洋16-49 (ショートコメント)

「光りの墓」
    

                      2016(平成28)年4月16日鑑賞<テアトル梅田>

監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
ジェン(足の悪い中年女性)/ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー
ケン(魂と交信できる若い女性)/ジャリンパッタラー・ルアンラム
イット(若い兵士)/バンロップ・ロームノーイ
2015年・タイ、イギリス、フランス、ドイツ、マレーシア合作映画・122分
配給/ムヴィオラ

◆タイ映画といえば、私は『マッハ!(MACH)』(03年)(『シネマルーム6』194頁参照)や『マッハ!弐』(08年)(『シネマルーム24』194頁参照)、『チョコレート・ファイター』(08年)(『シネマルーム22』173頁参照)等のアクション映画が大好きだが、タイでは『ブンミおじさんの森』で2010年に第63回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が有名らしい。
 パンフレットのイントロダクションには、「ティム・バートンやスコセッシをも魅了する世界最先端の映画監督で、同時に、国際的な美術作家。」「その待望の最新作『光りの墓』は、映像、サウンド、色彩設計、あらゆる面において、天才の進化を感じさせる大傑作。タイの社会状況を透徹しながら、語り口はあくまでもユーモアと優しさに溢れています。」と書かれているうえ、事前の新聞紙上での評価も高い。そのため、「こりゃ必見!」と思い映画館へ赴いたが、さてその出来は・・・?

◆本作は、原因不明の「眠り病」がテーマ。そのため、冒頭にはタイ東北部のかつては学校だったという病院とそこのベッドで多くの男(兵士)たちが眠っている状況が映し出される。本作の主要な登場人物は、この病院を訪れた足の悪い中年女性ジェン(ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー)と、眠る兵士たちの魂と交信する特殊な能力を持った若い女性ケン(ジャリンパッタラー・ルアンラム)の2人。そして、この2人の会話に、時々目覚める若い兵士イット(バンロップ・ロームノーイ)が絡んでくる。
 そして、そんな会話劇の中で、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の故郷であるタイ東北部のイサーンの町コーンケンを舞台とし、同監督が「寄生生物のように自分から離れない場所についての個人的なポートレート」と書いた何ともわかったようなわからないような物語が展開していくことに・・・。

◆この病院のある場所は、大昔の王様たちの墓があったところらしい。そして、彼らの魂が兵士の生気を吸い取って今も闘い続けているため、兵士は眠り病にかかっているらしい。本作中盤では、ジェンが古いお堂に祀られている2人の姉妹の王女様からいろいろな説明を聞くことによって、そんないわく因縁が明らかにされていく。しかし、それはあくまで会話の中だけの話で、その映像がスクリーン上に全く表現されないのが私の大きな不満だ。
 ジェンから「FBIのスパイもできる」と言われるほどの超能力を持つケンが、イットを連れ、得意の交信能力を発揮しながらかつての巨大な王宮を歩き回るシーンも、ケンとイットの会話だけだから、イサーンの町(コーンケン)育ちのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督はその内容をイメージできても、日本人の私たちには到底無理だ。ティム・バートン監督なら、まさにそれをメインとしたファンタジーな映像を私たちに見せてくれるのでは・・・?そう思うと、本作中盤以降は本作への不満ばかりがメラメラと・・・。

◆映画評論家・稲垣都々世氏は、本作について、「意味考えるより心で感じる」というタイトルの新聞紙評で「具体的な意味を見いだそうとするのではなく、心で感じる映画。自由な精神性に触れると不思議な感動に包まれる。」と書いている。しかし、残念ながら私は本作を観て、心で感じることも、不思議な感動に包まれることもなかったから、この紙評には賛成できない。
 また、『キネマ旬報』4月上旬号の「REVIEW 鑑賞ガイド」で、山口剛氏は星4つをつけ、「安らぎと心地よさを感じさせる映画」と書いている。しかし、私はそこで星3つをつけ、「星をつけるという行為にこれほど違和感を覚える映画もない。それはこの監督が、われわれの知る『映画』とは、何か違うものを目指しているからかもしれない」と書いた篠儀直子氏や、星2つをつけ、「延々の長回し&ロング・ショットが、自分のような多動性映画が好きな者には堪える」と書いた平田裕介氏の意見に賛成だ。
 つまり、私にはスクリーン上で展開される本作の会話劇と、スクリーン上に映し出される美しい風景だけでは、その会話の中で展開されている内容を「心で感じる」ことはできなかったわけだ。そのため、私には本作に大きな不満が残ったが、さて、あなたは・・・?
                                  2016(平成28)年4月19日記