洋15-9(ショートコメント)

「陽だまりハウスでマラソンを」
    

                     2015(平成27)年1月20日鑑賞<GAGA試写室>

監督・脚本:キリアン・リートホーフ
パウル・アヴァホフ(かつてメルボルン・オリンピックのマラソン競技で優勝した老人)/ディーター・ハラーフォルデン
マーゴ・アヴァホフ(パウルの妻)/ターチャ・サイブト
ビルギット・アヴァホフ(パウルとマーゴの一人娘、キャビン・アテンダント)/ハイケ・マカッシュ
トビアス(介護士)/フレデリック・ラウ
リタ/カトリーン・ザース
ミュラー(療法士)/カタリーナ・ローレンツ
ルドルフ(仕切り屋の住人)/オットー・メリース
フリッチェン(元詐欺師、片思い中)/ハインツ・W・クリュッケベルク
ラビンスキー夫人(バイオリニストの娘を自慢する夫人)/マリア・メグデフラウ
キューネムント夫人/バーバラ・モラヴィーツ
モートホルスト夫人(優雅で美しいマダム)/アンネカトリン・ビュルガー
ジェローム/メーディ・ネブー
グレーンヴォルト医師/イェルク・ハルトマン
2013年・ドイツ映画・115分
配給/アルバトロス・フィルム

◆1964年の東京オリンピックの最終日におけるマラソン競技で、私たち日本人の目に強く焼きついた伝説のランナーは、裸足で走って優勝したエチオピア出身のアベベ・ビキラ選手。それとは違う意味で、第2次世界大戦敗戦後の暗く重い空気に覆われていた西ドイツ国民の目に焼きついた伝説のランナーが、1956年メルボルン・オリンピックのマラソン競技でソ連の強敵ポポルをゴール寸前にかわして優勝した、西ドイツ出身のパウル・アヴァホフらしい。
 映画冒頭、そんなナレーションとニュース映像のような最終の競り合いシーンが流れるが、本作は70歳を超え、妻のマーゴ・アヴァホフ(ターチャ・サイブト)と共に暮らす老人パウル・アヴァホフ(ディーター・ハラーフォルデン)の物語。パウルを演じたディーター・ハラーフォルデンは、78歳にしてドイツ映画市場最高齢の最優秀主演男優賞を受賞したそうだが、それはなぜ・・・?私は別の映画の試写を観る予定が変更となり、たまたま本作を観たので、事前情報を全く持たなかったが、本作は単純ながら意外にグッド!

◆『グォさんの仮装大賞(飛越老人院/FULL CIRCLE)』(12年)は、「仮装大会」に出場するため、「老人ホーム」から飛び出して行く老人パワーを描いた面白い映画だった(『シネマルーム32』62頁、『シネマルーム34』312頁参照)が、そこでは美人で若い女性院長の、老人ホームを「監獄」並みに仕切る仕切り方が目立っていた。それと同じように本作では、一人娘のビルギット・アヴァホフ(ハイケ・マカッシュ)から、病気がちの妻マーゴの面倒を見きれないと言われ、やむなくパウルたち夫婦が入居した老人ホームの事なかれ主義(?)と官僚主義(?)が目立つ。老人だからといって、くり人形制作や合唱等のほのぼの系のレクリエーションだけで規則正しく管理されたのでは、私だって嫌だが、マラソンを通じた妻との息はピッタリだが、もともと変人タイプのパウルもそうらしい。
 そこである日、パウルが急にくたびれたランニングシューズとシミだらけのジャージ姿で老人ホームの庭を走り始めると、院長たちは、それに猛反対。さらに、いかにも典型的なドイツ人らしく(?)、全体の秩序を重んじる仕切り屋の住人ルドルフ(オットー・メリース)がパウルに激しく反発したから大変だ。その「論争」の中でパウルは、「ベルリン・マラソンに出場する」と宣言したから、みんなはビックリ。しかし、若い療法士ミュラー(カタリーナ・ローレンツ)との15周競争に見事にパウルが勝利したうえ、パウルの若き日の勇姿を知ると、入居者たちは次第にパウルのトレーニングぶりに興味を示していくことに・・・。

◆2人は風と海。パウルとマーゴはそんな合い言葉がピッタリのおしどり夫婦だったから、マーゴが先に逝ってしまうと、「老人性うつ」と診断されたパウルの落ち込みぶりは目も当てられないほどに。もっとも、トライアスロンの中で最も過酷な競技であるアイアンマンレースに、車椅子の息子と共に挑んだ中年男を描いた『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』(14年)でも、その主人公は直前に訪れた大きな試練に打ち勝ってレースに臨んでいた(『シネマルーム33』164頁参照)が、さて本作におけるパウルは?
 一般的にドイツ人は几帳面だが頑固。そう思われている。したがって、老人ホームの中でラビンスキー夫人(マリア・メグデフラウ)、キューネムント夫人(バーバラ・モラヴィーツ)、モートホルスト夫人(アンネカトリン・ビュルガー)らはパウルの応援に回っていたが、パウルの天敵となっていたミュラーはあくまでパウルのベルリン・マラソンへの参加には否定的。そう思っていると、意外にもそのミュラーをリーダーとして『グォさんの仮装大賞』と同じような、老人ホームからの「大脱走」を決行して、ゴールとなるオリンピック・スタジアムへ。
 他方、恋人との仲が最悪になっていた一人娘のビルギットも、パウルの頑張りの中で何とかヨリを戻していたが、今テレビの中継で大写しにされるパウルの姿を見て、恋人と共にオリンピック・スタジアムへ。そんな予想どおりの展開ながら、本作でも『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』と同じような、ラストの感動をしっかり味わいたい。
                                  2015(平成27)年1月23日記