洋16-12 (ショートコメント)

「メモリーズ 追憶の剣」
    

               2016(平成28)年1月23日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:パク・フンシク
ユベク(将軍)、ドッキ/イ・ビョンホン
ウォルソ(茶屋の女主人)、ソルラン/チョン・ドヨン
ホンイ(ウォルソの娘として暮す若き女剣士)/キム・ゴウン
ウォルソの剣の老師匠/イ・ギョンヨン
ユル(ユベクに仕える若き剣士)/イ・ジュノ
2015年・韓国映画・120分
配給/クロックワークス

◆イ・ビョンホンとチョン・ドヨンと言う、韓国映画界を代表する男女「二枚看板」が、美しい映像美の時代絵巻の中、ワイヤーアクションに挑戦!そして、それに絡む若手の男女二人を、私は全然知らなかったが、近時急速に人気を高めている若手女優キム・ゴウンと2PMの歌手として世界的な人気を誇るイ・ジュノが熱演!そう言われるといかにももっともらしいが、そりゃ、かつての中国の張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『HERO(英雄)』(02年)(『シネマルーム3』29頁参照)や『LOVERS(十面埋伏)』(04年)(『シネマルーム5』353頁参照)と同じ路線にすぎないのでは?
 近時の韓国のワイヤーアクションでは、『パイレーツ』(14年)が「B級娯楽映画」に徹した映画として面白かった(『シネマルーム36』69頁参照)が、本作は高麗時代の正統時代劇だから、重厚さが売りモノ。しかし、他方でユベク(イ・ビョンホン)の「欲望の剣」、ウォルソ(チョン・ドヨン)の「正義を守る剣」、ホンイ(キム・ゴウン)の「復讐を誓う剣」、ユル(イ・ジュノ)の「野心の剣」と、コミック的(?)な要素も含んでいるから、その調和は大丈夫・・・?

◆冒頭に見る、ユベク将軍が主催する武術大会でのユルの活躍ぶりと、そこに飛び入り参加したホンイのいかにもノー天気な活躍ぶり。それはB級活劇として結構楽しいものだ。ところが、ホンイに、かつての恋人ウォルソとそっくりの剣裁きを感じたユベクが、ホンイの後を追い、その出自を追及し始めたところからストーリーは俄然ややこしくなっていく。
 本作によると、高麗時代末期は剣術の腕前次第で誰でも王になれた時代らしい。そんな時代に、同志であり死を誓い合った3人の剣士ドッキ(イ・ビョンホン)、ソルラン(チョン・ドヨン)、プンチョンの3人は世の中を変えるべく、民衆の立場に立って3本の剣によって反乱を起こしたが、ドッキの裏切りによってプンチョンは命を落とし、計画は失敗。ソルランはプンチョンの子ホンイと共に姿を消したが・・・。

◆それから18年後。王のもとで頭角を現したドッキは、今ユベク将軍として権勢を誇っていた。ユベク将軍の主催した武術大会でウォルソそっくりの剣裁きを披露したホンイは、ウォルソが自分の娘として育て武術を仕込んできたが、ウォルソはその母親ではない。もちろんホンイはそれを知らない。しかし、ホンイがユベク将軍から追われていると知った今、ウォルソは「あなたの両親を殺したのは私とユベク。今度会う時はあなたと私のどちらかが死ぬことになる。」と18年間隠していた秘密を打ち明け、ホンイを家から追い出してしまったから、ホンイは大変。
 育ての親であり、剣術の師匠であるウォルソのそんな突然の告白にホンイが戸惑ったのは当然だが、スクリーンを見ている限り、私たち観客もそんなややこしいストーリー展開になかなかついていけず、戸惑うばかり・・・。

◆育ての母からそんな重大な告白を聞かされたホンイは、当然ながら(単純にも?)ユベクを倒すため宮廷に向かったが、雑兵どもはバッタバッタとやっつけられても、所詮ユベクの剣の腕にはかなわないらしい。その結果、ユベクから無残な返り討ちに会い、これにてジ・エンドとなりかけることに。もっとも、それでは映画は成り立たないので、その後深手を負ったホンイはウォルソの手によってウォルソの老師匠に預けられ、身体の回復を目指すと共に再度徹底した剣術の指導を受けることになる。
 しかして、後半からクライマックスにかけての期待は、ホンイのユベクに対する「再度の挑戦」だが、それだけではあまりにストーリーが単純すぎる。そこで絡まってくるのが、今なお互いに愛を感じているらしいユベクとウォルソとの「愛憎劇」だが、これも実にややこしい。そのうえ、なぜウォルソが盲目になったのかがイマイチ判然としないから、そのストーリーもちょっとうっとおしいことに・・・。

◆ウォルソを演じるチョン・ドヨンは『シークレット・サンシャイン(密陽)』(07年)(『シネマルーム19』66頁参照)や『ユア・マイ・サンシャイン』(05年)(『シネマルーム11』257頁参照)で素晴らしい演技を見せた美人女優。そのチョン・ドヨンが、約40歳で出演した本作では最強の剣士で、ホンイを厳しく鍛え上げる育ての母親、そしてユベクの心の中に今なお残る恋人というキャラを見事に演じている。しかし、内面の演技が強すぎることもあり、ずっと見ていると少ししんどくなってくる。
 本作は、イ・ビョンホンの重厚な演技を中心に、全体のイメージがギリシャの悲劇を彷彿させる重厚さで貫かれており、当然チョン・ドヨンもその一役を担っている。しかし、本作の興行収入が製作費すら回収できなかったほど韓国で不人気だったのは、そんなところにも一因があるのでは?

◆私は評論を書く映画については原則的にパンフレットを購入しているが、そこで顕著なのは代金に見合うパンフレットと、見合わないパンフレットが両極端に存すること。時代背景や各種各層の専門家が書いた興味深いコラムがたくさん載っているパンフレットは価値が高いが、写真を載せ出演者の経歴やインタビューを載せただけのパンフレットは価値が低い。しかして、定価800円の本作のパンフレットは典型的な後者だ。
 2016年1月10日から放映が開始されたNHK大河ドラマ『真田丸』を巡っては多くの出版物が出され、今般『2016年NHK大河ドラマ真田丸完全ガイドブック』が1000円で出版された。そこでは、当時の時代背景や主人公の人物模様がさまざまな角度から分析されているが、本作のパンフレットにはそういう資料やコラムが全くない。「優雅なアクションに美しい映像」とパンフレットに書いてある本作の特徴は認められても、ストーリー構成が杜撰なうえ、パンフレットの製作にここまで手を抜いてはダメなのでは。
 近時の韓国映画は大きく中国映画に押されているようだが、本作のような映画を作っていたのでは、ますますそれが加速していくのでは・・・。
                                  2016(平成28)年1月26日記