日16-69

「阿弖流為(アテルイ)」
    

                      2016(平成28)年5月17日鑑賞<松竹試写室>

作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
阿弖流為(蝦夷の長となる男)/市川染五郎
坂上田村麻呂(大和の武人)/中村勘九郎
立烏帽子、鈴鹿(蝦夷の女)/中村七之助
阿毛斗(蝦夷の神の巫女)/坂東新悟
蛮甲(阿弖流為の幼馴染み)/片岡亀蔵
佐渡馬黒縄(帝人軍の将)/市村橘太郎
無碍随鏡(大臣禅師)/澤村宗之助
藤原稀継(右大臣)/坂東彌十郎
御霊御前(帝に仕える巫女)/市村萬次郎
翔連通(田村麻呂に仕える忠臣)/中村鶴松
飛連通(田村麻呂に仕える忠臣)/大谷廣太郎
2016年・日本映画・185分
配給/松竹

<いのうえ歌舞伎とは?シネマ歌舞伎とは?>
 「いのうえ歌舞伎」とは、いのうえひでのりの演出による歴史や神話をモチーフとし、物語を重視したエンターテインメント時代活劇のこと。私は『阿修羅城の瞳』(05年)(『シネマルーム7』75頁参照)、ゲキ×シネ『髑髏城の七人~アカドクロ』(04年)(『シネマルーム20』213頁参照)、ゲキ×シネ『髑髏城の七人~アオドクロ』(05年)(『シネマルーム20』217頁参照)を鑑賞し、その評論を書いてきた。
 他方、「シネマ歌舞伎」とは、歌舞伎の舞台公演を撮影し、映画館でのデジタル上映で楽しむ新しい観劇の手法。そこでは、俳優の息遣いや衣裳の細やかな刺繍まで見ることができる映像の美しさが生の舞台とはまた異なり、シネマ歌舞伎ならではの魅力になっている。サウンドも、映画館の最新音響設備での再生を前提に、舞台の臨場感が立体的に再現されている。歌舞伎の持つ本来の面白さ、美しさ、そして心を打つ感動の場面の数々をわかりやすく、身近に感じてもらいたいという願いのもと、2005年1月に第1弾『野田版 鼠小僧』の公開以降、2016年2月の第23弾『喜撰/棒しばり』まで続いている。

<シネマ歌舞伎『阿弖流為<アテルイ>』とは?>
 しかして、いのうえ歌舞伎『アテルイ』は、歴史上の人物「阿弖流為」の存在を20代の頃に知って以来、歌舞伎として上演する構想を抱いていた市川染五郎が、2002年に劇団☆新感線とタッグを組んで実現したもの。両花道を使った躍動感あふれる演出、全編を彩るドラマチックなアクション、そして劇場を包み込む照明や音響など、いのうえひでのり演出ならではのスケールの大きなエンターテインメントとして人気を博した。古代日本を舞台に、虐げられた北の民・蝦夷との闘いと運命を現代的な視点と壮大な構想をもって描き出し、芸術性と娯楽性を兼ね備えた作品として高く評価され、第2回朝日舞台芸術賞秋元松代賞を受賞。また、作者・中島かずきが岸田國士戯曲賞、さらに市川染五郎は芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞するなど、演劇界に旋風を巻き起こした。
 それから13年の時を経て、染五郎といのうえひでのり、中島かずきが再び手を取り歌舞伎化し、市川染五郎、中村勘九郎、中村七之助の主演によって、2015年7月に新たに誕生したのが「歌舞伎NEXT『阿弖流為』」だ。「歌舞伎NEXT『阿弖流為』」は、新橋演舞場で上演されると連日客席を興奮の渦へと巻きこんだらしい。そして、本作すなわち「シネマ歌舞伎『阿弖流為』」は、「歌舞伎NEXT『阿弖流為』」を2016年「シネマ歌舞伎」シリーズ第24弾として完成させたものだ。

<市川染五郎の他、中村勘九郎と中村七之助にも注目!>
 新橋演舞場で上演した2002年のいのうえ歌舞伎『阿弖流為』の主役は、「シネマ歌舞伎」シリーズ第24弾たる本作と同じ市川染五郎だったが、坂上田村麻呂役は堤真一が、立烏帽子は、西牟田恵が、鈴鹿役は水野美紀が演じていたそうだ。しかし本作では、坂上田村麻呂役を中村勘九郎が、立烏帽子と鈴鹿役を中村七之助が演じているので、それに注目!
 いうまでもなく、中村勘九郎は2012年12月に亡くなった歌舞伎役者・中村勘三郎の長男で、中村七之助はその次男。2人とも歌舞伎界の若き宝だ。私はこの2人を見るのは本作がはじめてなので、まずは、中村七之助が女役で登場したことにビックリ!

<導入部のストーリーは?>
 本作導入部のストーリーを、プレスシートからそのまま引用すれば、次のとおりだ。

 古き時代、日の国―。
 大和朝廷は帝による国家統一のため、帝人軍を北の地に送り、そこに住むまつろわぬ民、蝦夷に戦を仕掛けていた。
 その頃、都では、蝦夷の“立烏帽子【たてえぼし】党”と名乗る盗賊一味が人々を襲っていた。それを止める一人の踊り女。彼女こそ立烏帽子(中村七之助)。女だてらの立烏帽子党の頭目だった。町を襲う盗賊が自分たちの名を騙る偽物であることを暴くため変装していたのだ。そこに都の若き役人、坂上田村麻呂(中村勘九郎)もかけつける。さらに“北の狼”と名乗る男(市川染五郎)も現れ、偽立烏帽子党を捕える。
 この事件をきっかけに北の狼と田村麻呂は、互いに相手に一目置くようになる。
 だが、北の狼と立烏帽子は、蝦夷が信じる荒覇吐【あらはばき】神の怒りを買い、故郷を追放された男女だった。
 北の狼の本当の名前は、阿弖流為。故郷を守り帝人軍と戦うため、立烏帽子と二人、蝦夷の里に戻ることにする。 


<中盤以降の展開の大筋は?>
 本作中盤以降の展開の大筋も、プレスシートからそのまま引用すれば、次のとおりだ。

 荒覇吐神の怒りをおさめた阿弖流為は、蝦夷の兵を率い、帝人軍と戦う。彼の帰還を快く思わぬ蝦夷の男、蛮甲(片岡亀蔵)の裏切りにあいながらも、胆沢の砦を取り戻した彼は、いつしか蝦夷の新しい長として一族を率いていく。
 一方、田村麻呂も、帝の巫女である姉、御霊御前(市村萬次郎)や右大臣藤原稀継(坂東彌十郎)らの推挙により、征夷大将軍として、蝦夷との戦いに赴くことになってしまう。
 阿弖流為と田村麻呂、互いに認め合う二人の英傑が、抗えぬ運命によって、雌雄を決する時が来ようとしていた。


<ポイント(1)―2人のキャラと彼らが背負うもの>
 3時間余にわたる本作のストーリーは、いのうえ歌舞伎だけに波乱万丈で手に汗を握る展開が続いていく。アクションシーンやスペクタクルシーンも、見どころいっぱいだ。そんなストーリーを追いながら本作の見どころを挙げていくと、あまりにも多すぎてキリがないうえ、ネタバレが続いて批判されてしまうので、それは避け、坂和流見どころのポイントをいくつか挙げて本作の評論に変えたい。
  阿弖流為は8世紀終わり~9世紀のはじめ、桓武天皇の時代に実在した人物で、征夷大将軍・坂上田村麻呂の攻撃の前に降伏し、やがて京で処刑されたのは歴史的な事実。そんな「史実」を踏まえたうえで、本作では、その阿弖流為と坂上田村麻呂が主役として登場し、全編にわたってストーリーを牽引していくのは当然だ。
 そこで、坂和流ポイント(1)は、この2人の主人公のキャラの把握と彼らが「背負うもの」の大きさや意義を確認すること。時代が、あるいは国から与えられた役割が、それぞれのキャラをより強く作り上げる格好の実例としたい。

<ポイント(2)―立烏帽子の複雑な役柄>
 本作では、立烏帽子(たてえぼし)が登場するのが大きなミソ。この立烏帽子は導入部では蝦夷(えみし)の女で、かつて恋人だった阿弖流為と京の都で運命の再会を果たすという形で登場するが、後半から終盤にかけては、荒覇吐(あらはばき)神になったり、死の淵にある坂上田村麻呂をかいがいしく介護する女・鈴鹿になったりするので、そんな中村七之助の一人三役ぶりに注目!
 阿弖流為と坂上田村麻呂は概ね単純明快で表も裏もないキャラクター(?)だが、立烏帽子のキャラクターは複雑なので、それを坂和流ポイント(2)としてしっかり確認したい。

<ポイント(3)―人間の表と裏>
 本作は「巨大な大和朝廷」(帝人軍)VS「小さな北方の蝦夷の国」との対決、という時代設定だから、①右大臣、藤原稀継(ふじわらのまれつぐ)(坂東彌十郎)、②帝に仕える巫女、御霊御前(みたまごぜん)(市村萬次郎)、③帝人軍の将、佐渡馬黒縄(さどまのくろなわ)(市村橘太郎)、④大臣禅師、無碍随鏡(むげのずいきょう)(澤村宗之助)らの権謀術策のサマが大きなウエイトを持ってくる。坂和流ポイント(3)はそれだ。
 また、弟(坂上田村麻呂)と姉(御霊御前)、甥(坂上田村麻呂)と叔父(藤原稀継)という固い絆で結ばれていた坂上田村麻呂と御霊御前、藤原稀継の関係は中盤以降大きく変わり、「裏切り」を含むあっと驚く変容を遂げていくので、都人たちを中心とする人間の表と裏についてしっかり考えたい。

<ポイント(4)―国家の善と悪について>
 坂和流ポイント(4)は、国家の善と悪についてしっかり考えること。そもそも、大和の国にとっては大和の国が善で蝦夷が悪という前提になっているが、それはなぜ?また、それでいいの?ちなみに、ストーリーの中では大和の国の統一が必要な理由についていろいろと語られるが、その議論って、今私たちがしている議論と完全にダブるのでは・・・?

<ポイント(5)―蛮甲の汚い(?)生きザマ>
 本作でいのうえ歌舞伎のエンタメ色(おふざけ色?)を最大に発揮しているのが、阿弖流為の幼馴染みの蛮甲(ばんこう)(片岡亀蔵)の汚い(?)生きザマとその恋人の熊(子)。坂上田村麻呂は「義か?それとも大義か?」というハムレット並みの大層な価値観で悩んでいる貴公子だが、厳しい時代状況を生き抜くには、そんなキレイごとだけではダメ。そんな価値観の権化ともいえる人物が蛮甲だから、そのキャラとラストまで続くその存在感をポイント(5)として挙げておきたい。

                                  2016(平成28)年5月20日記