日16-80

「探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海」
  

                      2016(平成28)年6月5日鑑賞<梅田ブルク7>

監督:和泉聖治
原作:島田荘司『星籠の海』(講談社刊)
御手洗潔(IQ300超の天才脳科学者、探偵)/玉木宏
小川みゆき(出版社の編集者)/広瀬アリス
滝沢加奈子(福山市立大学准教授)/石田ひかり
小坂井准一(西京文化センターの学芸員)/要潤
辰見洋子(看護学生、小坂井の彼女)/谷村美月
黒田優作(福山署の刑事課長)/小倉久寛
槙田邦彦(西京化学工業社長)/吉田栄作
2016年・日本映画・107分
配給/東映

<探偵・御手洗潔シリーズ第1作を玉木宏が!>
 2002年6月に始まった『SHOW-HEYシネマルーム』シリーズは今年7月に『シネマルーム37』が出版されるが、国内ミステリー作家ランキングで第2位にランクインしている島田荘司の「探偵・御手洗潔」シリーズは、中短編や外伝を合わせて2016年4月には第50作が刊行されたらしい。しかして、本作はそのシリーズの映画化第1弾で、探偵・御手洗潔を玉木宏が演じている。
 玉木宏は2015年のテレビドラマ『天才探偵ミタライ~難解事件ファイル「傘を折る女」~』でも探偵・御手洗を演じたそうだが、本作冒頭に見る大学での講義ぶりや福山署の黒田優作刑事課長(小倉久寛)との出会いのシーンを見れば、キザで才能を鼻にかけたかなり嫌味な男。本作では、事実上御手洗の助手として面白いキャラを発揮する小川みゆき(広瀬アリス)とのコンビも注目で、この2人の出会いのサマは面白い。私の弁護士生活も40年を超えたが、頭脳明晰でずば抜けた観察眼を持ち、一切のメモをとらないで必要な情報をすべて記憶し、脳科学者の立場から完璧な推理を完成させる御手洗の姿を見ていると羨ましい限り。もっとも、横溝正史の金田一耕助シリーズに見る探偵・金田一耕助はどうしてもわからない問題に直面すると、頭をごりごり掻きむしってその苦悩ぶりを表に見せていたが、天才・御手洗探偵は『相棒』シリーズの杉下右京警部と同じで、そういう仕草は一切なく悩んでいる姿を(少なくとも外には)一切見せないから、あまり人間味が感じられない。
 第1弾たる本作を「探り」として今後シリーズ化できるかどうかが検討されるはずだが、私の「見立て」では少し厳しそう・・・。

<舞台は上々、歴史ミステリーも上々!>
 本作の舞台は「東西二大景観訴訟」すなわち、①東の「国立マンション訴訟」、②西の「鞆の浦景観訴訟」の一つとして有名になった鞆の浦がある福山市。NHK大河ドラマの『平清盛』でも、和田竜の小説『村上海賊の娘』でも瀬戸内海が舞台になったが、瀬戸内海は複雑な潮の満ち引きが特徴。しかして、福山市では太古の昔から変わることなく6時間ごとに潮の満ち引きをくり返す、まさに「時計仕掛けの海」だ。鞆の浦に港としての価値があったのはそのためだが、そのことは本作を鑑賞しながらしっかり勉強したい。
 他方、本作のタイトルになっている「星籠」とは一体ナニ?そもそも、これを「せいろ」と読める人は少ないはず。この意味は「星の箱」、そして、本来その読み方は「せいろう」だが、地元の人はこれを「せいろ」と呼んでいるらしい。複雑な潮流を特徴とする瀬戸内海の島々と海の景色は美しいが、その海底はもっと美しいはず。まさにそこは「星の箱」なのだ。そして、福山市にはその海底に「首長竜」が生息しているとの都市伝説(?)があったが、それって一体ナニ?
 星籠の海というサブタイトルがつけられている本作は歴史ミステリーの色彩が強く、村上水軍VS織田信長の鉄甲船との戦い、村上水軍とは別に存在していた忽那(くつな)水軍による織田信長の鉄甲船爆破等の推理に入っていく。さらにそれを補強するのが、福山市立大学准教授の滝沢加奈子(石田ひかり)が調査中の「御出陣御行列役割写帳」だ。これは、福山藩第七代藩主であり、ペリーとの間で日米和親条約を締結した当時の幕府の老中でもあった阿部正弘が、黒船との開戦になった場合の幕府側の出陣図としてつくったもの。つまり、彼は対米戦争の可能性を視野に入れ、福山藩がその先陣をつとめる構想を描いていたわけだ。そして、その「御出陣御行列役割写帳」には、黒船の近くに「星籠」という謎の文字が書かれていたが、これは一体ナニ?ひょっとしてこれは幕府が秘かに準備した新造船のこと・・・?なるほど、なるほど。こりゃ興味深い。
 しかし、そんな興味深い歴史ミステリーと現実に起きている目の前の凄惨な事件とはどんな関連があるの?

<難解な3つの事件が登場!その関連は?その解明は?>
 御手洗探偵が最初に着手した事件は、死体島事件。その舞台は愛媛県の興居島(ごごしま)だが、日本広しと言えどもこんな島を知っている人は少ないはず。しかし、愛媛県松山市生まれの私は、小学校4年生の時から入っていた合唱部の夏の合宿でこの興居島に行ったことがあるので、非常に懐かしい。福山市の鞆の浦もある土地区画整理の事件で2013年の3月に訪問しているから、思い入れのある場所だ。したがって、福山市の鞆の浦で投げ捨てられた死体が、潮流の関係で6体も愛媛県の興居島に流れ着いていることを知ってビックリ!第2の事件は外国人女性変死事件だが、御手洗の推理によれば、危険ドラッグでショック死したこの死体も鞆の浦で投げ捨てられ、近いうちに興居島で発見されるはずだったとのことだ。このように、第1事件と第2事件は私にとって地理的にも馴染みがある上、御手洗の推理も割と単純でわかりやすい。
 それに対して、本作のメインたる第3の居比家誘拐殺人事件はかなりややこしい。この事件は当初横溝正史ばりのおどろおどろしい事件として登場するが、そこではベビーシッターの辰見洋子(谷村美月)と、その恋人の小坂井准一(要潤)がキーマンになる。さらに、本作中盤から登場する小坂井の雇い主で、西京化学工業社長の槙田邦彦(吉田栄作)が本作全体のストーリーを動かす黒幕的存在として急浮上してくるから、それに注目!
 さすが第2位のミステリー作家らしく、3つの事件は相当難解。したがって、現場に残されていた1つ1つの事実や関係者の事情聴取の中から合理的な推理を組み立てていく中で、事件の関連性を明らかにし、究極的にその犯人を明らかにしていくという作業はチョー難解だ。しかし、御手洗の推理にかかると・・・。もっとも、これだけ複雑に絡み合った事件をホントに1つずつ調べていったのでは時間がかかりすぎることもあるため、本作ではすべて御手洗の口から、あるいは黒田刑事や小坂井の口からしゃべらせているので、観客の目にはかなりしらけ気味。これでは、テレビドラマの拡大版と同じレベルと言わざるをえないが・・・。

<壮大なロマンVS居比家誘拐殺人事件。犯人の動機は?>
 私が本作に興味を持ったのは、①福山市と興居島をつなぐ時計仕掛けの海という瀬戸内海のロマン、②福山藩主で老中だった阿部正弘を中心とする歴史ミステリーという壮大なロマンを背景にしていたこと。それに対して、現実に起きる居比家誘拐殺人事件をメインとする3つの事件が凄惨なものになるのはやむをえないが、それが御手洗の推理によって解明されていく中で浮かび上がってくる槙田の人間としての性(さが)には残念ながらあまり説得力がない。ひとことでいえば「犯人の動機」に弱さがあるということだ。
 槙田は西京化学工業社長で、若くして渡米し、ビジネスマンとして成功。その資金で経営難に陥っていた西京化学工業を立て直し、社長に就任。現在はアジア最大の水族館の建設を計画中という人物だ。したがって、その裏で目指しているある「悪徳事業」のため、外国人労働者を中心とした第1事件と第2事件は「必要悪」だということがよく理解できる。しかし、第3事件は一体何のために?その動機は一体ナニ?
 また、第3の事件が発覚したのは、看護学生の洋子が居比家でベビーシッター中に押し入り強盗に襲われ、腹部を革細工用の小刀で刺されていたためだが、押し入り強盗が子供を連れ去るについて、なぜベビーシッターの洋子にそんな仕打ちをしたの?素人探偵の私ですら、この事件の不自然さは明らかだ。そして、第3事件についてその後御手洗が解明していくあっと驚く事実は「そんなバカな!」と思うことの連続になる。また、洋子から連絡を受けた恋人の小坂井の行動もかなりトンチンカンだし、そこに突如槙田が登場してくるストーリー構成もいかがなもの・・・。
 このように第3事件については、島田荘司の本業である事件の描き方そのものに弱点があると思えるため、本作全体としての説得力もイマイチ。さて、あなたのご意見は?

<潜水艇が突進!この結末の賛否は?>
 探偵・御手洗には、3つの事件の犯人や黒幕が誰であるかはすぐにピンときていたようで、あちこち動き回ったのはその確認と裏付けをとるためだったらしい。瀬戸内海ロマンと歴史ミステリーのポイントとなる「首長竜」は本作導入部に登場(?)し、ベテラン漁師がそれを遠目で目撃するが、さてその正体は?この首長竜は最近鞆の海に時々登場してくるので漁師たちの間で話題になっているそうだが、ハッキリ言って本作の映像を見れば、私でもその正体がナニかは推理できる。鞆の浦を目の前にした小坂井の自宅には首長竜の模型が置かれていたが、スクリーン上に見るそれはネス湖のネッシーのようなロマンに満ち溢れたものではなく、人間魚雷「回天」のような現代技術の産物であることは明らかだ。ちなみに、6月6日付読売新聞の「顔」欄は、首長竜の研究で「猿橋賞」を受賞した女性科学者・佐藤たまきさん(44歳)が紹介されている。世界でも10人ほどしかいない首長竜の専門家である彼女の言葉によると、「博物館や倉庫に眠ったままの化石は多いのに、首長竜の研究者は少ない」そうだが、なぜ小坂井はいつまでも首長竜にこだわりをもっていたの?
 しかして、御手洗の見事な推理によって犯人像が特定されると、本作ラストは犯人の逮捕劇になるが、さて本作が描くそのシークエンスは?織田信長の鉄甲船が沈められたのは、鉄甲船でも船底には鉄板が張られていないことを知った村上水軍もしくは忽那水軍の勇者が、夜の闇に乗じて首長竜のような、また潜航艇のような新兵器で鉄甲船に近づきその船底を爆破したため。どこにも記録はされていないが、御手洗の推理による鉄甲船沈没の理由はそれらしい。なるほど、なるほど。
 しかして本作ラストには、突然小坂井が操縦する潜水艇が登場して槙田が乗った巨大な船を追っていくため、首長竜のような潜水艇VS織田信長の鉄甲船、それとよく似たシークエンスになっていく(?)が、さてこの結末の賛否は?
                                  2016(平成28)年6月8日記