洋15-53 (ショートコメント)

「アルプス 天空の交響曲(シンフォニー)」
    

                      2015(平成27)年5月3日鑑賞<テアトル梅田>

監督:ペーター・バーデーレ
ナレーション/小林聡美
2013年・ドイツ映画・93分
配給/アルバトロス・フィルム

◆カメラの技術が進めば、ドキュメンタリー映画でもここまでの撮影が可能になることを実証。飛行機で飛べばアルプスの山々を上から見下ろすことができるのは当然だが、アメリカの諜報局が開発した特殊カメラ“シネフレックスカメラ”をヘリコプターに搭載し、「アルプス 天空の交響曲(シンフォニー)」という視点と視線から、アルプスの大パノラマを俯瞰したのが本作だ。
 アルプス山脈はドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、スロベニア、リヒテンシュタイン、スイスの7ヶ国にまたがり、東西約1000km、南北約150kmの広がりがある。また、アルプスには4810mの最高峰モンブラン、4478mのマッターホルンの他、アイガー北壁などの有名な高山がある。そんなアルプス山脈が何十万年も前に地球上に誕生した地質学的解説から、レジャー、観光、スポーツ、酪農等々に活用されていることの解説に至るまで、女優・小林聡美のナレーションによって、「アルプス 天空の交響曲」が鳴り響くことに・・・。ややもすれば視野が狭くなる日本国の教育においては、こりゃ必見!

◆オーストリアの「山越え」と言えば、『クライム・エブリ・マウンテン』の曲をバックに、トラップ大佐一家がオーストリアからスイスに亡命していく『サウンド・オブ・ミュージック』(65年)のラストシーンを思い出す。また、「アルプス越え」と言えば、ジャック=ルイ・ダヴィッドが描いた有名な「アルプスを越えるナポレオン」の絵画や、アベル・ガンス監督の無声映画『ナポレオン』(27年)を思いだす。さらに、第一次世界大戦でアルプスが攻撃防御の要として利用された結果、今なおその傷跡がたくさん残っていることを本作の映像で知らされると、山上にこもったゲリラが飛行機から攻撃され全滅してしまう『誰が為に鐘は鳴る』(43年)のワンシーンを思い出す。
 他方、私は1997年8月のヨーロッパ旅行の際、スイスに一度だけ行ったことがあるが、その時の美しさは忘れられない。スイスのリゾート地におけるスキーのシーンは『007』シリーズ等でもおなじみだ。また、本作に見るバンジージャンプのシーンを観ても、私はやってみようという気にならなかったが、さてあなたは・・・?

◆私は山登りの経験はほとんどないが、中国五名山の1つであり、西岳と呼ばれる「崋山」に登ったのは2001年8月11日。もちろん、途中まではロープウェイだったが、それでも丸一日かけての崋山への登下山は大変だった。しかして、その征服感(?)は、今なおはっきり覚えている。また、それと同じようにはっきり覚えているのは、頂上近くで食べたスイカのおいしさ。頂上近くで高いお金を出して買ったのではなく、同行者が山の下からリュックに入れて持っていったものだっただけに、そのおいしさはひとしおだった。
 そんな目で、本作に描かれているロープウェイの活用やゼメリング鉄道の活用を見ると、人間の知恵に驚くばかりだ。さらに、スキー場はもちろんカヌーやウォーターハイキング、さらにはスケート等のアルプスを舞台とするレジャー、スポーツへの活用を見ていると、人間の限りない欲望にビックリ!

◆ペーター・バーデーレ監督が本作で問題提起した最大のテーマは、「自然と開発の調和」。韓国のポン・ジュノが監督した『スノーピアサー』(13年)では、永久に走り続ける列車というアイデアに驚かされた(『シネマルーム32』234頁参照)が、ゼメリング鉄道を見れば、そのアイデアと知恵にも、なるほどと納得させられる。ロープウェイはもちろん、このゼメリング鉄道も人間の英知の結集であり、これによってアルプスへの人間の自由な立ち入りが可能になったわけだが、さてその開発はどこまでが適正なもの・・・?
 また、スキーや観光等のための大規模リゾート施設の開発によるアルプスの自然破壊は、どこまでが許容範囲なの?「アルプス 天空の交響曲」を聞きながら、そんなこともしっかりと考えたい。
                                  2015(平成27)年5月8日記