日15-42

「ソロモンの偽証 前篇・事件」
    

               2015(平成27)年4月12日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:成島出
脚本:真辺克彦
原作:宮部みゆき『ソロモンの偽証』(新潮文庫刊)
城東第三中学校2年A組
 藤野涼子(死体の第一発見者)/藤野涼子
 柏木卓也(校庭で死体で発見された少年)/望月歩
 三宅樹理(いじめられている少女)/石井杏奈
 浅井松子(樹理の唯一の友達)/富田望生
 大出俊次(樹理と松子をいじめる問題児)/清水尋也
 橋田祐太郎(不良グループの少年)/加藤幹夫
 井口充(不良グループの少年、大出の取り巻き)/石川新太
 井上康夫(クラスの副委員長)/西村成忠
 野田健一(涼子とともに死体を発見した少年)/前田航基
 倉田まり子(涼子の友達)/西畑澪花
 向坂行夫(涼子の友達)/若林時英
両親
 藤野剛(涼子の父、刑事)/佐々木蔵之介
 藤野邦子(涼子の母、建築設計士)/夏川結衣
 大出勝(俊次の父、木材店社長)/高川裕也
 大出佐知子(俊次の母)/江口のりこ
 三宅未来(樹理の母、音楽ライター)/永作博美
 浅井洋平(松子の父、米屋を営む)/塚地武雅
 浅井敏江(松子の母、米屋を営む)/池谷のぶえ
城東第三中学校の教職員
 津崎正男(校長)/小日向文世
 森内恵美子(2年A組の担任)/黒木華
 北尾教諭(バスケ部の顧問)/松重豊
 楠山教諭(社会科の教師)/木下ほうか
 高木学年主任/安藤玉恵
東都大付属中学校
 神原和彦(柏木卓也の小学校時代の友人)/板垣瑞生
事件関係者
 垣内美奈絵(森内恵美子のマンションの元隣人)/市川実和子
 茂木悦男(テレビ局記者)/田中壮太郎
 佐々木礼子(少年課の刑事)/田畑智子
 河野良介(探偵)/嶋田久作
23年後の2014年の人物
 中原涼子(38歳の涼子、城東第三中学校の教師)/尾野真千子
 上野素子(城東第三中学校校長)/余貴美子
2015年・日本映画・121分
配給/松竹株式会社

<宮部みゆきの「3部作」を、成島出が前篇、後篇で映画化!>
 宮部みゆきの『ソロモンの偽証』は「小説新潮」に2002年10月号から2011年11月号までに連載された長編小説で、構想15年、連載9年、総計3000頁以上に及ぶことから、「宮部みゆきの集大成」と名高いもの。「第Ⅰ部 事件(上巻・下巻)」「第Ⅱ部 決意(上巻・下巻)」「第Ⅲ部 上巻・下巻)」という「3部作」で構成される『ソロモンの偽証』は、14歳の少年少女たちによる「学校内裁判」がテーマだ。
 裁判の対象は、1990年のクリスマス未明、城東第三中学校の校内で起きた、2年A組・柏木卓也(望月歩)の屋上からの転落死亡事件。その第一発見者は、2年A組のクラス委員を務める優等生の藤野涼子(藤野涼子)と友達思いの同級生・野田健一(前田航基)の2人だが、卓也の死亡は、飛び降り自殺?それとも殺人?
 校内の動揺が収まらない中、「柏木卓也は自殺ではない。2年A組の大出俊次(清水尋也)たち3人組に屋上から突き落とされた」と書かれた「告発状」が学校に届いたところから事態は大きく動いていくことに・・・。

 <謎の告発状から学校内裁判へ>
 定規を使ったような不自然な筆跡で書かれた「告発状」の全文は次のとおりだ。

           告発状
城東第三中学校、二年A組の柏木卓也君
は自殺したのではありません。
本当は殺されたのです。
クリスマスイブのあの夜、ボクは現場を
目撃してしまいました。
助けを求める柏木君を屋上の金網の
向こうに押しあげ、突き落としたのは
二年A組の大出俊次です。
橋田祐太郎と井口充も手伝いました。
三人は笑いながら柏木君を殺したんです。
お願いします。もう一度事件を調べて
ください。このままでは柏木君があまりにも
かわいそうです。お願いします。
警察に知らせてください。
    心からお願いします。

 こんなワケのわからない告発状は無視?それとも、警察に届け出てその捜査に委ねるべき?マスコミからの追及に対しても、津崎正男校長(小日向文世)をトップとする学校側は及び腰。しかし、このようなことでは、真相は永久に伏せられたままになってしまうのでは?大人たちのそんな曖昧な態度に藤野涼子が決意したのが学校内裁判。つまり、仲間とともに自分たちだけで学校内裁判を開き、真実をつかもう、ということだ。
 2014年、桜の花びらが舞う3月下旬、城東第三中学校の教師として戻ってきた中原涼子(尾野真千子)は、上野素子校長(余貴美子)からの「先生方の伝説を語り継ぐのが、代々の校長の使命になってるんですよ。今日はまるごと全部聞かせて下さい」との求めに応じて、「あの頃はちょうどバブルが弾けようとしてた時期で、大人たちは最後のお祭り騒ぎに酔いしれていました・・・・・・」と、中学2年生だった1990年のクリスマスの朝を思い出し、語り始めることに・・・。

<問題の根源はいじめ!しかして、告発状の真否は?>
 団塊世代の私たちが中学生の頃は、いじめという特別の言葉も概念もなかったが、平和で豊かになった日本国では、今や学校内の陰湿ないじめは最大の社会問題になっている。本作では、2年A組の大出俊次(清水尋也)とその取り巻きの橋田祐太郎(加藤幹夫)、井口充(石川新太)による、三宅樹理(石井杏奈)、浅井松子(富田望生)への日常的ないじめの様子が描かれるが、その原因はナニ?他方、謎の告発状は津崎校長だけではなく、2年A組の涼子宅にも届けられたが、それはなぜ?
 成島出監督は2年A組の優等生的で、「いじめを発見したら勇気を持ってすぐに報告しましょう」と発言していた涼子が、実は俊次たちによる樹理、松子たちへのいじめの実態を知りながら、それを見て見ぬふりをしていた姿を情け容赦なく描いていく。樹理、松子へのいじめを見て見ぬふりをしている姿を見とがめられた涼子が、卓也から、「そういうの、口先だけの偽善者って言うんだよ」と罵倒されても、涼子が何も言い返せなかったのは当然だ。そんな涼子の心の悩みは、刑事である涼子の父・藤野剛(佐々木蔵之介)と母・藤野邦子(夏川結衣)も理解できるはずもなかった。そして、それは俊次たちのいじめに苦しむ樹理の気持を、音楽ライターとして自立している母・三宅未来(永作博美)が全く理解できなかったのと同じだ。
 あの告発状は本当に樹理と松子が書いたもの?樹理と松子は本当に俊次たち3人組が卓也を屋上から突き落とすのを目撃したの?そうだと考えれば、それなりの合理的な説明ができるのに、なぜ学校はそれを公表しないの?しかして、あの告発状の真否は?

<マスコミは?警察は?学校は?そして大人たちは?>
 学校内で起きた柏木卓也の死亡事件に、マスコミが興味を示したのは当然。その(突撃)取材をするのは、謎の投書によって告発状の情報をつかんだHBS報道局の茂木悦男記者(田中壮太郎)。また、警察が捜査に乗り出したのも当然。その担当は城東警察署少年課の刑事である佐々木礼子(田畑智子)だが、津崎校長がこれ以上生徒たちを傷つけたくないという配慮から、告発状の存在を伏せたいと申し出たため、警察もそれに同意。大人たちは秘密裏に差出人を探すべく、2年A組の生徒たちへのカウンセリングを開始したが、さてその進捗は?さらに、佐々木刑事は告発状で名指しされていた大出俊次らに対して、柏木卓也の死に関わっていたのかどうかを本人たちに直接問い質したが、その成果は?
 他方、そんな動きの中、柏木卓也の死亡にショックを受けていた2年A組の担任教師・森内恵美子(黒木華)は、自分は告白状を受け取っていないことを同僚教師たちに信じてもらえないこともあって、辞職に追い込まれることに。
 本作前半では、柏木卓也の死亡という事態の中、マスコミ、警察、学校が右往左往し混乱を続ける状況が描かれる。なるほど、縦型に割られた現代社会においては、大人たちの動きはこんなもの・・・。宮部みゆきの原作と、成島出監督の目はそこらあたりの現実をしっかりと・・・。

<松子は死亡!樹理は引きこもり!しかして涼子は・・・?>
 本作では、樹理と松子が大出俊次とその取り巻きの橋田祐太朗、井口充によって執拗ないじめにあっている様子がスクリーン上で忠実に表現される。したがって、マスコミや警察にはあの「告発状」の差出人が誰かわからなくとも、観客はすぐにそれが樹理と松子なのではないかと想像することができる。
 そんな想像通り、スクリーン上では樹理がパソコンをいじって何かの書類を作成している様子が描かれるが、母親の三宅未来も相当エキセントリックな性格なら、その娘の樹理も相当エキセントリックな性格の持ち主らしい。それに対して、父親の浅井洋平(塚地武雄)、母親の浅井敏江(池谷のぶえ)と同じく身体が太めで、食べ物に関してはメチャおおらかな米屋の家庭に育った一人娘の松子は、身体が太めなら性格もおおらか。したがって、この2人のコンビのリーダーシップを常に樹理がとっていたのは当然。そのため、マスコミや警察も参加して城東第三中学校で開かれた「保護者説明会」の中で、告発状の不審な点について次々と質疑が出されてくると、身体は太いが神経は細い松子が動揺してきたのは仕方ない。その結果、ある日気が動転したまま樹理の家に向かうため雨の中を走っていた松子は、車にはねられて死亡してしまうことに・・・。他方、樹理の方もそのショックのあまり声が出なくなり、その日から自宅の部屋に引きこもってしまうことに・・・。
  柏木卓也死亡事件についての大人たちによる真相解明が全く進まないばかりか、このように事態がますます悪化し、謎が謎を呼んでいく状況に心を悩ませ、ある時は自殺まで決行しようとした涼子が、悩んだ末に考え出したのが学校内裁判。「学校のことは、私たちが一番わかってます。だから自分たちで調べます。私たち、もうみんな傷だらけです。」そうだ、それを調べるためには、学校内裁判が一番だ!

<なぜ他校生の神原和彦が学校内裁判の弁護人に?>
 本作は、いじめの舞台も、柏木卓也死亡事件の舞台も城東第三中学校。そして、学校内裁判で検事、弁護人、裁判長、被告人役等に扮するのもすべて城東第三中学校の生徒だが、ただ1人の例外が神原和彦。彼は柏木卓也の小学校時代の友人として、卓也の死亡に疑問を抱き、卓也が死亡した屋上の金網を一人でじっと見つめていた。そんな神原と最初に接触したのは死体の第一発見者となった野田健一だったが、生前の卓也のことを語り合ううちに、野田と神原の間には厚い信頼関係が生まれてくることに・・・。したがって、この2人が涼子の思いついた学校内裁判の提案に同調したのも当然。
 その結果、学校内裁判の役割分担は①卓也がいじめられて殺されるような人間とは思えないという神原が弁護人役を、②卓也が自殺であると言い切れない涼子が、告白状の内容を信じて大出の有罪を証明する検事役を、それぞれ引き受けることに。他方、被告人は当然大出本人で決まりだが、果たして大出は学校内裁判などというバカげた企画に参加してくれるの?また、学校内裁判とはいえ、1人の人間の有罪・無罪を決める裁判員役は大変だし、審理の訴訟指揮をする裁判長役はもっと大変。ところが意外にも裁判長役には、受験勉強で忙しく、学校内裁判どころではないと思われた、クラスの副委員長を務める学校一の秀才・井上康夫(西村成忠)が名乗り出ることになったし、裁判員役も次々と決定。これにて、学校側でただ1人涼子の企画した学校内裁判を支持してくれたバスケット部の顧問である北尾教諭(松重豊)の助言と応援を得て、学校内裁判がスタートすることになったが・・・?

<ちょっと風呂敷の広げすぎ感も・・・。>
 
学校内裁判は、被告人、検事、弁護人、裁判長、陪審員、書記官等のキャストを決め、大講堂を法廷に見立ててレイアウトすれば成立するが、問題はその中身。また、学校内裁判の進行は裁判長と検事と弁護人が協議しながらやればいいが、本作後半にはその進行(準備)とは別に、現実社会でも次々と事件が起きてくる。すなわち、本作後半では、第2部『ソロモンの偽証 後篇・裁判』に向けて更に①火事(出火?)事件や②郵便物の窃盗事件が起きる他、あっちの家庭こっちの家庭の「秘密」が赤裸々にされてくる。そのため、学校内裁判に向けての背景事情は、ますますややこしくなってくることに・・・。
 火事(出火?)事件とは、涼子たちが裁判の準備を進めていた7月下旬、大出俊次の家が原因不明の出火で燃えてしまったことだが、こりゃ一体ナニ?また、郵便物の窃盗事件とは、森内先生の郵便受けから、隣に住む垣内美奈絵という女(市川実和子)が郵便受けに入っていた告発状を盗んでいたことが判明したこと。つまり、この女が盗んだ告発状を茂木悦男が記者を務めるテレビの報道番組「ニュースアドベンチャー」に投書していたわけだが、そりゃ一体なぜ?
 他方、学校内裁判で被告人(役)になってくれるよう執拗に迫る神原和彦と、大出俊次との間でさまざまな確執が顕著になる中、神原が唐突に「自分の父親はかつて母親を殺して自殺した」と告白した上で、「人殺しの息子の僕が、君の弁護人をやる。僕は君の冤罪を必ず晴らす」と言い放ったこと。人それぞれ家庭の事情や秘密があるのは当然だが、神原はなぜそんなことを公表してまで大出俊次の弁護人になることに固執するの?
 さらに本作後半では、樹理の気味悪さが顕著になってくるが、1人でパソコンに向かって座っている樹理が告発状を書いた犯人であることの決定的な証拠を母親の未来が見つけてしまったから、さあ未来はどう動くの?
 そんなこんなのややこしい事件や、ややこしい家庭の事情(秘密)が本作後半では次々と明らかにされていく。これらはすべて第2部『ソロモンの偽証 後篇・裁判』に向けての伏線であることは明らかだが、いくらなんでもこりゃ、ちょっと風呂敷の広げすぎ感も・・・。

<学校内裁判の準備は万端!『ソロモンの偽証 後篇・裁判』に乞うご期待!>
 私は1972年に司法試験に合格した後の2年間の司法修習期間中に、修習科目の一つとして模擬裁判を行ったが、それはかなり本格的なもの。模擬裁判終了後の教官による講評もかなり厳しいものだった。他方、近時は弁護士による「法教育」の一環として高校や大学でも模擬裁判をやっているし、法科大学院ではそれは必修のはず。しかし、裁判員裁判もまだ発足していない1990年当時の法教育の状況では、中学3年生が現実に起きた同級生の死亡事件について、大出俊次を被告人として「殺人事件」の模擬裁判をやるというのはかなり難しいはず。しかも、本作ではそれを陪審映画の名作『十二人の怒れる男』(57年)並みの陪審員裁判で、しかも傍聴席が、生徒、教師、マスコミ、警察等で埋め尽くされた大講堂でやるというのだから、それはかなりの冒険だ。
 本作のパンフレットには、北尾トロ氏(フリーライター)による「中学生にでも本当にできる!?裁判のやり方、お教えします」と「判事、教えてください!裁判Q&A」があり、「裁判の種類」、「裁判の準備」、「裁判に必要な人」をはじめ、「裁判の進行」について①開廷~冒頭手続②証拠調べ手続き③求刑~最終弁論④結審~評議⑤~判決宣告~閉廷という裁判の流れを一通り解説している。したがって、裁判に無知な人でもこれを読んだうえで本作(とくに後篇)を見れば、中学生でも裁判はできると思うかもしれない。しかし、弁護士の私の目には、そこでも①「原告と被告人双方の“代理人”である検察と弁護人」、②「弁護人を買って出た神原と助手は、無罪を主張する俊次の“代理人”として」③「被告人の“代理人”である弁護人」、等の明らかな誤り(無理解)がある。さらに、「主張」と「証拠」の違いや、証人尋問の難しいルールやその意味については、この解説を読んでもきっと分からないはずだ。「法教育」の一環としては大いに学校内裁判の意義は認めつつ、その難しさを痛感してしまう。
  それにしても、裁判のテーマはもちろん、学校内裁判における主要な役割も法廷のセットもすべて完了したから、あとは審理が開始されれば、どんな証人がどんな証言をするかに注目が集まるはず。司法修習の2年間に尋問技術をしっかり勉強したし、弁護士になってからも重大事件における証人尋問の大変さは弁護士の宿命だが、さてそれを検事役の藤野涼子や弁護人役の神原和彦はホントにちゃんとやれるの?さらに、裁判長役の井上康夫の訴訟指揮は?そんな興味を抱きつつ、期待は『ソロモンの偽証 後篇・裁判』へ!                    
                                  2015(平成27)年4月20日記