日16-5

「ピンクとグレー」
    

               2016(平成28)年1月10日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:行定勲
原作:加藤シゲアキ『ピンクとグレー』(角川文庫刊)
前半
白木蓮吾(芸名、大人気スター俳優、本名:鈴木真吾(ごっち))/中島裕翔
河田大貴(りばちゃん)/菅田将暉
石川紗理(サリー、蓮吾と大貴の幼なじみ)/夏帆

後半
河田大貴/中島裕翔
成瀬凌/菅田将暉
三神麗/夏帆
石川紗理/岸井ゆきの
白木蓮吾(芸名、大人気スター俳優、本名:鈴木真吾(ごっち))/柳楽優弥

鈴木唯(鈴木真吾の姉)/小林涼子
小出水(芸能プロダクション社長)/千葉哲也
鈴木真吾の母/宮崎美子

劇中
小出水/マキタスポーツ
ドラマ主演俳優/入江甚儀
ドラマ監督/橋本じゅん
赤城/篠原ゆき子
岡村/矢柴俊博
2016年・日本映画・119分
配給/アスミック・エース

<この3人はいつも一緒。子供時代はそれもありだが>
 本作の主人公は、小学校5年生の時に同じ団地に引っ越してきたことによって、互いに「ごっち」こと白木蓮吾(中島裕翔)と「りばちゃん」こと河田大貴(菅田将暉)と呼び合うようになった2人の男と、その中にいつも入っている女の子「サリー」こと石川紗理(夏帆)の3人だ。そんな設定は深作健太監督の『同じ月を見ている』(05年)(『シネマルーム9』179頁参照)も同じだったが、小さい時からこんな「同盟関係(三角関係?)」に置かれた場合、子供時代はそれもありだが、思春期を経て大人になれば、当然「サリーをどちらの男がとるのか?」という問題が浮上してくるはず。『同じ月を見ている』では、大人になってからは立派な研修医になった窪塚洋介演じる鉄矢と、大人になってから7年間も入っていた刑務所から今あえて脱走してきたエディソン・チャン演じるドン、そしてこの2人の男の間で心を揺れ動かす黒木メイサ演じる美女エミの三角関係(?)が絶妙だったが、さて本作では?
 また、3人がいつも一緒でいられるのは、日本ではせいぜい中学・高校時代まで。つまり、否応なくそれぞれの進路を決めなければならない段階になると、必然的にそれぞれの道が分かれていくわけだ。もっとも、本作では蓮吾と大貴が並んで渋谷の街を歩いている時に、たまたま読者モデルにスカウトされるという「幸運」に出会ったため、2人とも大学に進学せず、小出水(千葉哲也)を社長とする芸能プロダクションに入って役者になる道を共に歩むことになったが、そうなればなおさら、その先の「売れる」「売れない」の道が分かれることに。他方、サリーは大学の美術学部に入り、絵の勉強を始めたが、これも卒業後は食っていくのは大変。しかして、20歳前後以降の3人の主人公たちの東京での生き方は?

<現役アイドルが書いた原作に行定監督が挑戦!>
 本作の原作は、1987年生まれの現役アイドル・加藤シゲアキが書いたベストセラー小説『ピンクとグレー』。2015年は第153回芥川賞を受賞した又吉直樹の『火花』が200万部を突破する大ヒットとなったため、私も同作は読んだが、その他の最近の若者たちのヒット小説を私は何ひとつ読んでいない。それは、もちろん食わず嫌いもあるが、基本的に軽薄短小で内容が薄いと勝手に決めつけているためだ。ところが、『GO』(01年)(『シネマルーム1』91頁参照)や『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)(『シネマルーム4』122頁参照)、『北の零年』(05年)(『シネマルーム7』268頁参照)、『春の雪』(05年)(『シネマルーム9』356頁参照)、『遠くの空に消えた』(07年)(『シネマルーム15』336頁参照)、『クローズド・ノート』(07年)(『シネマルーム16』336頁参照)、『今度は愛妻家』(09年)(『シネマルーム24』100頁参照)、『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(13年)(『シネマルーム30』未掲載)、『真夜中の五分前』(14年)(『シネマルーム35』203頁参照)等の作品で有名な行定勲監督がそんな原作の映画化に挑戦!
 あれだけ大ヒットすればきっと誰かが映画化するだろうと思っていた『火花』は、案の定、テレビでの全10話のドラマ化が決定され、廣木隆一監督が総監督を務めることになっている。『火花』は2人の芸人の成長物語だから映画化は簡単だが、『ピンクとグレー』というタイトルにふさわしいヒネリを効かせているらしい原作の映画化は難しい。パンフレットに収められている行定勲監督と加藤シゲアキとの対談における、「小説にしかできない時制をいじっていて、しかもどこに向かっていくのか明確に描いている。その向かっている先のひとつが『死』だよね。なぜ死んだのかが分からない人物(ごっち)が途中でいなくなって、遺された人間(りばちゃん)がその人に取り憑かれたかのように彼の敷いたレールを歩き、死を追体験していく。そんな2人の耽美的な関係性は『映画になる!』って直感したけれど、そのままなぞっても小説を凌駕できないと思ったんだよね。」という行定監督の発言をみれば、その映画化がかなり難しかったことがよくわかる。さあ、1968年生まれの行定監督が、あえてそんなアイドルの書いた「青春小説」に挑戦して完成させた本作の、あっと驚くアイデアとは・・・?

<劇中劇は面白い!そんな持論が本作でも的中!>
 劇中劇は面白い。それが『恋におちたシェイクスピア』(98年)等々を観た中での、「潜水艦モノは面白い」と並ぶ私の持論だが、本作でもそれが見事に的中!もっとも、映画はいかようにも時間や空間を移すことができる便利な芸術だから、どこでどのように劇中劇を使うかがポイントになるが、本作におけるそれはあなた自身の目でしっかりと。
 昭和の時代は石原裕次郎や小林旭など一部「映画スター」だけが極端に足が長くハンサムなため、一般的に短足胴長な日本人の中で目立っていたが、平成20年代の若者たちは一様に足が長くハンサムだから、団塊世代の私たちにはもはや誰が誰なのか区別がつかなくなっている。本作で河田大貴を演じた菅田将暉は『そこのみにて光輝く』(14年)(『シネマルーム32』166頁参照)や『共喰い』(13年)(『シネマルーム31』30頁参照)で例外的に知っている個性的な若手男優だが、本作(前半)で白木蓮吾役を演じるイケメン俳優中島裕翔の方を私は全然知らなかった。『火花』は「スパークス」という名前で漫才をしている芸人・徳永とその先輩芸人・神谷との人間関係を詳細に描写する小説だが、『ピンクとグレー』も共に役者を目指して歩む濃密で表裏一体とも言える蓮吾と大貴の人間関係が小説のポイントになっている。
 もっとも、本作冒頭は舞台で踊る蓮吾の姉・鈴木唯(小林涼子)がそのクライマックスで転落死(自殺?)するシーンと、蓮吾が首吊り自殺するシーンが同時並行で描かれるから、かなりショッキングな導入部になっている。その後のストーリー展開を見ていると、大人になってからの蓮吾と大貴は同じスタートラインで出発したものの、今や蓮吾は売れっ子の大スターとして国民的人気を得ているのに対し、大貴はハッキリ言えば落ちこぼれ・・・。それなら、将来に絶望して大貴が首吊り自殺をするのならよくわかるが、なぜ人気絶頂の蓮吾が首吊り自殺を・・・?

<観賞前のネタばらし厳禁!>
  信号機は赤、黄、青の三色で成り立っているが、フランスの国旗である「三色旗(トリコロール)」の青は自由、白は平等、赤は友愛を象徴している(もっとも、これは俗説らしいが)。他方、もっとも対照的な色合いを示す色は白と黒。したがって、法律の世界では「白か黒か?」が大問題になる。また、スタンダールの小説『赤と黒』の赤は軍人、黒は聖職者を象徴しているが、源氏と平氏のカラーは白と赤だ。また、なぜか運動会も、白組と赤組に別れるのが基本だ。さらに、宣伝等でよく目立つ対照的な色は黄色と黒。このように、「ピンクとグレー」が対比されることはあまりないが、本作はなぜそんな邦題を?
 ネタバレ厳禁をトコトン徹底させた映画がM・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(99年)だったが、そこではパンフレットも一部封印されていた。『シックス・センス』の他にもその手の映画はたくさんあるが、まさに本作もその一つで、ネタバレ厳禁の映画だ。そのため、パンフレットもピンクの部分とグレーの部分が明確に区別され、封まではされていないが、グレーの部分は「この先のグレーゾーンは、映画ご鑑賞前には絶対に開けないで下さい」と注意書きされている。本作(前半)の、あくまでクールで端正な顔立ちの蓮吾と個性的な顔立ちの大貴を比べると、一般受けするのは当然蓮吾。したがって、役者稼業で2人に差がついたのは当然と思える(?)が、ひょっとしてそんなあなたはまんまと行定監督のトリックの術中にハマっているかも・・・?

<なるほど、こりゃ面白い!行定監督のアイデアに拍手!>
 世の中にアイデア勝負の映画は多い。古くは、『キサラギ』(07年)(『シネマルーム13』61頁参照)、『日本以外全部沈没』(06年)(『シネマルーム11』58頁参照)、近時は『リミット』(09年)(『シネマルーム25』未掲載)、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(13年)(『シネマルーム36』251頁参照)、そして『人生スイッチ』(14年)(『シネマルーム36』112頁参照)のように、それがうまくハマれば面白い。しかし、古くは松本仁志の『大日本人』(07年)(『シネマルーム15』410頁参照)、近時は三谷幸喜監督の『ギャラクシー街道』(15年)(『シネマルーム36』未掲載)のように、監督や製作陣の独りよがりになってしまうとその映画はからっきしダメ。
 そんな視点で見ると、本作における行定監督のアイデアはなるほどこりゃ面白い!きっと映画史上始まって以来のアイデアだろう。ちなみに、本作には行定監督自身も俳優として(?)スクリーン上に登場するのでそれに注目!アルフレッド・ヒッチコック監督は自分がどのシーンでどの位置に出演しているかを観客に捜し出してほしかったそうだが、本作における行定監督の出演シーンは明確だから、そのシーンを見ればあなたはきっと口をあんぐりさせるはずだ。本作に見るそんな行定監督のアイデアに拍手!

<自殺の原因は?その分析の要否は?>
 他方、前述したように、本作では蓮吾の姉・鈴木唯の舞台上からの転落死(自殺?)と蓮吾の首吊り自殺という2つのシーンが提示されてストーリーが進んでいく。したがって、「この2人はなぜ死んだの?」の回答が最終的には不可欠・・・?そう考えるのも1つの映画の見方だが、必ずしもそうではないという見方もある。突然ブレイクして人気絶頂になってくると、若者の人生が狂いがちになるのはよくあること。ジェームズ・ディーンの交通事故による突然の事故死もひょっとして・・・?
 そんな物語を小説や映画にしたものは多いが、ひょっとして急速に人気が沸騰してきた蓮吾の場合はどうだったの?芥川龍之介の自殺も三島由紀夫の自殺も今なお謎だが、本作における人気絶頂のアイドルの首吊り自殺も謎のまま・・・?人間の心理の真相を追究していく本格的な人間ドラマならその点の分析が不可欠だが、ある意味本作はアイデア勝負の青春映画だと考えれば、そこまでの深い分析は不要かも。
 本作では、サリー役の夏帆が後半あっと驚く変身ぶりを見せるからそれにも注目だが、蓮吾の母親役で宮崎美子が登場する。彼女のセリフは「姉の唯も弟の真吾も2人ともが自殺してしまったのは家系のせいかもしれない」というものだが、さてそこにはどんな意味が・・・?『シックス・センス』では主人公のマルコム・クロウが既に死亡していることを理解するのにどれくらいの時間がかかるかがあなたのセンスの問題として大きな話題となったが、さて本作ではどんな点が話題になるのだろうか?アイドルが書いた旬な青春小説にあえて挑戦した行定監督の勇気と手腕に拍手!
                                  2016(平成28)年1月14日記