洋16-39 (ショートコメント)

「緑はよみがえる」
    

            2016(平成28)年3月30日鑑賞<ビジュアルアール大阪試写室>

監督・脚本:エルマンノ・オルミ
少佐/クラウディオ・サンタマリア
若い中尉/アレッサンドロ・スペルドゥーティ
大尉/フランチェスコ・フォルミケッティ
ナポリ出身の兵士/アンドレア・ディ・マリア
従卒/カミッロ・グラッシ
忘れられた兵士/ニッコロ・センニ
軍曹/ドメニコ・ベネティ
伍長/アンドレア・ベネティ
2014年・イタリア映画・76分
配給/チャイルド・フィルム、ムヴィオラ

◆1931年生まれのイタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督は『木靴の樹』(78年)等で世界的に有名な監督だが、私はそれら昔の作品を観たことがなかった。また、近時の話題作たる『ポー川の光』(06年)も見逃していたから、本作は私にとって初めてのエルマンノ監督の作品になる。
 イントロダクションによるとエルマンノ監督は、「常に弱者に寄り添い、慈しみに満ちた眼差しで人間を見つめながら、同時に混迷を深める時代に対して根源的な問いを投げかけ続けてきた」監督、らしい。また、本作は80歳を超えたエルマンノ監督が幼い日に見た父の涙の意味、すなわち「父はヒロイズムに駆られ、19歳で第一次世界大戦に従軍しました。過酷な戦場での体験はその後の父の人生を変えてしまいました。戦友を思い、父が涙するのを見たのは一度きりではありません。」という、終生心から離れなかった父の涙の意味を描き、父親に捧げたものらしい。そんな本作の邦題は『緑はよみがえる』だが、さてその意味は?そしてまた本作が問いかけるものとは?

◆本作は第一次世界大戦中の1917年、北イタリア、アジアーゴ高原におけるイタリア軍VSオーストリア軍の「塹壕戦」を描くもの。第一次世界大戦の塹壕戦に従事した父親からその悲惨さを幼い頃に良く聞かされてきたエルマンノ監督が、第一次世界大戦100周年を記念して、その父に捧げる特別な映画として作ったのが本作だ。
 去年3月9日に見た『ディバイナー 戦禍に光を求めて』(14年)は、1919年の「ガリポリの戦い」における塹壕戦で3人の息子を失った父親の息子探しの旅を描いた映画だった。また、第一次世界大戦の塹壕戦を描いた名作中の名作は、レマルクの『西部戦線異状なし』(30年)だ。また、マタアジアーゴ高原における塹壕戦のことを私は全く知らなかったが、この一帯は第一次世界大戦の激戦地としてアーネスト・へーミングウェイの『武器よさらば』の舞台となったこととよく知られており、今でも市街から山中に入ると防空壕や銃撃戦の跡が多く残っているらしい。そんな歴史を振り返りながら、本作をしっかり鑑賞したい。

◆『プライベートライアン』(98年)は、冒頭20分間の戦闘シーンがすごかった。『ディバイナー 戦禍に光を求めて』でも、主人公の3人の息子たちが塹壕を抜け出して突撃していく戦闘シーンが何度も登場していた。しかし、本作は塹壕戦をテーマにした映画にもかかわらず、銃弾が飛び交う戦闘シーンがごくわずかしかなく、静かなシーンが圧倒的に多い。また、特徴的なのは、辺り一面を覆う深い雪とそれを映し出す美しい空の風景だ。
 さらに、『戦場のアリア』(14年)では、戦場の兵士を慰問するため、最前線にやってきたソプラノ歌手がクリスマスコンサートとして歌うアリアが「クリスマス休戦」という奇跡をもたらしたが、本作でもイタリア軍兵士が歌うナポリー民謡が一つのハイライトシーンになる。華々しい戦闘を期待してやってきた兵士たちは長い塹壕戦の中で疲れ果てており、今や厭戦気分でいっぱい。彼らの唯一の楽しみは食事であり、送られてきた手紙を読むことだ。そんな中、「通信が敵に傍聴されているため、新たな通信ケーブルを引け。」という現場の厳しい状況を知らない平地の司令部からの、理不尽な命令が・・・さあ、そんなイタリア軍の塹壕内ではどんな動きが?

◆『戦争と人間』(70年~73年)3部作は、日本軍がノモンハン事件で敗走したところで終了したが、本作は、激しい砲撃の中、司令部からの後退命令に従って後退するイタリア軍兵士たちの姿を映し出す。そして、若い中尉が母へ書いた手紙の中で、「愛する母さん、一番難しいのは人を赦すことです。人が人を赦せなければ人間とは何なのでしょうか」、と語るシーンで終わる。近時のハリウッド映画の活劇は、バットマンとスーパーマンを2人同時に登場させるところまで進んでいるし、ハリウッドの戦争映画のど派手さはますます顕著になっているが、本作はそういう方向とは全く逆の映画になっている。しかも、上映時間はわずか76分だから、ハリウッド活劇の大作のほぼ半分。そんな上映時間の中で、80歳を超えたエルマンノ監督が第一次世界大戦に従事した父親に捧げた本作の教訓とは?折りしも、日本では昨年9月19日に国会で成立した「安保法制」が3月29日に施行されたため、再びその賛否が大きなテーマになっている。私は「安保法制」を支持する立場だが、本作の鑑賞はそんなテーマを議論する上でも大いに役立つのでは?
                                  2016(平成28)年3月31日記