日16-38 (ショートコメント)

「バット・オンリー・ラヴ」
    

            2016(平成28)年3月30日鑑賞<ビジュアルアーツ大阪試写室>

監督・脚本:佐野和宏
プロデューサー:寺脇研
佐々木宏/佐野和宏
佐々木晴美(宏の妻)/円城ひとみ
水沢千絵(山岡のパートナー)/酒井あずさ
石堂綾子(宏の昔の恋人)/蜷川みほ
若林久美子(宏と晴美の一人娘)/芹澤りな
山岡国夫(宏と夫婦交換する男)/飯島洋一
/柄本佑
/緒方明
/川瀬陽太
/工藤翔子
/吉岡睦雄
2015年・日本映画・89分
配給/東風

◆「見たい映画がないのなら、自分たちで作ってしまおう」と考えた、元文部官僚で映画運動家の寺脇研氏が自らプロデュースした、井上淳一監督の『戦争と一人の女』(12年)は、すごく興味深く面白い映画だった(『シネマルーム30』199頁参照)。私は大阪大学の学生時代まじめに学生運動をやっていた(?)から映画を観る時間は少なかったが、それでも話題作は観ていたし、日活ロマンポルノは時々観ていた。しかし、東京大学在学中も映画に熱中し、キネマ旬報に寄稿(ばかり)していた寺脇氏は、ピンク映画にもご執心だったらしい。
 プロダクションノートを読むと、とりわけ彼は「ピンク四天王」の一人と呼ばれていた佐野和宏監督に注目し、1991年度のキネマ旬報ベストテンでは『集団痴漢 人妻覗き』(91年)を1位に、92年は『痴漢 ONANIE 覗き』(92年)を6位に、93年は『変態テレフォン ONANIE』(93年)を4位に選んでいたそうだ。
 そんな寺脇氏が、プロデューサー第2作目として佐野和宏が監督、脚本、主演した本作をプロデュース!さて、その狙いと成否は?

◆その道の「達人」や「通」によると、「ピンク映画とアダルトビデオは、ソフトコアとハードコアの違いであって・・・」と、ご高説が続くらしい。私は日活ロマンポルノの面白さやその作り方はそれなりに知っているし大好きだが、いわゆるアダルトビデオは全然好きではない。また、ピンク映画については正直なところよくわからない。
 しかして、本作に出演する俳優や女優も佐野監督のかつての友人たちや「その世界」の人々ばかりだから、一般的になじみがない。本作は冒頭から、いわゆる男女の「絡み」が始まるが、なるほど、これがピンク映画の撮影手法!そして、これがピンク映画の男女の「絡み」の演出の王道!

◆本作は1997年以降メガホンをとることなく、2011年に咽頭癌を患い声帯を失くしていた佐野監督が、「癌で失くした声とひきかえに、人生を見つめ直した男」佐々木宏を演じている。本作冒頭は、前述した「絡み」のシーンに続いて、妻・佐々木晴美(円城ひとみ)に甘えながら、生まれ変わった第2の人生を子供のように生きていこうとする宏の幸せそうな姿が登場する。
 そんな宏に対して、一人娘の若林久美子(芹澤りな)が、「お父さん私は誰の子」と問い詰めたところから、本作のストーリーが始まっていく。つまり、血液検査の結果、ありえない現実を突きつけられたのは、千絵以上に宏だったわけだ。宏の妻への疑惑は嫉妬と憎悪に変わるとともに、またその中ではさまざまな妄想が・・・。以降、私が昔観た吉行淳之介原作の映画『砂の上の植物群』(64年)や谷崎潤一郎原作の映画『白日夢』(64年版、82年版)と同じような、現実と妄想の世界が広がっていくことに。

◆本作は『キネマ旬報』4月上旬号上で、106頁から110頁にわたって「佐野和宏の第2章」というタイトルで特集されている。その中の佐野和宏(監督・脚本・主演)インタビューでは、「死んでくれれば客も入るのにって(笑)」とまで語られていることをみれば、寺脇研プロデューサーをはじめ製作スタッフや出演者たちが、腹を割って話し合いながら本作の完成に努力したことがよくわかる。
 しかし、寺脇氏がピンク映画関係者は佐野監督をよく知っていても、今ドキの多くの人は私を含めてそもそもピンク映画自体を敬遠するし、「ピンク四天王」と呼ばれた佐野和宏氏が18年ぶりに復帰して新作を発表!と聞いても、興味を示すのかどうか疑問だ。私も『キネマ旬報』を読んだことと、本作の試写がたまたま観たい映画と時間的にセットになっていたから観ただけで、本作一本だけでは観ることはなかったはずだ。大阪では「第七藝術劇場」での公開だが、さてどれ位の観客動員ができるのだろうか?また、本作は成人映画の指定がされていないようだが、それは一体なぜ?
                                  2016(平成28)年3月31日記