洋15-98

「ナイトクローラー(原題:NIGHTCRAWLER)」
 

                      2015(平成27)年8月12日鑑賞<GAGA試写室>

監督・脚本:ダン・ギルロイ
ルイス・ブルーム(のし上がっていくパパラッチ)/ジェイク・ギレンホール
ニーナ(テレビ局の女性ディレクター)/レネ・ルッソ
リック(ルイスが雇ったアシスタント)/リズ・アーメッド
ジョー・ロダー(ルイスのライバル、フリーのパパラッチ)/ビル・パクストン
フランク・クルース/ケヴィン・ラーム
ジャッキー/キャスリーン・ヨーク
カメラマン/エリック・ランジ
質屋のオーナー/ジョニー・コイン
フロンテイリ刑事/マイケル・ハイアット
警備員/マイケル・パパジョン
編集者/キッフ・ヴァンデンヒューヴェル
2014年・アメリカ映画・118分
配給/ギャガ

<パパラッチとは?ナイトクローラーとは?>
 Wikipediaによれば、「パパラッチ」とはイタリア語で、「セレブリティをつけまわし、彼らのプライベート写真などを撮影して生計を立てるカメラマン一般をさす俗称」と定義されている。このパパラッチが一躍有名になったのは、1997年8月31日にウェールズ公妃ダイアナ妃と当時の恋人(?)であった大富豪・ドディ・アルファイドを乗せたメルセデスベンツS280がパリ市内のトンネル内で交通事故を起こし、ダイアナ妃が死亡したことに伴って、7人のパパラッチが重要参考人として拘束されたため。最終的に、フランス政府はその原因を運転手であった「アンリ・ポールの薬の服用と多量のアルコールの飲酒によるもの」と発表したが、その前には、原因を「パパラッチの執拗な追跡」と発表していたほどだから、「取材」のためのパパラッチの追跡はものすごいものだったらしい。
 それを前提として、本作のタイトルとなっている「ナイトクローラー」とは一体ナニ?プレスシートによれば、それは「夜の街を這いまわり、事件・事故現場の刺激的な映像を撮影してテレビ局に高値で売りつける報道パパラッチ」と定義されている。もっとも、Weblio英和対訳辞書で「ナイトクローラー(Nightcrawler)」を調べてみても、①「ナイトクローラー(Nightcrawler、本名:カート・ワグナー(Kurt Wagner)はマーベル・コミック社が刊行するコミックブックに登場する架空のスーパーヒーローであり、X-メンの一員である。」②「Nightcrawlerは2014年にダン・ギルロイが制作と脚本を手がけたアメリカのスリラー映画である。」としか出てこない。ジーニアス英和辞典でも、「night crawler(米) 大ミミズ」の記載があるだけだ。すると、ひょっとして「ナイトクローラー」は、この映画のための新造語・・・?

<口先だけの自信家はゴマンといるが・・・>
 
本作は、全編を通して「天職」ともいえるナイトクローラーの仕事の中でのし上がっていく男ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)の不気味さが際立っている。ナイトクローラーとして特ダネ映像を入手するためには、違法スレスレの行為まで突っ込むのは仕方ない。しかし、自分の特ダネを売り込むために、商売がたきのジョー・ロダー(ビル・パクストン)の車に細工をすることによって彼を抹殺(?)してしまうのはいかがなもの・・・?また、いち早く獲得した刺激的な報道映像をテレビ局に高く売りつけるのがナイトクローラーのお仕事とはいえ、自分を高く評価してくれるテレビのニュース番組「KWLA」のディレクターをしている女性ニーナ(レネ・ルッソ)に対して、個人的な男女関係(?)を絡めていくのもいかがなもの・・・?さらに、ナイトクローラーの商売には運転助手が不可欠だが、到底有能とは思えない住所不定の若者リック(リズ・アーメッド)を「研修期間(インターンシップ)」名目でタダ同然にこき使うのはいかがなもの?
 ルイスはそんなこんなの不気味かつ嫌味な男だが、もともと泥棒稼業で生計を立てていたルイスが、ある工場で自分を「僕は勤勉で志が高い人間だ」と自信満々に売り込むシーンはカッコいい。就職活動の解禁が遅くなった日本では、8月から学生のリクルート姿が目立ってきたが、自分を売り込むのが苦手な今ドキの日本の若者はこれを見習わなくちゃ・・・。もっとも、ルイスが口先だけの自信家でないことは、自分がナイトクローラーに向いており、かつその能力を持っていると自覚してからの彼の行動を見ているとよくわかる。まさに、良くも悪くもナイトクローラーとしての彼の力量にビックリ!

<こんなテレビ番組ばかりでいいの?>
 テレビ業界が日夜視聴率競争に明け暮れていること、またそのことの弊害の大きさはいまや常識。しかし、それを変えるためにはテレビ局側の努力だけではなく、視る側の努力すなわち視聴者がもっと利口になることが不可欠だ。常々そう思っている私には、ニーナがルイスに対して、刺激的な犯罪報道のために望ましいのは、「被害者が裕福な白人で、加害者が移民あるいはヒスパニック系」とアドバイスする姿が痛ましい。ニーナだって、いくらカッコよく報道の第一線を取り仕切っていても、2年毎の契約更改社員とされており、その更改基準が視聴率となれば、必然的により高い視聴率獲得のため、より刺激の強い映像を求めるのは仕方ない。私はそんな「報道番組」をほどんど観ないが、今の日本もそんなくだらない犯罪報道番組の洪水になっていることは明らかだ。
 そんな犯罪報道番組の第一線では、近時日本のテレビ業界ではさまざまな「やらせ報道」が問題になっているが、ルイスが大スクープとしたヒスパニック系の2人の男による富裕な白人宅での白人殺人事件の映像は、決して「やらせ」ではないから、その価値は高いはず。しかし、本作に観るルイスのようなやり方でそれを入手し、しかもクライマックスでのあっと驚く大展開を観ていると、これはやらせ問題を超えて違法?それとも合法?という問題になる。刑事フロンテイリ(マイケル・ハイアット)の登場によって、その論点も大きく浮上してくるはずだが・・・。

<こんな交渉、あんな交渉をどう見る?>
 
本作では、良くも悪くも、ルイスがくり出す大量の自信タップリなセリフが興味深い。冒頭の、自分を売り込む「僕は勤勉で志が高い人間だ」のセリフに対しては、工場の経営者から「コソ泥は雇わない」と切り返されてしまったが、ルイスが獲得した特ダネの価値とその金額を巡るルイスのニーナに対するアピール能力(今風の日本の言葉でいえば、プレゼンテーション能力)はすごい。商売と男女関係を絡めたルイスのアピールの是非は人によって評価が分かれるはずだが、私にはグッド。極めて説得力のあるものだ。
 また、次の大仕事のために、毎晩30ドルで雇っていたリックを正式社員に任命するシークエンスも、近時の労働時間ではなく仕事の成果に応じて賃金を決める新たな労働制度である「ホワイトカラーエグゼンプション(「高度プロフェッショナル制度」)導入法案」を中心とする日本の労働法制をめぐる議論に照らして考えれば、より一層興味深い。日本的な「護送船団方式」がすべての分野で崩壊してきたことに伴って、個人個人が持つ能力や交渉能力が必要とされるのは当然だが、日本ではそれがまだまだ不十分。そんな交渉のあり方が、本作におけるルイスとニーナ、そしてルイスとリックの交渉ぶりを観れば、よくわかる。
 「格差反対」を叫ぶ多くの日本人は、ここまで個人の能力や個人の交渉能力によって差異が生まれることを嫌うはずだが、40年間個人経営として弁護士業をやってきた私は、どちらかというとルイスのやり方の方が好き。もちろん、ルイスがここまで強気で交渉できるのは、車の運転やカメラの撮影技術を含めてナイトクローラーとしての能力とその成果物に絶対的な自信をもっているためだから、その努力や大切さに敬意を表したい。
 ちなみに、ルイスの人格の評価を含めて本作の評価は肯定と否定に大きく分かれるはずだが、私は高く評価している。そんな前提の上で、本作が第87回アカデミー賞脚本賞にノミネートされたことに拍手!

<これは違法?それとも合法?>
 本作冒頭におけるルイスのコソ泥ぶりを見れば、この男は単なる敗残者、そして「口先だけの自信家」のように見える。しかし、ある日遭遇した、裕福な白人宅での2人のヒスパニック系の男による白人たちの殺人事件におけるルイスのナイトクローラーぶりを見ていると、決してルイスがそんな敗残者ではないことがわかる。ルイス自身がリックに対して自信タップリに言うように、行動の機敏性、瞬時の判断力、そして勇気と度胸と大胆さ。そんなすべての能力の発揮としてルイスは凶悪殺人事件の現場映像を自らのカメラで撮影することができたわけだ。
 銃声がパンパン鳴っている現場を撮影するのは誰だって怖いのは当然だが、そこは勇気を持って乗り越えなくちゃ・・・。そして、鍵が開いていたお屋敷の中に入り込むのは住居不法侵入罪ではない(?)から、警察が駆けつけてくるまでの間に死体や現場を撮影するのは俺の勝手・・・?そしてまた、犯罪報道番組にものすごい価値がある、犯行現場における被害者のナマの映像をテレビ局に高い値段で売り込むのは、まさにナイトクローラーの特権・・・?
 そこまでは多分ギリギリOKだろう。しかし、犯人たちを撮影した映像をあえてテレビ局にも警察にも提供せず、自ら犯人を追って更なる犯人逮捕劇あるいはそれに必然的に付随する銃撃戦の映像を狙うのは、やらせ?それとも・・・?さらにこれはフロンテイリ刑事が厳しく糾弾するように、違法?それとも合法・・・?実はその判断は40年間も弁護士をやってきた私ですら難しい。フロンテイリ刑事の取り調べ(?)に対しても、ルイスは自信満々。もし、私がルイスの弁護人に選任されれば、私も彼を無罪にする自信がある。しかして、これについての私以外の法曹関係者のご意見は・・・?

<カーアクションは、パパラッチの方がスパイより上?>
 ルイスの車が冒頭に乗っていたトヨタのオンボロ車から、新車の赤いダッジ・チャレンジャーに変わったのは、ナイトクローラーとしての成果物がそれなりの値段でニーナに売れたため。そして、この車を運転して他のナイトクローラーよりも早く現場に急行するべくハチャメチャな運転をするルイスに、車のGPSを見ながら進路の指示をするのがリックの役目だ。最初は頼りなかったリックも、さすがに日々の猛訓練のおかげで少しずつ上達・・・?
 『007』シリーズ、『ボーン』シリーズ、『ミッションインポッシブル』シリーズ等、大人気のスパイもの映画にはカーアクションがつきものだが、それがナンボのもの!そう言わんばかりに、本作でスパイならぬナイトクローラーのルイスが見せるカーアクションは迫力がある。
 そのカーアクションは、殺人事件でルイスがテレビ局にも警察にも提供しなかった映像から居所をつきつめた犯人の男の車を追跡するシーン。レストランに入った2人を見届けたルイスが報奨金目当てに警察に電話で通報したことによって、まずはレストラン内で2人の犯人と警察官との間で銃撃戦が展開。それを映像に収めた後、射殺された犯人の一人を残してもう一人の犯人が車で逃走したため、ルイスはそれを追いかけるパトカーの後ろについて更にそれを追跡したから、そのカーアクションがすさまじいものになったのは当然。そして、ひっくり返った犯人の車を見て、犯人の死亡を確信した(?)ルイスはリックに対してその映像を撮るよう指示したが、さてそこから起きた更なる銃撃戦は・・・?
 フロンテイリ刑事が厳しく追及したように、これがすべて計算づくだったとは驚きだが、ルイスに言わせれば「証拠があるの?」ということ。本作ではそんなスパイ映画のカーアクション顔負けの、ド派手かつ緻密なカーアクションに注目!

<会社組織にすることの是非は?>
 
1899年の創業から創業一族を中心に非上場経営にこだわってきたサントリーは、これまで清涼飲料水を手掛けるサントリー食品インターナショナルなど子会社の上場にとどまっていた。しかし、遂にサントリーホールディングス(HD)の株式を上場する検討に入り、早ければ2018年にも上場する方向で、複数の金融機関から具体策の提案の受け付けを始めたことが報じられている。逆に、終戦から4年後の1949年5月から上場していた吉本興業は、上場から満60年と4ヶ月後の2009年9月11日に上場を廃止したことは大きなニュースとなった。株式上場をめぐってはそんな大きな動きがあるが、日本では一般的に個人経営よりも法人(会社)の方が信用力がある上、税務上の優遇措置があるため、「一人会社」をはじめ、名前だけの会社の例が多い。
 しかして、本作でもリックだけを助手にして一匹狼としてナイトクローラーの仕事に邁進してきたルイスも、大仕事をやるについては某ニュース映像会社をつくって(でっちあげ?)その代表者(CEO)を名乗り、ニーナを通じてテレビ業界に入り込もうとしていたが、そのことの是非は?本作は助手のリックまで犠牲にして、何とも荒っぽい仕事を成功させた後、ルイスの会社に入社した新しい社員3人に対してルイスが訓辞をたれるシーンで終わるが、さてこの会社の前途は?あくまでルイスのやりたいことを、ルイスのやりたい方法でやってきたからこそ、本作が描いたルイスのナイトクローラーとしての成功があったはずだから、今さら会社組織にしてこんな頼りない新入社員3人を使ってナイトクローラーの仕事をやろうとしても、到底ムリなのでは・・・?
                                  2015(平成27)年8月17日記