洋15-63

「コングレス未来学会議」
    

      2015(平成27)年5月19日鑑賞<ビジュアルアーツ専門学校大阪試写室>

監督・脚本:アリ・フォルマン
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン
原作:スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議』(集英社刊)
ロビン・ライト(アメリカ人女優)/ロビン・ライト
アル(ロビンの代理人)/ハーヴェイ・カイテル
ディラン・トゥルーリナー(ミラマウント社でロビンのCG制作を担当するアニメーター)/(声)ジョン・ハム
ドクター・バーカー(アーロンの主治医)/ポール・ジアマッティ
アーロン・ライト(ロビンの息子、アッシャー症候群)/コディ・スミット=マクフィー
ジェフ・グリーン(ミラマウント社のCEO)/ダニー・ヒューストン
サラ・ライト(ロビンの娘)/サミ・ゲイル
2013年・イスラエル、ドイツ、ポーランド、ルクセンブルク、フランス、ベルギー映画・120分
配給/東風、gnome

<『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督の新作は必見!>
 2009年の第81回アカデミー賞外国語映画賞で『おくりびと』(08年)(『シネマルーム21』156頁参照)の「対抗馬」とされたのが、アリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』(08年)。これは、イスラエル人であるアリ・フォルマン監督が19歳の時に兵士として体験した、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻と「サブラ・シャティーラの虐殺」を描くもの。そして、「アニメとドキュメンタリーの融合」が最大の売りだった。
 私は基本的にアニメはあまり好きではないが、この映画の幻想的なアニメのシーンの美しさには目を奪われたし、同作の問題提起は安全神話にどっぷり浸っている日本人には重要なものだった。そのため、当時大阪日日新聞に「弁護士 坂和章平のLAW DE SHOW」を連載していた私は、2009年11月28日に本作を取り上げ、「友愛も良し。18歳成人も良し。しかしそんな自由な議論も平和なればこそ。そう実感すれば、平和のために何をすべきか?問題意識とやさしさだけでは対処できない厳しい世界の現実を本作から感じ取りたい」とまとめた(『シネマルーム23』93頁参照)。
 そんなアリ・フォルマン監督の最新作が、2013年の第66回カンヌ国際映画祭の監督週間のオープニング作品とされた本作だが、そもそも、タイトルからしてこりゃ一体ナニ?

<近時のハリウッドの新ビジネスとは?>
 中盤に実写から突然アニメーションに移行し、最後にまた実写に移行する本作最大の特徴は、発想の自由さ。本作によれば、2014年のハリウッドでは既に、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画を作るというビジネスが発明されており、既にキアヌ・リーブスらが契約書にサインしたそうだ。しかして、本作冒頭には『プリンセス・ブライド・ストーリー』(87年)や『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94年)で有名なハリウッド女優ロビン・ライト(ロビン・ライト)に、大手製作スタジオのミラマウント社のCEOであるジェフ・グリーン(ダニー・ヒューストン)からお声がかかってくる姿が描かれる。
 たしかに俳優の肉体、表情、あらゆる感情をスキャンし、CGで作り上げたホンモノそっくりのキャラクター俳優を創り出すくらいのことは、最新の技術をもってすれば可能。これによって、CG化した俳優は歳をとらず、スタジオの意向のままに映画に出演し、演技をすることができる。そして、契約後は一切演じることを禁止されることの見返りに、俳優としての肖像権をスタジオに譲渡し、スキャンされた俳優は、高額の報酬を得ることができるわけだ。
 ミラマウント社のジェフはロビンが生身の女優としてやっていくことの限界を断言して契約を迫ったが、さてロビンは・・・?さらに、若い頃は脚光を浴びたスターだったが、40歳を過ぎた今ではなかなか新作に恵まれない彼女をよく知っている代理人のアル(ハーヴェイ・カイテル)も、そのオファーを受け入れるよう進言したが、さてロビンは・・・?

<原作は、20世紀SF界の巨星スタニスワフ・レムの傑作!>
 本作の原作は、20世紀SF界の巨星スタニスワフ・レムの『泰平ヨンの未来学会議』。しかし、プレスシートにあるアリ・フォルマン監督のインタビューを読むと、本作はたしかにそれを原作にしているが、小説の主人公である泰平ヨンは探検家で科学者だったが、映画化に際しては、それを女優に置き換えたらしい。その点についてのアリ・フォルマン監督の説明は次のとおりだ。

 僕の基本的な考えは、古典を翻案するなら、元のテキストに囚われることなく、自由になる勇気を持つ必要がある、ということなのです。
 原作にない新たな次元を見出したいし、本のなかでは共産主義体制の時代が寓意化されているところがあるけれど、そこは現代の生活に見合うよう改変しなければならない。そう考えながら脚本を書いているうちに、小説に書かれた化学薬品による独裁体制は、エンターテインメント業界、とくに巨大スタジオが牛耳る映画産業における独裁体制をとりあげるというように変わっていったんです。だから、もう若くはない女優が物語に巻き込まれてゆくというテーマは、プロセスのなかで生まれたものです。

 ここまで紹介してもらうと、何となく本作のイメージが湧いてくる。しかし、本作を通底するテーマは、「加齢」、「自由意志」、「死の運命」といった哲学的な深い問いかけらしいから、本作をちゃんと理解するのは難しいはず。本作の鑑賞には、事前のそんな覚悟が不可欠だ。

<なぜロビンは契約締結を?20年後のロビンの任務とは?>
 本作前半では、本作のストーリー形成に重要な役割を持つ、ロビンの娘サラ・ライト(サミ・ゲイル)と、聴力と視力が徐々に失われるアッシャー症候群という難病を持つロビンの息子アーロン・ライト(コディ・スミット=マクフィー)が登場するので、それに注目!さらに、ロビンが信頼するアーロンの主治医バーカー医師(ポール・ジアマッティ)によるアーロンの診察の様子が描かれるので、それにも注目!
 アーロンの病状や診察結果についてバーカー医師が語る言葉には説得力がある。人間にとって、難聴になり、やがて耳が聞こえなくなることや、少しずつ視野が狭くなり、やがて目が見えなくなることは大きな恐怖。しかし、外から与えられる刺激を潜在意識によって自分なりに解釈しているアーロンは、「50年後の映画のようで、未来を体験しているようなもの」だというわけだ。バーカー医師のそんな言葉に納得し、さらにアルの後押しも受けたロビンは、いくつかの条件をつけてミラマウント社と契約を結ぶことに。
 そんなロビンにもたらされた20年後の重要な任務が、アブラハマシティで開催されるミラマウント社の未来学会議に出席し、ある報告をすることだが、さてこの会議はナニ?そして、そこでロビンがなすべき報告とは?

<アブラハマシティで開催された未来学会議では一体ナニが?>
 ロビンがミラマウント社と契約を結んでから既に20年が経っているから、その方面の技術の進歩は凄いはずだ。それがわかるのは、ロビンがジェフから「未来学会議で、とある発表をすること、そして新しい条件付きで契約延長をしてもらいたいこと」と告げられた時だ。化学薬品を使った娯楽の提供へと方針転換したミラマウント社は今、ミラマウント・ナガサキとして薬品を開発。その“新薬”として、ロビンを売り出したいというわけだ。さて、20年後にそんなことがホントに許される社会が到来しているの?そこらあたりが焦点だが・・・。
 ロビンがアブラハマシティの中に入った瞬間、スクリーンは突然極彩色の美しいアニメーションに切り替わるのでそれに注目!そこでは、ロビンのCGキャラクターが主演する大ヒットSFシリーズ『エージェント・R』の新作が上映されていたが、年老いた本人が今、アブラハマシティにあるミラマウント・ホテルに滞在していることに誰も気づかなかったのは当然だ。大ホールのステージに立ち、熱狂する観客に向かって、新薬の完成と市場販売の開始を宣言するのは、ミラマウント社の社長ボブス。ちなみに、このシーンは誰がどう見ても、Appleが2001年10月にiPodの発売を発表した時のスティーブ・ジョブズ氏の姿そのものだ。ボブスの紹介によって、ロビンが特別ゲストとして登壇したが、さて彼女はミラマウント社の思惑どおりの報告をするのだろうか?さらに、大ホールの観客席の中には20世紀の暗殺風景よろしく、ボブスを銃砲で狙う男がおり、熱狂する会場の中で、ホントにそれが発砲されたから会場は大混乱。さあ、大パニックに陥った未来学会議の結末は?

<中盤からキーマンが登場!更に20年後は?>
 未来学会議の襲撃は「アブラハマ革命」と名付けられたそうだが、これはいかにもイスラエル人監督アリ・フォルマンの発想らしく、今ドキ中東各地で起きている〇〇革命、△△革命を彷彿させるものだ。本作がユニークかつ「何でもあり」なのは、アブラハマ革命時の幻覚ガスの被害で治療不可能な幻覚病と診断され、凍結されてしまったロビンが、その20年後に再び病室で目覚めること。そしてまた、「アブラハマ革命」の混乱時に幻覚病によって意識を失いそうになったロビンを懸命に救助した男ディラン・トゥルーリナー(声:ジョン・ハム)が再び登場してくることだ。
 ディランは、ロビンのCGキャラクターのアニメーターを20年間務めていたが、未来学会議の内容を知ってミラマウントを辞職し、ロビンに思いを寄せるようになっていた男だが、そんな2人の20年後の再会によって生まれてくるものは・・・?

<こっちの世界とあっちの世界、終盤に至り論点が明確に!>
 アブラハマシティに見たアニメーションの絵は非常に美しかったが、そこで起きた「アブラハマ革命」の20年後にロビンとディランの2人が見せるアニメーションの世界も美しい。そこではミラマウント社が目論んだとおり、薬さえ飲めば誰もが自らの望む姿で生きることができる世界が実現していたが、さてロビンが捜し求めるアーロンは今、どちらの世界にいるのだろうか。ロビンもディランもアッシャー症候群になる薬を吸い込み、翼を手に入れたことによって遠い旅に出たが、結局アーロンを見つけることはできなかった。
 そんなストーリー展開が続く中、ディランの説明によって明確になるのは、今アーロンやディランたちが生きている「こちら側の世界(=幻想の世界)」とは別に、幻想の世界を拒否した人々とこちらの世界の運営者が生きている「向こう側の世界(=真実の世界)」があるということ。さらに、ディランの説明によると、ディランは幻覚を消し去り、「向こう側の世界」に行く薬を1錠だけ持っているらしい。今やアーロンとディランは互いの愛を確認し合っていたが、アーロンが真実の世界に居ると直感したロビンは、たった1錠しかないその薬を飲みこみ、ディランに別れを告げることに・・・。この薬を飲むことによってロビンの世界が「こちら側の世界」から「向こう側の世界」に変わるとすると、ひょっとしてスクリーンもアニメーションから実写に・・・?

<ラストの「奇跡」をどう解釈?>
 私にとってかなりの衝撃作だった本作については、ここまでややこしいストーリーをそれなりに解説してきたが、スクリーンがアニメの世界から再びみすぼらしい服をまとった生身の人間たちの姿になると、私でさえ「真実の世界」より「幻想の世界」の方がいいのでは?そんな錯覚に陥ってしまう。ロビン・ライトは1966年生まれの女優だが、『ドラゴン・タトゥーの女』(11年)で「ミレニアム」の美人編集長であるエリカ・ベルジェ役を演じていた(『シネマルーム28』37頁参照)くらいだから、それなりの美人。しかし、「アブラハマ革命」から20年後の「真実の世界」の老婆役になると、さすがに女としての魅力は失せてしまう。
 本作ラストには「真実の世界」に戻ったロビンが、再びバーカー医師と会うことになる。そして、ロビンはバーカー医師から①ロビンが凍結されていた19年間ずっと、「真実の世界」でロビンを待ち続けたアーロンの病状は悪化し、視力もほとんど失ってしまったこと、②バーカー医師はアーロンに対してかねがね「幻覚の世界」へ行くことを勧めていたが、半年前になってようやく「幻想の世界」へ行くことを決心したこと、を告げられるシーンが登場する。ここではさすがにロビンはニッチもサッチもいかなくなったことが明らかだ。
 本作導入部では、ロビンの息子アーロンは自らをライト兄弟の後継者と考えており、巨大な凧を作り、本物の旅客機に衝突させることによって自分の病状も改善すると信じているかなり変わったキャラクターとして描かれているが、その意味がわかるのは、本作ラストに起きる「奇跡」の中だ。また、何ゴトも正確かつ論理的に説明するバーカー医師から「潜在意識が作用する幻覚の世界では、心境の変化で環境が変わってしまうため同じ世界には戻れない」と説明されると、ロビンも納得せざるをえないが、それでもなお、ロビンはアーロンと再会するため、再び幻覚の世界に行こうとすることに。
 しかして、本作ラストに登場する奇跡とは・・・?それをどう解釈するかは、あなた次第だ。
                                  2015(平成27)年5月21日記