発行為をくり返している。したがって、朝鮮半島の南北分断をめぐって韓国映画では『シュリ』(99年)、『JSA』(00年)(『シネマルーム1』62頁参照)、『二重スパイ』(03年)(『シネマルーム3』74頁参照)、『レッド・ファミリー』(13年)(『シネマルーム33』227頁参照)、『The NET 網に囚われた男』(16年)等々の名作が次々と生まれており、そこでは再三二重スパイが登場している。
 しかして、本作のタイトルとされ、フランス人女優マリオン・コティヤールが演じたマリアンヌはナチス・ドイツの二重スパイだったの?それは本作後半のお楽しみだから、あなた自身の目でしっかり鑑賞してもらいたい。
 マリアンヌが二重スパイであることをあぶり出すための「ある作戦」にマリアンヌはまんまとハマってしまったから、マックスはマリアンヌを殺すという過酷な任務を果たさなければならなくなったが、さてマックスは二重スパイを殺せという任務に忠実に動くの?それともマリアンヌとの愛を貫き、愛のために忠実に動くの?本作ラストに向けてはそれが最大のポイントになるのでそれに注目!そのストーリー展開の出来栄えが十分なら、クライマックスで見せるブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの演技力もさすが説得力十分なものになっているので、2人の演技力にも注目したい。
                               2017(平成29)年2月17日記