洋16-53

「さざなみ」
    

                     2016(平成28)年4月23日鑑賞<テアトル梅田>

監督:アンドリュー・ヘイ
ケイト/シャーロット・ランプリング
ジェフ/トム・コートネイ
2015年・イギリス映画・95分
配給/彩プロ

<あの名女優が、約40年後の今、あっと驚く妻の役を!>
 本作は、結婚45周年を祝うパーティーを土曜日に控えた、夫のジェフ(トム・コートネイ)と妻のケイト(シャーロット・ランプリング)2人の間に発生したちょっとした「さざなみ」から、大きく揺れていく数日間の夫婦の姿を描いた物語。ジェフを演じたトム・コートネイと、ケイトを演じたシャーロット・ランプリングは共に2015年の第65回ベルリン国際映画際で銀熊賞(主演男優賞、主演女優賞)を受賞するとともに、シャーロット・ランプリングは第88回アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた映画だから、こりゃ必見!
 しかも、今は70歳になっているイギリス人の名女優シャーロット・ランプリングは、1975年の名作『愛の嵐』でナチスに弄ばれたヒロイン役を演じてセンセーショナルな話題を巻き起こした女優だ。私も『愛の嵐』はテレビで何度も観たが、裸の上半身にサスペンダーを着け(おっぱい丸出しのままで)ナチスの帽子を被った姿で、ナチス将校たちの前で歌い踊る姿は、今でも強烈に脳裏に焼き付いている。
 そんな大女優シャーロット・ランプリングが、あれから約40年後の今、再び本作であっと驚く妻の役を・・・。

<幸せな老夫婦間に生じた「さざなみ」とは?>
 イギリスの田舎町に住んでいるジェフとケイトは子供はいないものの、いかにも幸せそうな老夫婦。本作の原題は単純でわかりやすい『45Years』だが、邦題はちょっと凝った『さざなみ』。夫婦間に生まれたある「さざなみ」は、スイスから夫に届いたドイツ語で書かれた1通の手紙によって生まれてくる。そこには、ケイトと知り合う前の恋人で、アルプスで遭難死したカチャの遺体が氷河の中で発見されたと書かれていた。1月25日に観た『エヴェレスト 神々の山嶺』(16年)(『シネマルーム37』86頁参照)で、私ははじめてイギリスの第3次遠征隊を率いてエベレストの頂上を目指したジョージ・マロリーの遺体が、1999年に標高8,100メートル地点の氷河の中で発見されたことを知ったが、それと同じようにカチャの遺体も約50年間氷河の中で保存されていたらしい。
 それはともかく、なぜそんなことがジェフのところまでわざわざ報告されてくるの?なぜ、ジェフはそんな過去の恋人のことを知らせてきた手紙をシャーシャーとケイトに見せるの?さらに、「すぐに遺体を確認するためにスイスに行く」と言わないにしても、なぜジェフはスイスに行くかもしれないような雰囲気をケイトに見せるの?本作の監督は40代のイギリス人監督だそうだが、「結婚45周年」を間近に控えた老夫婦の間に生じたそんな「さざなみ」を、本作冒頭で見事に提示している。もっとも、その「さざなみ」が生まれたのはケイトだけで、ジェフの方はそれに全く気付いていないこところが本作の大きなポイントだが・・・。

<ええっ、女はこんなことに嫉妬するの?>
 ジェフがカチャの遺体の発見を知らせる手紙をケイトに見せたのは、ジェフはケイトと結婚する前の恋人であったカチャのことを既にケイトに説明していたことを前提としたもの。逆に、それを説明していなければ、当然ジェフはその手紙をケイトに隠したはず。つまりジェフは、この手紙をケイトに見せても、結婚前の恋人で約50年前に死んでしまったカチャにケイトが嫉妬するなどありえないことを前提としていたわけだ。ところが、ジェフのそんな前提に反して、ケイトの方は・・・?ええっ、女はこんなことに嫉妬するの?私を含め、多くの男はそう考えるのでは・・・?
 ジェフとケイトは必ずしも夫婦間の会話が多いわけではないが、スクリーン上を見ている限り必要な意思疎通は十分できているし、夫の妻に対する思いやりも十分なように思える。そのうえ、私がビックリしたのは、あの年になってなお、あることをきっかけに夫婦生活(性生活)にチャレンジしていること。もちろん、これは夫婦が同じベッドで寝ていることが前提だが、そんな夫婦の姿を見ていると、決して2人の仲が悪いわけではないことは明らかなのだが・・・。

<ケイトの不満を、女性客はみんな理解?>
 本作の観客に若い人は全然おらず、中年ないし老年の人たちばかり。もっとも、老夫婦そろっての鑑賞が多いのかと思っていたが、意外にそうでもなかったのは、どう理解すれば・・・?それはともかく、ジェフとケイトの間に、冒頭の手紙によって「さざなみ」が立ち始めた後、本作中盤ではそれが少しずつ増幅していく様子をスリリング(?)に描き出していく。
 その過程で明らかにされる妻の不満は、第1に「もしカチャが死んでなかったら彼女と結婚していた?」との質問に対して、ジェフがシャーシャーと「ああ、してた」と答えること。そりゃ、そうかもしれないが、もう少し別の言い方があるはずだというのが妻の言い分だ。第2の不満は、自分たち夫婦の45年間についてはほとんど写真がないのに、カチャの写真だけはたくさん残されていたこと。この扱いの違いは一体ナニ?第3の、そして最大の不満は、ジェフがケイトに隠れてコソコソとスイス行きの企画を練っていたことだ。それがどこまで現実的なのかは知らないが、少なくともジェフが1人で旅行会社にスイス行きの問い合わせをしていたのは事実だから、ケイトにとってはそれだけで不満を爆発させる理由は十分だったようだ。
 本作中盤のそんな展開を見ていても、男の私はなぜケイトがそんなことにそんなに不満を持ち、爆発させるの?そう思ってしまうが、女性客はみんなそれを理解しているようだから、男女の理解の違いの大きさにビックリ!

<豪華な結婚45周年パーティーに注目!>
 日本でも銀婚式(25年)、金婚式(50年)という形で長い間続いてきた夫婦を祝う習慣があるが、本作ラストのハイライトはジェフとケイトの45周年を祝う豪華なパーティーになる。45周年という中途半端な時期になったのは、本来祝うべき40周年の時にジェフが大病を患ったため。ならば、いっそのこと50周年まで延ばせば?とも思うが、それでは開催できるかどうかがわからないから、とりあえず45周年になったのだろう。
 ここで面白いのは、スクリーン上で見る限りジェフもケイトも積極的にそんな派手なパーティーをやりたいと望んでいないように見えること。これは、あの手紙の一件以来、夫婦間に「さざなみ」が立ってきたため?それとも、企画段階から2人ともそんな派手なパーティーは望んでおらず、周りの人たちが騒いでいただけ?そこらあたりはわからないが、夫婦間に「さざなみ」が立ってきたことによって、現時点では逆にこのパーティーを中止するという選択肢はなくなってきたらしい。そこらあたりが熟年夫婦のうまいところであり、同時にズルいところだが、本作ラストでは日本における銀婚式や金婚式のお祝いをはるかに超えた、豪華な結婚45周年パーティーに注目したい。さらに、45周年パーティーのメインはジェフのスピーチだが、さてジェフはそのスピーチをしっかりやることができるの?それが本作のクライマックスに向けて最大のポイントになってくるので、それに注目!

<パーティーのハイライトは?妻の反応は?>
 パーティーのハイライトとなるジェフのスピーチは、口下手なジェフにしては上出来。その内容はすごく率直かつ感動的、そして、ケイトへの愛に満ち溢れたものだった。そんなスピーチに対して会場から拍手喝采が起きたのは当然だし、これだけのスピーチができればたいしたものだ。私にはそう思えたが、隣の席で黙ってそれを聞いていたケイトの受け止め方は・・・?さらに、ジェフのスピーチに続いて、45年前の結婚式と同じ曲(『煙が目にしみる』)が流される中、全員の注目を集めながら2人は華麗にダンスを踊ったが、そのダンスの中で見せるケイトの反応は・・・?
 女は恐い。私の結論はそんな一言に集約されるが、さてあなたは本作ラストのクライマックスに見る妻の反応をどう理解?
                                   2016(平成28)年4月26日記