洋16-32

「見えない目撃者(我是証人/The Witness)」
 
                                              

                  2016(平成28)年3月11日鑑賞<ギャガ試写室>

監督:アン・サンフン
路小星(ルー・シャオシン)(警察学校の研修生)/杨幂(ヤン・ミー)
林冲(リン・チョン)(北京の若者、証言者)/鹿晗(ルハン)
鲁力(ルー・リー)(ベテラン刑事)/王景春(ワン・ジンチュン)
唐峥(タン・ジェン)(元整形外科医、事件の容疑者)/朱亚文(チュー・ヤーウェン)
梁聡(リャン・ツォン)(ミュージシャンを目指す路小星の弟)/劉芮麟(リウ・ルイリン)
2015年・中国、韓国合作映画・112分
配給/ギャガ・プラス

<同じ韓国人監督が、韓国版から中国版へ!>
 2011年に韓国で公開された韓国人のアン・サンフン監督による韓国映画『ブラインド』(11年)は、R-18指定ながらも236万人の観客を動員し、主演したキム・ハヌルが第48回大鐘賞映画祭で最優秀主演女優賞を受賞した。『ブラインド』というタイトルからわかるとおり、同作は盲目のヒロインがある事件の目撃者になるという、およそありえない発想でオリジナルな物語を創り出したもので、脚本のチェ・ミンソクが最優秀シナリオ賞を受賞したのも当然。
 私がひいきにしている杉野希妃をはじめとして、近時は日本の監督や俳優もアジアの才能を結集した映画に参加しているが、本作はその『ブラインド』の“中国バージョンアップ版”。私としては、アン・サンフン監督が中国と組むより、日本と組んでほしかったが、近時の日韓関係の悪化ぶりと韓中の親密ぶり(?)を見れば、アン・サンフン監督が中国(資本)と組んだのもやむをえない・・・?“日本バージョンアップ版”なら、主演女優候補として例えば仲間由紀恵、北川景子、堀北真希、上戸彩等が思い浮かぶが、中国バージョンアップ版でアン・サンフン監督がヒロイン路小星(ルー・シャオシン)役に選んだのは、新世代の四大若手女優“四小花旦”の一人である楊冪(ヤン・ミー)。中国の「ドラマの女王」として君臨している楊冪(ヤン・ミー)を見るのは本作がはじめてだが、彼女も2005年に北京電影学院を卒業しているから、その演技力の確かさは折り紙付きだ。盲人は、視覚のない分を補うため、触覚、聴覚、嗅覚等の感覚が健常者より鋭くなるそうだが、さて唐峥(タン・ジェン)(朱亚文(チュー・ヤーウェン))が運転するタクシー(?)に客として乗った時に否応なく体験させられた交通事故(ひき逃げ事故?)について、シャオシンの「見えない目撃者」としての証言能力のレベルは?

<いくらなんでも、こりゃやりすぎ!>
 しっかり者の姉に対して、遊び人の弟。そんなケースは世の中に多い。もっとも、その逆もあり、その典型が『男はつらいよ』シリーズに見る、渥美清演じる、頼りない兄、フーテンの寅さんこと車寅次郎と倍賞千恵子演じる妹、さくらだ。
 本作冒頭はしっかり者で警察学校の警察官候補生の姉シャオシンと、学校へも行かず学費も楽器の購入にあてて仲間とのバンド活動に精を出している弟の梁聡(リャン・ツォン)(劉芮麟(リウ・ルイリン))との「対決」シーンから始まる。僕は遊んでいるんじゃない!バンドのメジャーデビューを目指しているんだ!そんなツォンの訴えを無視したシャオシンは、自慢の(?)柔道のワザでツォンを投げ飛ばしてパトカーの中に入れ、車に手錠でつないだ状態で連れ戻そうとしたが、ここまでやるのはいかがなもの・・・?
 こうなりゃ、ツォンにも意地がある。何が何でも脱出しようとしたツォンは「車を止めろ、止めなければ・・・」と言うや否や、アクセルを踏みハンドルまで動かそうとしたから、シャオシンの車は大混乱。道路上を暴走したあげく、ガードレールにぶち当たり、シャオシンは運転席から投げ出されたうえ、車は今にもガードレールから下に転落しそうになったから大変だ。手錠のため車から脱出できないツォンは必死にシャオシンに助けを求めたが、意識朦朧状態の中で必死に身体を動かそうとしてもシャオシンの身体は自由にならなかったため車は転落し、ツォンは命を落としてしまうことに・・・。そのうえ、この事故によってシャオシンは失明したばかりか、警察学校もクビになってしまい、今は失意の中、心に痛みを抱えたまま、暗闇の中で生きる状態に・・・。
 本作の状況設定はこれにて十分明らかだが、いくらしっかり者の姉と遊び人の弟とはいえ、いくらなんでも、こりゃやりすぎ!

<にわか雨、タクシー、順番待ち。そこから物語が・・・>
 日本でもにわか雨が降るとタクシーを拾うのに一苦労するが、日本とは比べものにならないほどタクシー料金が安い中国では、その大変さも比べものにならない。しかも、日本と違って中国では、ちゃんと並んで順番待ちをするという習慣(マナー)に乏しいから、待っている客同士のケンカは起こるし、目の不自由なシャオシンを優先させてあげようなどという思いやりのある客は誰一人としていない。そのため、とうとうシャオシンは順番待ち(?)の最後の一人になってしまったが、それでもやっとタクシーがやってきたから、よかったよかった。しかも、このタクシーの運転手は、後部座席に座ったシャオシンに対して「コーヒーはどう?」と言って紙パックのコーヒーを手渡してくれるほど親切だったから、さらによかったよかった・・・。
 そう思っていると、運転手が後部のシャオシンに気を取られよそ見運転をしたため突然急ブレーキをかけたが、傘をさした女性をはね飛ばして停まったから大変。もっとも、目の見えないシャオシンには一瞬何が起こったかサッパリわからなかったのは当然だ。そんなシャオシンに対して運転手は「犬をはねてしまっただけ」とシャオシンに対して説明していたが、さてそれはホント?もちろん、私たち観客はこの交通事故の一部始終を目撃しているが、シャオシンはまさに邦題どおり「見えない目撃者」。それを良いことに、運転手は負傷した女性をトランクの中に入れて事故現場を離れてしまったが、目の見えないシャオシンでもこれは明らかに人身事故だと判断できるものだったことはまちがいない。
 そのため、シャオシンは「目撃者」として警察に情報を提供したが、シャオシンが盲人であることを知った警察官が聞く耳を持たなかったのは仕方ない。しかし、シャオシンから「あなたの年齢は35歳くらい」「身長は175cmくらい」「あなたは右ひざが悪いでしょう。それは歩く音でわかる」等の的確な指摘を受けたベテラン刑事の鲁力(ルー・リー)((王景春(ワン・ジンチュン))は、シャオシンの「見えない目撃者」としての証言能力の鋭さ、確かさに興味を示したから、以降犯人捜しは順調に進みそう・・・。

<別の目撃証人が登場!その証言はより具体的だが・・・>
 本作のストーリーが面白いのは、もう一人の目撃者としていかにも遊び人風の若い男、林冲(リン・チョン)(鹿晗(ルハン))が警察に出頭し、「あの車はタクシーではない。外車だ。車種はゴルフ6だ」と、より具体的な証言をしてきたこと。しかし、これはシャオシンの証言と真っ向から対立するうえ、「犯人の身長は180cmから183cm」「右手に時計をしていたから左利き」「タクシーは皮張りの高級車」というシャオシンの的確な証言(?)によって、今や「見えない目撃者」の証言の正確性を全面的に信頼しているルー刑事の目には、リン・チョンの情報は懸賞金目当てのデタラメなものとしか見えなかった。
 このリン・チョンを演ずるルハンは韓国人の俳優兼歌手で、新世代のアーティストとしてものすごい人気を誇っているらしい。張藝謀(チャン・イーモウ)監督がマット・デイモンを主演に迎える最新作『長城(The Great Wall)』(16年)にも出演するそうだから、すごい。そんなルハン演ずるリン・チョンは警察(ルー刑事)の想定外の対応にふてくされながら、再度現場に赴き自分の証言内容を確認したが、その時突然あの犯人から襲われたから、その後のストーリーは俄然サスペンス色とミステリー色を強めていくことに。

<女子大生連続失踪事件と関連が?スリラー色満載に!>
 シャオシンが巻き込まれたタクシーの人身事故と時を同じくして、韓国では女子大生連続失踪事件が連日ニュースになっていた。そこでシャオシンが思い出したのは、雨の中でタクシー待ちをしていた女性の1人が、「アプリで連絡したのに・・・」と何やら不満気にスマホで連絡を取りながらタクシーに乗り込んでいたこと。また、そういえば自分を乗せた車も偶然通りがかったタクシーではなく、待ち合わせの車だったような気が・・・。さらに、いくら親切な運転手でもタクシーの運転手が客にコーヒーを渡すことはありえないのでは?ひょっとして、あの時感じた変な臭いは、コーヒーに混入させた麻酔薬の臭い・・・?
 世の中を震撼させた猟奇誘拐事件をテーマにした映画は、『コレクター』(65年)等たくさんある。そしてそんな映画では、なぜ犯人がそんな行動に走るのかという心理分析が大きなウエイトを占めることになる。しかして、本作後半はそんな視点から、シャオシンがタクシー運転手と思い込んでいた男タン・ジェンが少しずつその素顔と本性を見せながら登場するので、そのキャラクターに注目!ちなみに、シャオシンはかわいい弟を自分のミスによって失ってしまったが、本業は整形外科医であるタン・ジェンもある事件でかわいい妹を失うというつらい経験を。もちろん、そうだからといって次々と女子大生を誘拐してもいいわけではないが・・・。

<この犠牲、あの犠牲を経ての犯人逮捕は?>
 本作の原題は『我是証人』。これは、「私が証人です」という意味。したがって、「見えない目撃者」としてのシャオシンと、嫌味のようにシャオシンとルー刑事に対して「百聞は一見に如かずですよ」と言いながら、「あの車はタクシーではない。外車だ。ゴルフ6だ。」と具体的な証言をするリン・チョンの、どちらの証言が信用できるのかをめぐる本作中盤の展開は非常に面白い。そして、予想外(?)にシャオシンの証言がまちがいで、リン・チョンの証言が正しかったことが明らかになるにつれて、ゴルフ6を運転している男タン・ジェンの本性が少しずつ明らかにされ、後半からクライマックスにかけての犯人逮捕劇へと展開していくのでそれに注目!
 私が意外だったのは、この犯人逮捕に向けた追及劇の中で、一歩も二歩も先の手を読んでいるタン・ジェンの持つメスによって、その本拠地に乗り込んだルー刑事が刺されてしまうこと。さらに、シャオシンの危機を救うべく現地に駆けつけたリン・チョンも、あえなくタン・ジェンのメスで刺されてしまうことに。こうなると、目が見えないハンディキャップを持つシャオシンはタン・ジェンから逃げるのが大変だが、スクリーン上では『暗くなるまで待って』(67年)で盲人に扮したオードリー・ヘプバーンが見せた、盲人特有の抵抗力と同じように、シャオシンも体を張ってよく頑張るので、それを応援したい。
 そんな中で、無事ハッピーエンドを迎えることができたのはめでたしめでたしだが、さあ、そこにルー刑事やリン・チョンは(再)登場するの?そこらあたりには少し詰めの甘さ(?)を感じるが、まあハラハラドキドキの「見えない目撃者」のラストはこんな甘ったるいハッピーエンドでいいのかも・・・。
                                  2016(平成28)年3月17日記