洋17-13

「スノーデン」
    

               2017(平成29)年1月28日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督・脚本:オリバー・ストーン
脚本:キーラン・フィッツジェラルド
エドワード・スノーデン/ジョセフ・ゴードン=レヴィット
リンゼイ・ミルズ(スノーデンの恋人)/シャイリーン・ウッドリー
ローラ・ポイトラス(アメリカのドキュメンタリー映像作家)/メリッサ・レオ
グレン・グリーンウォルド(イギリス・ガーディアン紙のコラムニスト)/ザカリー・クイント
イーウェン・マカスキル(ジャーナリスト)/トム・ウィルキンソン
トレバー・ジェイムズ(NSA捜査官)/スコット・イーストウッド
コービン・オブライアン(スノーデンのCIAの指導教官)/リス・エヴァンス
ハンク・フォレスター(元CIA職員、教官)/ニコラス・ケイジ
2016年・アメリカ、ドイツ、フランス映画・135分
配給/ショウゲート

<かつてはベトナム戦争、今は監視システム!>
 1月28日土曜日は、同じ日に1946年生まれの巨匠オリバー・ストーン監督の『スノーデン』と1942年生まれの巨匠マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』(16年)の2本を続けて鑑賞。オリバー・ストーン監督と言えば衝撃作『プラトーン』(86年)が有名だが、その後も『ウォール街』(87年)、『トーク・レディオ』(88年)、『7月4日に生まれて』(89年)と問題作を次々と発表。『アレキサンダー』(04年)はエンタメ巨編だったが(『シネマルーム7』25頁参照)、『JFK』(91年)、『ニクソン』(95年)、『ブッシュ』(08年)の3本でジョン・F・ケネディ、ニクソン、ブッシュという3人の大統領の「功罪」を真正面から映画化した監督は珍しい。また、ベトナム戦争から本作に至るまで、その時代時代の社会問題を映画化し続けた監督も珍しい。
 私が『プラトーン』を観たのはバブル経済が華やかだった80年代後半だったが、そこであらためて学生時代に「ベトナム戦争反対!」を叫んでデモ行進し、アメリカ帝国主義の犯罪性について、熱く語っていた学生時代を思い出したものだった。しかして、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の時代になったのはいいものの、コンピューターの情報処理による国民監視システムが、網の目のように張り巡らされていることの犯罪性を告発した元CIA(米国中央情報局)職員、元NSA(米国国家安全保障局)職員エドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は犯罪者?それとも愛国者?
 そんな今日的な社会問題にオリバー・ストーン監督が切り込みをかけたが、誰が見ても犯罪的であることが明らかなベトナム戦争と違って、情報処理システムによる敵方の監視と国民の監視という問題は難しい。スノーデンを主人公としたドキュメンタリー映画『シチズンフォー スノーデンの暴露』(14年)は、私が見逃している間に大ヒットしてしまったようだが、さてオリバー・ストーン監督はそんな主人公の物語をどんな切り口で映画に?

<何が問題なの?本作の問題点は意外にシンプル?>
 アメリカ帝国主義の「表れ」としてのベトナム戦争は、誰が見ても悪で犯罪。学生時代の私は当然のようにそう思っていたが、その後のアフガン戦争やイラク戦争を考え、またトランプ新大統領が現在唱えている「アメリカ・ファースト」の内容を考えてみると、実はそれもよくわからなくなってくる。逆に、コンピューターの情報処理システムの発達によって、今や誰でもスマホを持ちあらゆる情報にアクセスできる便利な時代になっているが、もしそれが悪用されたらそれは悪で犯罪・・・?
 東西冷戦時代を持ち出さずとも、スパイはいつの時代にも存在し、スパイが敵側の情報をいかに収集するかは、古今東西を問わず昔からの人間や国家の大切な任務だった。本作の導入部を観れば、コンピューターの処理能力を生かしてNSAに入ったスノーデンが、常に「自分は国家のために何ができるか?」と考えていたことがよくわかる。コンピューターによる情報処理がいかに大切かは、1月22日に観た『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15年)のように、アメリカの海外での戦争がコンピューターで操作する無人のドローン爆撃機のミサイルによるピンポイント攻撃になっていることを見てもよくわかる。今やパソコン処理ができなければ、弁護士業務も戦闘行為もできない時代になっているわけだ。かつてケネディ大統領は、1961年の大統領への就任式で「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか。」と述べたが、スノーデンはそのケネディ大統領が要求したとおりの仕事をやっていた(つもりな)わけだ。
 ところが、その仕事の中で彼が目にした現実は?本作が描くスノーデンの心の中の葛藤を見ていると、本作の問題点は意外にシンプル?

<英国のガーディアン紙が大スクープを!>
 『SCOOP!』(16年)は、日本でもっともカッコいい歌手の1人である福山雅治が汚れパパラッチ役を演じたことで話題を呼んだ(『シネマルーム38』未掲載)が、同作を観ていると、たとえ芸能スキャンダルでも「スクープ」を撮るのがいかに大変かがよくわかる。そのため、世の中には『ナイトクローラー』(14年)(『シネマルーム36』167頁参照)でも観たように、「パパラッチ」なる職業がもてはやされる(?)わけだ。
 しかして本作冒頭には、2013年6月、香港のあるホテルに宿泊しているスノーデンが、人目を忍びながらドキュメンタリー作家のローラ・ポイトラス(メリッサ・レオ)とイギリス・ガーディアン紙のコラムニストのグレン・グリーンウォルド(ザカリー・クイント)を招き入れるシークエンスが登場する。これは、長年NSAとCIAに勤務してきたスノーデンが自らの人生を否定するかのように、アメリカ政府が「国益のため」と称して行ってきたコンピューターによる国家的規模の国民の監視システムの不当性、違法性、犯罪性を暴露するニュース映像を撮影するための会合だからそのスクープ性はすごい。
 このようなスノーデンの行為はスパイ罪に該当し、起訴される可能性が高いから、スノーデンにとってそれは命懸けの行為だが、なぜ彼はそこまでの決心を?もちろん彼には両親もいたし、愛する妻リンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)もいた。NSAやCIAに勤務しているスノーデンが仕事上の機密情報を妻に語ることができなかったのは当然だから、2人の夫婦生活の中にブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが共演した『Mr.&Mrs.スミス』(05年)(『シネマルーム9』82頁参照)のような「不都合さ」があったことは本作を観ているとよくわかる。それにしても、スノーデンはなぜそんな国家を裏切ったスパイと言われる危険を犯す行動に走ったの・・・?

<本作の構成は工夫不足?いやいや・・・>
 前述のように、本作は2013年6月の香港の某ホテルでの緊張感あふれる撮影シーンから始まるが、以降は①2004年ジョージア州、②2006年バージニア州、③2007年スイス・ジュネーヴ、④2009年東京・横田基地、⑤2012年ハワイ・オアフ島と、時系列に沿ったスノーデンの「身の上話」になっていくから、映画の構成は単純でわかりやすい。それを映画としての工夫が少ないと批判する意見もあるが、私は本作のように内容が難しい物語ではそれもありだと考えている。
 そもそも、コンピューターに疎い私には、スノーデンがNSAやCIAのどんなチームに配属され、どんな仕事に取組み、それがどんな意義があるのかを理解すること自体が難しい。したがって、日々そんな仕事で頭を悩まし、妻にもその悩みを打ち明けられないスノーデンの苦悩を理解するのも難しい。そんな私には、ストーリー構成としては本作程度の単純さがベスト・・・。

<サイバー戦争の実態は?個人情報の扱いは?>
 「米中もし戦わば」という架空のテーマはよく本にされ、中国が海洋進出の要としている空母「遼寧」の実力や中国人民解放軍の実力や海軍力、空軍力の実態についてさまざまな説が展開されている。アメリカはもはや「世界の警察官」たることはできないと宣言したものの、その軍事力とりわけ海軍力、空軍力の強大さは実証ずみだから、それに比べると中国の海軍力、空軍力の実力はどれほどのもの・・・?そこらは私にもある程度推測できるが、コンピューターに疎い私には現在の世界で最大の脅威になっている「サイバー戦争」の実態はよくわからない。サイバー戦争ではロシアの実力がかなりのようだが、宇宙開発競争に積極的に打って出ている中国だって・・・。
 体力的についていけないことを思い知らされたため、特殊部隊を諦めコンピューター処理能力を生かしてNSAに入り、その後CIAに移ったスノーデンは、そんなサイバー戦争に関する仕事ばかりしていることが本作中盤の展開を見ているとよくわかる。ジョージア州で指導教官コービン・オブライアン(リス・エヴァンス)の厳しい指導を受けて一人前になったスノーデンの任地は、前述のように①バージニア州(06年)、②スイス・ジュネーヴ(07年)、③東京・横田基地(09年)、④ハワイ・オアフ島(12年)と移動したが、各地でのスノーデンの仕事量は増えるばかりだし、責任感も重くなるばかりだった。そこでスノーデンの心の中に生じた大きな問題は、「サイバー戦争に備え、勝利するため」という大義名分のためとはいいながら、そこでは諜報活動がメインとなっていたため、必然的、不可避的に国民の通信システムの監視任務が入っていることだった。いわゆる「盗聴」はロシアや中国の専売特許ではなく、アメリカのNSAやCIAも日常茶飯事に行っていたわけだ。ちなみに、国民一人一人の電話をチェックしていくと、何と一人あたり250万本もチェックしなければならないそうだからすごい。そんなことも仕事としてずっとやっていればある程度麻痺するかもしれないが、自分のパソコンが監視され、自宅の電話はもとより自分や妻のスマホまですべて盗聴、監視されていることがわかると・・・?
 本作では、リンゼイがスノーデンの言いなりになる妻ではなく、かなり「もの申す妻」であるところから生まれる「ストーリーの膨らみ」が面白い。したがって、それに注目しながら日夜サイバー戦争の分析に従事しているスノーデンの心の中の苦悩をしっかり理解したい。

<盗聴、監視は憲法違反!なのにスノーデンは何の罪に?>
 1月20日の就任式以降、トランプ大統領は次々と「大統領令」を出しているが、中東とアフリカの7か国を対象とし、難民・移民の受け入れ停止や凍結などを内容とした「入国制限令」は、直ちに世界中の空港に大きな影響を及ぼすとともに、イスラム圏や欧州諸国から反発の声が上がり、中東・アフリカの21カ国と1機構でつくるアラブ連盟(本部・カイロ)は「深刻な懸念」を表明した。
 また、この大統領令に対してはニューヨーク州など4州の連邦地裁が「正当な法の手続きを受ける権利」と「法の下の平等」を保障した合衆国憲法に違反する恐れがあるなどとして、渡航者の保護を命じる決定を出した。さらに、ワシントン州知事はこの大統領令を巡り、連邦裁判所に提訴する方針を示している。楽天の三木谷浩史会長兼社長は、ツイッターで「許されない」と批判したが、弁護士の私の考えでも、この大統領令はどう見ても憲法違反。そのことは、今後次々と提起される裁判で明らかになるだろう。そんな視点でスノーデンが問題にした、政府による盗聴や国民の監視システムの違法性、違憲性を考えてみると・・・?
 国民が不合理な捜索・押収から身体、家屋、書類および所持品の安全を保障される権利を侵してはならない。これは合衆国憲法修正第4条の一節だが、あえてこんな条項を持ち出すまでもなく、政府が国民の電話を盗聴したり、スマホ情報、パソコン情報を監視することが違法、違憲であることは明らかだ。したがって、国家機関であるNSAやCIAの職員であるスノーデン自らが、長年そんな違法行為に深く関与してきたことをマスコミに告白するのは国民のためのものであって、英雄行為なのでは・・・?一見そう思えるが、いやいや、実はこれは重要な犯罪に!

<トランプ新大統領のスノーデンの評価は?>
 本作には、連日新聞のトップを賑わせているアメリカのトランプ新大統領も少しだけ登場する。と言ってもそれは、ニュース番組の中でスノーデンについて「死刑も考えるべき」と発言する声と、トランプ氏本人の顔が一瞬登場するだけだ。
 大統領就任直後に、CIAやFBI等のアメリカの諜報機関から①トランプ陣営とロシア政府の間に道義に反するやり取りがあった、②トランプの奇妙な性的行動に関する不名誉な情報をロシア側が握っているとの情報が流れたため、トランプ新大統領と諜報機関との確執の声も聞こえていた。私はその展開に大いに注目していたが、現在は前述した「入国制限令」問題が集中砲火を浴びていることもあり、諜報機関との関係は平穏を保っている。しかし、新大統領がロシアのプーチン大統領とあまりに仲が良すぎる(?)ため、トランプ新大統領はロシアのプーチン大統領(率いるロシアの諜報機関)に弱みを握られているのでは?との声は依然として強い。
 すると、かつては「死刑も考えるべき」と語っていたトランプ新大統領は、アメリカの国家機密を漏えいした罪でスノーデンがロシアに亡命してしまった今、スノーデンについて従前と同じように考えているの?それとも評価は大きく変わっているの?

<オリバー・ストーン監督の新大統領への評価は?>
 他方、本作を監督するについて、オリバー・ストーン監督はロシアに亡命したスノーデンの弁護士の招きで9回もモスクワに行き話を聞いているそうだ。そんなオリバー・ストーン監督は、1月24日付朝日新聞の「トランプ政権への期待」と題するインタビューで、「介入主義を捨て 戦争への道避ける プラスの変化応援」「堕落しきった 米国の情報機関 本質を知る必要」という見出しで縦横無尽に語っている。この大型インタビューは、政権批判の映画を世に出し続けてきた米アカデミー賞監督が「トランプ大統領もあながち悪くない」と意外な「評価」をしたためその真意を聞くべく実施されたものらしい。
 そして、そこでは「ロシアが米国にサイバー攻撃したとされる問題について、監督は疑義を呈していますね。」との質問に「米国の情報機関について私は極めて懐疑的です。米中央情報局(CIA)は長年、多くの間違いを犯してきました。キューバのピッグス湾事件やベトナム戦争、イラクの大量破壊兵器問題です。米国は世界をコントロールしたがり、他国の主権を認めたがらず、多くの国家を転覆させてきました。そんな情報機関をけなしているトランプ氏に賛成です。だが、そうしたことは社会で広く語られません。米国社会のリーダー層と反対の立場となるからです」と答えているからびっくり。さらに、「リベラル派が多いハリウッドは反トランプ氏が目立ちます。」との質問には、「そのリベラルと呼ばれてきた人たちが、ものすごい介入主義者と化しています。リベラルと言われるクリントン氏をみればわかります。民主党は、中道右派となり左派を真に代表していません」と答えているからこれにもビックリだ。
 オリバー・ストーン監督が、トランプ大統領に対してこれほど高い評価をするのは意外だが、さてこれらをどう考えればいいのだろうか?
                                 2017(平成29)年1月31日記