洋15-73

「サンドラの週末」
    

                      2015(平成27)年5月30日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
サンドラ(ソーラーパネル工場で働く女性)/マリオン・コティヤール
マニュ(サンドラの夫)/ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル/ピリ・グロワーヌ
マクシム/シモン・コードリ
ジュリエット(サンドラの同僚)/カトリーヌ・サレ
ウィリー/アラン・エロワ
ミレイユ/ミリエム・アケディウ
ナディーヌ/ファビエンヌ・シャーシャ
ティムール/ティムール・マゴメジャズィエフ
イシャム/イシャム・スラウィ
イヴォン/フィリップ・ジュゼット
ジェローム/ヨアン・ジメール
アンヌ/クリゼット・コルニル
ジュリアン/ローラン・カロン
ドミニク/フランク・レズネ
アルフォンス/セルジュ・コト
シャルリー/モルガン・マリンヌ
ロベール/ジャンニ・ラ・ロッカ
カデール/ベン・アミドゥ
ミゲル/キャロル・ジャド
2014年・ベルギー、フランス、イタリア映画・95分
配給/ビターズ・エンド

<ダルデンヌ兄弟が、今風のシンプルな問題提起を!>
 ダルデンヌ兄弟といえば、カンヌ国際映画祭で二度のパルム・ドール賞を受賞したこと等で有名。私は、そのダルデンヌ兄弟の作品を『ロルナの祈り』(08年)ではじめて観たが、その衝撃度は大きく、はじめて韓国の鬼才キム・ギドク監督作品を観た時と同じような衝撃を受けた(『シネマルーム22』133頁参照)。そんなダルデンヌ兄弟が、世界中に格差が広がる中でさまざまな労働問題が顕在化している今、何ともシンプルな今風の問題提起を!
 弁護士生活を40年間続けている私には、本作に見る労働問題は少し単純化されすぎており、現実味に薄いきらいがある。しかし、仕事を続けるための条件が、16人の同僚のうち過半数がボーナスではなくサンドラ(マリオン・コティヤール)を選ぶこと、つまり、ボーナスをとるか、サンドラをとるかの二者択一を迫る本作は、去る5月17日に実施された大阪都構想の賛否を問う住民投票と同じように興味深い。住民投票は4月27日の告示日から5月17日の投票日までの、投票日を含む熱く長い戦いだったが、金曜日に上司から解雇を言い渡されたサンドラの場合は、同僚たちの説得のために与えられた時間は週末の2日間だけ。また、住民投票では大阪都構想の内容の理解がイマイチだったため、橋下大阪市長は最後の最後に有権者への説得戦術を大きく転換したが、さてサンドラは?

<解雇は合法?映画の設定そのものの可否は?>
 
飲食店で働く夫のマニュ(ファブリツィオ・ロンジォーネ)と2人の小さな子供と暮らし、ソーラーパネル工場で働いているサンドラが、体調不良のためしばらく仕事を休んだのはやむをえない。ようやく仕事に復職できたのは、喜ばしい限りだ。そんな矢先の金曜日、サンドラは突然解雇の言い渡しを受けたが、その理由は「社員たちにボーナスを支給するために、ひとり解雇する必要性がある」というもの。もっと詳しく説明すると、「会社はアジアが勢力を伸ばしている世界情勢の中で余裕はなく、サンドラが休職している間に16人で仕事が回ることを実感した以上、何かを削らなければ17人雇うことはできない」というわけだ。しかし、そんな解雇理由ってホントにあるの?また、合法的なの?
 弁護士の私に言わせれば、会社からのそんな理由による突然の解雇は違法!したがって、ようやくマイホームを手に入れ、夫と共に働いて家族を養おうとした矢先のそんな解雇通告に対しては、不当解雇断固反対!と主張し、労働事件専門の弁護士に依頼すれば、きっと勝訴できるはずだ。しかも本作は、その後同僚の取りなしによって、「週明けの月曜日に16人の同僚たちによる投票を行い、ボーナスを諦めてサンドラを選ぶ者が過半数を超えれば仕事を続けられることになる」という設定になっているが、この設定もイマイチ不可解だ。フランスでは、そんな中途半端な「解決策」がホントにまかり通っているの?こりゃ、日本流の「和をもって尊しとなす」という「和解案」では?
  もちろん、そんな視点で、そんな映画を作ることも可能だが、ダルデンヌ兄弟の目的はそんな労働争議の映画を作ることではない。ダルデンヌ兄弟の興味の対象はあくまで、サンドラの「生き方」(の選択)にある。さあ、いきなりそんな境遇に置かれた中で、サンドラは共に働く仲間をとるの?それともボーナスを取るの?そんなシビアな選択を迫られることに・・・。

<揺れ動くサンドラの気持ちVSそれを支える夫の信念>
 本作でサンドラを演じたマリオン・コティヤールは、第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたが、それはワンイッシュの95分という比較的短尺な本作で、人生の選択に揺れ動くサンドラの気持ちを等身大かつ表現力豊かに演じたためだ。マリオン・コティヤールは『エディット・ピアフ 愛の讃歌』(07年)では伝説の歌手エディット・ピアフに恐ろしいほどまでになり切っていた(『シネマルーム16』88頁参照)。その結果、私が「アカデミー賞最有力!は誇大広告にあらず!」と書いたとおり、見事第79回アカデミー賞主演女優を受賞した。しかし、本作ではそれとは大きく異なり、ノーメイクかつタンクトップの普段着に徹して、気持ちが大きく揺れ動くサンドラ役を演じている。第87回アカデミー賞では、主演女優賞の対抗馬が『アリスのままで』(14年)のジュリアン・ムーア、『博士と彼女のセオリー』(14年)のフェリシティ・ジョーンズ、『ゴーン・ガール』(14年)のロザムンド・パイク、『わたしに会うまでの1600キロ』(14年)のリース・ウィザースプーンだっただけに、明らかにマリオン・コティヤールは分が悪く、ジュリアン・ムーアが受賞したが、その結果には私も納得だ。
  本作で注目すべきは、同僚に対して「ボーナスを諦めてくれ」となかなか言い出せないサンドラ、さらにややもすれば「自分は必要のない人間」と卑下してしまうサンドラに対して、「これは生活のためだけではなく、生きる自信を取り戻すための行動だ」と一貫して応援し続ける夫マニュの支えぶり。  本作が設定した時代のフランスの「雇用事情」が具体的にどうなっているのかは知らないが、サンドラやマニュがこの職場に固執したのは、当然転職先が少ないことを考えてのこと。それはそれとしてわかるのだが、なぜマニュはそこまでの信念を持ってサンドラを支え続けることができたのだろうか?『サンドラの週末』の主役はあくまでサンドラだが、それを演出したのはすべて夫のマニュだから、本作ではサンドラだけではなくマニュの信念にも注目したい。

<週末2日間の説得活動の展開は?>
 大阪都構想をめぐる5.17住民投票は、投票までの活動期間が3週間あったが、サンドラに与えられた同僚の説得期間は土日の週末2日間だけ。本作のパンフレットには、タレントでエッセイストの小島慶子氏による「Essai 人の数だけ一大事がある」があるが、それを読むまでもなく、サンドラを含めて従業員17人の中小企業(工場)に働く1人1人の労働者には、「人の数だけ一大事がある」のは当然だ。今度のボーナスは家のリフォーム費用にあてるから、それを諦めるなんてもっての他。そう考えるのは当然。ボーナスをあてにする理由が、娘の学費のためだったり、妻が失業したためだったり、理由はさまざまだが、所詮世の中はカネ・・・?
  したがって、いったんはサンドラの頼みを断ったのに、夫婦ゲンカはおろか夫との離婚まで決意してサンドラの味方をするという同僚の出現にはビックリ。さらに、サンドラは正規雇用だが、それより条件の悪い臨時雇いの移民(?)もいたから、そんな彼らに対してもサンドラは「ボーナスを諦めて」と説得できるの?他方、サンドラの申し出はあまりに身勝手だと頭から拒否したばかりか、サンドラを罵倒した同僚がいたのも当然。そんな展開の中で殴り合いのケンカにまで発展したのはちょっとヤバイが、とにかくサンドラにとってこの週末の2日間は大変だ。
  ダルデンヌ兄弟はそんな人間ドラマを要領よく描いていく。その結果、月曜日の投票に向けて、賛否はほぼ拮抗。5.17の住民投票の事前予想と同じだ。さて、「ある事件の発生」によって、いったんは同僚たちの説得を断念しながらも、結局は土日の週末をフルに同僚たちの説得活動のために動いたサンドラの努力は報われるのだろうか?

<投票の結果は?その後の思わぬ展開は?サンドラの決断は?> 
 5.17住民投票の投票率は66.83%。そして、賛成694,844票(49.6%)VS反対705,585票(50.4%)と、その差はわずか10,741票だった。この住民投票は投票率や投票数に関係なく、賛成票もしくは反対票が一票でも上回れば、それに決まるというルールだった。しかし、サンドラの場合は、あくまでも過半数が必要。つまり、8:8の同数ではダメで、9:7にならなければサンドラの職場復帰はないというルール。しかして、その投票の結果は?
  本作は「ネタバレ厳禁」とうたっていないので、あえて結果を示せば、8:8の同数。したがってサンドラの職場復帰は否決されたわけだ。橋下徹市長の敗北引退会見と同じく、投票の結果を受けたサンドラの態度も潔いもの。ロッカーから持って帰るべき私物もたいした量ではないし、同僚との別れもあっさりしたものだ。なるほど、なるほど・・・。
  そう思っていると、本作には最後の「どんでん返し的展開」が待っているので、それに注目!さすがダルデンヌ兄弟の、人間を描く姿勢は善意に満ちあふれていることがよくわかる。大阪都構想をめぐる住民投票でも、僅か1万票余りの僅差だったことにどこまで意味を認め、そのことを踏まえて何をやっていくかが一つの焦点だが、サンドラの場合も8:8という投票の結果を受けて、経営陣は再度会社の収益や経費のあり方を見直したらしい。その結果、2カ月後にやってくる臨時雇いの契約を更新しなければサンドラを社員として復帰させても収益のバランスが取れることがわかったらしい。さて、経営陣から新たにそんな提案を聞かされたサンドラの再度の選択と決断は?
  もちろん人間味豊かなあなたのことだから、サンドラの選択はわかるはずだが、そのストーリーは読めても、スクリーン上でそんな選択の姿を見れば、やっぱり人間っていいものだなと感動できるはず。世知辛い世の中にはなっている昨今だが、たまにはこんな人間味溢れるストレートな結末に、気持ちをスッキリさせたいものだ。
                                  2015(平成27)年6月4日記