洋17-15

「TOMORROW パーマネントライフを探して」
 

                  2017(平成29)年1月29日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督:シリル・ディオン、メラニー・ロラン
シリル・ディオン(ジャーナリスト)
メラニー・ロラン(女優)
ロブ・ホプキンス(トランジション運動創始者)
ヴァンダナ・シヴァ(科学者・哲学者・種子問題の専門家)
ヤン・ゲール(建築家・都市デザイナー)
2015年・フランス映画・120分
配給/セテラ・インターナショナル

<あの美人女優がなぜドキュメンタリー映画の監督に?>
 私はメラニー・ロランというフランス人の美人俳優を、クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09年)(『シネマルーム23』17頁参照)ではじめて見た瞬間にインプットし、以降『オーケストラ!』(09年)(『シネマルーム24』210頁参照)、『人生はビギナーズ』(10年)(『シネマルーム28』200頁参照)、『グランド・イリュージョン』(13年)(『シネマルーム32』241頁参照)等の出演作を常にフォローしてきた。彼女は1983年生まれだからまだ30代半ばのチョー美人だが、「天は二物を与える」もので、映画監督としても活躍の場を広げていたらしい。そんな彼女が今回、シリル・ディオンとの共同監督によって本作を発表!
 とはいっても、本作は劇映画ではなくドキュメンタリー映画。しかも、自分の妊娠中に「人類は絶滅する恐れがある。それも決して遠くない未来に」と聞かされた彼女が、それを本気にして「子供たちの幸せな未来のために、解決策が必要!」と意気込んで、権威ある学術雑誌『ネイチャー』をはじめとする各界の著名人たちに取材をして意見を集め、それをまとめたのが本作らしい。すると本作は、カネも十分稼ぎ、女優としての名声も確保したメラニー・ロランがちょっと利口ぶって、教科書みたいなドキュメンタリー映画をつくったの?

<勉強のネタとしてこりゃ必見!>
 最初私はそんな風にバカにしていたが、実際に鑑賞してみると感心しきり。「2016年セザール賞ベストドキュメンタリー賞受賞 シンプルなライフスタイルがお手本のフランスで110万人が観て記録的な大ヒット!愛と希望をつないでいく驚きのドキュメンタリー!」というのもうなづける。日本では昨年『君の名は。』(16年)が大ヒットしたこともあって、それまで概ね2000億円だった邦画の年間興行収入が2016年には2355億800万円に伸びたが、それは必ずしも「いい邦画を多くの日本人が観た」ということとイコールではない。それに対して、フランスでこんなドキュメンタリー映画が110万人が鑑賞して大ヒットしたというのは、やはりフランス人の知的レベルの高さを示している。
 中国には、王兵(ワン・ビン)監督の『鉄西区』(03年)(『シネマルーム5』369頁参照)、『無言歌(夾辺溝/THE DITCH)』(10年)(『シネマルーム28』77頁参照)、『三姉妹~雲南の子(三姉妹/Three Sisters)』(12年)(『シネマルーム30』184頁参照)、『収容病棟(瘋愛/'TIL MADNESS DO US PART)前編』(13年)(『シネマルーム34』285頁参照)等の圧倒されるドキュメンタリー映画があり、それらは観ているだけで息苦しくなるほどの圧迫感がある。ややもすれば、ドキュメンタリー映画には現実に起きている問題に対してそんな風に直線的に向かっていく姿が求められるが、本作はそんなに深刻な社会問題作ではない。邦題どおり、楽しく「TOMORROW パーマネントライフを探して」みようというメラニーらの企画を実践したものだ。ところが、『ネイチャー』誌の警告を耳にしたメラニーらが実際に「TOMORROW パーマネントライフを探して」みると・・・?
 ドキュメンタリー映画は深刻な社会問題を真正面から観客に提示すべきという趣旨からは本作は少し甘いかもしれない。逆に映画はエンタメという映画本来の趣旨に本作は合致しないかもしれないが、本作は勉強のネタとして必見!

<『ネイチャー』誌の問題提起とは?>
 日本で近時キーワードになっている「消滅可能性都市」とは、少子化の進行に伴う人口減少によって、存続が困難になると予測されている自治体のこと。「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会が、2014年5月に発表した、2040年までに全国約1800市町村のうち約半数(896市町村)が消滅する恐れがある、といういわゆる「増田レポート」は私には大きなショックだった。
 しかし、メラニー・ロランがそれ以上にショックだったのは、2012年6月、米国スタンフォード大学とカリフォルニア大学の21人の科学者たちが『ネイチャー』誌に、①私たちがいまのライフスタイルを続けていくと、気候変動による地殻の破壊と人口増加が、人類を滅亡へと導く、②地上の生態系が完全に変わり、1万1000年前の氷河期の終焉にも匹敵する事態が起こる、③このままでは、子どもたちは将来、水も食糧も石油も乏しい環境で暮らすことになる、という学際的研究論文を発表したことらしい。本作冒頭には、生物学者のエリザベス・ハドリーと古生物学者のアンソニー・バルノスキーが登場しそんな警告を!
 あなたはそれを「あっそう」と他人事のように聞き流す?それとも、「そうしないために明日から自分は何ができるの?」と考える?

<テーマは農業、エネルギー、経済、民主主義、教育>
 本作は120分とドキュメンタリー映画にしては長尺だが、それは農業、エネルギー、経済、民主主義、教育という5つの章に分けて多くの事例を紹介するとともに、章ごとにわかりやすく図表を入れる等の工夫をしているためだ。また、章ごとに2人の監督のトークを入れて問題点を整理したり、新たな疑問点を提示することによって、「パーマネントライフを探して」という抽象的なタイトルから、うまく5つのテーマにまとめていく工夫をしている。
 私が本作に星5点をつけたのは、それぞれのテーマで紹介する事例が具体的でわかりやすいため。さらにすごいのは、本作が紹介する事例は、すべて現実に世界のどこかで誰かが実践しかつ成功しているということだ。思いつきやアイデアを出すだけなら簡単だが、何ごとも「言うは易く行うは難い」のが現実。しかし、たとえばゴミの選別や家電のリサイクル等は今では現実にパーマネントライフのためのあたり前のシステムになっているし、ガソリンに代わる電気自動車もすぐ目の前に実用化の時代がきている。しかし、地域通貨のシステムや投票に代わって抽選で議員を選出するシステムになると、えっそんなことが本当に実現できるの?と身構えてしまう。しかし、本作を観ていると、ホントにそれを実践し成功させている実例が登場してくるのでその取材力はすごい。そこで本作の評論では、5つのテーマ毎にその内容を詳しく紹介したい。

<テーマ1 農業では?>
 デトロイト市に象徴されるアメリカの自動車産業が衰退したため、そこに雇用を取り戻さなければならないと主張したトランプ氏が昨年12月のアメリカ大統領選挙で当選したことは大きな話題を呼んだ。しかして本作では、そのデトロイト市では自動車産業の衰退によって雇用が喪失しただけではなく、人口が200万から70万人に減少したため、新鮮な食品が手に入らなくなり、残った貧しい住民たちは、自給自足を始めたことが報告される。つまり、デトロイト市は近郊農業における世界の実験室「アーバンファーム」になったわけだ。
 そんなすごい実例の紹介に続いて、イギリスのマンチェスター近郊では、世界的な「インクレディブル・エディブル(みんなの菜園)」運動の紹介が。これは町の真ん中で花壇や公共の土地に作物を植え、共有するものだが、ホントにそんなことをやり成功した事例だからすごい。続いてベルリンとインドでの有機農法の活用が紹介され、さらにフランスの「パーマカルチャー」の紹介が。ここで言うパーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)と文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、エコシステムを参考に、永続、持続可能な農業と文化、そして人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのシステムらしい。何ともすごい実例の連続にただただ圧倒!

<テーマ2 エネルギーでは?>
 石油に代わるエネルギーを開発する必要性は常々強調されてきたが、テーマ2ではまずコペンハーゲンにおける風力発電、家庭ゴミのバイオガスへの変換、プラスチック素材のリサイクル、地熱エネルギーの開発、20ヘクタール(サッカー場40個分)のソーラーパネル設置等「カーボンニュートラル」の実例が紹介され、アイスランドのレイキャビク市では水力発電、地熱エネルギーなど、「再生可能エネルギー」の活用ぶりが紹介される。
 続いて、フランスのレユニオン島におけるアグリソーラーの開発とアメリカのサンフランシスコ市における2020年までにすべてのゴミをリサイクル活用させる「ゼロ・ウェイスト」プロジェクトが紹介される。ちなみに、サンフランシスコは「ムダ遣いゼロ」運動にも挑戦を始めており、スーパーのレジ袋の禁止、ポリ袋による包装の禁止、公共の場所でのプラスティック・カップの禁止を進めているそうだ。
 引退後に突然、原発廃止論者に宗旨替えした小泉純一郎元総理のように、「原発の即時停止」という過激な主張で国論を2つに分けなくても、こんなレベルのことなら日本でもすぐにできることばかりでは・・・。

<テーマ3 経済では?>
 テーマ1「農業」と、テーマ2「エネルギー」に見る実例は誰にでもわかり、納得できる実例だが、テーマ3の「経済」で取り上げられる①フランスのリールの「エコロノミー」、②イングランド・トットネスの「トランジション・タウン」は興味深い。①のエコロノミーとはエコロジー(環境)とエコノミー(経済)の融合で、環境を保護しながら節約して経済活動をすること、②のトランジション・ネットワークは2050年までに石油への依存を減らすことを目標として幅広い活動を展開している。これらはすばらしい成功例だが、よほどのチャレンジ精神がなければ成功するものではないだろう。更に③ブリストル・ポンドに見る「地域通貨」と④バーゼルのヴィール(WIR)銀行に見る「補完通貨」は、私には奇跡のように思えるものだが、なるほど地域通貨や補完通貨にはそういう効用があるのかということがよくわかる。
 ちなみに、③は大阪市内のいくつかの商店街でも時々期間限定で登場しているクーポン券の拡大版のようなもの(?)だが、④は現在の金融資本主義、金融グローバリズムの弊害を補完する実験的な一大プロジェクトだ。私にはよくわからないが、この地域通貨や補完通貨は、もっともっと経済的に深めて研究する価値がありそうだ。
 さらに⑤アメリカのオークランドでは、「ローカルビジネスネットワーク」という新たな構想で、3万5000の企業家が所属するバリー(地元で生きる経済のためのビジネス連合)は、全米に渡って80のネットワークに分けられた団体でさまざまな活動を展開しているそうだ。

<テーマ4 民主主義では?>
 今、民主主義が揺らいでいる。昨年のイギリスの国民投票におけるEU離脱騒動とアメリカ大統領選挙でのトランプ氏の当選を見て、世界中の多くの人々がそう考えたことはまちがいない。日本の政党政治の空虚さや、せっかく投票権を持ちながら50%にも満たない日本の各種選挙の実情を見ても、民主主義が危機にあることもまちがいない。そんな認識の下、ベルギーの某氏が主張する、「疲弊した民主主義症候群を覆すには、古代ギリシャでよく行われていたくじ引き制度を復活させることだ。」との説にビックリ。さらにくじ引き制度が社会に取り入れられている例として陪審員制度があるという説明には、まさに目からうろこだ。これは日本でもすぐに取り入れるべき提案では・・・?
 しかして本作では、アイスランドのレイキャビクの「市民革命」と、インドでのカースト制度最下層(不可触民)出身でカザンバッカムの村長をしている某氏の「グラムサバ」と呼ばれる革命的な民主主義のシステムが紹介されるので、それを興味深く勉強したい。中国共産党からの強い圧力を受けている香港の議会で、多くの若者たちが多くの迫害を受けながらも政党をつくり議員に立候補している実例を見ても、日本の若者は民主主義のあり方にもっと関心を持ち、もっと実践していかなければならないはずだ。

<テーマ5 教育では?>
 教育の必要性は、長州藩の吉田松陰が設立した松下村塾の門下生たちが明治維新の立役者になったことで明らか。また、鎖国中だった江戸時代に寺子屋があった日本が、教育の先進国だったことは世界的に有名だ。しかし、今や日本の教育レベルの低下ぶりはひどい。それに対してフィンランドの教育レベルはすごいらしいが、それは一体なぜ?
 折しも、2017年1月30日から読売新聞では一面で「読解力が危ない」と題する連載を開始した。その1回目(1月30日)は教育現場における読解力の低下に警鐘を鳴らしたが、「新入社員に読書感想文」と題した2回目(1月31日)は、「読解力の低下は教育現場に限った問題ではない。職場にも影を落とし、企業は対応に追われている。」という問題意識を取り上げた。そこでは現場からの「スマートフォンで入手する細切れの情報に慣れており、まとまった情報を読み解く力は欠けている」「伝える力を高めるには、若い世代に会話や文章力を磨く機会を企業が提供する必要がある」等の声が報告されている。それに比べて、本作に見るフィンランドの教育の充実ぶりはどうだ。
 それが、本作で紹介されるヘルシンキの「教育革命」を見るとよくわかる。「教え方はひとつではなく、いくつもあり、生徒によって違う。」とは何とすごい言葉だろう。こんな真面目な議論こそ今、日本で最も求められているものだ。そんな当たり前のことを本作でしっかり学びたい。
                                 2017(平成29)年1月31日記