洋16-18

「愛しき人生のつくりかた」
    

                  2016(平成28)年2月3日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本:ジャン=ポール・ルーヴ
原作・共同脚本:ダヴィド・フェンキノス
ミシェル(ロマンの父)/ミシェル・ブラン
マドレーヌ(ロマンの祖母)/アニー・コルディ
ロマン(マドレーヌの孫)/マチュー・スピノジ
ナタリー(ロマンの母)/シャンタル・ロビー
カリム(ロマンの同居人)/ウィリアム・レブギル
ルイーズ(小学校教師、ロマンの恋人)/フロール・ボナヴェンチュラ
老人ホームのマネージャー/オドレイ・ラミー
フィリップ(ホテルの主人)/ジャン=ポール・ルーヴ
2014年・フランス映画・93分
配給/アルバトロス・フィルム

<孫が祖父の葬儀で墓地をまちがえるなんて!>
 少子高齢化が映画にも反映されているためか、最近お葬式や埋葬シーンから始まる映画が多い。フランスのモンマルトル墓地は19世紀に開設されたパリの代表的な墓地のひとつで、その広大な敷地には作家スタンダール、作曲家ベルリオーズ、画家ドガ、詩人ハイネ、バレエダンサーのニジンスキー、映画監督フランソワ・トリュフォーら多くの著名人が眠っているそうだ。今、その墓地に埋葬されようとしているのは、マドレーヌ(アニー・コルディ)が長年連れ添ってきた夫。マドレーヌには3人の息子がいたが、今日の埋葬を仕切るのは長男のミシェル(ミシェル・ブラン)。その頭のハゲ具合と、長年勤めていた郵便局を定年退職したところであることを考えると、その年齢は60~65歳。したがって、マドレーヌは85歳くらい?
 遺体が入った棺桶が地中に埋められ、そろそろ式も終わろうかというときに、息せき切って走り込んできたのがミシェルの息子、つまりマドレーヌの孫にあたるロマン(マチュ-・スピノジ)だが、彼が遅れてきた理由は「墓地をまちがえた」ということだから恐れ入る。一体どこの世界に、祖父の埋葬を行う墓地をまちがえる孫がいるだろうか。父親のミシェルは大学生のくせに、そんな頼りないロマンに苦い顔だが、マドレーヌはかわいい孫の姿を見てたちまち笑顔に。たしかに、ロマンは私が見てもいい顔立ちの優しそうな学生だが、なぜこんなにマドレーヌと仲がいいの?

<一人残ったマドレーヌの行き先は?>
 『パリ3区の遺産相続人』(14年)は、パリのアパルトメントに設定されている「ヴィアジェ」という制度をめぐる面白い物語だったが、夫亡きあと一人でパリのアパルトメントに住んでいるマドレーヌについては、一人暮らしが心配。ロマンが訪れていた時は元気に夫の遺品整理をしていたマドレーヌだったが、ある日突然倒れて救急車で病院に運び込まれると、ミシェルを中心とした3人の息子たちの話題の中心は、否応なくマドレーヌを老人ホームに入れるべきか否かということに。
 そこでは、そろいもそろって優柔不断な3人の息子たちの「相談ぶり」が面白いが、結局お金の問題が優先したためか、マドレーヌを老人ホームに入れることに。つまり、ミシェルたちは入居費用を捻出するためにマドレーヌのアパルトメントを売却してしまったわけだが、ミシェルたちはそれをきっちりマドレーヌに説明していなかったらしい。もちろん、そんなやり方は法的には大問題だが、本作はそれを描くものではない。
 『死に花』(04年)(『シネマルーム4』338頁参照)や『グォさんの仮装大賞(飛越老人院/FULL CIRCLE)』(12年)(『シネマルーム32』62頁参照)は、元気な老人でいっぱいの老人ホームが舞台だったが、マドレーヌが入った老人ホームは元気なのはマネージャー(オドレイ・ラミー)だけで、入居者はみんな覇気がなく、これではマドレーヌは息がつまりそうだ。そんなマドレーヌにとっての唯一の楽しみは、まめにやってくる孫のロマンとのおしゃべり。今日はマドレーヌが廊下で見つけた奇妙な動物の絵をロマンに見せて、その雑談に花を咲かせていたが・・・。

<突然マドレーヌが失踪!その行き先は?>
 『グォさんの仮装大賞(飛越老人院/FULL CIRCLE)』は、仮装大会に出場するための「老人ホームからの集団脱走事件」がテーマだったが、本作では、ある日突然マドレーヌ1人だけの失踪事件が発生!本作のテーマは少子高齢化が進む日本でも同じように深刻な問題だが、ジャン=ポール・ルーヴ監督による本作の良いところは、それを深刻ぶらず、ユーモアたっぷりそして人間賛歌の視点で描いているところだ。
 マドレーヌの失踪事件を誘拐事件と決めつけて警察に届け出るミシェルと、それを受け流す警察官とのやりとりは、下手な漫才よりよほど面白い。ミシェルの頭がハゲてしまっているのは、こんな風に何事も心配性が過ぎるためだろうが、マドレーヌの失踪についてミシェルと正反対にドンと構えているのが、ミシェルの妻のナタリー(シャンタル・ロビー)だ。また、ミシェル以上にマドレーヌの性分を知っているロマンも、マドレーヌの失踪を全然心配していないようだから、その対比が面白い。
 案の定、しばらく経つとロマンの元にマドレーヌからのハガキが舞い込んできたから、まさにノープロブレム。ロマンがルームシェアをしている友人のカリム(ウィリアム・レブギル)も、ロマンと同じように頼りなさそうな今ドキの若者だが、ハガキの消印をたどればマドレーヌの居場所がわかるはずと、シャーロック・ホームズ並みの推理を働かせたのは意外だった。ミシェルはなぜ自分にハガキが来ないのかとおかんむりだが、そもそもそれがわかっていないところが、ミシェルの弱みだ。
 日本でも「先の大戦」の時、都会の小学生たちは田舎に疎開させられたが、それは第二次世界大戦中のフランスも同じだったらしい。そのため、ノルマンディー地方の小さな町エトルタの小学校に通っていたマドレーヌは、戦争のため小学校3年生で辞めざるをえなかったそうだ。すると、マドレーヌは今一人で生まれ故郷のエトルタに行っているの?ミシェルからすべてを託されてエトルタに向かったロマンだが、本当にマドレーヌはそこにいるの?マドレーヌはそこで何をしているの?また、マドレーヌやロマンたちの家族には、そこで新たにどんな出会いが・・・?

<ミシェル夫婦には熟年離婚の危機が・・・?>
 ロマンは大学で文学を専攻しているそうだが、某ホテルでの夜勤のバイトの面接では、主人のフィリップ(ジャン=ポール・ルーヴ)から「小説家志望か?」と聞かれて困惑気味。ロマンは既に両親の家を出ているが、一人暮らしではなく、カリムと同居している姿を見ても、今ドキの若者らしくまだまだ自立できていない。そのうえ、将来の目標も明確ではなく、かなり中途半端な状態だ。そんな少し頼りないロマンに対しては、マドレーヌはもとより母親のナタリーも優しく見守っていたが、その分一家の主たるミシェルの頼りなさに対しては、マドレーヌはもちろんナタリーの視線も厳しそうだ。ミシェルは定年退職後の「第二の人生の生き方」が容易に見つからず、生来の優柔不断ぶりが一層ひどくなっていたから、教師をしており、何かと活動的なナタリーのイライラは募るばかり。マドレーヌの失踪事件への対応についてもホントに頼りになるのはロマンで、ミシェルはほとんど役に立っていないことは明らかだ。
 ミシェルがナタリーと結婚した時の口説き文句は、「マドモワゼル、あなたは美しすぎる。二度と会いたくない」だが、いくら若い時とはいえ、そんなキザなセリフがこの男によく言えたものだとビックリ。渡哲也が主演したテレビ朝日系の木曜ドラマ『熟年離婚』(05年)では、定年退職を迎えた日の夜に夫は突然松坂慶子扮する妻から離婚届をつきつけられていたが、ミシェル夫婦の場合は、「若い男ができたから、あなたとは離婚よ!」と宣告されてしまったから、ミシェルはオロオロするばかり。マドレーヌの失踪事件への対応だけでも大変なのに、そのうえナタリーからの離婚宣告はまさに青天の霹靂だ。妻の浮気、不貞はホント?その相手は誰?こりゃトコトン調べなければ・・・。ミシェルはそう考えたが、さてその推理力と行動力のレベルは・・・?

<運命の女性との「出会い」と、その奇跡的な展開は?>
 『グォさんの仮装大賞(飛越老人院/FULL CIRCLE)』も『ハッピーエンドの選び方』(14年)も面白い映画だったが、登場人物は老人ばかりだった。しかし、青年、父親、祖母の3世代にわたる家族を描く本作には、マドレーヌと一緒に出掛けたお葬式でロマンがルイーズ(フロール・ボナヴェンチュラ)と運命的な出会いをするストーリーが描かれるので、それに注目!
 もっとも、遠くから互いを意識し、微笑みを交わし合った2人だが、葬儀が終わるとマドレーヌは「死ねばおしまいよ」とロマンを急かし、早く家に帰りたいと車を出させたから、ロマンは女性の名前も住所も聞くことすらできなかった。同居人のカリムが、戻ってきたロマンの顔を見てすぐに「運命の女性と出会ったな」と見抜いたのはさすがだが、以降ロマンは失踪したマドレーヌ捜しに奔走しつつ、心の中は悶々とした日々を過ごすことに。
 某所で小学校の教師をしている、そんな女性ルイーズにロマンが再会できるのは、失踪したマドレーヌをエトルタの町で発見した後だが、さてそれはどんなタイミングで、どんなシュチュエーションで・・・?本作ラストに見る、その運命的な展開に注目!

<人生の師はこんなところにも!>
 人間が生きていくうえで学ぶべき人間は両親や教師だけではなく、至るところにいるはず。短いシーンながら、本作はそのことを大きなインパクトをもって教えてくれるので、それに注目!誰でも車を長時間運転するとドライブインに入るが、そこでは普通マニュアルどおりの商品の購入が行われるだけ。店員との会話も料金に関することだけだ。また、店主から「この商品お勧めですよ」と言われることも、普通はない。したがって、エトルタへ行く途中にロマンが立ち寄ったドライブインの店長が、ロマンに対して2コ入りチョコバーを勧めるシーンはちょっと珍しい。
 彼はなぜ、僕にこれを勧めたの?そう考えたロマンは迷ったあげく、彼に「どうしたら運命の女性に会える?」と質問したところ、それに対する彼の答えは「待つのをやめて念じれば24時間以内に会える」というものだった。なるほど なるほど、これによって千々に乱れていたロマンの心がハッキリしたから、この男のアドバイスはすごい。また、この店長とのやりとりは、ロマンがミシェルと一緒に車でエトルタからパリに戻る途中でも再現されるからそれにも注目!。そこでは、ナタリーから離婚を切り出され、千々に心が乱れているミシェルに対して、店長は「現在がだめなら過去を思い出せ」という素晴らしいアドバイスを。その結果、ミシェルはナタリーに対して、「マドモワゼル、あなたは美しすぎる。二度と会いたくない」というあのセリフを再度ぶつけたから、ビックリ。しかして、その効果は?
 このように、本作でジャン=ポール・ルーヴ監督は、人生の師はこんなところにもいるということを、こんなエピソードの中でさりげなく観客に見せてくれるので、それに注目!なお、本作の冒頭はモンマルトル墓地でのロマンの祖父の葬儀で始まったが、本作のラストも、同じモンマルトル墓地でのマドレーヌの葬儀で終わるので、それにも注目!祖父の葬儀ではロマンが墓地をまちがえたため遅れてやってきたが、マドレーヌの葬儀で墓地をまちがえたため遅れてやってくるのは、一体誰?

<ほっこりと心が温まる93分間に大満足!>
 やたら説明調が多い近時の邦画は2時間平均だが、エッセンスを要領よく示し、テンポよくストーリーを展開させていく傾向が強いフランス映画は90~100分のものが多い。本作も、マドレーヌの老人ホームへの入居をめぐる物語から、マドレーヌの失踪事件へとスリリングな展開(?)を見せながら、クライマックスの舞台はマドレーヌの生まれ故郷エトルタの小学校へと移っていく。
 小学校の外から中をじっと見ているロマンを、ルイーズが「小児性愛者?」とまちがったのはご愛敬だが、そこから急速に進んでいくロマンとルイーズの恋愛模様は面白い。また、ルイーズの配慮によって、85歳になって再度小学校3年生に入学できたマドレーヌは、ホントに楽しそう。夫と死別して以来のすべての鬱積をここで晴らすことができたようだ。もっとも、あまりにも一時に楽しいことが集中しすぎたためか、ロマンと共に戻ったマドレーヌはホテルに入ると階段で倒れ込んでしまったから大変。さて、これはロマンのせい?いやいや、ナタリーが言うように、マドレーヌは人生の最後に自分のやりたいことを、やりたいだけやり切って死んだのだから、大満足?
 しかして、モンマルトル墓地での葬儀から始まった本作は、再びモンマルトル墓地での葬儀のシーンで終わる。そして、そこには墓地をまちがえたルイーズが走り込んでくるが、その後のロマンとルイーズの幸せな日々は観客の目には明らかだ。ほっこりと心が温まった93分間の本作に大満足!
                                  2016(平成28)年2月5日記