洋16-44

「最高の花婿」
    

                  2016(平成28)年4月10日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督・脚本:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
クロード・ヴェルヌイユ(父)/クリスチャン・クラヴィエ
マリー・ヴェルヌイユ(母)/シャンタル・ロビー
イザベル・ヴェルヌイユ(長女)/フレデリック・ベル
オディル・ヴェルヌイユ(次女)/ジュリア・ピアトン
セゴレーヌ・ヴェルヌイユ(三女)/エミリー・カーン
ロール・ヴェルヌイユ(四女)/エロディー・フォンタン
ラシッド・ベナセム(イザベルの夫、アラブ人)/メディ・サドゥアン
ダヴィド・ヴェニシュ(オディルの夫、ユダヤ人)/アリ・アビタン
シャオ・リン(セゴレーヌの夫、中国人)/フレデリック・チョウ
シャルル・コフィ(ロールの恋人、黒人)/ヌーム・ディアワラ
アンドレ・コフィ(シャルルの父)/パスカル・ンゾンジ
マドレーヌ・コフィ(シャルルの母)/サリマタ・カマテ
ヴィヴィアン・コフィ(シャルルの妹)/タチアナ・ロホ
2014年・フランス映画・97分
配給/セテラ・インターナショナル

<異なる民族、人種、宗教を持つ男女の結婚は?>
 日本は島国だし、基本的には単一民族。宗教も自由で寛容、同時併存可能、はっきり言えばいい加減だから、結婚相手がどんな宗教かは基本的には問題にならない。しかし、西欧諸国やイスラム、アラブ諸国では?
 近時大きく台頭し、世界的に大問題になっているイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロ問題の根源は、すべて民族、人種、宗教問題にある。日本と対照的に多くの民族、人種、宗教を受け入れてきたヨーロッパの大国がフランス。世界で一番自由を大切にする国フランスは、事実婚、同性婚の率が多分世界一だろうし、異人種間結婚も多分世界一。日本では、自分の娘が中国人や韓国人の男性を連れて来ればビックリだし、ましてや白い肌や黒い肌の男性を連れて来たらそれだけで大騒動だが、さてフランスでは?
 住井すゑの小説『橋のない川』(59~60年)は「部落差別」の理不尽さと陰湿さをテーマとした物語で、「水平社宣言」がクライマックスになるが、そこでは「結婚差別」も一つのテーマになっていた。そんな日本で、もし目の中に入れても痛くないほど愛している4人の娘がそれぞれ、アラブ人、ユダヤ人、中国人そして黒人と結婚すると宣言したら、さてあなたは?

<4人姉妹、4人兄弟の物語あれこれ>
 谷崎潤一郎の4人姉妹の物語『細雪』(49年)は、三女・雪子の結婚問題を中心に物語が展開した。また、ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』(1868年)は、小説家を夢みる次女のジョーの活躍が中心だった。他方、私が小学校5、6年生の頃に観ていたテレビドラマ『ボナンザ』(59~73年)は4人兄弟の絆を中心とした楽しい西部劇だった。また、『プライベート・ライアン』(98年)では4人兄弟の3人までが戦死したため、4人目は戦死させるわけにはいかないとして、大統領命令により末っ子のライアン二等兵の救出をめぐる大作戦が展開された。このように、4人姉妹や4人兄弟のあれこれの物語はそれぞれ興味深い。
 しかして、本作冒頭、長女のイザベル・ヴェルヌイユ(フレデリック・ベル)はアラブ人の男性ラシッド・ベナセム(メディ・サドゥアン)と、その1年後、次女のオディル・ヴェルヌイユ(ジュリア・ピアトン)はユダヤ人の男性ダヴィド・ヴェニシュ(アリ・アビタン)と、さらにその1年後三女のセゴレーヌ・ヴェルヌイユ(エミリー・カーン)は中国人の男性シャオ・リン(フレデリック・チョウ)と結婚してしまったから、父親のクロード・ヴェルヌイユ(クリスチャン・クラヴィエ)と母親のマリー・ヴェルヌイユ(シャンタル・ロビー)は表面上は喜んだ顔をしているものの、内心は忸怩たるものが・・・。そのため、末っ子のロール・ヴェルヌイユ(エロディー・フォンタン)だけは、同じカトリック教徒のフランス人男性と結婚してほしいと心から願ったが、さて・・・。本作は、そんなヴェルヌイユ家の4人姉妹それぞれの、異人種との結婚をめぐる興味深い物語だ。

<「ケンカ」で構成された映画は面白い!>
 中国第六世代監督の旗手、張元(チャン・ユアン)が監督し、「中国四大美女」の一人で私の大好きな徐静蕾(シュー・ジンレイ)が主演した『我愛你(ウォ・アイ・ニー)』(03年)は、全編にわたって互いに汚い言葉でののしり合う夫婦ゲンカで構成されていた(『シネマルーム11』264頁参照)。また、ジョディ・フォスターとケイト・ウィンスレットが激突(?)した『おとなのけんか』(11年)は、子供のケンカがいつの間にか「大人のケンカ」に転化していく面白い映画だった(『シネマルーム28』136頁参照)。しかして、本作前半もそれとよく似た構成に。
 ユダヤ教では生後8日目の男児に対して「割礼」の儀式が行われるが、それって日本人から見ればもちろん、フランス人から見てもかなり野蛮なのでは?今日はユダヤ人のダヴィドに嫁いだ次女オディル夫婦に生まれた男の子に対するそんな儀式の日だが、それを無理やり祝福しなければならないクロードとマリー夫妻の表情が痛々しい。その影響もあり(?)、クロードとマリー夫妻、四女のロールを含め、長女、次女、三女の4つの家族が集まった食事会では、クロードの不満が大爆発!その結果、本作前半のクライマックスは、民族、人種、宗教をめぐる4つの家族の大ゲンカになるのでそれに注目!

<民族、人種、宗教をめぐる4つの家族の大ゲンカに注目>
 参加者に振る舞う料理についても、アラブ式、ユダヤ式、中国式、フランス式ともなれば、素材はもちろん味付けや食べ方など全然違っているのが当然。また、イスラム教徒のための、安全な生活を示すためのガイドラインたる「ハラル」や、ユダヤ教徒のための、食べ物に関する規定の「コーシャ」等々もあり、「豚肉は絶対ダメ」等々のタブーがあるからややこしい。また、アラブVSイスラエルの長年にわたる争いを持ち出すまでもなく、中東は政治的軍事的紛争のるつぼだ。幸いにも中国はそれにあまり関与していないが、中東でも外国人の経済力や行儀の悪さは評判らしい(?)から、コトあるごとにそんな悪口も・・・。
 ちなみに、クロードは「ド・ゴール主義者」であることを誇りにしているが、そんな姿勢をモロに出そうものなら、婿たちから袋叩きに。そもそも、フランスのモンマルトルが中国人ばかりだと話しただけで、婿たちから「差別だ」と非難される始末だから、クロードとしては何一つ本音の話ができないことになる。そんな気まずい状態が続いた4つの家族の食事会だったが、政治、宗教上の争いとなる議論はやめようね、という大まかな合意だけでは、やはり食事中の楽しい会話はムリだったらしい。その結果、逆ギレしたクロードはシャオが作った世界一おいしいはずの中華料理を味わうのもほどほどに、席を立って帰ってしまうことに。さらに、その後は3人の婿たちも互いの民族の特徴を皮肉タップリに語り合ううち、とうとう三つ巴の大ゲンカに。
 もっとも、本作では娘夫婦たちとの「ケンカ別れ」に耐えきれなくなったマリーの「反省」のうえに、再度4家族が集まったクリスマスの食事会では、①3カ国の味付けをした七面鳥、②3人の婿たちが作る3つの民族を象徴した雪だるま、そして3人の婿たちが誇らしげに歌うフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』の力強い歌声に見られるように、しっかり固まったファミリーの絆が強調されるので、それにも注目!
 閉鎖ニッポンから脱出し、広く世界を知るためには日本人もこんな会話に積極的に参加し、たまには「正統派日本人論」をぶって大ゲンカしてみる必要があるのでは・・・。それでこそ、本作のような「雨降って地固まる」可能性が見えてくるのでは・・・?

<四女の婿はカトリック教徒!そう大喜びしたのに・・・>
 せめて四女のロールだけはカトリック教徒の息子に嫁がせようと画策した両親に対して、ある日ロールは「私も結婚する。相手の男性はカトリック教徒だ」と報告したから、クロードとマリーは大喜び。フランス人のカトリック教徒なら、「役者」という中途半端な仕事でもOK!そう考えていたのに、晴れの面会の日にロールが連れてきた男性シャルル・コフィ(ヌーム・ディアワラ)が黒人だと知って2人はビックリ仰天することに。
 1年半も同棲していたロールとシャルルは、自分たちの両親に互いのフィアンセのことを報告し、結婚を祝福してもらおうと願ったが、ロールの方はギリギリまでシャルルのことを黒人だと報告できなかったため、本作後半のドタバタ劇が展開していくことになる。他方、結婚の報告のため故郷の国コートジボワールに戻ったシャルルも、カトリック教徒でかつド・ゴール主義者でありながら、「フランス人は信用できん」との信念を持っている、父親アンドレ・コフィ(パスカル・ンゾンジ)の猛反対を受けることに。
 もっとも、今の時代、結婚は両性の合意のみにもとづくもので親の許可は不要だから、渋々アンドレも母親のマドレーヌ・コフィ(サリマタ・カマテ)も結婚そのものは承諾したものの、アンドレは「白人に搾取のツケを支払わせるため、式の費用は向こう持ちだ」と宣言する始末。さて、7月に予定された結婚式はどうなるの?

<意外にも、3組の姉夫婦も猛反対!そのココロは?>
 「自分のことはタナにあげて・・・」という言い方は、紛争が起きた場合の常套句。ロールが連れてきた男がカトリック教徒ながら黒人だと知ると、3人の姉とその婿たちは一致してそれに猛反対したから、アレレ・・・。これぞ、「自分のことはタナにあげて・・・」の典型だが、さてそのココロは・・・?
 シャルルとその両親、そしてその妹がパリにやってきた時、シャルルの舞台にロールの姉やその婿たちを招待したのはシャルルの心配りだが、本作を見る限りそもそも3人の婿たちの舞台の鑑賞姿勢に問題あり!それはしばらく横に置くとしても、シャルルがいつも連れている女との浮気を疑った3人の婿たちが、舞台終了後シャルルの尾行を進めていくと、予想どおり2人はとあるホテルの中へ・・・。これを証拠写真として提出すればロールとの縁談はご破算になるとふんだ3人は、得意満面だったが、何とこの連れの女性はシャルルの妹ヴィヴィアン・コフィ(タチアナ・ロホ)だったからアレレ・・・。
 そんな姉や姉婿たちのやり方にロールが猛反発したのは当然だが、ここまで話がこじれてくれば、やっぱりこの縁談は破談に・・・?

<父親同士の大ゲンカから大団円に・・・>
 4人姉妹の父親クロードを演じたクリスチャン・クラヴィエを私は本作ではじめて観たが、彼はフランスで喜劇役者としての地位を確立している有名な俳優らしい。他方、シャルルの父親アンドレを演じたパスカル・ンゾンジは、ド・ゴール主義者のキリスト教徒であるうえ、元海兵隊員という役柄にふさわしい堂々たる体格の持ち主だから、クロードのことを「コミュニストか!」とののしる姿には迫力がある。
 そんな2人が家族と共にはじめてお目見えしたのは、近時はやりのスカイプを通してだが、たちまちそこで小競り合いに・・・。したがって、パリに最初からケンカ腰で乗り込んできたアンドレと、これを迎え撃つクロードの間にさまざまなバトルが展開されたのは当然。その挙げ句、クロードはアンドレと会うことすら避けてしまったし、マリーの方は半病人になってしまったから、結婚式を数日後に控えたヴェルヌイユ家とコフィ家の目の前は真っ暗状態に。
 そんな中、クロードが1人で通っていた釣り場に突然アンドレが乗り込んでいったところから「父親同士の大ゲンカ」が始まるが、何とそこに酒が入ってくると、アレヨアレヨという間にありえない展開に・・・。他方、クロードの失踪、父親同士の出血を含む大ゲンカに愛想をつかし、ロールは1人列車に乗って家に戻ろうとしていたが、その後それもありえない展開に・・・。
 さあ、フランスで観客1300万人を動員し、フランス映画歴代動員記録ベスト10の第6位にランクインした本作の、そんな怒涛のハイライトと大団円の姿をタップリと楽しみたい。難民、移民問題は目下世界最大の問題だが、こんな風に異人種間結婚がどんどん広がれば、それまでとは全く違う世界観が定着していくかも・・・。
  
                                  2016(平成28)年4月12日記