日16-9 (ショートコメント)

「知らない、ふたり」
    

                  2016(平成28)年1月17日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督・脚本:今泉力哉
キム・レオン(靴職人見習いの韓国人青年)/レン
小風秋子(レオンが働く店の同僚)/青柳文子
ハン・ソナ(ジウの恋人、コンビニでアルバイト、レオンに一目惚れ)/韓英恵
ナム・サンス(秋子に一目惚れ、コンビニでアルバイト)/ミンヒョン
ユ・ジウ(ソナの恋人、日本語学校に通う韓国人青年、加奈子に一目惚れ)/JR
荒川巳喜男(車椅子生活をしている加奈子の恋人)/芹澤興人
幸田加奈子(日本語学校の先生)/木南晴夏
2016年・日本映画・106分
配給/CAMDEN、日活

◆本作のうたい文句は、「日本のホン・サンスと称される新鋭・今泉力哉が描く、すれ違いの群像劇」。予告編で何度か見た本作の主人公キム・レオンを演じるレンは、そのルックスで世界中を虜にしている韓国アーティストNU’EST(ニューイースト)のボーカルらしいが、もちろん私は全然知らない。
 男女7人の青春群像劇と言えば、かつて、明石家さんまが主演したテレビドラマ『男女7人夏物語』(86年)があったが、本作は、主人公のレオンを含む3人のイケメン韓国人男性と、それに絡む3人の若い女の子、そして1人だけちょっと老けた車椅子の男・荒川巳喜男(芹澤興人)を加えた合計7人が織り成す群像劇だ。
 本作の面白さ(特徴)は、何よりもそのすれ違いの妙にある。男でも女でも「一目惚れ」現象があるのは当然だが、さて本作が描く7人の男女たちの一目惚れ状況とそのすれ違い状況とは?

◆男は同時に2人の女を愛せるか?よく考えてみれば、学生時代にそんな議論を真剣にやった記憶がある。本作では、日本語学校に通う韓国人青年ユ・ジウ(JR)が現実にそうだったらしい。つまり、ジウは恋人のハン・ソナ(韓英恵)を好きなまま、同時に日本語学校の先生である幸田加奈子(木南晴夏)を好きになったわけだ。しかして、1人でそれを悩む間は問題はないが、それをソナに打ち明けたから、ソナから「あんたバカじゃないの?」的に反応されたのは当たり前だ。
 本作では、靴の修理やオーダーシューズを取り扱う店でレオンと一緒に働いている小風秋子(青柳文子)がレオンに一目惚れしているし、その秋子はソナと一緒にコンビニでアルバイトをしている韓国人青年ナム・サンス(ミンヒョン)から一目惚れされている。さらに、酒に酔ってベンチで寝ていたため、レオンと出会ったのが夢の中か現実かがよくわからないソナもレオンに一目惚れだし、レオンもこの瞬間にソナに一目惚れしたらしい。
 たしかに、世の中には一目惚れ現象があるが、「一目惚れ」がここまで同時多発すると、当然ややこしいストーリーになっていくことに・・・。

◆本作冒頭はアパートと職場を往復し、昼間には「善意のベンチ」に座り、自分の作ったおにぎりを一人ぼっちで食べるレオンの姿がくり返し映し出される。このように、レオンは誰とも口を利かず自分の世界に閉じこもっているが、それは一体なぜ?ストーリーが進行するにつれて、その理由は、自分が乗った自転車によって、荒川巳喜男をケガさせ、車椅子生活を余儀なくさせてしまったためだということがわかってくる。つまり、そんな悪いことをした自分は幸せになってはいけないという一種の「罪の意識」だが、逆に荒川やその恋人の加奈子の方はレオンを恨んでいないところがミソ。そのうえ、それまでは「高嶺の花」だと思っていた荒川が車椅子生活になったため、自分が荒川と一緒に生活でき、その面倒を見ることができることが幸せだと考えている加奈子は、レオンに感謝しているくらいだ。なるほど、そんな人間の感情もわからないではないが、弁護士の目から見れば、損害賠償の問題等を無視して、すべてをそんな男女の愛情の問題として描く本作には少し違和感も・・・。
 もっとも、66歳にもなった今の私の感覚では、それ以上に本作における7人の男女の誰が誰に惚れようがフラれようが、どうにでもしてくれという感じ。もちろん、「そう言ってしまっちゃおしめえよ」とはわかっているのだが・・・。

◆昨年(2015年)は安保法制をめぐる議論が大いに盛り上がった。それを「平和法案」と呼ぶか「戦争法案」と呼ぶかという議論はナンセンスで、大切なことはその内容を正確に理解し、何が国家にとって、また国民にとっていいことなのかを冷静に考えること。ところが、基本的に日本人はそういう議論が苦手だ。そういえば、かつて長く続いていた「自社対決」の時代に、社会党は「非武装中立論」を掲げていたが、私に言わせればそりゃナンセンス!また、『そこまで言って委員会』にパネリストとしてよく登場する田嶋陽子先生は、「何事も話し合えばわかる」派で、北朝鮮とも話し合えばわかるという立場のようだが、現実にはそりゃ無理なのでは・・・?そんな視点で、本作の7人の男女の恋模様や一目惚れ状況(のもつれ?)を見ていると、「こりゃとても話し合いでは解決不可能!」と思えたが、さて映画では・・・?
 ある日レオンがコンビニでソナと出会えたのは全くの偶然だが、そこでお互いに探し合っていた(運命の)人がレオンでありソナであることがわかると・・・。また、かなりややこしい口論(?)を重ねてきた荒川と加奈子の仲も、互いの本音をぶつけあった話し合いが進んでいくと・・・?なるほど本作を観ていると、何事も話し合えば解決が可能かもしれないということがわかってくる。
 しかして、本作ラストではコンビニに入ったレオンはアイスクリームを5個も買っていたが、さてそれをどうするの・・・?こんなハッピーエンド(?)に20歳頃の私なら大いに感激していたかもしれないが、前述のように66歳の今はハッキリ言ってどうでもよし・・・。
                                  2016(平成28)年1月20日記