日16-54 (ショートコメント)

「モヒカン故郷に帰る」
    

               2016(平成28)年4月24日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督・脚本:沖田修一
田村永吉(デスメタルバンドのボーカル)/松田龍平
田村治(永吉の父)/柄本明
会沢由佳(永吉の恋人)/前田敦子
田村春子(永吉の母)/もたいまさこ
田村浩二(永吉の弟)/千葉雄大
竹原和夫(島の医者)/木場勝己
会沢苑子(由佳の母)/美保純
野呂清人(吹奏楽部員)/小柴亮太
清水さん(吹奏楽部部長)/富田望生
森くん/劔樹人
よっちゃん/大竹康範
安田/矢澤孝益
栗田さん/クリテツ
2016年・日本映画・125分
配給/東京テアトル

◆愛媛県松山市生まれの私は、中・高校生の頃に観た、若き日の山田洋次監督がハナ肇を主役に起用した『馬鹿まるだし』(64年)や『馬鹿が戦車でやって来る』(64年)等の心温まる映画が強く印象に残っている。『二十四の瞳』(54年)や『瀬戸内少年野球団』(84年)等の完成度は別格として、瀬戸内海に浮かぶ小島を舞台にした「故郷映画」はいつ観ても心地良いものだ。
 本作冒頭、モヒカン頭の田村永吉(松田龍平)が舞台上で派手に歌い踊っている姿を見ると、彼の名前がなぜ永吉なのかに納得できる。しかし、その直後に仲間たちとバンドの解散を含めて各自の行く末を論じている姿を見ると、バンドで生活していくのがいかに大変かがよくわかる。
 しかして、永吉は妊娠している恋人の会沢由佳(前田敦子)を連れ、その結婚報告のために故郷の戸鼻島に帰ろうと決めたが、それって「東京でビッグになる!」という夢が破れた末の都落ち・・・?それとも、都での戦いに敗れた足利尊氏がいったん九州に逃れて力を蓄え再起をはかったように、故郷での一時的充電のため・・・?ちなみに、ネット情報では沖田修一監督は「癒し系映画の匠」と書かれているが、さて本作の癒し度は?

◆松田龍平は近時『舟を編む』(13年)(『シネマルーム30』未掲載)や大泉洋とコンビを組んだ『探偵はBARにいる』(11年)(『シネマルーム27』54頁参照)、『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(13年)(『シネマルーム31』232頁参照)等で父親の松田優作とは全く異なった「いい味」を出している。弟の松田翔太は今、KDDI auのコマーシャルの桃太郎(桃ちゃん)役で有名になっているから、兄貴も頑張らなければ・・・。
 永吉がロックの世界でビッグを目指しているのは、矢沢永吉の大ファンで今も高校の吹奏楽団のコーチをしている父親・田村治(柄本明)の影響を受けたため。その治は今も生徒たちの指導をしていたが、『スウィングガールズ』(04年)(『シネマルーム4』320頁参照)で観た、上野樹里たちの演奏に比べると、そのレベルはかなり低そうだ。

◆瀬戸内海の南側にある四国の松山では広島カープファンは少ないが、母親の田村春子(もたいまさこ)が熱烈な広島カープファンであるところを見ると、戸鼻島はかなり中国地方(広島)に近いところにあるらしい。また、永吉が7年ぶりに戸鼻島に帰ってみると、そこには弟の田村浩二(千葉雄大)が帰省していたから、偶然家族4人が揃うことに。そこで、永吉は正式に治に対して由佳との結婚報告をしたが、「仕事は?」「収入は?」と質問された永吉が由佳の方を見ながら「こいつに・・・」と答えていると、治は烈火の如く怒り出し、親子ゲンカ騒動に・・・。
 この父親の怒り、俺にもわかるなあ・・・。なぜ、今ドキの若者はこんなに軟弱なの?そのくせ、やることはしっかりやり、結婚式の前に子供まで仕込んでいるのだが・・・。

◆私は『もらとりあむタマ子』(13年)(『シネマルーム32』125頁参照)や『Seventh Code(セブンスコード)』(13年)(『シネマルーム32』未掲載)、『さよなら歌舞伎町』(14年)(『シネマルーム35』214頁参照)等を観て、AKB48のセンターを張っていた前田敦子の女優としての才能を高く評価している。しかし、本作では永吉の父親・治を演じる柄本明の存在感が突出しているため、前田敦子の良さはあまり目立っていない。それにもかかわらず、突然倒れた治が末期がんであることがわかると、頼りない長男・永吉に代わって下手クソな手料理を含めて由佳の価値が母親の春子たちに少しずつ広がっていくから大したものだ。
 それはそれとして、本作では、①学校の隣に建っている病院の屋上から、学校の屋上で演奏する部員たちに対して指揮棒を振る治、②永吉が白いスーツ姿の矢沢永吉に扮装してやってくると、それをホンモノだと信じて感激する治、さらに、③ベッドに寝た状態で参加した結婚式のクライマックスで断末魔の悲鳴をあげて絶命してしまう治、等に見る柄本明の演技力に思わずうなってしまう。
 永吉と由佳の戸鼻島への滞在は予想以上に長引いたが、そんな中で自然に形成されてくる父親と息子、父親と息子の嫁との絆に注目したい。
                                  2016(平成28)年4月26日記