日15-93

「赤い玉、」
    

        2015(平成27)年8月6日鑑賞<ビジュアルアーツ専門学校大阪試写室>

監督・脚本:高橋伴明
時田修次(大学の映画学科の教授)/奥田瑛二
唯(映画学科の事務担当、時田の同棲相手)/不二子
律子(時田の前に現れた女子高生)/村上由規乃
(時田の教え子、監督志望)/花岡翔太
(時田の教え子、女優志望)/土居志央梨
(時田の娘)/山田奈保
(映画学科の学科長)/水上竜士
(時田の教え子)/柄本佑
(時田の妻)/高橋惠子
2015年・日本映画・108分
配給/渋谷プロダクション

<高橋伴明監督に注目!久々の原点復帰?>
 高橋伴明監督は、昔から私の大好きな監督。個人的にも一度食事のしたことのある彼は、誕生日が1949年5月10日だから、同年1月26日生まれの私とは1学年違いのほぼ同年輩。最近私が観た彼の作品は、『禅 ZEN』(08年)(『シネマルーム22』未掲載)、『BOX 袴田事件 命とは』(10年)(『シネマルーム25』40頁参照)の2本だが、彼にはもう2つの顔がある。それは言うまでもなく、女優・関根惠子(高橋惠子)の夫という顔と、京都造形芸術大学教授という顔だ。
 1972年に監督デビューした彼は、以降若松プロに参加し、60数本のピンク映画を監督してきたから、「その方面」の映画は大のお得意。近時は社会派的色彩の強かった彼が、本作では谷崎潤一郎の『痴人の愛』、『卍』そして『鍵』並みに(?)、「老人と性」の問題に果敢にアタックしている。

<主人公となるエロじじいは自分自身をイメージ・・・?>
 谷崎潤一郎は作家としてのエロじじいぶりが焦点だったが、長年映画監督の道を歩んできた高橋伴明監督が本作で主人公に据えた老人(?)時田修次(奥田瑛二)は、大学の映画学科で教鞭をとる、言わば自分の身を反映させたものだ。彼と同年輩の私は、郷ひろみとまではいかないが、運動を続け健康に留意していることもあって、体組成計で測る肉体年齢は51~52歳だが、一緒に食事をした時は高橋監督は明らかに私よりも年上に見えた。本作で時田修次を演じた奥田瑛二は1950年3月18日生まれだから、彼も同年代だが、彼は俳優として体力維持には十分留意しているはずだから、私と同じようにエロじじいと呼ばれるのは心外なはず。しかし、さすが名優だけに、高橋伴明監督が自分自身をイメージする、エロじじいとしかいいようのない老映画監督役を「熱演」している。
 劇場公開は小規模なものだが、本作はモントリオール世界映画祭への出品も決まっているらしい。一般受けしないことは分かりきっているが、少なくとも団塊世代のおじさんやエロジジイは、こりゃ必見。

<この教授の授業は一見まともだが、私生活は・・・?>
 私は去る6月28~30日の3日間、北京电影学院で開催された、“实验电影”学院賞の授賞式に主席スポンサーとして出席した。その経過はホームページや事務所だよりを参照してもらいたいが、その授賞式で上映された6本の短編や、そこでのスピーチと最優秀作品受賞者への賞金の授与、さらには歓迎レセプションでの飲み会を通じて、北京电影学院という映画芸術の最高学府で学ぶ教授たちや学生たちのエネルギーと能力に圧倒された。高橋伴明監督が現実に教鞭を取っているのは京都造形芸術大学だが、本作冒頭に見る、時田が勤務する映画大学の映画科の学生たちへの講義を聞いていると、それなりの理屈をこねており、一見まとも。ところが、その私生活になると・・・。
 時田が同棲しているお相手の女性は、大学の事務の担当をしている35歳という微妙な年齢の唯(不二子)だが、彼女は時田の教えよろしく(?)、生き方の面でも奔放な性生活の面でも時田とピッタリ。セックスの楽しみ方は人それぞれだから周りがとやかく言うことではないが、本作では高橋伴明監督が本作のテーマとした、70歳近いじいさんの「老いと性」が、セックスに奔放な女・唯との絡みの中でタップリ描かれるから、それに注目!

<学生のレベルは?北京电影学院の院生たちと比べると?>
 私は平成22年12月に一度だけ神戸大学の映画研究部の発表会に審査員として招かれ、学生たちの作った短編映画の審査と批評をしたことがある。その経験があっただけに、今回の北京电影学院の“実验电影”学院賞の授賞式では、神戸大学映画研究部の学生たちが作った作品のレベルと、北京电影学院の院生たちが作った作品のレベルを比べて、その差の大きさにビックリさせられた。しかして、時田が教えている学生たちが卒業に向けて取り組んでいる作品の出来は・・・?
 「裸だってオーケーよ」とうそぶく女優志望の女の子(土居志央梨)の個性は際立っているが、私の目には監督を目指す男子学生(花岡翔太)らの非力さが目立って仕方がない。北京电影学院を卒業した後、女優業を続けていた趙薇(ヴィッキー・チャオ)は、監督をやるため再び北京电影学院の監督科に入学し、その卒業作品として『So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ~』(13年)(『シネマルーム34』385頁参照)を作ったが、これがたくさんの映画祭で新人監督賞を受賞!そんな快挙を知っているだけに、本作の学生たちの力量のレベルを見ていると、絶望的・・・。
 
<妄想とストーカーとは大違いだが・・・>
 8月8日に観たフランス映画『ボヴァリー夫人とパン屋』(14年)は、フランス西部のノルマンディー地方でパン屋を営む文学好きのおじさんであるマルタンが、隣に引っ越してきたジェマ・ボヴァリーという美しい女性に小説『ボヴァリー夫人』のストーリーを重ね合わせながら抱く様々な妄想をテーマとした、おしゃれな映画だった。そこでは、マルタンの妄想とボヴァリー夫人の行動がかなりの部分で重なっていくのがポイントだったが、同じボヴァリー夫人が死亡する結末でも、映画の描くラストは小説とは全く異なるユニークなものになっていた。
 しかし、本作での、ある日ふと目にした美しい女子高生・律子(村上由規乃)に対して、よからぬ妄想を抱き(?)、以降ストーカーまがい(そのもの)のようにその後をつけ回していく時田の行動を見ると唖然とする。ここまでくると、「自分は大学教授だから・・・」とか「社会的地位があるから・・・」とかの弁明は全く通用せず、犯罪そのものだが、なぜ時田はそこまでの行動をとるの・・・?もっとも、今ドキの女子高生はすごいから、律子だってそれなりの「猛者」であることが後になってわかるから、それにも注目!
 『あいときぼうのまち』(13年)では、16歳の少女・愛子が売春するについての1回の料金は2万円と言っていたが(『シネマルーム33』68頁参照)、律子の場合は何と7万円。これは時田の給料からすればかなり高いはずだが、その料金を払った場合、それに見合うだけの価値は・・・?

<「赤い玉」を知っている人はかなりの教養人!>
 本作のプレスシートには「みだらに狂ってこそ、映画」、「昨今の日本映画でオブラートにくるむようにしか表現しなくなったエロスの世界を、白日の下に曝していく。」等々、エロスを強調する刺激的な文章が目立っている。しかして、あなたは本作のタイトルとなっている「赤い玉」の意味、すなわち「赤玉伝説」を知っている?それを知っていれば、あなたはかなりの教養人だが、教養レベルが著しく低下している戦後70年の今、これを知っている人は、せいぜい10人に1人では・・・。
 「サントリー」は近時、日本たばこ産業(JT)の自動販売機子会社ジャパンビバレッジホールディングス(HD)の争奪戦に勝利し、1500億円で吸収合併した。また、グループ全体の持ち株会社であるサントリーホールディングス(HD)の上場ではなく、その一子会社であるサントリー食品インターナショナルの上場を目指す動きが報道されたことで、世間の注目を集めている。それと同じように、「サントリー」の前身である旧壽屋は、1922年(大正11年)の「赤玉ポートワイン」の宣伝に、日本初の女性のヌードを使ったことでも有名だ。そのヌードたるや、女性が両肩をあらわにするだけで、今では何の刺激も受けないものだが、それでも当時としては、「赤玉」という言葉はけっこう刺激的だった。もっとも本作のタイトルとなっている「赤玉」は、それとは全く関係ないので、誤解なきように。
 本作は、冒頭から初老の大学教授・時田と同棲相手の女性・唯との間で、さまざまな体位での絡みのシーンが登場する。もっとも、時田は毎日のように酒を飲んでいるから、本人が自覚しているように、「飲んだ後は・・・?」らしい。ストーカー行為を続けていることは律子にしっかり見抜かれていたが、せっかく7万円を払ってラブホテルに入っても、いざというとき役に立たなければ、男としてはナンセンス・・・?
 ストーリー展開中に、時田が飲み屋で学生に語るのが「赤玉伝説」。そのセリフは、「赤玉伝説って知ってるか 男が打ち止めになった印に、先っぽから赤い球が出るんだとさ」というものだが、それってホント・・・?
                                  2015(平成27)年8月12日記