洋15-71

「リピーテッド」
    

                      2015(平成27)年5月28日鑑賞<梅田ブルク7>

監督・脚本:ローワン・ジョフィ
原作:SJ・ワトソン『わたしが眠りにつく前に』(ヴィレッジブックス刊)
クリスティーン(毎朝目覚める度に前日までの記憶を失う女性)/ニコール・キッドマン
ベン(クリスティーンを支える献身的な夫)/コリン・ファース
医師ナッシュ/マーク・ストロング
クレア(クリスティーンの旧友)/アンヌ=マリー・ダフ
2014年・イギリス、アメリカ、フランス、スウェーデン映画・92分
配給/クロックワークス

<本作の設定は?ヒロイン役には誰が最適?>
 交通事故により頭部に負ったケガの後遺症で、記憶が1日だけしか保てない美しい妻。彼女は朝、目覚めると、隣に眠っている男が誰かもわからず、記憶が20代半ばの自分に戻ってしまうらしい。彼女は今40歳だから、ほぼ14年分の記憶が失われているわけだ。そんな彼女には、教鞭をとっている夫を送り出した後電話が。電話の男は「記憶にないだろうが」と前置きをしたうえで、「私は医師のナッシュ。君の記憶障害の原因を探っている神経心理学者だ。治療の一環としてデジタルカメラによる映像日誌をつけさせている。クローゼットの奥に小さなカメラが隠されている」と述べた。言われたとおりクローゼットを探すと、そこには小さなカメラがあり、録画された動画を再生すると、1日の出来事を語る自分の姿が記録されていた。
 そんな設定で始まる「スリラー映画」の主役(ヒロイン)には誰が最適?そりゃ誰が考えてもハリウッド・ビューティを代表するニコール・キッドマンだ。「スリラーは、私がもっとも好きなジャンルのひとつです。以前出演した『アザーズ』のように、複雑で意外性のあるスリラーを探し求めている中で、やっと出会えた作品が『リピーテッド』でした」と語るニコールは、続けて「監督のローワン・ジョフィが書いた脚本はすばらしく、すぐに魅了されました。難解でありながらストーリーを追いやすく、独特の緊張感とテンポを保ちながら、恐怖感を煽り立てていゆくんです。脚本を読み終えた時のぞくぞくした感覚を、いまでもはっきり覚えています」と述べている。そんな彼女の「感覚」が、本作で見せる彼女の演技のあちこちに・・・。

<理想的な夫VS献身的な医師>
 ニコール・キッドマン扮する40歳の妻クリスティーンは確かに美しいが、記憶を1日しか保つことができないから、そんな女と毎日接する夫は大変。本作冒頭には、混乱するクリスティーンに「僕は君の夫のベン」と自己紹介し、自分の留守中無事に1日を過ごせるよう、生活用品の置き場所等々を細かく書いたスケジュール表を壁に貼って出勤していく優しい夫の姿が描かれる。ベンを演じるのは、『英国王のスピーチ』(10年)(『シネマルーム26』10頁参照)で第83回アカデミー賞主演男優賞を受賞したコリン・ファースだが、個性満開の演技を見せた英国王ジョージ6世とは異なり、本作ではあくまで優しくクリスティーンに接する夫ベンの演技が印象的だ。
 他方、こちらも毎日恒例(?)の自己紹介から始め、少しずつ記憶障害の治療を進めているらしい医師ナッシュ(マーク・ストロング)も大変。彼は無償でクリスティーンの治療にあたっているそうだが、それはホントのボランティア精神にもとづくもの?それとも・・・?マーク・ストロングは『シャーロック・ホームズ』(09年)(『シネマルーム24』198頁参照)、『裏切りのサーカス』(11年)(『シネマルーム28』114頁参照)、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14年)(『シネマルーム35』29頁参照)等々でお馴染みの個性的な俳優だが、クリスティーンと優しく接しながら少しずつ彼女の過去を刺激し、記憶障害を治していく知性的な医師役を、説得力を持って演じている。
 本作前半はそんな三人三様の真剣かつ善意で前向きな日々とクリスティーンの記憶障害の治癒に向けての努力が描かれるが、同時に誰かが嘘をついているのでは?どこかに大きな秘密が隠されているのでは?そんな不気味な雰囲気がいっぱい・・・。 

<原作は?設定の違いは?医学的には・・・?>
 本作の原作(下敷き?)とされたのは、英国推理作家協会賞(CWA賞)新人賞に輝いたSJ・ワトソンの小説『わたしが眠りにつく前に』。しかし、パンフレットにある棚橋志行(翻訳家)の「1ページ目から引き込まれる“冒頭50ページの衝撃”」によれば、主人公の年齢や夫と出会った経緯などが相違しているうえ、何よりも1日にあった出来事を記録する媒体が日記からデジタルカメラを使ったビデオダイアリーに変わっているらしい。なるほど、なるほど・・・。
 ところで、近時認知症の映画はもちろん、一時的な記憶障害の映画も多いが、記憶が1日だけしか保てず、毎日「リピーテッド」されていくというクリスティーンのような記憶障害の症例はホントにあるの?少し突っ込んで考えればそういう疑問が湧いてくるが、それについては、パンフレットにある名越康文(精神科医)の「アイデンティティー崩壊の恐怖を描いたサスペンス」を読むことをお勧めしたい。
 本作において、夫には秘密で行っている、ナッシュ医師による治療のポイントになるのは、まずクリスティーンの親友だった女性クレア(アンヌ=マリー・ダフ)との接点。その中でクリスティーンが辿っていく記憶とは・・・?第2のポイントは、どうもクリスティーンは夫以外の男とホテルで密会を重ねていたらしいこと。しかも、そこで男に抱かれた後、クリスティーンは血まみれで廊下を這っていたらしい。断片的にフラッシュバックするクリスティーンのそんな記憶の中で、「マイク」という名前が浮上してきたが、それは一体誰・・・?そんなストーリーが展開し、そんな治療状況でナッシュ医師に関わる中、車という「密室」の中でふと目にしたナッシュ医師のフルネームが「マイク・ナッシュ」であることがわかると・・・。
 さあ、前半は少し説明過多のきらいがあった本作は、後半からは急速にスリラー色とサスペンス色を強めていくことに・・・。   

<女にとって最も重要な記憶は自分の産んだ子供!>                
 それぞれの人間が何を記憶し、何を忘れているかは人それぞれだが、そのポイントになるのは、誰でも自分にとって重要な記憶は残り、どうでもいいことは忘れてしまっているということ。戦後生まれながら、衣食住についてまだ貧しい時代に子供時代を過ごした私には、「あの時初めて食べたハンバーグが美味しかった」とか「あの時お寿司を腹一杯食べてみたかった」等の記憶は具体的に残っているのに対し、ここ数年間で何度も食べたホテルの豪華料理など、なにも覚えていないのはそのためだ。私は名越氏のような精神科医ではないが、そんな視点で見ると、きっと女にとって最も重要な記憶は自分が産んだ子供のこと。したがって、ナッシュ医師による気長な治療が続く中で、まず親友のクレアを思い出し、次にマイクとの不倫と暴行事件をフラッシュバックさせたクリスティーンが、アダムという自分の産んだ息子の記憶に大きく反応したのは当然だ。しかし、ベンの話によれば、アダムは死亡したらしい。そして、ベンを追い詰める中で渋々ベンが告白したところによると、ベンとクリスティーンは4年前に離婚したが、「今は戻ってここにいる」らしい。しかし、ナッシュ医師のフルネームが「マイク・ナッシュ」であることを知ったクリスティーンは、今や一体何を信用したらいいのかサッパリわからなくなっていたから、ベンのそんな告白をどう受けとめればいいの?
 本作はいわゆる「ネタバレ厳禁」の「ミステリーもの」だから、これ以上ネタバレとなるストーリーを書くわけにはいかないが、世の中にはおせっかいな映画好きがいるもの。本作については、Writerzlab(ライターズラボ)に「リピーテッド 完全ネタバレあらすじ・感想・解説」があるので、映画を観ないで筋だけを知りたいという横着な人は、是非そんな資料を参考に・・・。            
                                    2015(平成27)年6月1日記