洋15-69

「パイレーツ」
    

               2015(平成27)年5月23日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:イ・ソクフン
チャン・サジョン(山賊頭、官軍から山賊になった“イカれ虎”)/キム・ナムギル
ヨウォル(海賊の女船長、仲間の信頼を集める勇敢な海の剣士)/ソン・イェジン
ソマ(海賊頭、欲望のままに生きる冷血漢)/イ・ギョンヨン
チョルボン(元海賊、荒波に揉まれるのも山あり谷ありの人生を歩むのも苦手)/ユ・ヘジン
坊主(大酒飲みで肉食系のなまぐさ坊主)/パク・チョルミン
モ・フンガプ(水軍長、サジョンと因縁の関係で結ばれた独眼の男)/キム・テウ
オ・マノ(水軍の役人)/チョ・ヒボン
ハン・サンジル(使臣、国を揺るがすキッカケを作った張本人)/オ・ダルス
チョン・ドジョン(国王の側近)/アン・ネサン
フンミョ(海賊)/ソルリ
チャムボク(海賊)/イ・イギョン
ヨンガプ(海賊)/シン・ジョングン
2014年・韓国映画・129分
配給/ツイン

<娯楽色豊かな「パイレーツもの」は韓国でも大ヒット!>
 ジョニー・デップが主演し、キーラ・ナイトレイらが共演したハリウッドの超娯楽大作『パイレーツ・オブ・カリビアン』(03年)は大ヒットし(『シネマルーム3』101頁参照)、続編の『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(06年)(『シネマルーム11』20頁参照)も、『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』(07年)(『シネマルーム15』14頁参照)も大ヒットした。どちらかというと、シリアスな「戦争モノ」や「歴史モノ」、そして「犯罪モノ」や「恋愛モノ」が好きな私だが、他方でオリジナリティあふれるエンタメ巨編は大好き。そんな私は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』3部作にはすべて星5つをつけた。それを韓国流のアイデアと韓国流のVFXを含む最新技術で大ヒットさせ、2014年までの韓国の興行収入歴代第14位に導いたのが本作だ。
 『パイレーツ・オブ・カリビアン』3部作の舞台はカリブ海。そして、ストーリーの軸となる最大のテーマは、かつてのスペインの征服者コルテスがアステカ人を虐殺して手に入れた「呪われた金貨」だった。15世紀末~16世紀のはじめの「大航海時代」を経て、近時アメリカとの国交回復によって大きく注目されているキューバ島などが浮かぶカリブ海で海賊が活躍したのは16~17世紀のことだった。
 他方、韓国初の「パイレーツもの」となった本作の時代は、1388年、高麗滅亡から朝鮮建国の時代だ。せっかく明の皇帝から朝鮮建国の証しである「国璽」を贈られたのに、使節船が夜間航行中に巨大クジラと衝突し、海上に放り出されたその大切な国璽をクジラにひと飲みにされてしまったから大変。使臣ハン・サンジル(オ・ダルス)は当然切腹(打ち首)ものだが、さてここからどんなストーリーが・・・?

<国璽とは?李氏朝鮮と明国との関係は?>
 2015年は「戦後70年」の年にあたるため、日中関係はもとより、日韓関係も微妙な問題をはらんでいる。ウィキペディアによると、李氏朝鮮が国号を大韓帝国、君主の号を皇帝と改めたのは1897年。これにより、以降李氏朝鮮は日本の影響下に置かれた。つまり、1894年の日清戦争後に日本と清国との間で結ばれた下関条約は李氏朝鮮に清王朝を中心とした冊封体制からの離脱と近代国家としての独立を形式的かつ実質的にもたらしたのである。しかして、本作を観れば、冒頭に使臣ハン・サンジルが明の皇帝から「国の名は“朝鮮”とし、朝鮮国に新たな『国璽』を授ける」と宣言され、うやうやしく「建国の証し」を受け取る風景が描かれるから、これを見れば、李氏朝鮮が中国王朝の冊封体制下に成立したものであることがよくわかる。
 他方、本作冒頭には、1388年の歴史的クーデター「威化島回軍」を暗示するシークエンスが登場するが、多くの日本人はこれを知らないだろう。イ・ソンゲ(李成桂)は高麗王朝を滅亡に追い込み、1392年に朝鮮を建国し、初代国王になった実在の人物だが、高麗時代の国璽を明に返還した後1403年まで、朝鮮には国璽がなかったらしい。しかして、10年間も朝鮮国に国璽がなかったのは一体なぜ?それはひょっとして、使節団が国璽を持ち帰っていた際、クジラに食べられてしまったため?あるいは、海賊に奪われてしまったため?そんなバカな?いやいや、ひょっとして・・・?
 本作が大ヒットしたのは嬉しい限りだし、そんな荒唐無稽な設定も物語としては面白いが、本作によって李氏朝鮮は明国の冊封体制下に成立したものだという歴史的事実が明らかにされたことになる。そんな歴史上の事実を現在の韓国の若者たちはどう理解し、どう受けとめるのだろうか?

<海賊と山賊は、とんだとばっちりを!>
 韓国映画はキャラクター豊かな登場人物が目立つが、本作で最も目立つのは、本作で第51回大鐘賞映画祭主演女優賞を受賞したソン・イェジン演ずる女海賊ヨウォル。彼女が海賊団のボスにのし上がったのは、冷徹なソマ船長(イ・ギョンヨン)を追い落としてのことだから、いわば下克上。しかし、ヨウォルが部下と共に反ソマで立ち上がったのは「盗賊一掃命令が下されたぞ」と告げる水軍の役人オ・マノ(チョ・ヒボン)に対してソマ船長が「ではマノ様のために海賊7人を差し出しましょう」とメチャクチャな提案をしていたためだから、その下克上には正当性がある。本作が大ヒットした理由の大半はソン・イェジン扮するヨウォルの魅力にあるといっても過言ではないから、その美しさとド派手なアクションに注目!
 他方、キム・ナムギル演ずるチャン・サジョンは、血気盛んな高麗兵として1388年の歴史的クーデター「威化島回軍」で、武官イ・ソンゲに対して「都に戻した兵を使ってこの国を乗っ取る気だろう」と食ってかかり、それを制止しようとした隊長モ・フンガプ(キム・テウ)の目を切り裂くという大活劇を展開。大勢の兵に囲まれ危機一髪の中でその場を逃げ去ったサジョンは今、彼を慕う部下たちから「イカれ虎」と呼ばれる山賊になっていたが、山賊の暮らしは厳しそうだ。本作中盤では、本作で第51回大鐘賞助演男優賞を受賞したユ・ヘジンが演じた、海賊のくせに船酔いのクセが治らない男チョルボンが、船酔い生活に別れを告げ、晴れて陸の盗賊へと転身した後のサジョン率いる山賊たちのドジな活躍ぶりが楽しく描かれる。ヨウォル率いる海賊たちの活躍は華麗だが、サジョン率いる山賊たちの活躍(?)は、どちらかというとむさ苦しさも・・・。
 それはともかく、朝鮮初代国王となったイ・ソンゲに対して、「命よりも大事な国璽は母クジラの腹の中に飲み込まれてしまった」などというバカな報告のできない使臣ハン・サンジルは、国王側近のチョン・ドジョン(アン・ネサン)の苦肉の策を容れて、「国璽は海賊に奪われた」と報告したから大変。それを聞いた国王イ・ソンゲは山賊と海賊をすぐさま討伐し国璽を取り戻すよう命じたから、海賊も山賊もとんだとばっちりを受けることに・・・。

<大砲やもりによるクジラ捕りは残酷ではないの?>
 
「海は広いな 大きいな 月がのぼるし 日が沈む」と歌われた唱歌『海』は広く日本人に親しまれているが、それは日本が四方を海に囲まれているため。しかし、山の中で生きている山賊が、海のことを知らないのは当然だ。したがって、海賊から山賊に転身し、“序列30位”になったチョルボンが、サジョン率いる山賊たちに「海ってのは、お~ったまげるほど深く、ぶ~ったまげるほど広い」と説明しても、それが理解できなかったのは仕方ない。そんな山賊たちが、一攫千金を夢見てクジラ捕りにチャレンジする本作中盤のストーリーは、多少むさ苦しいがメチャ面白い。
 他方、ヨウォルがある時、海の中で互いに見つめ合ったクジラを捕獲するべく動いたのは自分の意思ではなく、水軍長モ・フンガプの命令によるもの。かつて威化島でサジョンを捕り逃がし、その時のキズで独眼になってしまったフンガプは今、国王からの命を受けて水軍長となり、国璽奪回の指揮をとっていた。そこで、速度が不十分な軍用船ではクジラに追いつくことができないことを知っているフンガプは、今は海賊の女ボスになっているヨウォルに対して、10日以内にクジラを捕獲しなければ仲間や家族の命を奪うと脅して、クジラ捕りを強制したわけだ。
 クジラを捕らえるには大砲や爆薬、そしてもりが必要なことを知っているヨウォルは、大量にそれらを準備し、仲間たちと共にクジラ捕りに出かけたが、さてその心境は・・・?ちなみに、水族館のイルカの入手方法が残酷で倫理規定に触れるとして、WAZA(世界動物園水族館協会)によって会員資格を停止されていたJAZA(日本動物園水族館協会)はやむなく、去る5月22日までに、和歌山県太地町で行われている「追い込み漁」によって捕獲されたイルカの購入を禁止する決定を下したが、大砲やもりによるクジラ捕りは残酷ではないの・・・?

<これぞエンタメ!四者入り乱れるクジラ捕りと大海戦!>
 本作は韓国映画らしい、エンタメに徹した作品として仕上がっている。本作のクライマックスには「善玉」として、①仲間の命を守るためクジラを探さなければならない海賊ヨウォルと②クジラの腹に飲み込まれた財宝を狙い、海に出た山賊サジョン、の姿がカッコよく登場する。他方、「悪玉」として、③国璽を奪回し、サジョンを討ち取ろうとしている水軍長フンガプ、④ヨウォルへの復讐を果たすため、海に蘇った悪の船長ソマ、が登場する。そして、クライマックスに向けては、この「四者」入り乱れてクジラ捕りと、大海戦(?)の模様が描かれていく。もちろん、そこでの勝者が最終的に誰になるのかはハッキリしているが、そこに至るまでのサジョンとヨウォルとの淡い恋模様(?)の展開を含め、その楽しさをタップリと味わいたい。
 ちなみに、①明治時代の日本海軍がロシアのバルチック艦隊を破った「日本海大海戦」(1905年)や、②イギリスのネルソンがスペインの無敵艦隊を破った「トラファルガーの海戦」(1805年)は世界的に有名。また、『300 ~帝国の進撃~』(14年)で描かれた、カルタゴがペルシャを破った「サラミスの海戦」(紀元前480年)も有名だ(『シネマルーム33』202頁参照)。それらの海戦シーンはいつ観ても興奮させられるし、興味深い。本作に観るヨウォルが乗る海賊船やソマが乗る最速船を含めた「海戦」はそんな本格的なものではなく、『パイレーツ・オブ・カリビアン』三部作(03~07年)と同じようなエンタメ色いっぱいのものだが、ソン・イェジンが初めて挑戦したワイヤーアクションを含めて、そのカッコよさに酔いしれたい。
 しかして、話は歴史の本筋に戻って、クジラの腹に飲み込まれてしまった肝心の国璽はどうなったの?本作の鑑賞が終わる頃はハッキリ言ってそれはもうどうでも良くなっている人が多いのでは・・・?  
                                2015(平成27)年5月28日記