洋16-34

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」
    

              2016(平成28)年3月12日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督・脚本:アダム・マッケイ
製作:ブラッド・ピット
原作:マイケル・ルイス『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(文春文庫)
マイケル・バーリ(金融トレーダー)/クリスチャン・ベール
マーク・バウム(ヘッジファンド・マネージャー)/スティーブ・カレル
ジャレド・ベネット(ウォール街の若き銀行家)/ライアン・ゴズリング
ベン・リカート(伝説の銀行家)/ブラッド・ピット
ジェイミー・シプリー(20代の投資家)/フィン・ウィットロック
チャーリー・ゲラー(20代の投資家)/ジョン・マガロ
2015年・アメリカ映画・130分
配給/東和ピクチャーズ

<脚色賞だけ!作品賞、監督賞、編集賞、助演男優賞は無理>
 本作は第88回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞、そしてクリスチャン・ベールが助演男優賞にノミネートされていたが、残念ながら受賞は脚色賞のみに。作品賞は『スポットライト 世紀のスクープ』(15年)、監督賞は『レヴェナント 蘇えりし者』(15年)のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、編集賞は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)(『シネマルーム36』232頁参照)のマーガレット・シクセル、そして助演男優賞は『ブリッジ・オブ・スパイ』(15年)のマーク・ライランスが受賞した。
 『スポットライト 世紀のスクープ』(15年)はまだ観ていないが、予告編を観ただけでも、「巨大な権力に屈せず、正義を貫いた新聞記者たちの闘いに世界が絶賛!実話から誕生した、衝撃と感動のドラマ」はメチャ面白そうだから、作品賞の受賞はある意味当然。本作は、全然聞き慣れないCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を中心とした業界用語の解説に多少の工夫は見られるものの、各種業界用語の連続と数字の連続に少しウンザリ。これでは、作品賞、監督賞はもとより、編集賞もちょっと無理・・・?
 また、助演男優賞は『ロッキー』シリーズの『クリード チャンプを継ぐ男』(15年)のシルベスター・スタローンの予想が強かったが、『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスの演技はそれ以上だったようだ。それに対して、本作におけるクリスチャン・ベール(の演技)は、ヘヴィメタルに熱中しながら、頭の中につまっている何千もの不動産抵当証券の事例を時々ホワイトボード上で分析し、サブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)が数年以内にデフォルト(債務不履行)を起こす可能性を数字として書いていくだけだから、面白くも何ともないから、クリスチャン・ベールの助演男優賞も所詮無理・・・?、

<4人の主人公の生きザマへの共鳴度は?>

 本作は、マイケル・ルイスの『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』を原作とした「経済モノ」。サブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)の問題点と、その破綻に端を発した2008年のリーマンショックを描くとともに、その中でCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の徹底的な活用によって大金を稼いだ4人の主人公の生きザマを描いたものだ。
 2月27日に観た『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』(14年)は、本作と同じくサブプライムローンの破綻によって夢のマイホームを奪われた平凡な男と、不動産を転がすことによって巨額の利益を得ている悪徳不動産業者の「師弟もの」として面白い映画だった。また、マイケル・ダグラスが主演した『ウォール街』(87年)も、それと同じような「経済もの」「師弟もの」としてメチャ面白い映画だった。それに対して本作は、実際に株の投資をしている私ですら絶対に手を出さない「空売り」のシステムの理解だけでも難しいのに、CDSというワケのわからない金融商品をある時期に限定して買いまくることによって、サブプライムローンが破綻する中、逆に巨額の利益を得るという「奥の手」を思いついた4人の主人公たちの生きザマを描くもの。したがって、その理解がメチャ難しいうえ、この4人の男たちの生きザマへの共鳴度が全然ない。
 『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』でも『ウォール街』でも、両極端な2人の主人公の生きザマへの共鳴度もしくは反感が顕著で、自分の生きザマと重ね合わせることができたが、本作の4人の主人公たちの生きザマは、私にはどこかの宇宙人の生きザマみたいにしか思えなかった。さて、あなたは・・・。

<4人の主人公たちの人物像もイマイチ・・・>
 マイクロソフトの創立者ビル・ゲイツやアップル社の創立者スティーブ・ジョブズをはじめとする(日本ではホリエモンこと堀江貴文)、現代のIT業界の風雲児たちの異端児ぶりは誰の目にも明らかだ。それと同じように、まずは本作に見る4人の主人公たちの異端児ぶりに注目!
 ①エキセントリックな投資家でヘヴィメタル愛好家のマイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)は、数字に生き、数字で呼吸しているような不思議な人物。②頭の切れるウォール街の若き銀行家ジャレド・ベネット(ライアン・ゴズリング)は、バーリの戦略を察知しCDSに大金を投じるべきだと主張するが、さてその真意は・・・?③短気なヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウム(スティーブ・カレル)はジャレドの提案に懐疑的で、独自の調査を進めるが、さてその成果は?そして、④金融大手としてウォール街に参入することを目論んでいる20代の若き投資家ジェイミー・シプリー(フィン・ウィットロック)とチャーリー・ゲラー(ジョン・マガロ)を支援するのが、今は第一線を退いている元銀行家のベン・リカート(ブラッド・ピット)だが、彼の狙いは?
 本作はそんな4人の主人公たちのCDSを軸としたウォール街への独自の挑戦を描いていくが、さてその戦略と戦術は・・・?私にはその内容がイマイチ理解できないため、4人の主人公たちの人物像もイマイチ・・・。

<金融緩和はどこまでOK?マイナス金利政策の是非は?>
 今年7月に予定されている参議院議員選挙に向けて、日本では新たに憲法改正問題を争点に加えるか否かが大きな焦点になっている。しかし、従来から想定されている最大の争点は、アベノミクスを巡る経済問題。とりわけ、2017年4月以降の10%への消費増税を予定(法定)どおり実施するのか否かが大きな争点だが、さて「リーマンショック」級の事件が起きれば・・・?
 「もし、クレオパトラの鼻がもう少し低かったら・・・」という「if」の話は面白いが、もし「サブプライムローンの破綻を予測できていれば・・・?」という「たら、れば」話は基本的に虚しい。地震、津波、火山噴火等の大災害を基本的に予知できないのと同じように、経済や金融、財政そして株の相場が、いつどのように破綻するのかは誰にもわからないわけだ。金融緩和、財政出動、成長戦略という「三本の矢」を掲げたアベノミクスは一時期絶好調だったが、2016年2月16日に日銀が「マイナス金利政策」を採用した後は、株の乱高下、急速な円高の進行等の不安定度を増している。これにはもちろん、原油安や中国の経済失速と株安、中東情勢の不安等の国際的な経済、政治、軍事問題が絡んでいるが、さて日銀が採用した「マイナス金利政策」の是非は?また、アメリカも日本も金融緩和をトコトン限界まで押し進め、ヨーロッパもそれに倣っているが、その是非は?
 サブプライムローンの破綻を予測し、そんな時こそCDSの買占めに走ることによってボロ儲けをした本作にみる4人の主人公たちなら、そんな現在の経済不安、金融、財政不安についてもしっかりした処方箋を持っているのかも・・・?もし、そうだとしたら今こそ彼らにワールドニュースの経済番組に登場し、万人が納得する解決策を示してもらいものだが・・・。
                                  2016(平成28)年3月16日記