洋15-41

「間奏曲はパリで」
    

                      2015(平成27)年4月19日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本:マルク・フィトゥシ
ブリジット(畜産業者の50代の主婦)/イザベル・ユペール
グザヴィエ(ブリジットの夫)/ジャン=ピエール・ダルッサン
ジェスパー(デンマーク人の歯科医)/ミカエル・ニクヴィスト
スタン(マリオンの友人、25歳の青年)/ピオ・マルマイ
レジス/ジャン=シャルル・クリシェ
クリスチャーヌ/マリナ・フォイス
ローレット/オドレイ・ダナ
マリオン(ブリジットの姪)/アナイス・ドゥムースティエ
グレゴワール(ブリジットとグザヴィエの息子)/クレモン・メテイエ
アプー/ラクシャン・アベナヤク
2014年・フランス映画・99分
配給/KADOKAWA

<テーマはパリ!それはあの映画と同じだが・・・>
 3月14日に観た『パリよ、永遠に』(14年)は、ヒトラーの命令によるパリの爆破計画を実行すべく苦悩するナチス・ドイツ将校ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍と、それを阻止すべくコルティッツ将軍を説得するスウェーデン大使ラウル・ノルドリンクとの何とも重々しい対話劇だった。それに対して、パリをテーマにしたのは同じだが、本作はフランスの北東、ノルマンディー地方で、夫グザヴィエ(ジャン=ピエール・ダルッサン)と共に畜産業を営むブリジット(イザベル・ユペール)が持病の湿疹の治療を口実に、ちょっとしたパリでのアバンチュールを楽しむ物語。
 学生時代の夢が叶って一緒になった2人だが、どうも今は倦怠期にあるらしい。映画冒頭、肉牛の品評会でグザヴィエ、ブリジット夫妻が育てた牛が優勝の栄誉に輝くシーンが登場するが、農業一筋で実直なグザヴィエに対して、ブリジットの方は何か少し冒険をしたいようだ。そんな2人の価値観の隔たりは、一人息子グレゴワール(クレモン・メテイエ)の将来についても顕著。家業よりもアクロバットに興味を持ち、サーカス学校に入学した息子の夢に共感するブリジットに対して、グザヴィエの方はうさんくさい職業だとして認めないため、父子の確執が少しずつ表面化している。
 いるいる、そんな夫婦。フランスに限らずそんな夫婦は世界中のどこにでもいるが、さて本作に見るブリジットのアバンチュールの展開は・・・?

<なぜ湿疹が?その原因はストレス?>
 女性にとってお肌の美しさを保つことは生涯のテーマだが、50代にしてなおチャーミングな主婦ブリジットの悩みは胸に大きな湿疹ができていること。当然、ありとあらゆる薬を試しているが、全然治らないのは、体質のせい?それともストレスのせい?
 ノルマンディー地方の片田舎とはいえ、畜産業一筋でそれなりの生活をキープできているのは幸せなこと。普通はそう考え、その生活を守ることで満足するものだが、夢想家のブリジットは現状維持ではなく、変化とアバンチュールを求めているらしい。そこで、姪のマリオン(アナイス・ドゥムースティエ)がパリから友人を伴って隣家に遊びにやってくる中、25歳の魅力的な青年スタン(ピオ・マルマイ)と知り合いになったブリジットは、早速お誘いを受けて夜のパーティにドレスアップして乗り込むことに。若者たちのパーティがノリが良いのは万国共通だが、おじさん、おばさんはその中に溶け込めないのが普通。ところがブリジットは・・・?
 若者たちとのダンスと酒と楽しい会話。こんな生活が続けばきっとブリジットの湿疹も治癒するはずでは・・・?そう思っていると、スタンがパリのブティックで働いていると聞いたブリジットは、1人である大胆な計画を思いつくことに・・・。

<こんな計画を立てる女房は、ふつう悪妻だが・・・>
 男は仕事や出張を名目にあちこちで妻に内緒で1人アバンチュールを楽しむことが可能だが、50代の主婦が夫を家に残して1人アバンチュール旅行を楽しむのは大変。そこでブリジットが思いついたアイディアは、湿疹の治療を口実としてパリ旅行に赴き、スタンとのアバンチュールを楽しむこと。湿疹の治療のためドクターと面会するのは事実だから、これは決して夫にウソをついているのではない。そういう言い訳が成り立つか否かは別として、普通ここまでやれば立派な夫に対する裏切りなのでは・・・?
 そんな風に深刻にならないところが、軽妙なフランス映画の魅力であり、何とも憎めないイザベル・ユペールのチャーミングな演技力だ。エッフェル塔やセーヌ川をめぐる1人観光も悪くはないが、やはりブリジットのお目当てはスタン。驚くスタンを尻目にディナーの約束まで取り付けたから、ブリジットのアバンチュールが浮気旅行にまで発展するのは必至・・・?そう思っていると、意外な肩すかしとなり、実は本命男はその次に登場することに・・・。

<男はやっぱり多少強引な方が!そのうえ社会的地位も!>
 スタンとのディナーまでは、いかにもフランス映画らしい軽妙さでブリジットのアバンチュール旅行の計画が進んでいくが、中盤からスタンに代わって本命として登場する中年男がジェスパー(ミカエル・ニクヴィスト)。ジェスパーはたまたまブリジットが同じホテルで偶然出くわしただけの男だが、学会での発表のためパリにやってきている歯科医ともなれば、社会的地位は十分なうえ、強引に女を引っ張っていく魅力も。ブリジットにとって仕事一筋の実直なグザヴィエに大きな不満があるわけではないが、1人でパリにやってきた中、ジェスパーのような魅力的な中年男から強引に誘われると・・・。
 他方、妻がパリの2泊旅行に赴いたのが必ずしも湿疹の治療のためではないことを従業員から聞かされて知ったグザヴィエは気が気ではなく、妻の後を追うかのようにパリのホテルまでやってきたが、そこでグザヴィエが目にしたあっと驚く光景とは・・・?

<グザヴィエの寛容さと懐の深さにビックリ!>
 男とは、夫とは身勝手なもので、自分の浮気には寛容でも妻の浮気には厳格なものと相場が決まっている。そんな一般的な常識(視点)から考えると、本作はチラシに書いてあるとおり、チャーミングな人妻ブリジットを主人公とした「おとなの、より道。」「大人のフレンチ・ラブストーリー」だが、私はそのストーリーを成り立たせている夫グザヴィエの寛容さと懐の深さに注目したい。
 美しき迷える“羊飼い”の主婦ブリジットをコンコルド広場の大観覧車に乗せ、クラクラさせてしまえば、ジェスパーの作戦はほぼ成功。さらに、多少お酒の勢いがあるとはいえ、お別れすべきところをお別れせず、ブリジットをジェスパーの部屋の中に入れてしまえば、あとはもうジェスパーの思うがままだ。しかし、弁護士の私の目から見れば、これは明らかな浮気であり不貞行為だから、妻のそんな姿を直接目撃しないまでも想定せざるをえないグザヴィエの気持は・・・?その立場は・・・?
 本作には齋藤薫氏(美容ジャーナリスト/エッセイスト)の「女の負い目そのものの衰えが、美しい人の勲章になるパラドックス」という「Review」がある。その中で齋藤氏は「しかし不意打ちをくらったように涙があふれ出たのは、妻の嘘を知った夫がパリに住む息子の仕事場に出向き、初めてその仕事ぶりを垣間見たシーン」「一見必要がなさそうなこのシーンに、心震わす感動をもってくる演出は、あまりにも見事」と書いているが、まさにそのとおりだ。直接その現場を目撃しないまでも、妻の浮気を知ったうえでそれを赦すグザヴィエの寛容さと懐の深さにビックリ!
                                  2015(平成27)年4月22日記