日16-73 (ショートコメント)

「ひそひそ星」
     

                      2016(平成28)年5月21日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本・プロデュース:園子温
鈴木洋子(アンドロイド)/神楽坂恵
/遠藤賢司
/池田優斗
/森康子
2016年・日本映画・100分
配給/日活

本作は、『地獄でなぜ悪い』(13年)(『シネマルーム31』247頁参照)や『ラブ&ピース』(15年)(『シネマルーム36』228頁)と同じく、園子温監督が20代のときに書き留めていたオリジナルストーリーを映画化したもの。彼は『ひそひそ星』の絵コンテをずっと捨てないで、大切に持ち続けていたらしい。そして、園子温監督を取り上げたドキュメント映画である『園子温という生きもの』(16年)では、あと20年早くそれらの脚本が認められていたら、彼はもっと早く大監督になっていたのでは?ということが冗談半分で語られていた。
 しかし、私に言わせれば、それって逆なのでは?つまり、『愛のむきだし』(08年)(『シネマルーム22』276頁参照)、『冷たい熱帯魚』(10年)(『シネマルーム26』172頁参照)、『恋の罪』(11年)(『シネマルーム28』180頁参照)はすばらしい映画だったし、『ヒミズ』(12年)もよかった(『シネマルーム28』210頁参照)が、それ以降の彼の監督作品である『TOKYO TRIBE』(14年)(『シネマルーム33』未掲載)、『新宿スワン』(15年)(『シネマルーム35』未掲載)はイマイチだった。そして今、20代のときに書き留めたオリジナル脚本を映画化するのは、悪く考えると、新しいネタがないからでは・・・?

◆本作の内容については既に新聞紙評等でいろいろと書かれているので、ここでは一切触れない。ただ、冒頭にみる水道の蛇口のシーンからラストまで、すべて園子温監督の「感性」で勝負した映画であることはハッキリしている。また、20代のときに書いたオリジナル脚本では、2011年3月11日の東日本大震災や福島の原発事故については当然意識がなく、むしろ東京の夢の島をイメージしていたそうだから、本作に福島を舞台として登場させたのは大幅な修正を加えたことになる。園子温監督は、なぜそんな修正を?
 私にはそれがサッパリわからないから、この映画については根本的な疑問が・・・。
 他方、深田晃司監督の『さようなら』(15年)でもアンドロイドが主人公だったが、私はそれに大きな違和感があった。本作冒頭のナレーションで語られるある「近未来」の設定は、園子温監督が20代のときに書いた脚本どおりらしい。またアンドロイドが主役として登場するのも、当初の脚本どおりらしい。しかし、その役を『恋の罪』ですばらしい熱演を見せ、私生活では園子温監督の妻となった神楽坂恵が演じるのは、今回決定したこと。神楽坂恵は私が大好きな女優のひとりだが、本作での彼女の起用の是非は意見が分かれるところ。さて、あなたの賛否は?

◆ある新聞紙評(伊藤恵里奈の署名記事)によれば、「この作品でやりきった」という園子温監督は、「今後は米国や中国など主に海外で映画製作をする」「これからはオリジナル脚本しかやらない」と宣言しているらしい。
 私はキム・ギドク監督の映画が大好きだが、キム・ギドク映画の特徴のひとつは、映画づくりが早いこと。2014年の「GO Men of the Year」のパーティーで、園子温監督は、色紙に「量」と書き、そのココロは、「たくさん書いたらなんとかなっている」と語っている。その考え方は、ある意味で次々と短い期間、少ない予算で映画をつくり上げる、キム・ギドク監督と共通している。しかし、園子温監督が『地獄でなぜ悪い』と『ラブ&ピース』そして本作と、20代のときに書き留めていた脚本で次々と映画づくりをしたのは、悪く言えば新しいネタがなかったから、それに頼ったのでは・・・?
 私の大好きな作家・司馬遼太郎は、小説でも次から次へと新作を発表したし、『この国のかたち』シリーズや『街道をゆく』シリーズでも次々と新作を発表してきた。それは、キム・ギドク監督も同じだ。今後、園子温監督が米国や中国に進出し、オリジナル脚本だけで次々と大量に素晴らしい映画を発表することを期待したいが、さてその可能性は・・・?
                                2016(平成28)年5月24日記