洋16-31

「ROOM」
    

                     2016(平成28)年3月11日鑑賞<ギャガ試写室>

監督:レニー・アブラハムソン
脚本・原作:エマ・ドナヒュー『部屋(上・下)』(講談社刊)
ジョイ・ニューサム(ママ)/ブリー・ラーソン
ジャック(ジョイの5歳の息子)/ジェイコブ・トレンブレイ
ナンシー・ニューサム(ばあば、ジョイの母)/ジョアン・アレン
ロバート・ニューサム(じいじ、ジョイの父)/ウィリアム・H・メイシー
オールド・ニック(監禁している男)/ショーン・ブリジャース
レオ(ばあばの新しいパートナー)/トム・マッカムス
ミッタル医師/キャス・アンヴァー
パーカー(女性警察官)/アマンダ・ブルジェル
グラボースキー(男性警察官)/ジョー・ピングー
2015年・アイルランド、カナダ映画・118分
配給/ギャガ

<7年間も小さな部屋の中で・・・>
 英題も邦題も『ROOM』と題された本作は、文字通り小さな部屋の中に7年間も監禁された女性ジョイ・ニューサム(ブリー・ラーソン)と、その部屋の中で育ち、今は5歳になった息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)の生活ぶりとその脱出、そして2人の新たな旅立ちの姿を描くもの。原作はエマ・ドナヒューの『部屋(上・下)』(11年)だが、その原作者が映画用の脚本も書いて第88回アカデミー賞の脚色賞にノミネートされたというからすごい。
 超高層マンションに住み、ほとんど地面のある下界(?)に降りないまま生活する人々の肉体的、精神的な影響を調査した研究があるそうだが、生まれてから5歳になるまで「部屋」しか知らず、一切外の世界に触れたことのないジャックの肉体的、精神的育ち具合は?食事、水、トイレ、風呂等の最低限のことはママを監禁した男オールド・ニック(ショーン・ブリジャース)が世話しているようだから、最低限の生存条件は満たしている。しかし、これが日本国憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」と言えないことは明らかだ。ちなみに、テレビは自由に観れるようだが、5歳のジャックにとって、テレビ画面上で見るさまざまな世界は一体ナニ?ママから聞いているとおり、これはすべて「嘘の世界」と信じ込んでいたが、これから成長していけば一体どうなるの?
 まずは、そんな原作のユニークさに驚くとともに、それを映画化するにあたってアイルランド、ダブリン生まれの新鋭レニー・アブラハムソン監督がその世界観をどのように表現、アピールするのか、興味津々だ。

<アカデミー賞主演女優賞おめでとう!>
 本作は第88回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされたからすごい。そのうえ、ブリー・ラーソンは第73回ゴールデン・グローブ賞の主演女優賞ゲットに続いて、アカデミー賞でも見事主演女優賞をゲットしたから、さらにすごい。
 本作導入部は、「ROOM」の中でジャックが電気スタンドや洗面台、トイレ等々に「おはよう」と挨拶し、歯磨き、ストレッチ、壁から壁への駆けっこ等の毎朝のルーティンをゲームのように楽しくこなすジャックの姿を映しだす。そして、今日はジャックの5歳の誕生日だから、ママがケーキを焼いてくれた。ところが、そのケーキにテレビで見たような火のついたろうそくがないのを見てジャックがすねて怒り出したから、さあ大変。なるほど、この部屋の中での生活は憲法25条を満たしていないうえ、5本のろうそくにも不足しているし、窓だって天窓1つしかないわけだ。
 本作導入部では、一見ジョディ・フォスターの若い頃にそっくり(?)のブリー・ラーソンが演じる、そんな劣悪な環境下でのママの奮闘ぶりが描かれるから、それに注目!

<5歳のジャックの世界観に大変革が・・・>
 世界ではじめて「地動説」を唱えたガリレオ・ガリレイが異端視され迫害された挙句、宗教裁判にかけられたのは大いなる悲劇だが、「地動説」は、それまで誰もが信じていた「天動説」に対する反逆、冒涜だから、やむをえない面もある。「もっと栄養を!」の訴えに対して、オールド・ニックは「目下失業中だ!」「金がない!」と逆切れされてしまったから、ママは困惑気味。その翌日には部屋の電気が切られたため、ママとジャックは寒さに震えながら生活せざるをえなくなったから、2人は飢えと寒さに苦しむ北朝鮮の国民と同じような状態だ。
 そんな中、ママはこの部屋が全世界だと信じているジャックに対して、外には本物の広い世界があることを話そうと決意し、説明を始めたが、それを聞いたジャックの頭の中は大混乱に・・・。ジャックにしてみれば、これは突然「天動説」から「地動説」に切り替えろと言われたに等しい「コペルニクス的転換」だから、その混乱は当然。しかして、ジャックの世界観の大変革は大丈夫?

<「大脱走」ならぬ「モンテ・クリスト伯」脱出計画とは?>
 こんな「ROOM」だけの生活から一日も早く脱出したい。ママは7年間ずっとそう願ってきたが、一体どうすれば用心深いオールド・ニックの魔の手から逃れることができるの?これまでママはそれ以上の思考が進まなかったが、テレビを見ながら「カメは本物?これは?」と次々と質問を浴びせ、オールド・ニックをやっつけようと持ちかけてくるジャックの姿や、急に外の世界に興味を持ち始めたジャックの姿に勇気を得たママの頭の中には今、新たな脱出計画が・・・。
 スティーブ・マックイーンら大勢のハリウッドスターが共演した『大脱走』(63年)はトンネル掘り作戦だったが、ママが「モンテ・クリスト伯」からヒントを得て思いついたのは、ジャックに死んだふりをさせてオールド・ニックによって外に運び出させる計画だ。用心深いオールド・ニックを騙すため、まずは熱いお湯でジャックの身体や頭をほてらせて、ジャックが重病状態にあることをオールド・ニックに確認させたうえ、次はその「死体」をカーペットに包んで「ROOM」の外に出させる計画だ。しかし、そんなチャチな計画でホントにうまくいくの?誰もがそう思うはずだが、その不十分さを補うのが、ゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞で主演女優賞を受けたブリー・ラーソンの演技力!
 カーペットに包まれたジャックの「死体」が狙いどおりにオールド・ニックの車の荷台に載せられ、ママとの打ち合わせどおり車のスピードが弱まったところでジャックは荷台から脱出しようとしたが、さてその成否は・・・?5歳のジャックが必死に遂行しようとする、手に汗を握るこの「モンテ・クリスト伯」脱出計画実行のサマは、あなた自身の目でしっかりと。

<本物の世界は?ママの救出は?>
 本作では、全編にわたってゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞の主演女優賞をゲットしたブリー・ラーソンの演技力が際立っているのは当然だが、導入部で見せるルーティン活動から世界観の「コペルニクス的転換」へ、そして「モンテ・クリスト伯」脱出計画の実行へと至る、ジャックを演じる天才子役ジェイコブ・トレンブレイの演技力もすごい。ジャックの脱出劇の成功については、女性警察官パーカー(アマンダ・ブルジェル)が大きな役割を果たしたが、ママとオールド・ニック以外の人間はすべてテレビ画面に出てくるウソの世界のはずだから、ジャックにとってはこの女性警察官もいわば宇宙人みたいなもの・・・?そんなギャップの中でジャックがちゃんと自分の名前とママの名前を述べ、自分たちの「ROOM」の所在についての重要な情報をきちんと提供できたのは、とても5歳児とは思えない才覚だ。スクリーン上ではそんなジャックからの情報をもとに「ROOM」の所在をつきとめた警察の手によって、無事ママが救出されるシーンが展開していくから、それに注目。
 翌日、明るい病院のベッドの上でママとジャックは目覚めたから、これにて2人は万々歳。ジャックははじめて見る外の世界に驚きかつとまどいつつ、ママの応援のもとで新しい本物の世界に少しずつ順応していくことに・・・。

<本物の世界も意外に大変!母子の再生は?>
 病院にいるママとジャックを、「じいじ」ことロバート・ニューサム(ウィリアム・H・メイシー)と「ばあば」ことナンシー・ニューサム(ジョアン・アレン)の2人が訪れ、涙にくれたところで終われば、「監禁もの」の本作はハッピーエンドでおしまいになるが、何の何の・・・。本作後半の「母子の再生」のストーリーはここから始まるから、新たに気合いを入れ直しながらスクリーンを注視したい。
 今は、じいじとは別の男性・レオ(トム・マッカムス)と再婚しているばあばの下で新たな生活をスタートさせたママとジャックを襲ったのは、マスコミ。彼らの関心は、7年間の監禁生活の中でジャックが5歳になっていることを考えれば、ジャックの父親はママを監禁したオールド・ニック?すると、その性行為はレイプ?それとも合意?そんな質問に対してママは「ニックはジャックの親ではなく、親は私だけ」と答えたが、それに納得しないマスコミは「生物学的には父親はニックでしょう?」「なぜジャックだけでもニックに渡し、普通の生活をさせなかったの?」「ジャックを手元においたのは母親のエゴでは?」とまで追及してきたから、ママは大変だ。ママにとってもジャックにとっても、本物の世界におけるこんなマスコミ攻勢は到底耐えられるものではなかった。
 その結果、ママは浴室の中で大量の睡眠薬を飲んで自殺しようとまでしたから、ここまでくると、あの「モンテ・クリスト伯」脱出計画はホントに良かったの?そんな風にまで思えてくる。さあ、本作後半が描く、そんな本物の世界におけるママとジャックの再生とは・・・?それは、あなた自身の目でしっかりと。
                                  2016(平成28)年3月17日記