日15-43

「ソロモンの偽証 後篇・裁判」
    

               2015(平成27)年4月19日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:成島出
脚本:真辺克彦
原作:宮部みゆき『ソロモンの偽証』(新潮文庫刊)
城東第三中学校2年A組
 藤野涼子(検事)/藤野涼子
 柏木卓也(校庭で死体で発見された少年)/望月歩
 三宅樹理(告発状の差出人)/石井杏奈
 浅井松子(三宅樹理と共に告発状を投函した友人)/富田望生
 大出俊次(被告人)/清水尋也
 井上康夫(裁判長)/西村成忠
 野田健一(弁護人助手)/前田航基
 倉田まり子(検事助手)/西畑澪花
 向坂行夫(検事助手)/若林時英
 竹田和利(陪審員長)/六車勇登
両親
 藤野剛(涼子の父、刑事)/佐々木蔵之介
 藤野邦子(涼子の母、建築設計士)/夏川結衣
 大出勝(俊次の父、木材店社長)/高川裕也
 大出佐知子(俊次の母)/江口のりこ
 三宅未来(樹理の母、音楽ライター)/永作博美
 浅井洋平(松子の父、米屋を営む)/塚地武雅
 浅井敏江(松子の母、米屋を営む)/池谷のぶえ
 神原悟(和彦の養父、和服のシミ抜き悉皆職人)筒井巧
 神原歩美(和彦の養母)/森口瑶子
城東第三中学校の教職員
 津崎正男(校長)/小日向文世
 森内恵美子(2年A組の担任)/黒木華
 北尾教諭(バスケ部の顧問)/松重豊
 楠山教諭(社会科の教師)/木下ほうか
 高木学年主任/安藤玉恵
東都大付属中学校
 神原和彦(俊次の弁護人、柏木卓也の小学校時代の友人)/板垣瑞生
事件関係者
 垣内美奈絵(森内恵美子のマンションの元隣人)/市川実和子
 茂木悦男(テレビ局記者)/田中壮太郎
 佐々木礼子(少年課の刑事)/田畑智子
 小林修造(小林電気店を営む老人)/津川雅彦
 河野良介(探偵)/嶋田久作
 今井努(放火犯の代理人弁護士)/大河内浩
23年後の2014年の人物
 中原涼子(38歳の涼子、教師)/尾野真千子
 上野素子(城東第三中学校校長)/余貴美子
2015年・日本映画・146分
配給/松竹株式会社

<法廷外ではなお、こんな事件、あんな事件が・・・。>
 藤野涼子(藤野涼子)をはじめとする城東第三中学校の生徒たちが総力を挙げて取り組もうとしている学校内裁判は、もちろん法律で認められた裁判ではないが、同時に一定の前提事実を与えられた模擬裁判ではなく、あくまで生きもの。したがって、第1回公判期日に向けての弁護人と被告人との打ち合わせはもちろん、検事側も弁護側も1991年の夏はどの証人に何を証言してもらうかを検討し、その準備を整えることに忙殺されていた。
 『ソロモンの偽証 前篇・事件』の評論では、後半に発生した、大出家の火事や神原和彦(板垣瑞生)が大出俊次(清水尋也)に語った「衝撃の告白」、さらに三宅家に見る樹理(石井杏奈)と母親・未来(永作博美)との確執を書いた。それを受けて後篇では、第1回公判に向けた未来による裁判中止のアピールぶりや、大出の父親の逮捕事件などが描かれていく。つまり、法廷外ではなお、こんな事件あんな事件が続き、学校内裁判を取り巻く背景事情はさらに複雑怪奇になっていくわけだ。

<最後の電話は誰から?神原ってホントは何者?>
 『ソロモンの偽証 後篇・裁判』導入部では、検事チームの「捜査」によって、事件当日柏木卓也(望月歩)にかかってきた電話の通話記録を入手するシーンが描かれる。それはすべて公衆電話からのものだったが、その電話をかけてきたのは一体誰?事件直前の電話だけに、卓也の死亡事件と関連性があるのでは?
 また、裁判前夜に至って涼子に芽生えてきたのは、神原への疑惑。すなわち、神原はニュースではじめて卓也の死亡を知ったと言っていたが、涼子が卓也の葬儀の時に見かけた他校の制服の中学生は間違いなく神原だったはずだ。神原はどうしてそんなウソを・・・?そこで涼子は神原に対して「あなた何者なの?」と詰問したが、それに対する神原の答えは・・・?

<5人の証人の証言は?裁判の優劣は?>
 私は1974年4月に大阪弁護士会に弁護士登録をしたが、同年7月大阪国際空港公害訴訟という大規模訴訟で大阪地方裁判所の大法廷に立って重要証人の証人尋問を行った。また、最高裁判所の大法廷の弁護士席にも、原告側代理人として座ったことがある。したがって、「大きな法廷」のイメージはそれなりに持っているが、本作に見る、大講堂を法廷にセットした風景はあっと驚くもので、これだけの数百人規模の傍聴人がいれば、裁判長の訴訟指揮はさぞ大変だろう。現に、証人たちの証言の度に傍聴席はざわついたから、井上康夫(西村成忠)が務める裁判長は何度も「静粛に!静粛に!」と繰り返したが、ドラマではともかく、もしこれが本物の学校内裁判だったら、その混乱を収めるのは不可能だろう。
 それはともかく、本作が描く学校内裁判には、証人として、①城東警察署少年課の佐々木礼子刑事(田畑智子)、②一連の責任を取って城東第三中学校を辞めた津崎正男元校長(小日向文世)、③事件後に城東第三中学校を去った森内恵美子教諭(黒木華)、④告発状を書いたとみなされている三宅樹理、そして⑤大出俊次のアリバイを証明する放火犯の代理人の今井努弁護士(大河内浩)が登場する。①②③の証言は可もなく不可もなく、通り一遍のものだったが、④樹理の証言は「あっと驚く」想定外のもので、かなり衝撃的だった。また、今井弁護士の証言によってアリバイがほぼ成立することになった被告人・大出俊次が証人として証言席に座り、「放火犯に出会ったことは覚えていない」と証言したから、大出の無罪はほぼ明らかに・・・。

<神原弁護人の意外な質問にビックリ!こりゃ一体なぜ?>
 誰もがそう考えたはずだが、そこで大出の弁護人たる神原が大出に畳みかけた質問は、「お前の汚ねえツラを見ると吐き気がするから、学校に来るなと言ったことはありますか?」「相手が女子なのに、その顔を足で踏みつけ、化物呼ばわりしたことは?家で嫌なことがあった時、自分より弱い相手を傷つけると、気持ちが晴れましたか?」「確かに大出君はハメられました。ですが告発状の差出人が、大出君の暴力で傷つけられていたとしたらどうですか。僕も差出人の気持ちはわかります。どんなに苦しかったか想像して下さい。君がそこまで追い詰めたんですよ」等々だったから、こりゃちょっと異様。なぜ神原は、弁護を担当している大出の悪事を暴くようなそんな質問を次々と・・・?
 いやー、ワケわかんねぇ。弁護士40年の経験を有する私ですら、そう思いながらスクリーンを観ていると、傍聴席でそのやりとりを聞いていた樹理が気を失って倒れてしまったから、こりゃ一体ナニ?本作のタイトルになっている「ソロモン」とは旧約聖書の『烈王記』に登場する、聡明な統治をしたことで有名な古代イスラエル(イスラエル王国)の第3代の王のことだが、なぜ本作のタイトルは『ソロモンの偽証』とされているの?そんな疑問を含めて、この時点では何が何やらサッパリ訳がわからなくなってくることに・・・。

<意外性たっぷりの目撃者の登場と、その証言にビックリ!>
 私が邦画のベスト1に挙げる松本清張原作、野村芳太郎監督の『砂の器』(74年)は法廷ドラマの面白さだけではなく、犯人追跡のミステリーの面白さと、ハンセン病という社会問題も含んでいた。それを別格として、私が選ぶ邦画の本格的法廷ドラマの傑作は『名作映画から学ぶ裁判員制度』(10年)に収録した、『ゆれる』(06年)、『疑惑』(82年)、『事件』(78年)の3本。そこではいずれも「法廷の華」である証人尋問の展開を中心として、「生きもの」らしい法廷ドラマを楽しむことができた。証人尋問を楽しむ最大のポイントは「意外性」の演出で、これら3作品はいずれもそれが秀逸だった。しかして、成島出監督の演出による、本作の「学校内裁判」の証人尋問に見る意外性とは?
 そのキーパーソンになるのは、街の電気屋を長年営む老人の小林修造(津川雅彦)。この男の存在は、事件当日柏木卓也に掛かってきた公衆電話からの電話を涼子ら検事チームが調べた結果浮上してきたもの。しかし、小林が公衆電話ボックスの側で目撃したという中学生くらいの男の子は、涼子たちが小林に示した写真の中にはいなかったから、せっかくの調査も徒労に・・・?そう思っていると、なんと学校内裁判の証言台に立った小林は、涼子の「小林さんが目撃したその人物は、私たちの調査でわかったのですが、柏木君が死ぬ前に話した人物だと思われます。今も、その少年がどこの誰だか、全く心当たりがないままですか?」との質問に対して、「いや・・・・・・ここにいるよ」と答え、続く「その人を指差していただけますか」との質問に、「この子だよ」と、ある生徒を指さしたからビックリ!さて、その指の先にいた男の子とは・・・?

<中学3年生が問う、生きる意味とは?>
 学校内裁判最後の証人になったのは、被告人・大出の弁護人である神原になるが、それは一体ナゼ?その展開はここには触れないので、あなた自身の目で確認してもらいたいが、この証人尋問では、殺人か否かを裁く「法廷モノ」とは少し異質の、「何でこんなくだらない世界で生きていなきゃいけないのか」という、中学3年生の男の子たちによる「哲学論争」に注目したい。そこでは、神原が大出に打ち明けた「出自の秘密」が大きな意味を持っているが、なるほど、中学3年生とはいえ、彼らはそんな悩みを抱えながら毎日を生きていたわけだ。
 そう考えると、卓也が涼子に向かって突きつけた「口先だけの偽善者」との言葉にも重みを感じるし、それを聞いて悩んだ涼子が自殺まではかったのも頷ける。しかし、本来そういう悩みは毎日の学校生活の中で互いに打ち明け合って解決すべきもので、学校内裁判における証人尋問の舞台で解決すべきものではないはずだ。したがって、本件のクライマックスとして展開される、神原の証人尋問の様子には少し違和感もある。小林電気店前の公衆電話から電話をかけてきた中学生くらいの男の子に対して、卓也は「11時半に城東三中の屋上で待っている。今日中に会えなきゃ、死ぬから」と言って電話を切ったそうだが、さてその後、校舎の屋上で起きた出来事とは?しかして、柏木卓也の死亡は事故死?それとも・・・?
 さあ、最後の最後にそんな大混乱を生んだ学校内裁判における、陪審員たちの評決は?そして、裁判長の井上が下す判決とは・・・?

<真に裁かれるべきは誰?不作為による殺人とは?>
 本作の主役は、柏木卓也の死亡について大人たちの真相解明が進まないことに苛立ち、「学校内裁判」という奇抜な手段を思いついた、死体の第一発見者でもある藤野涼子。涼子と同じ名前で女優デビューした新人の藤野涼子は、まっすぐ真実を見つめたいという中学3年生らしいヒロインを身の丈どおりに熱演している。それに対して、母親の未来と同じく極端にエキセントリックな性格の持ち主が樹理だ。他方、本作では、ただ一人城東第三中学校の生徒ではないのに、学校内裁判に大出俊次の弁護人として参加した神原和彦が、『ソロモンの偽証』というタイトルにふさわしいキーマンになっていく。裁判長役を務めた井上康夫はあくまで秀才タイプで、その性格はわかりやすいのに対して、行動はテキパキしているが口数が少なく、どこかに影を含んでいる神原の複雑な性格はストーリー前半からはわかりにくい。神原の出自の秘密は自分自身の口から語られるが、そのことと大出の弁護人を買って出たこととはどのように結びつくの?私は『ソロモンの偽証 前篇・事件』を観た時からずっとそんな疑問を持っていたが、『ソロモンの偽証 後篇・裁判』のクライマックスに至ってその謎が一挙に解けていくことに・・・。
 本作が最初に示すテーマは、校舎の屋上から転落した柏木卓也の死亡は事故死?それとも殺人?というもの。この2つの選択肢だけなら単純だが、難しいのは刑法にはその他に、(保障人的地位にもとづく)作為義務と、その作為義務に違反した不作為による殺人、という概念があること。つまり、何らかの理由で柏木卓也が屋上から飛び降り自殺をしようとした時、何らかの保障人的地位にある者がそれを止めなかったり、あるいは逆に、「そんなに死にたきゃ、勝手に死ね!」と言っていたとすれば、それは(保障人的地位にある者の)不作為による殺人罪?
 本作のクライマックスではそんな法律問題の重要な論点が浮上してくるうえ、真に裁かれるべきは誰なのか?という別のテーマが大きく浮かび上がってくる。すると、涼子の企画した学校内裁判で被告人とされた大出俊次の裁判は無罪で終了し、新たに別の裁判を開かなければならないの?そんなこんなを含めて、本作の結末からは、さまざまなものをしっかり学んでもらいたい。
                                   2015(平成27)年4月28日記