日16-13

「エヴェレスト 神々の山嶺」
    

                       2016(平成28)年1月25日鑑賞<東宝試写室>
監督:平山秀幸
原作:夢枕獏『神々の山嶺』(角川文庫、集英社文庫)
深町誠(山岳カメラマン)/岡田准一
羽生丈二(孤高の天才クライマー)/阿部寛
岸涼子(岸文太郎の妹)/尾野真千子
宮川(「岳遊社」の編集者)/ピエール瀧
井上真紀夫(羽生のかつてのザイルパートナー)/甲本雅裕
岸文太郎(羽生の後輩、羽生のザイルパートナー)/風間俊介
アン・ツェリン(現地シェルパの長老)/テインレィ・ロンドゥップ
長谷渉(羽生のライバル、天才クライマー)/佐々木蔵之介
2016年・日本映画・123分
配給/東宝、アスミック・エース

<あれは実話!しかし、これは壮大なフィクション!>
 近時「山岳モノ」の映画が多い。近時の洋画の代表は『エベレスト 3D』(15年)だが、少し前には『アイガー北壁』(08年)(『シネマルーム24』52頁参照)があった。邦画でも、かつては『八甲田山』(77年)があったし、近時は『劔岳 点の記』(08年)(『シネマルーム22』250頁参照)がある。これらに共通するのは、いずれも実話だということ。ちなみに、『エベレスト 3D』は1996年に実際に起きたエベレスト史上最大の遭難事故をテーマに、「商業公募隊」による超過酷なエベレストへの登頂風景を3Dで撮影、という信じられないような映画だった。
 今日の通説では、エベレスト登頂にはじめて成功したのは、1953年のイギリス隊のエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイとされている。しかし、他方、1924年に実施されたイギリスの第3次遠征隊では、頂上を目指したジョージ・マロリーとアンドリュー・アーヴィンの2人が失踪するという事件が発生。そして、1933年には、標高8,460メートル地点でアーヴィンのものと思われるアイス・アックスを発見。さらに、1975年には、中国人クライマー王洪宝が標高8,100メートル地点でイギリス人の遺体を見たという証言をもとに、1999年に大規模なマロリー捜索隊が組織され、捜索した結果、5月1日に頂上付近の北壁でうつ伏せになったマロリーの遺体を発見した。その遺体の様子や所持品(メモ、サングラス等)から、1924年にマロリーとアーヴィンがはじめてエベレスト登頂に成功したのではないかとの仮説が生まれたが、成功したか否かについては、いまだに答えが出ていないそうだ。
 そんな興味深いテーマを小説にしたのが、夢枕獏の『神々の山嶺』だ。つまり、『エベレスト 3D』や『アイガー北壁』は実話にもとづく映画だったが、本作は壮大なフィクション!

<マロリーの遺品らしいカメラを軸に物語が展開!>
 1999年にマロリーの遺体を発見した捜索隊の中にはマロリーに詳しい山岳家のヨッヘン・ヘムレブがおり、彼は遺品にカメラがあれば、マロリーが登頂したか否かという歴史的疑問が解かれると考えたが、なぜかカメラは見つからなかった、というのが歴史的事実。しかし、小説ではどんな空想(でっち上げ?)でも可能だから、夢枕獏はマロリーの遺品の中にカメラがあったという大胆な仮説を立てて『エヴェレスト 神々の山嶺』を完成させたらしい。また、世界的ベストセラーとなったこの小説には、連載開始から20年以上、国内外で映画化オファーが殺到しながらも、そのスケールの壮大さから成立に至らず、まさに“映像化不可能な小説No.1”と言われ続けたらしい。
 『劔岳 点の記』の撮影は大変だったし、『エベレスト 3D』の撮影はもっと大変だったはず。夢枕獏のそんな原作を映画化するについては、エベレストでの撮影が不可欠だから、それが大変なことは言うまでもない。そんな作業に平山秀幸監督が挑戦したが、その物語は、マロリーの遺品らしいカメラを軸に展開していく。
 山岳カメラマンの深町誠(岡田准一)がそれらしいカメラをたまたまネパールの首都カトマンドゥの骨董屋で発見したのは、1993年のこと。これを150ドルで手に入れた深町は、このカメラをきっかけに重大な発見に向けて動き出そうとしたが、そこで「このカメラは盗まれたものだから返せ」と要求してきたのが、アン・ツェリン(テインレィ・ロンドゥップ)という現地シェルパの長老とビサル・サルパ(毒蛇)と呼ばれる大男。仕方なく深町はカメラを返還したが、この眼光鋭い大男こそ、数年前に消息を絶った孤高の天才クライマー羽生丈二(阿部寛)だったから、深町はビックリ!羽生丈二は生きていたの?!そしてまた、なぜ羽生が、マロリーの遺品と思われるカメラを持っているの?それを軸として本作の物語が展開していくことに・・・。

<説明過多はタブーだが、どうしても説明調に>
 去る1月23日に観たドイツの若き巨匠ファティ・アキン監督の『消えた声が、その名を呼ぶ』(14年)は、 『愛より強く』(04年)(『シネマルーム11』123頁参照)、『そして、私たちは愛に帰る』(07年)(『シネマルーム22』138頁参照)に続く「愛、死、悪についての3部作」の最終章だが、同作はアルメニア人だというだけで喉を切られ、声を失った主人公が2人の娘を探し求めて世界中を旅する苦難の物語だった。そこでは主人公が言葉をしゃべれないという「不便さ」の中でストーリーが構成されていたが、その「不便さ」こそが逆に観客をひきつける要素になっていた。
 それに対して、近時の邦画は説明調のものが多いが、説明過多は基本的にタブーのはず。しかし、本作も①羽生と羽生の最初のザイルパートナーだった井上真紀夫(甲本雅裕)との因縁、②羽生の最大のライバルであるエリートの長谷渉(佐々木蔵之介)との因縁、③羽生の後輩で、井上の後に羽生のザイルパートナーになった岸文太郎(風間俊介)との因縁、等の物語が1つずつ説明調でスクリーンに登場してくるので、少しウンザリ。そりゃ、わかりやすいと言えばわかりやすいが、これはテレビドラマのつくり方なのでは・・・?とりわけ、ある山へのチャレンジで岸が落下して死亡した事件は、きっと羽生がザイルを切り、自分だけ助かったためだという噂が立ったため、以降羽生は単独行になったというストーリーはあまりにも出来すぎ。だってこれは、後になって「真実はそうではなかった」というドンデン返しを見せつけるための伏線だということがミエミエだもの。
 このように説明調になり、また説明過多になるのは多数の出資者が参加する「製作委員会方式」の弊害だが、本作はその弊害がモロに出ているのでは・・・?

<羽生の取材から明らかになってくるものは?>
 なぜマロリーのカメラを羽生がもっているの?そんなエベレストの山岳史を塗り替えるかもしれない大スクープを追うため、羽生の取材を始めた深町は、かつてのザイルパートナーであった井上から「羽生は山登りにかけては天才だが、人間としては最低だ」と聞かされ、ますます羽生への興味を深めていくことに。たしかに、羽生は一般論としてだが、山でザイルパートナーとの「究極の選択」を迫られた場合、「自分は躊躇なくザイルを切るし、自分が切られても文句は言わない。」と公言していたから、文太郎の死亡は、きっと羽生のそんな言葉の延長・・・?
 羽生の取材を続ける深町の前に、文太郎の死をきっかけに羽生と交際していたという岸涼子(尾野真千子)が登場してきたのは意外だったが、文太郎から「カトマンドゥで羽生はたしかに生きている」と聞かされた涼子の今後の動向は?また、涼子の紹介で、羽生のライバルであった長谷に会った深町は、羽生が冬のグランドジョラスで滑落し骨折しながらも、片手片足と歯だけで奇跡の生還を果たしたという話を聞かされたうえ、「どこにいようと、羽生には山しかない。きっととてつもないことを狙っている。羽生にしかできないことを。」と断言されたが、さてその「とてつもないこと」とは一体ナニ?

<エベレストの冬季南西壁 単独無酸素登頂に挑戦!>
 羽生の取材を続けた結果、深町は羽生による「とてつもないこと」のイメージをハッキリ描くことができるようになってきた。それは、エベレストの南西にほぼ垂直に切り立っている壁にへばりつき、それを一歩一歩よじ登っての、「エベレストの冬季南西壁 単独無酸素登頂」だ!そんなことは不可能!誰もがそう思ったが、数年前に消息を立ってからカトマンドゥの現地女性と結婚し、子供までもうけた羽生は、毎日そのことを考えていたらしい。その結果、南西壁のすべての岩の感触がわかるまでになっているそうだし、何よりも挑戦することに人生の意義を見い出している羽生にとって、それは絶対に挑戦しなければならないことだった。
 そんな羽生の決意を商業上の形にするべく、深町が企画を持ち込んだのは岳遊社。当初は「前回の借金を返してから、次の企画を持ってこい。」と言っていた担当の宮川(ピエール瀧)も、最後には深町の熱意に折れて承諾。その結果、深町は羽生が決行する「冬季南西壁 単独無酸素登頂」にカメラマンとして同行することに。マロリーは、「なぜ、あなたはエベレストに登りたかったのか?」と問われると、「そこにエベレストがあるから」と答えたそうだが、本作での羽生のセリフは「ここに俺がいるからだ。俺がいるから山に登るんだ。」というもの。そんな羽生は深町に対して、「俺を撮れ。俺が逃げ出さないように」と言い放ったうえで、一人「冬季南西壁 単独無酸素登頂」への第一歩を歩み始めたが・・・。

<2人の熱演に拍手!一方は死に、他方は生き残ったが>
 『永遠の0』(13年)(『シネマルーム31』132頁参照)と2014年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』での熱演が今なお強く印象に残る岡田准一は、本作でも冒頭からラストまでエベレストと羽生をめぐって格闘する山岳カメラマン役を熱演している。『軍師官兵衛』でも、有岡城に幽閉された時の髭ぼうぼうの姿が意外に似合っていたが、本作でも髭を伸ばし雪焼けした顔でカメラの獲物を執拗に追う深町の姿が意外に似合っている。
 他方、NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』(09年~11年)では、秋山好古役を、『テルマエ・ロマエⅡ』(14年)(『シネマルーム32』未掲載)では喜劇的な役を、更に、近時のテレビドラマ『下町ロケット』では佃航平の役を見事に演じ分けているのが、阿部寛。その阿部寛も、本作では孤高の天才クライマー羽生丈二役になりきり、ザイルを使って登頂するシーンでは岡田准一以上の迫真の演技を見せている。
 さらに注目すべきは、本作のストーリーのあっと驚く結末として、雪の中に(目をむいたまま)眠る羽生の姿だ。マロリーの遺体が発見されたのは1924年の失踪から75年後の1999年に実施された大規模な捜索隊の捜索によるものだった。したがって、深町が羽生の跡を辿って登頂する機会に羽生の遺体をたまたま発見した、というのはあまりにも出来すぎ。しかも、その遺体とともにメモが残されてあった、というのも出来すぎだが、まあ、映画のストーリー構成としては仕方なし・・・?
 深町と共にカトマンドゥに赴き、エベレストのベースキャンプまで共に登ったという岸涼子を演じる尾野真千子の熱意にも拍手だが、こちらは雪焼けも全然ないから、それはちょっと眉唾もの・・・?それはさておき、一方は死に、他方は生き残るという好対照な結果となったものの、本作では阿部寛と岡田准一という2人の俳優の熱演に拍手!
                                  2016(平成28)年1月29日記