洋15-39

「ギリシャに消えた嘘」
    

                  2015(平成27)年4月18日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督・脚本:ホセイン・アミニ
原作:パトリシア・ハイスミス『殺意の迷宮』(東京創元社刊)
チェスター・マクファーランド/ヴィゴ・モーテンセン
コレット・マクファーランド(チェスターの若い妻)/キルスティン・ダンスト
ライダル・キーナー(アテネで観光ガイドをしているアメリカ人青年)/オスカー・アイザック
2014年・イギリス、フランス、アメリカ映画・96分
配給/プレシディオ

<原作は?『太陽がいっぱい』と同じサスペンス色が>
 アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』(60年)は今や古典的名作となり、マット・デイモンとジュード・ロウの共演で『リプリー』(99年)としてリメイクされた。その原作を書いたのがアメリカの女性作家パトリシア・ハイスミスだ。そのパトリシア・ハイスミスが書いた『殺意の迷宮』を映画化したのが本作だから、何となく『太陽がいっぱい』によく似たサスペンス色が漂っているのは当然。
 本作の原題は『The Two Faces of January』。それでも本作の趣旨はよくわかるが、日本人には邦題の『ギリシャに消えた嘘』の方が、ギリシャを舞台とし、人間の二面性を描き出したサスペンスであることがわかりやすい。

<舞台はアテネ。一見紳士風だが・・・>
 時代は1962年。私はギリシャ観光に行ったことはないが、冒頭の舞台となるアテネのパルテノン神殿は、誰もが1度は行ってみたい有名な観光地だ。真夏のギリシャは相当暑いはずだが、若く美しい妻コレット・マクファーランド(キルスティン・ダンスト)と共にギリシャ観光に来ている中年男チェスター・マクファーランド(ヴィゴ・モーテンセン)は、白の三つ揃いをピシッと決めていて実にカッコいい。そんな2人に目をつけた(?)のが、ギリシャに長期滞在して観光ガイドをしている若い男ライダル・キーナー(オスカー・アイザック)。ひょんなきっかけでチェスター、コレット夫妻のガイドを引き受けることになったライダルは、イェール大学の卒業生で詩を書いているとの触れ込み。しかし、チェスターもコレットもギリシャ語がわからないのをいいことに、土産店でインチキなピンハネ的ビジネスをしている姿を見ると、さてその本当の姿は・・・?
 他方、紳士然と見えたチェスターの方も、ライダルと別れた後、ホテルの部屋でコレットとじゃれ合っているところを不意の客に邪魔されてしまったのはお気の毒だが、なぜ探偵が部屋の中までずかずかと入りこんできたの?探偵の要求はカネだったが、探偵の話しによるとチェスターはニューヨークで裏社会の連中を相手に投資詐欺を働いた挙句、大金を奪って国外逃亡しているらしい。なるほど、なるほど。人は見かけによらぬものだ。チェスターもライダルも『The Two Faces of January』という原題のとおり、表の顔とは全然違う裏の顔が・・・。

<導入部には不自然な部分も・・・>
 ヴィゴ・モーテンセンは『イースタン・プロミス』(07年)で第80回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたが、そこで見せたヴィゴ・モーテンセンのアクションの切れ味はすごかった(『シネマルーム19』199頁参照)。しかし、口八丁で生きてきた投資詐欺の男が、なぜ狭いバスルームの中で拳銃を突きつけてきた探偵を叩きのめすほどの格闘能力を持っているの?また、叩きのめしただけの探偵が死んでしまったのは大きな誤算だが、そもそもチェスターは探偵を叩きのめすのではなく、何らかの取引をまとめて、自分が働いてきた悪事のケリをつけなければならなかったのでは・・・?
 他方、美しいコレットに気があるからといって、ライダルがコレットの忘れ物をわざわざホテルの部屋まで届けにくるのは不自然だし、チェスターの不審な行動を目撃したライダルがいとも簡単にチェスターの協力者(=共犯者)になってしまうのもかなり不自然。少なくとも、探偵が死亡していることを知ったうえで、チェスターとコレットのパスポート偽造の協力までするのは、よほどのエサが与えられなければムリなのでは・・・?
 『太陽がいっぱい』と同じような本作のスリリングな展開は面白いが、導入部においては、このようにいくつかの不自然なところが目についたが・・・。

<もう一つの殺人事件は・・・?>
 本作中盤には、冒頭に提示される探偵の死亡事件(殺人事件)の他、もう一つの死亡事件(殺人事件)が発生する。それは、アテネからクレタ島へのチェスターとコレット、そしてライダルの3人による奇妙な「逃避行」の途中、クノッソス遺跡で起きるコレットの悲劇だ。チェスターが逃亡を成功させるためには、パスポートの偽造だけではなく、ギリシャ語がしゃべれるライダルの協力が不可欠だが、ライダルが何かとコレットに色目を向けているのが気に入らないのは当然。クノッソス遺跡で雨をしのいでいる時、そんな思いが興じて「ええい、この際ライダルもやってまえ!」となったのは仕方ないかもしれないが、そのいざこざの中、ハプニング的に最愛の妻コレットが死んでしまうことに・・・。
 そうなれば、なおさらチェスターはトランクの中に詰め込んだ現ナマだけを頼りに1人で逃避行を続けるしかないが、なぜチェスターはそこでライダルをきっちり始末しておかなかったの?気を失っただけのライダルが息を吹き返しコレットが死んでいるのを発見すれば、その後のチェスターに対する復讐は目に見えているはずだ。この点でも本作のストーリー構成には若干不満があるが、たまたま翌朝息を吹き返したライダルがクノッソス遺跡の中から出てきた時、観光客に発見されたのはチェスターにとってラッキー。なぜなら、これによって死亡したコレットの容疑者はチェスターではなくライダルとされてしまったのだから。コレットの殺人容疑でライダルが警察に逮捕されてしまえば、チェスターにとってそれ以上の筋書きはないが、さてその後の展開は・・・?

<2人は共犯?それとも敵対者?>
 アテネのホテルでの探偵の死亡事件についてはチェスターが容疑者とされているし、クノッソス遺跡でのコレットの死亡事件についてはライダルが容疑者とされている。したがって、偽造のパスポートを受領したとはいえ、アテネ行きのフェリーの乗下船、アテネ空港からドイツ・フランクフルト行き(?)の飛行機への搭乗等については、チェスターとライダルは共犯者として互いに協力関係を築くべきは当然だ。ところが、チェスターはその都度ウラをかいてライダルを巻いていくので、チェスターが1人でトルコのイスタンブール行きの飛行機に乗ってしまうと、ライダルは取り残されてしまうことに。もちろん、チェスターが遺して行ったトランクの中には今や現ナマは全く入っていなかったから、ライダルの怒りは頂点に・・・。
 そんな中、どうやってイスタンブールのホテルに滞在しているチェスターをライダルが発見できたのかはわからないが、イスタンブールのグランドバザールの夜のカフェで2人は「ご対面」することに。しかし、そこでライダルがチェスターにしゃべりかけている言葉はどことなく不自然。こりゃ、ひょっとして警察の監視付きでは・・・?また、この会話はすべて盗聴され、録音されているのでは・・・?そう判断したチェスターは、さりげなく席を立ち、一気にグランドバザールからの脱出を図ると、それに続いてライダルも・・・。その結果、警察とチェスター、ライダルとの追跡劇が始まったが、さてその結末は・・・?

<くわえ煙草のカッコ良さと泥酔時のカッコ悪さが共存>
 本作のパンフレットには「REVIEW」として、①滝藤賢一氏(俳優)の「映画が醸し出す“不安定さ”が尋常ではない」、②滝本誠氏(映画評論家)の「煙草の一役」、③芝山幹郎氏(評論家)の「いかがわしい男たちと丁寧なハンドルさばき」、④政近準子氏(プロパーソナルスタイリスト)の「ギリシャに堕ちた恋とお洒落」、⑤角田光代氏(小説家)の「謎というスリル」があり、それぞれ興味深い。
 ②ではチェスターの煙草の吸い方に注目しているが、喫煙者が肩身の狭い思いをしている今の時代でも、本作でチェスターが見せるくわえ煙草の芝居はカッコいいの一言。しかし、くわえ煙草のカッコよさとは裏腹に、酒をたらふく呑んだ挙句に見せるチェスターの行動はあまりカッコいいものではない。チェスターがヤケ酒のようにスコッチを煽るのは、コレットに何かと色目を使うライダルに対する一種の嫉妬心からだが、どうもチェスターは自分自身のそれに気づいていないようだ。コレットが何の屈託もないようにライダルと飲んで踊っている姿を見れば、そりゃ気分はよくないだろうが、そうかといってここまで露骨に嫉妬心を見せては、男の沽券に関わるのでは・・・?

<互いに理想の父親像、息子像を?意外な結末に注目!>
 他方、ライダルが最初にチェスター、コレット夫妻に目をつけたのは、コレットの美貌のためではなく、チェスターのカッコいい父性のためだったことは、当初ライダル自身の言葉で表現されるが、どうもそれは本心らしい。もともとワルである(?)うえ、共に運にも見放されたチェスターとライダルの関係は、共犯者?それとも敵対者?という関係の他、どこかに一種の父と息子のような関係が生まれてくるのでそれに注目したい。
 しかして、イスタンブールのグランドバザールを舞台とした警察との追いつ追われつの攻防戦は、一瞬脱出に成功したかに見えたものの、結局は「御用!」となることに。日本の警察では本作のように簡単に拳銃をぶっ放すことはないはずだが、追い詰められてもなお逃走を続けようとするチェスターの背中には警察官が放った銃弾が命中。このままチェスターが死んでしまえば、ライダルは永久にコレット殺しの容疑者にされたままになるから、ライダルはたまったものではない。しかして、そこで最後に見せるチェスターの告白とは・・・?
 ひょっとして、ライダルがチェスターに対して理想の父親像を見ていたのと同じように、チェスターもライダルに対して理想の息子像を見ていたの・・・?そんな意外な結末に注目!
                                  2015(平成27)年4月21日記