洋16-30 (ショーコメント)

「ディバイナー 戦禍に光を求めて」
    

                   2016(平成28)年3月9日鑑賞<シネ・リーブル梅田>
監督:ラッセル・クロウ
ジョシュア・コナー(オーストラリア人の農夫)/ラッセル・クロウ
アイシェ(イスタンブールで宿を営む女性)/オルガ・キュリレンコ
シリル・ヒューズ中佐(「ガリボリの戦い」後、墓地の建設をしたトルコの軍人)/ジェイ・コートニー
ハーサン少佐(トルコの英雄)/イルマズ・アルドアン
/セム・イルマズ
/ライアン・コア
/ジェームズ・フレイザー
/ベン・オトゥール
/イザベル・ルーカス
2014年・オーストラリア、アメリカ、トルコ映画・111分
配給/東京テアトル

◆オーストラリア生まれのニコール・キッドマンがオーストラリアを代表するハリウッドの大女優なら、ニュージーランド生まれでオーストラリアに移住した経歴のあるラッセル・クロウもオーストラリアを代表するハリウッドの大俳優。また、ニコール・キッドマンが『めぐりあう時間たち』(02年)(『シネマルーム3』88頁参照)でアカデミー賞主演女優賞なら、ラッセル・クロウは『グラディエーター』(00年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞。さらに、ニコール・キッドマンが『誘う女』(95年)、『コールドマウンテン』(03年)(『シネマルーム4』139頁参照)、『めぐりあう時間たち』でゴールデングローブ賞主演女優賞なら、ラッセル・クロウは『ビューティフル・マインド』(01年)(『シネマルーム2』40頁参照)でゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞している。たまたま本日は、オーストラリアとハリウッドを代表するニコール・キッドマンの『虹蛇と眠る女』(15年)に続いて、同じくオーストラリアとハリウッドを代表するラッセル・クロウが主演する本作を鑑賞。

◆本作は第1次世界大戦における「ガリポリの戦い」とその後の主人公ジョシュア・コナー(ラッセル・クロウ)の再生をテーマとした映画だが、さて「ガリボリの戦い」って何?これは「オーストラリアの歴史における重要な出来事」だそうだが、日本人には全くなじみのないもの。ラッセル・クロウはリドリー・スコット監督とのコンビが目立つが、そこで学んだ演出の冴えを活かすべく、本作で監督初作品に挑戦!本作はオーストラリア版のアカデミー賞で作品賞など3部門を受賞しているが、さて日本での評価は?

◆『西部戦線異状なし』(30年)は、第1次世界大戦の「塹壕戦」の悲惨さを描いた最高傑作だが、『ロング・エンゲージメント』(04年)(『シネマルーム7』280頁参照)や『戦火の馬』(11年)(『シネマルーム28』98頁参照)でもその悲惨さが描かれていた。オーストラリアが第1次世界大戦の連合国軍の一員として参加した1919年の「ガリポリの戦い」は、連合国軍がオスマン帝国の首都イスタンブールを占領するために行ったガリボリ半島への上陸作戦。それは、陸・海・空すべての軍を投入し大規模に展開された世界で初めての上陸作戦だったそうだ。
 1944年6月6日の「ノルマンディ上陸作戦」の規模の大きさやその位置関係、勢力関係は『史上最大の作戦』(62年)や『プライベート・ライアン』(98年)等で明らかだが、ガリポリ半島って一体どこにあるの?また、その時の勢力関係は?
 「ガリポリの戦い」における戦死者は13万人以上。『明治天皇と日露大戦争』(57年)や『二百三高地』(80年)で描かれた日露戦争における「二百三高地の戦い」の悲惨さは日本人なら誰でも知っているが、そこでの戦死者は日本軍5052名、ロシア軍5380名というから、「ガリポリの戦い」の戦死者の多さが際立っている。

◆「203高地」の戦いで「第三軍」の司令官を務めた乃木希典大将は、長男・勝典と次男・保典を共に戦死させたが、ジョシュアが愛する3人の息子アーサー、ヘンリー、エドワードもそろって「ガリポリの戦い」に参加し、そこで戦死したらしい。乃木大将の場合は2人の息子の死を「当然のこと」と受け止めたが、さてジョシュアとその妻は・・・?
 映画冒頭、心の傷が癒えないまま妻が自殺してしまうシーンが登場するが、それを契機として、ジョシュアは「妻との約束」を果たすべく、オーストラリアから「ガリポリの戦い」の戦場跡を訪ね、3人の息子たちの遺骨をオーストラリアに持ち帰り、母国の大地に葬ろうと決心したが、さてその前途は?

◆ジョシュアは一路ガリポリ戦場跡を目指したが、映画は途中イスタンブールの宿を経営する美女アイシェ(オルガ・キュリレンコ)とその息子がジョシュアに関わってくる物語を映しだしていく。そのため、妻を亡くした直後の傷心の旅の中、果たしてジョシュアとアイシェとのロマンスが芽生えていくの?
 そういう伏線がミエミエになるが、アイシェの方も軍人だった夫の死をなかなか受け入れられないようだから、その前途は未定。しかし、結末はきっと・・・?

◆もっとも、それはあくまでサブストーリーで、本作のメインは、ガリポリの戦場跡で墓地の建設に邁進しているトルコ軍人シリル・ヒューズ中佐(ジェイ・コートニー)と、「ガリポリの戦い」でオーストラリア軍をさんざん苦しめ、結果的にジョシュアの3人の息子たちを殺す役割を果たしたハーサン少佐(イルマズ・アルドアン)がジョシュアの前に登場し、遺骨探しに協力していくストーリーになる。息子の遺骨を探すため、ここまでしつこく居座る奴はいない。ジョシュアの行動を見てそんな風に感心していくハーサン少佐とジョシュアとの間にはいつしか友情の絆も・・・。
 そんな状況下、トルコには新たな敵が次々と現れ、1922~23年の「トルコ革命」までトルコは苦難の道を歩むわけだが、スクリーン上では今にも殺害されそうになるハーサン少佐をジョシュアが助け共に戦うシークエンスも登場するから、それに注目!もっとも、「ガリポリの戦い」から4年が経過したあの時代のトルコの情勢は本作からはなかなかわからないから、多少イライラ感も・・・。

◆本作はラッセル・クロウが母国オーストラリアを代表する形で主演した(?)、彼の初監督作品だから、すべてのストーリーがジョシュアを中心に回るのは、ある意味当然。しかし、本作冒頭、自分の勘だけで見事に水脈を探り当てるシーンを示したからといって、戦場跡に立ったジョシュアが勘だけで息子たちの戦死した場所を特定するシークエンスはあまりにも神がかり的で不自然。また、命からがらハーサン少佐と共に逃走する中で、ある町に入ったジョシュアが突然「息子はこの町にいる」と宣言し、「アーサー!」と呼びかけながらある建物の中に入るとそこにアーサーが立っているシーンもあまりに不自然。これは「あるもの」がヒントになったためだが、いくら何でもこれも神がかり的すぎるのでは・・・?ここまでやるのなら、未亡人のアイシェにちょっかいを出している、いとこの男との「アイシェ獲得競争」だって、きっとジョシュアが勝つに決まっている。
 ちなみに、キネマ旬報3月下旬号の「REVIEW 鑑賞ガイド」では、本作について『虹蛇と眠る女』と同じように、3人の評論家の評価は星2つ、2つ、3つと低い。とりわけ、平田裕介氏は「彼の監督&主演だからしかたないが、“俺の映画、ディバイナー”とでもいうべきプロモーション・フィルムと化している。これで演出が冴えていたら観られるが、とにかくベタベタ。名称巨匠と仕事してきたからといって、彼らのように撮れるわけではないのだと教わった。」とボロクソだが、さてあなたの評価は・・・?
                                  2015(平成27)年3月11日記