洋16-35

「インサイダーズ 内部者たち」
    

               2016(平成28)年3月12日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督・脚本:ウ・ミンホ
アン・サング(芸能事務所の社長)/イ・ビョンホン
ウ・ジャンフン(ソウル地検の検事)/チョ・スンウ
イ・ガンヒ(祖国日報の論説主幹)/ペク・ユンシク
チャン・ピル(与党・新正党の大統領候補)/イ・ギョンヨン
オ・ヒョンス(ミレ自動車の会長)/キム・ホンパ
パン(ソウル地検の特捜部捜査官)/チョ・ジェユン
パク・ジョンパル(文具メーカー社長)/ペ・ソンウ
コ・サンチョル(元祖国日報の記者)/キム・デミョン
2015年・韓国映画・130分
配給/クロックワークス

<よくぞ、ここまで!こりゃ必見!>
 いくら民主主義国であっても、政界、財閥、メディアを牛耳る黒い霧やヤミの世界はどの国にもある。日本でも、戦後の高度経済成長期の中で自民党政権が続いていた時代に、そんな「骨太のドラマ」を見事に描いた社会派の小説・映画が、松本清張の『日本の黒い霧』(60年)であり、山崎豊子の『華麗なる一族』(70~72年)や『不毛地帯』(73~78年)等だった。石川達三の原作を山本薩夫監督が映画化した『金環蝕』(75年)もそれだ。韓国では朝鮮戦争の後、しばらくは朴正煕大統領による「軍事独裁政権」が権力を握ったが、1980年の「光州事件」の後は全斗煥大統領が権力を掌握して曲がりなりにも民主化を推し進め、1987年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領による「民主化宣言」によって、遅ればせながら「民主化」が進んでいった。韓国映画には朝鮮戦争や南北分断を描いた名作が多いが、1979年の朴正煕大統領暗殺事件は『ユゴ 大統領有故』(06年)(『シネマルーム16』126頁参照)を、1980年の光州事件は『光州5・18』(07年)『シネマルーム19』78頁参照)を観れば、よくわかる。
 しかし、そんな「民主化」が進んだ韓国では、政界と財界の汚職構造を描いた『金環蝕』ばりの骨太社会派映画は少なかったが、本作はまさにそれ!政界、財閥、メディアを牛耳る黒い霧、ヤミの世界についてよくぞここまで!こりゃ必見。
 ちなみに、2015年『キネマ旬報』3月下旬号によれば、本作は「2015年韓国映画界ヒットランキング30」で①『ベテラン』(15年)、②『暗殺』(15年)、③『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15年)、④『国際市場で逢いましょう』(14年)(『シネマルーム36』58頁参照)に続くベスト5に入り、観客動員数は2016年に入って900万人を突破した大ヒット作だそうだから、その意味でも必見!

<「裏金ファイル」を告発するこの男は、一体何者?>
 本作は洒落たスーツ、ネクタイをバッチリ決めた芸能事務所の社長(実は政治ゴロ)のアン・サング(イ・ビョンホン)が、大勢の記者会見に臨むシークエンスから始まる。アン・サングが発表、告発したのは、ミレ自動車のオ・ヒョンス会長(キム・ホンパ)が銀行から3000億ウォン(約300億円)を不正融資させ、そのうち300億ウォン(約30億円)を与党・新正党のチャン・ピル大統領候補(イ・ギョンヨン)の選挙資金に流用した、という「裏金ファイル」だ。もちろん、チャン・ピルは真っ向からこれを否定したが、もしこれが事実なら、チャン・ピルの政治的失脚は確実!しかし、なぜアン・サングのような「政治ゴロ」が、そんな「裏金ファイル」の発表を・・・?また、アン・サングはこんな記者会見をすることの意味(=危険性)を十分にわかっているの・・・?
 そんな疑問を持った記者の質問に対して、アン・サングはゆっくり自分の右手を示し、それを回し始めると、何とそれは義手。これは「裏金ファイル」を入手する過程でアン・サングが受けた大きな犠牲らしいが、一体誰がそんなことを?そこから本作のストーリーは2年前にさかのぼっていくことに。さあ、そこでうごめく人間模様は・・・?
 『甘い人生』(05年)に見る甘いマスクで女性を魅了する純愛ドラマから、『王になった男』(12年)に見る「韓国の歴史もの」や『グッド・バッド・ウィアード』(08年)に見るハリウッド進出映画、そして『メモリーズ 追憶の剣』(15年)に見る娯楽大作まで、何でもござれのイ・ビョンホンが、本作ではアン・サングという、本筋はシリアス、時としてユーモラスな特異なキャラクターを見事に演じている。猪突猛進している時のアン・サングは「所詮バカ!」と思ってしまうが、ラストからクライマックスにかけては、なかなかどうして真田信繁(幸村)以上の知恵者ぶりを見せるから(?)、そのキレモノぶりに注目!

<「三悪人」に見る政界、財閥、メディアの癒着ぶりは?>
 人間は各人の能力に応じた役割分担がある。その総和の結集によって何が成し遂げられるかは、現在視聴率が好調なNHK大河ドラマ『真田丸』における、真田信繁、真田信幸、真田昌幸という、親子3人の役割分担とその結束ぶりを見ればよくわかる。しかして、本作において、政界、財閥、メディアの各分野で見事な役割分担と結束ぶりを示しているのは、①与党・新正党の大統領候補の大物政治家チャン・ピル、②ミレ自動車会長のオ・ヒョンス、③祖国日報の論説主幹のイ・ガンヒ(ペク・ユンシク)の「三悪人」だ。
 チャン・ピルをオ・ヒョンスに紹介したのはイ・ガンヒ。チャン・ピルは元検事で民主化運動に参加したこともある、本来は正義感あふれる政治家だったらしいが、今の変身ぶりはそりゃモンスター級。そして、オ・ヒョンスはもっぱら金の世話を、イ・ガンヒはもっぱら裏方に徹していた。また、イ・ガンヒが「義兄弟」として信頼を寄せ、労働争議におけるストライキの妨害等の「汚れた仕事」を処理させていた「政治ゴロ」が、表は芸能事務所社長という肩書きを持つアン・サングだ。もっとも、この「三悪人」は決して国民に対して悪人ヅラは見せず、あくまで「国民のため」というポーズをとっていたが、その内実は・・・?
 本作はR-19指定されているが、それはこの「三悪人」がやっている、あるウラの生態(性態?)を生々しくスクリーン上で見せつけてくれるため。どの国でも、どの世界でも男たちの遊び、楽しみは酒、女、バクチと決まっているが、大勢の裸の女たちをはべらせての「三悪人」の韓国流の遊びはかなりアブノーマルだ。多分、日本人ではここまでやることはないだろうから、その実態はあなた自身の目でしっかりと。ちなみに、男なら誰でも「ドライバー」の飛距離は誇りたいものだが、さて女たちの性的サービスをたっぷり受けた上での、酒席における、あなたのドライバーのたくましさは・・・?

<高倉健ばり(?)の異色検事の意欲の源は?>
 日本の司法試験制度は公明正大だし、日本では裁判官、検事、弁護士になってからも学閥や地縁、血縁はそれほど大きなものではない。しかし、もともと格差が大きく民主化が遅れた韓国では、政界はもちろん、法曹界でも学閥や地縁、血縁が大きく幅を効かせるらしい。したがって、警察官から司法試験に合格して検事になったウ・ジャンフン(チョ・スンウ)は学歴、後ろ盾、コネなしだから、「便利屋」として使われるだけで、出世の糸口は全くつかめないらしい。
 今はソウル地検にいるウ・ジャンフンは、チャン・ピル議員と対立する大統領候補キム・ソグを支持する上司から、「裏金ファイル」の入手を命じられていたが、これに成功すれば最高検察庁入りも確実!『マラソン』(05年)での演技が印象的だったチョ・スンウ(『シネマルーム8』62頁参照)が、本作では『君よ憤怒の川を渉れ』(76年)(『シネマルーム18』100頁参照)で検事役を演じた高倉健ばりのマスク(?)と存在感、演技力でそんな検事役を熱演している。
 アン・サングの記者会見の2年前、ウ・ジャンフンはミレ自動車の元・財務部長ムンとの接触に成功し、「裏金ファイル」を入手する寸前にまで至っていたが、ある日そのムンをアン・サングにさらわれてしまうことに。そして、ムンを拷問してまんまと「裏金ファイル」を手に入れたアン・サングは、それを使えばさらなる成功を手に入れられると考え、密かにコピーを取り、兄貴分のイ・ガンヒに手渡したが、それがオ・ヒョンスにバレたため、アン・サングはオ・ヒョンスの部下のチョ常務によって右手を切り取られてしまったわけだ。
 このように、アン・サングとウ・ジャンフンは「裏金ファイル」争奪戦をめぐる敵同士だったが、2年後の今、アン・サングがあの記者会見を行った黒幕は一体誰?少なくともあの会見が「三悪人」の指示でないことだけは確かだが・・・。

<なぜ『インサイダーズ 内部者たち』という邦題に?>
 ラッセル・クロウとアル・パチーノが「インサイダー(内部告発者)」として共演し、たばこの有害性を訴えた社会派ドラマの最高峰が『インサイダー』(99年)だった(『シネマルーム1』46頁参照)。「インサイダー取引の禁止」は私が某上場企業の監査役に就任して以降、常々口をすっぱく言われていることだが、本作に『インサイダーズ 内部者たち』というタイトルがつけられているのは、一体なぜ?
 『真田丸』では現在、北条、徳川、上杉という3つの大大名の間で極小の真田一族が誰とどう手を組んで生き残るかという権謀術策ぶりが興味深く展開しているが、「裏金ファイル」を暴露することによって、圧倒的な力を持つチャン・ピル、イ・ガンヒ、オ・ヒョンスの「三悪人」の告発を目指したアン・サングが以降あれこれとヤバイ目に遭うことになったのは当然。そして、何とも意外なことに、本作後半からはそんなアン・サングの記者会見を仕組み、バックから応援したのが「昨日の敵は今日の友」とばかりにアン・サングと手を組んだウ・ジャンフン検事だったことが明らかになるので、それに注目!
 さらに、意外なことに(いや、当然なことに)、そんなアン・サングとウ・ジャンフンの連合(野合?)軍のもくろみは、オ・ヒョンスたちの(悪)知恵の前に脆くも崩壊してしまうことに。その結果、アン・サングは刑務所に収容され、ウ・ジャンフンはクビだけは免れたものの、地方に身を潜めることになってしまったから、アレレ・・・。これで映画が終わってしまえば、やっぱり世の中は「悪い奴ほどよく眠る」というくだらない結論になってしまう。しかも、スクリーン上ではそこで平身低頭し自分の非を詫びたウ・ジャンフンが、一転してオ・ヒョンスの忠実な部下になってしまうストーリーになっていくから、この日和見検事(?)のズル賢い生き方にヘドが出そうになってくる。
 ところが、そんなウ・ジャンフン検事の狙いが、ひょっとして「インサイダー」として三悪人の懐深く入り込み、その悪行を内部から暴くことにあったとしたら・・・?そして、アン・サングがその狙いに呼応しているとしたら・・・?さあ、そんな期待を込めながら、本作の怒涛の結末をしっかり楽しもう。
                                   2016(平成28)年3月16日記