日15-55

「龍三と七人の子分たち」
    

                2015(平成27)年5月5日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一
龍三親分(昔気質の任侠ジジイ)/藤竜也
若頭のマサ(賭けごと大好き狂犬ジジイ)/近藤正臣
はばかりのモキチ(小銭に目がないペテンジジイ)/中尾彬
早撃ちのマック(一番危ない拳銃ジジイ)/品川徹
ステッキのイチゾウ(仕込み刀の和服ジジイ)/樋浦勉
五寸釘のヒデ(左官屋風味の釘投げジジイ)/伊藤幸純
カミソリのタカ(のど元掻き切るレイザージジイ)/吉澤健
神風のヤス(セスナで空飛ぶ突撃ジジイ)/小野寺昭
西(京浜連合のボス)/安田顕
佐々木(ボスを支えるNo.2)/川口力哉
北条(ミスター布団詐欺)/矢島健一
徳永(ミスター取立詐欺)/下條アトム
田村(ミスターオレオレ詐欺)/山崎樹範
松嶋(ミスタージジイ狩り)/川野直輝
龍平(龍三の息子)/勝村政信
キャバクラのママ/萬田久子
村上(ジジイを見守るマル暴の刑事)/ビートたけし
2015年・日本映画・111分
配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野

<ジジイネタ、やくざネタを北野流に演出!>
 芸人としてのビートたけしの天才ぶりは明らかだが、映画監督としての北野武が天才かどうかは私にはよくわからない。『TAKESHIS’』(05年)(『シネマルーム9』398頁参照)や『監督・ばんざい!』(07年)(『シネマルーム15』416頁参照)はかなりくだらない映画だったし、自分自身が出演した『その男、凶暴につき』(89年)、『HANA-BI』(98年)、『アウトレイジ』(10年)(『シネマルーム24』88頁参照)、『アウトレイジ ビヨンド』(12年)も、ワンパターンな映画だった。それが北野武監督流といえばそうかもしれないが、カンヌ国際映画祭やベネチア国際映画祭で次々と賞を獲るほどの映画?私にはそんな疑問が強かったが、70代のジジイやくざを黒澤明監督の名作『七人の侍』(54年)風に配置した本作は、わかりやすくかつ面白い。
 現在、70代のジジイは私たち団塊世代より少し年上だが、そのパワーは今なお変な形で健在だ。もっとも、その存在がかなり疎外されたものであることは本人が十分自覚しているから、おとなしくしていれば問題はないが、いったんそのパワーを炸裂させるとその行動は常軌を逸したものに・・・。本作に登場する70代のジジイたちはみんな元やくざという肩書きを持っているから、元々特殊な人間。したがって、そんなジジイたちが結束して組を結成し、パワーを発揮すれば、ケッタイなことになってしまうのは当然だ。しかし、それでもこのジジイたちの行動には一種の清涼感が!それは一体なぜ?さすが天才・北野武監督。いかにも芸人上がりの監督らしく、それをユーモアに包みながら見事に演出!

<藤竜也と近藤正臣がいい味を!>
 本作とよく似たテイストの映画が、2014年3月14日に亡くなった宇津井健が圧倒的な存在感を見せた『死に花』(04年)。そこでは、宇津井健や山崎努、青島幸男、谷啓ら4人のユニークな70歳超老人軍団が織りなす、悪ガキ顔負けのカッコいい(?)銀行強盗の様子が面白かった(『シネマルーム4』338頁参照)。それに対して、本作で圧倒的な存在感を見せるのは、新たに結成した「一龍会」のリーダーとなった龍三に扮する藤竜也と、その若頭のマサに扮する近藤正臣の2人。藤竜也は北野武監督作品初出演だが、若い頃は大島渚監督の『愛のコリーダ』(76年)等の演技で世界を唸らせたもの。また、NHK大河ドラマ『龍馬伝』で山内容堂役を怪演した近藤正臣も、若い頃は相当なイケメンで鳴らしていた俳優だ。
 龍三親分とマサの召集によって、上野の西郷さんの銅像の下に集まったのは、①はばかりのモキチ(中尾彬)、②早撃ちのマック(品川徹)、③ステッキのイチゾウ(樋浦勉)、④五寸釘のヒデ(伊藤幸純)、⑤カミソリのタカ(吉澤健)、⑥神風のヤス(小野寺昭)だが、これらの面々は「客寄せパンダ」的キャラクターとしての面白さだけ。しかし、龍三親分とマサの2人は、哀愁を帯びた70代の引退やくざ役を実にカッコ良く演じている。また、ただ1人だけ「京浜連合」の西(安田顕)たちに殺されてしまうモキチは、みじめたらしい役ながらストーリーの進行役として重要な役割を果たしている。
 ビートたけし扮する村上刑事が言うように、「暴対法」が施行されている今、西のようなあくどい企業経営者以上に龍三やマサたちの元やくざが警戒されるのは仕方ない。したがって、今ドキ鶴田浩二や高倉健ばりの「殴り込み」が成立するはずはない。そのため、死体となったモキチを車椅子に乗せて西の本社に殴り込みをかけるシークエンスは、北野武監督流のブラックギャグが満載となる。このシークエンスは中尾彬には少し気の毒だが、『アキレスと亀』(08年)(『シネマルーム21』286頁参照)、『アウトレイジ ビヨンド』に続く北野武監督作品3作目の登場だから、まあ我慢してもらおうか・・・。
 特攻隊志願の神風のヤスを含む6人の子分たちは、現実には殴り込みの中でほとんど何の役にも立っておらず、その他大勢の「客寄せパンダ」的な存在にすぎないが、それと好対照に藤竜也と近藤正臣が突出していい味を出しているので、本作ではそれに注目!

<やくざの仕事は?収入は?>
 龍三親分たちの同窓会(?)が盛り上がる中で昔話に花が咲き、「どうせ先は長くないのだからもう一度組をつくり、やりたい放題の京浜連合をやっつけよう!」となったそもそものきっかけは、龍三親分が「オレオレ詐欺」に巻き込まれ、危うく500万円を詐取されそうになったこと。その黒幕が、オレオレ詐欺師の田村(山崎樹範)らを使って詐欺や強請り、悪徳訪問販売などで稼ぐ、表向きはIT企業だが、実態は元暴走族の京浜連合だ。本作中盤では、悪質な取立や布団のインチキ訪問販売、食品偽装問題の抗議デモ等々の現場で何かと京浜連合と対決する一龍会の姿が描かれるが、さて龍三親分たち一龍会の面々の仕事は?その収入は?
 それをしっかり考えれば、やくざという仕事の存立基盤がないことがよくわかるはずだ。龍三親分たちが詐欺のような恐喝のような形で受け取った数百万円を元手として展開する、競馬場でのシークエンスはメチャ面白い。残った10万円を5-5の1点張りに決めた龍三親分が両手で合図を送ったのはいいが、悲しいかな、若い頃の武闘(?)のおかげで指を2本詰めていたため、遠目からそれは3-5に見えたらしい。そのため、数千万円になると一瞬喜んだ大穴がパーに・・・。いかにも北野武監督らしいギャグの展開を楽しみながら、ヤクザの仕事や生活についてもしっかり考えたい。

<70代でも、あの方面はまだお盛んらしいが・・・>
 北野武が監督するやくざ映画にはいい女が登場しないのが原則(?)だが、本作には紅一点として萬田久子がキャバクラのママ役で登場する。そもそも、ロクに稼いでもいない一龍会の面々がキャバクラで豪遊すること自体ナンセンスだが、そこで久しぶりに再会したママと龍三親分の仲が復活する(?)のも普通はナンセンス。息子の龍平(勝村政信)夫婦から「元やくざ」というレッテルを貼られて徹底的に疎外されている龍三が、キャバクラの美人ママから「今夜泊まっていってもいいわよ」「背中の彫りものを見せて」と迫られたらメロメロになるのは当たり前。さすが若い頃に鍛えただけあって、パンツ1枚の姿で仁王立ちになり、背中の彫りものを見せつける藤竜也の貫録は大したものだ。
 もっとも、そこに珍入(?)してきたのが、京浜連合の西という展開は意外。何のことはない。キャバクラのママとはいえ、このママは西の囲いものだったわけ・・・?急いでバスルームに隠された龍三が、西たちにママが酒を飲ませているうちにママの(女モノの)服を着てそそくさとマンションから逃げ出すシーンを見ていると、面白いを通り越し、北野武監督流のバカバカしさに失笑・・・。龍三は70代でもあの方面はまだお盛んらしいから、そんなシーンをたっぷり観ることができなかったのは残念だが、それも照れ屋らしい北野武監督流・・・。

<近時最低のカーアクション(?)にも注目!爽快感が!>
 近時の『007』シリーズの『007/ダイ・アナザー・デイ』(02年)(『シネマルーム2』117頁参照)や『007/慰めの報酬』(08年)(『シネマルーム22』88頁参照)を観れば、そのカーアクションの迫力はすごい。また、『TAXi』シリーズ、『ワイルド・スピード』シリーズ、『トランスポーター』シリーズ等々を観ても、そのカーアクションには徹底的にカネをかけ、トコトンそのスリルを追求していることがわかる。もっとも、そのスピード感があまりに強すぎると、動体視力の衰えた団塊世代の私の目には少ししんどいが・・・。
 そんなカーアクション大作に慣れた目で見ると、本作のハイライトシーンになる、路面バスをハイジャックした龍三たちがバスの運転手を叱咤激励しながら西たちが乗るベンツを追跡するカーアクションのスピード感とスリルの乏しさは近時最低のレベル。本作は、そもそも龍三とマサのカッコ良さを見せつけるのがストーリーの軸だから、京浜連合の西やその配下にある北条(矢島健一)、徳永(下條アトム)、田村、松嶋(川野直輝)らのだらしなさが際立つのは仕方ない。しかし、それにしてもベンツに乗っていながら、路面バスの追跡を逃げ切れないというのは、いかがなもの・・・。
 とはいえ、カネはかけなくとも、また撮影に時間はかけなくとも(ちなみにパンフレットによれば、このバス・チェイスの撮影はオープン・セットで行われたそうだ)、クライマックスを盛り上げるストーリー構成さえしっかりしていれば、それなりの納得感はあるもの。龍三たちが、ベンツに乗った西たちを引きずり下ろしたところで村上刑事が登場し「御用!」となる結末のつけ方は、爽快感でいっぱい。京浜連合という「ゴミ」を社会から叩き出した龍三と七人の子分たちも、一龍会を結成し、行動した意味があったというものだ。

<ジジイたちの権力闘争は?龍三親分の名言集にも注目!>
 2012年12月16日の第46回衆議院議員総選挙と、2013年7月21日の第23回参議院議員通常選挙で自民党が圧勝したことを受けて、現在の日本の政治は「一強多弱」体制になっている。また、自民党内でも石破茂は内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域)と地方創生担当大臣の仕事に専念しているうえ、谷垣禎一幹事長は次期総裁選挙への野心を全く見せないため、安倍晋三総理総裁の一人勝ちになっている。日本は民主主義国として良くも悪くも選挙の洗礼を受けることによって総理総裁の正当性が担保されるが、本作で龍三が一龍会のボスに選出される過程は?それは「史上もっともフェアな組長の決め方」と言えなくもないが、いかにも北野武監督流のギャグに溢れている。それは、マサが発案した「殺しが10点、傷害が5点な、詐欺が2点で懲役1年につき1点だ。一番点数の高いのが親分、2番目が若頭、あとはみんな組員ってことでいいか?」という「前科点数制」。その結果、累計点数が最も高かった龍三親分が組長に、そして次点のマサが若頭に選出されたわけだが、本作を見ている限り、この指導体制が揺るがず、権力闘争の欠片も見えないところがお見事だ。
 政治の世界でも、①1951年にサンフランシスコ平和条約を締結した吉田茂総理、②1960年の日米安保条約改定を成し遂げた岸信介総理、③1989年に消費税3%を成し遂げた竹下登総理、④1997年に消費税5%を成し遂げた橋本龍太郎総理、⑤2005年に郵政民営化を行った小泉純一郎総理、等々1つの政権でできる大きな課題は1つだけ。したがって、本作に見るように一龍会を再結成したうえ、京浜連合を叩きのめした龍三は、一龍会のリーダーとして大きな仕事を成し遂げたわけだ。しかし、そんな「龍三と七人の子分たち」に今後待っているのは、傷害罪等々の裁判と刑務所暮らし。しかして、本作ラストの龍三親分とマサの間で交わされるセリフは何とも味わいのある面白いものなので、それに注目!
 それは、「出てきたら今度は、俺が親分だな 何が? だって、ふたぁり刺してるもん バカ野郎! てめぇが出てくる頃には、みんな死んでらぁ」というものだが、それを、あなたはどう解釈?ちなみに、「野球選手とおんなじだよ ヤクザも現役のときはいいけど 引退したらどうしようもねぇよ」「義理も人情もありゃしねぇよまったく」「俺はよ、世間に嘘をついてまで生きたかねぇんだよ」等々の龍三親分の名言集とともに、本作ラストのそのセリフをしっかり味わいたい。
                                  2015(平成27)年5月8日記