日15-37(ショートコメント)

「海街diary」
    

                      2015(平成27)年4月2日鑑賞<GAGA試写室>

監督・脚本:是枝裕和
原作:吉田秋生『海街diary』(小学館「月刊フラワーズ」連載)
香田幸(さち)(長女、看護師)/綾瀬はるか
香田佳乃(よしの)(次女、信用金庫に勤める)/長澤まさみ
香田千佳(ちか)(三女、スポーツ用品店の店員)/夏帆
浅野すず(三姉妹の14歳の異母妹)/広瀬すず
坂下美海(信用組合の職員、佳乃の恋人)/加瀬亮
井上泰之/鈴木亮平
浜田三蔵(スポーツ用品店店長、千佳の恋人)/池田貴史
藤井朋章/坂口健太郎
尾崎風太(すずの恋人)/前田旺志郎
高野日出子/キムラ緑子
菊池史代(大叔母)/樹木希林
福田仙一(喫茶店「山猫亭」の店主)/リリー・フランキー
二ノ宮さち子(大衆食堂「海猫食堂」の店主)/風吹ジュン
椎名和也(医師、幸の恋人)/堤真一
佐々木都(幸、佳乃、千佳の母)/大竹しのぶ
2015年・日本映画・126分
配給/東宝、ギャガ

◆四人姉妹の物語といえば、オルコットの『若草物語』と谷崎潤一郎の『細雪』が有名。また、三人姉妹の物語といえば、『宋家の三姉妹』(97年)(『シネマルーム5』170頁参照)が有名だ。それに対して本作は、同じ父・母の下での長女・幸(綾瀬はるか)、次女・佳乃(長澤まさみ)、三女・千佳(夏帆)という三人姉妹と、父親の葬儀後一緒に住むことになった母親の違う四女・すず(広瀬すず)を加えた四人姉妹の物語。
 本作に観る四人姉妹の物語は、『若草物語』の次女・ジョーや、『細雪』の三女・雪子のような実質的な主人公をめぐる人間ドラマも無ければ、『宋家の三姉妹』のような歴史的なダイナミクスさもないまま淡々と進んでいく。『細雪』の舞台は船場と芦屋だったが、本作の舞台は鎌倉。吉田秋生の原作『海街diary』(小学館「月刊フラワーズ」連載)に惚れ込んで是枝裕和監督が映画化を希望したそうだが、それは、その原作が現在の多くの日本人が見失っている「家族」というものを再認識させるのに絶好の素材だったため・・・?そんな風に思える、四人姉妹の1年間の物語を本作でじっくり味わいたい。

◆四人姉妹の長女といえば、しっかり者と相場が決まっているが、本作に観る幸はまさにそれ。しかも、妹たちが幼い15年前に父親が家族を捨てて出て行き、その後母親も再婚して家を出て行ったという家庭環境ともなれば、長女が母親代わりとなって妹たちの世話をせざるをえないから、なおさらその傾向が強くなるのは当然。そして、そんな母親代わりの長女を見て育った次女は自由奔放な性格、とこれまた相場が決まっているが、それも本作ではそのとおりだ。
 本作冒頭のストーリーは、父親が残した古い鎌倉の家に父親の訃報が山形から届いたため、次女の佳乃と三女の千佳が(仕方なく)その葬儀に出向くところからスタートする。看護師をしている幸は仕事のため行けなかったので、代わりに佳乃と千佳を(嫌々ながら)行かせたわけだが、その幸も何とか都合をつけて結果的に葬儀に参加できたのはラッキー・・・?そこで出会い、別れ際に「鎌倉で一緒に暮らさない?」と提案したのが、父親の2度目の結婚相手との間に生まれた腹違いの妹で、現在中学生のすずだが、幸がそんな提案をしたのは一体なぜ?本作の導入部では、そこらあたりの機微をしっかり把握したい。

◆しっかり者の長女はなかなか結婚ができないもの。と、これまた相場が決まっているが、看護師の幸は医師の椎名和也(堤真一)と不倫関係にあるらしいから、いやはや・・・。自由奔放な次女が男をとっかえひっかえしているのも相場(?)だが、信用金庫に勤めている佳乃は今、ある男との失恋をきっかけに仕事に目覚めたらしいから少し意外・・・。個性の強い長女と次女に何となく合わせながらついていってる傾向が強い三女の千佳も、勤め先のスポーツ用品店の店長・浜田三蔵(池田貴史)といい仲らしい。このように、本作は三姉妹の男関係もしっかりと描いているから、それにも注目!さらに、すずはまだ中学生だから恋人がいないのは当然だが、鎌倉の中学校に入学するとすぐに少年サッカークラブに入団し、意外な実力を発揮したから、同級生の尾崎風太(前田旺志郎)と何となくほのぼのとした雰囲気に・・・。
 このように、本作前作では三姉妹の中に突然加わった腹違いの四女すずが意外にスンナリ溶け込んでいく風景が描かれるが、それがいつまでも続くものでないのは当然。四人姉妹それぞれの成長に伴うこれからの変化は当然だが、さてそれ以外に本作が描く波乱要因は・・・?

◆『青春の門』(77年)でデビューした大竹しのぶは、今や映画界になくてはならない大スターだが、本作ではその大竹しのぶ演じる三人姉妹の母・佐々木都が突然祖母の七回忌のため鎌倉に戻ってきたうえ、急に「鎌倉の家を売ろう」と提案したところから波乱のストーリーが始まることになる。そんなことを聞かされた長女の幸が、「突然戻ってきて、何を今さら勝手なことを言ってるの」と反発するのは当然。さて、都は何のために今そんな提案を・・・?長女からの意外な反撃に驚いた都の言い分は「元はと言えばお父さんが女の人を作ったのが原因じゃない」ということだが、弁護士の私に言わせれば、どちらの言い分もごもっとも。さらに、「今日みたいな目にあわせたら、すずがかわいそうだ」という佳乃の言い分がごもっともなら、「奥さんがいる人を好きになるなんて、お母さんよくないよね」というすずの言い分もごもっともだ。しかして、突然の母親の来訪による論争が、回りまわって、不倫をしている自分の身に戻ってくると、幸の気持も複雑なことに・・・。
 家族とはいえ、それぞれ立場や言い分にいろいろあることは、小津安二郎監督の『東京物語』(53年)や、それをリメイクした山田洋次監督の『東京家族』(13年)(『シネマルーム30』147頁参照)でしっかり描かれていた。『東京物語』も『東京家族』もまだ生存している老齢の両親とその子供たちの物語だったのに対し、本作は既に死んでしまった父親と三人姉妹との接点がほとんどなかった母親をめぐって、三人姉妹プラス腹違いの妹が織り成す物語という違いはあるが、それぞれ家族の立場や感情の機微を淡々と表現する映画であることは共通している。そんなシチュエーション下における、四人姉妹の家族、姉妹をめぐる感情の揺れと、それぞれの男性関係をめぐる感情の揺れを本作でしっかり確認したい。
                                  2015(平成27)年4月10日記