日16-33

「家族はつらいよ」
    

                2016(平成28)年3月12日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:山田洋次
平田周造(父)/橋爪功
平田富子(母)/吉行和子
平田幸之助(周造の長男)/西村雅彦
平田史枝(幸之助の妻)/夏川結衣
金井成子(周造の長女)/中嶋朋子
金井泰蔵(成子の夫)/林家正蔵
平田庄太(周造の次男)/妻夫木聡
間宮憲子(庄太の彼女)/蒼井優
沼田(探偵事務所所長)/小林稔侍
かよ(小料理屋の女将)/風吹ジュン
平田謙一(幸之助の長男)/中村鷹之資
平田信介(幸之助の次男)/丸山歩夢
警備員/笹野高史
高村(創作教室の先生)/木場勝己
鰻屋の店員/徳永ゆうき
医師/笑福亭鶴瓶
2016年・日本映画・108分
配給/松竹

<『男はつらいよ』と『東京家族』が合体!>
 渥美清がフーテンの寅さんを演じた『男はつらいよ』シリーズは48作で終了し、西田敏行と三國連太郎が共演した『釣りバカ日誌』も22作で終了した。そんな中、老齢に鞭打って(?)、『東京家族』(13年)(『シネマルーム30』147頁参照)、『小さいおうち』(14年)(『シネマルーム32』161頁参照)、『母と暮せば』(15年)(『シネマルーム37』掲載予定)と、次々と「日本映画の良心、ここにあり!」と言える存在感を示してきた山田洋次監督が新たな企画に挑戦!
 それは、いわば『男はつらいよ』と『東京家族』の合体だ。『男はつらいよ』は国民的シリーズとなった心暖まる喜劇として山田映画の真髄だが、他方で山田洋次監督の生涯のテーマは家族。『東京家族』は言うまでもなく小津安二郎の『東京物語』(53年)にオマージュを捧げた映画だが、そこに登場させた 8名の家族はその一作だけで解散させるのはあまりにもったいないものだった。そこで老獪な山田洋次監督は、『男はつらいよ』と『東京家族』を合体させて、新たな『家族はつらいよ』と題する本作を!
 私が鑑賞した日の劇場は久しぶりに満席になっていたから、本作は大ヒットの予感がある。そうなれば、ひょっとして本作は、松竹のドル箱となる「新シリーズ」に・・・。

<8人家族の構成は?これは昭和のモデルだが・・・>
 『男はつらいよ』における、葛飾柴又で団子屋を営むおじちゃんこと寅次郎の叔父・竜造と、その隣で印刷会社「朝日印刷所」を営むタコ社長こと桂梅太郎という設定は昭和44年(1969年)に始まったシリーズ当初はピッタリ当てはまっていたが、21世紀も15年以上経った今日では、ほぼありえない設定。
 本作の家族構成は、合計8人。その中心は、長年サラリーマンを勤め上げた平田周造(橋爪功)とその妻・富子(吉行和子)夫婦で、彼らには3人の子供がいる。サラリーマンの長男・幸之助(西村雅彦)には、妻史枝(夏川結衣)と2人の子供がおり、周造、富子の家に同居中。夫の金井泰蔵(林家正蔵)に手伝ってもらいながら税理士をしている長女の金井成子(中嶋朋子)は、別世帯で生活中。ピアノの調律師をしている次男の庄太(妻夫木聡)は、今は独身で家族の「潤滑油」の役割を果たすべく両親の家で生活しているが、恋人の間宮憲子(蒼井優)との結婚を控え、近々マンションに引っ越す予定だ。
 憲子だけは今後家族になる予定だが、彼女を含めたこの8人家族の構成は『東京家族』と全く同じ。少子高齢化が急速に進む今の日本では3人の子供を育てることは難しく、この家族構成は高度経済成長時代の昭和のモデルだ。山田洋次監督はなぜあえてそんな家族構成で、平成の時代の今、新たに8人の家族が織り成す喜劇を・・・?

<物語の端緒は?想定できる結末は?>
 世界の喜劇王たるチャールズ・チャップリンの喜劇は、無声映画時代に始まったこともあって、ストーリーの他に、道化、ちょびひげ、山高帽等の服装や小道具を伴ったチャップリン自身の演技力、表現力が大きなウエイトを占めていた。それに対して、山田洋次監督流の喜劇では、かつては『バカ』シリーズのハナ肇、『男はつらいよ』シリーズの渥美清のように、俳優の表現力、演技力も大切だが、それ以上に誰にでもわかるシンプルながら心暖まるストーリーが大きなウェイトを占めている。『男はつらいよ』シリーズでは、マドンナの登場、失恋、事件の勃発、再度の旅立ちという展開が約束ゴトだから、ストーリーの展開は最初から安心して読むことができる。それは、きっと本作でも同じはずだ。
 本作の物語の端緒は、妻の富子の誕生日にプレゼントをするから「何か欲しいものはないか?」と質問したところ、「それなら離婚届に判を押して欲しい」と言われたこと。渡哲也と松坂慶子が共演したテレビドラマ『熟年離婚』(05年)と全く同じパターンだが、あの時代よりも熟年離婚が増えている今、より多くの観客の興味をひく物語の端緒だ。
 そんな導入部の後、本作は両親の離婚問題をめぐって平田家の8人家族が織り成す群像劇になるが、そのハイライトは「家族会議」。そこでは、良くも悪くも家族1人1人の本音が出てくるから、平田家の8人家族がホンモノかどうかが問われることになるが、さて、その実態は?もっとも、離婚届をめぐる最後の結末はハッピーエンドに決まっているから、8人家族の動きをハラハラドキドキの気持ちで見守りながらも、心のどこかに安心感が・・・。

<事件勃発!それを契機とした各自の本音とは?>
 弁護士を40年もやっているといろいろな事件に出くわすから、少々のことでは驚かない。しかし、両親の離婚をめぐる相談のためにわざわざ集合した「家族会議」の場で、あらぬ「浮気の疑い」をかけられたことに激怒した周造が、突然その場で倒れてしまったら、そりゃ大変。あの歳になっても、かよ(風吹ジュン)が経営する行きつけの小料理屋で周造が飲んでいる量は相当なものだから、こりゃてっきり脳卒中か脳梗塞。たまたま、看護師の憲子がいたから、応急処置が手際よくなされ、救急車を呼ぶのも早かったが、お葬式の準備もしておかなくちゃ・・・。子供たち(の1部)がそう考えたのもやむをえないが、さて周造の浮気騒動の実態は?
 本作はスリラーでもサスペンスでもないから、山田洋次監督は観客にすべてのネタをバラしてくれている。したがって観客には、変な探偵、沼田(小林稔侍)を雇って周造の浮気調査をしてもらったことによって得られた結果を鵜呑みにしている長女の夫・泰蔵のバカさ加減がよくわかるが、泰蔵やその妻の成子、そして長男の幸之助たちにしてみればそれぞれ真剣だ。そりゃ、誰だってICレコーダーに録音されている、周造がかよに投げかけた「愛しているよ」の言葉を聞き、周造がかよの手を握っている写真を見れば、これを「いきつけの上客と美人女将との浮気」と理解するのは当然だ。こういうストーリーテイキングは、48作もの『男はつらいよ』シリーズの中で寅さんが引き起こすさまざまな事件を取り扱ってきた山田洋次監督の得意中の得意だから、とにかく観客は面白おかしくそのドタバタ劇を楽しむことができる。
 弁護士が目にするそんな時の風景は相続をめぐる財産問題が多いが、周造が突然倒れるという事件が勃発した後に、山田監督が描く8人の家族各自の本音とは・・・?

<熟慮の末の夫の決断は?それを聞いた妻の対応は?>
 亭主関白を自認している私ですら、家に帰り部屋に入るや否やズボンや靴下を脱ぎ散らかし、それを1つ1つ妻が片づけている周造、富子夫婦の姿を見ると、周造の亭主関白ぶりがいかにすごいかよくわかる。また、週に1度や2度くらい、かよの店で酒を飲みおいしいものを食べるのもいいが、せめて「帰るコール」くらいするのが当然。夫の帰りを待っている妻のことを考えれば、それくらいの「思いやり」は当然だから、私ですらそれくらいのことはやっている。周造はしきりにサラリーマンとして何十年間も懸命に働き、嫌な上司にも逆らわず、辛い単身赴任にも耐えて今日まで子供たちを育て家族を守ってきた、と主張し、そんな俺が今頃になってなぜ妻から離婚したいなどと言われなければならないのかと主張。つまり、周造は富子の気持ちなど全く理解できていなかったわけだ。
 しかし、物語が進行していく中で、周造もバカではないから、いろいろと熟慮に熟慮を重ねたらしい。あの家族会議の後の大騒動は全くのハプニングだったが、周造が脳溢血や脳梗塞にも至らず、すぐに退院できたのはホントにラッキー。もっとも、医師(笑福亭鶴瓶)から「酒は厳禁でっせ!」と言われていたが、周造にはそれを守る気はさらさらなさそうだ。そんな周造だが、本作のラストでは「お前の言うこともわかった。離婚をOKしよう。これまでいろいろありがとう」という言葉が率直に出てきたので、私もビックリ!昭和の時代を生き抜いてきた70代の男には、なかなかそれが言えないわけだ。しかして、そんな周造の言葉を聞いた富子の対応は?
 本作の結末は少しあっけなさが目立つが、山田流喜劇はいくら『家族はつらいよ』というタイトルでもこういう結末になることは最初からわかっていること。橋爪功と吉行和子の芸達者ぶりを確認しながら、そんなハッピーエンドをみんなで祝福したい。
                                  2016(平成28)年3月16日記