日15-44(ショートコメント)

「イニシエーション・ラブ」
    

                     2015(平成27)年4月20日鑑賞<GAGA試写室>

監督:堤幸彦
原作:乾くるみ『イニシエーション・ラブ』(原書房/文春文庫刊)
鈴木(就職活動中の大学生、慶徳商事新入社員)/松田翔太
成岡繭子(マユ)(歯科助手、鈴木の彼女)/前田敦子
石丸美弥子(鈴木と同じ課で働く新入社員)/木村文乃
海藤(鈴木の同僚)/三浦貴大
梵ちゃん(鈴木、海藤と同僚)/前野朋哉
優子(マユの友人)/吉谷彩子
ナツコ(マユの友人)/松浦雅
和美(マユと合コンに参加した友人)/八重樫琴美
天童(劇団北斗七星の団員、美弥子の元カレ)/池上幸平
ジュンコ(劇団北斗七星の団員、美弥子の同級生)/大西礼芳
まどか(劇団北斗七星の団員、美弥子の同級生)/佐藤玲
桑島課長(鈴木、美弥子が配属された課の課長)/山西惇
静岡支店部長(慶徳商事静岡支店の部長)/木梨憲武
石丸詩穂(美弥子の母)/手塚理美
石丸広輝(美弥子の父)/片岡鶴太郎
2015年・日本映画・110分
配給/東宝

◆これは恋愛小説?それともミステリー?内容は恋愛小説だが、最後の5分間における大どんでん返しが売りで、「映像化不可能」と言われた、乾くるみの小説『イニシエーション・ラブ』を堤幸彦監督が映画化。Side-A(静岡編)は奥手な大学生・鈴木(松田翔太)と合コンで出会った歯科助手の成岡繭子(マユ)(前田敦子)との恋を、Side-B(東京編)は就職して東京に行った鈴木と静岡に残ったマユが遠距離恋愛を始めたものの、東京の女・石丸美弥子(木村文乃)の出現で、次第にその関係が壊れていく東京編を描いていくが、鈴木とマユとの恋模様はかなり不自然。こりゃ何かありそうだ。
 とりわけ、『もらとりあむタマ子』(13年)(『シネマルーム32』125頁参照)や『Seventh Code(セブンスコード)』(13年)(『シネマルーム32』未掲載)の名演技でそのファンになってしまった前田敦子の、いかにもなよなよした(?)演技は不自然極まりない。しかも、本作の主演は松田翔太と聞いていたのに、冒頭からスクリーンに登場してくるマユの恋のお相手は、松田翔太にあらず!アレレ、これはナニ・・・?

◆1974年に弁護士登録をした私は、1979年に独立して坂和章平法律事務所を開設したが、ご承知のとおり日本の1980年代はバブルの時代。当時はそれが当たり前だったが、北新地での食事会、飲み会の派手さはもちろん、その後のタクシーの争奪戦はすごいものだった。また、当時の20代のカップルが半年前からクリスマスイブのためにホテルの予約を取り、ルビーの指輪をはじめとするプレゼント選びに血眼になっていたのも有名だ。
 iPodがまだ登場していない当時の音楽はカセットテープが主流だったが、本作に登場する森川由加里の『SHOW ME』(87年)、松﨑しげるの『愛のメモリー』(77年)、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』(76年)等々は、今や国民的愛唱歌になっている名曲だ。1955年生まれの堤幸彦監督はそんな80年代のバブルの体験者だけに、本作ではその時代の特徴を巧みに演出しながら鈴木とマユ、美弥子との2つの恋模様を追っていくが、さてその展開は・・・?

◆「イニシエーション」は「通過儀礼」と訳されている。なぜ本作が「イニシエーション」というタイトルになっているのかというと、それは美弥子から、「鈴木とマユの恋愛はイニシエーション・ラブではないか?」と言われたことが重要な意味を持つためだ。東京で出会った新たな女性・美弥子の魅力に惹かれながら、静岡で待っているマユを捨ててしまうことができない鈴木に対して、美弥子は「鈴木とマユとの恋はイニシエーション・ラブではないか?」と表現したわけだが、なるほど、そう言われれば・・・。
 男でも女でも、新しい恋人を見つけるたびに次々に乗り換えるのはあまりにも軽率だと批判される恐れがあるが、「前の恋はイニシエーション・ラブだ」と言えば、いかにも合理的な説明になる。しかして、美弥子からそんな適切な示唆を受けた鈴木の、スクリーン上に見るその後の行動は・・・?

◆80年代はバブルの時代だが、決して日本人のみんなが遊び呆けていたわけではなく、仕事もバリバリやっていた。そのことは、80年代の私の仕事ぶりからも明らかだし、現在日本経済新聞「私の履歴書」に掲載されている、株式会社ニトリの似鳥昭雄社長やその社員たちの80年代の働きぶりをみても明らかだ。しかして、東京の仕事だけでも大変なのに、週末に静岡のマユの下へ帰らなければならない、新入社員・鈴木の肉体的、経済的大変さは想像がつこうというものだ。
 男は浮気をする動物だが、最悪の事態はベッドの中でコトに及んでいる時に、違う女の名前を呼んでしまうこと。本作は色気抜きの恋愛ドラマに徹しているためベッドシーンは全く登場しないが、疲労困憊していて静岡に戻ってきている鈴木がマユの前で間違って美弥子の名前を呼んでしまったから、さあ大変。「それ、誰のこと?」とマユから追及されたのは当然だが、それに対する鈴木の対応は?

◆人間は誰でも間違いを犯すものだが、同じ間違いを2度もくり返すのは如何なもの・・・。したがって、美弥子に電話するつもりでダイヤルにかけた指が、知らず知らずマユの電話番号を回してしまう鈴木の姿を見ていると、いくら酔っぱらっているとはいえ、そのバカさ加減にビックリ。しかし、電話口に出てきた、別れたはずのマユが「ああ、たっくん・・・」と親しげに答えてくるのは一体なぜ?
 本作はプレスシートの表紙に「本作には大きな“秘密”が隠されています。劇場を出られましたら、これから映画をご覧になる方のためにどうか“秘密”を明かさないで下さいネ♡」と書かれている。また、ヌードを売りにした週刊誌によくある「綴じ込み」のページがあり、そこには「この切り取り線の先は、本編のラストに関するネタバレページです。本編をお楽しみいただくために、観終わるまで絶対に開かないでください!!(マスコミ各位 ネタバレページの内容は非公表でお願いいたします。)」と書かれている。これは、最後の5分間の大どんでん返しの情報出しを厳禁にするためだが、さてその大どんでん返しとは・・・?
 かつて『シックス・センス』(99年)は、「この映画にはある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さい」というブルース・ウィリスの前置きが大きな話題となって大成功したが、その二番煎じともいえる、本作の戦略の成否は?
                                  2015(平成27)年4月22日記