洋15-36

「はじまりのうた」
    

                      2015(平成27)年3月29日鑑賞<テアトル梅田>

監督・脚本:ジョン・カーニー
グレタ(ミュージシャンの女性)/キーラ・ナイトレイ
ダン(落ち目の音楽プロデューサー)/マーク・ラファロ
バイオレット(ダンとミリアムの娘)/ヘイリー・スタインフェルド
デイヴ(グレタの恋人、ミュージシャン)/アダム・レヴィーン
スティーヴ(グレタの旧友、ミュージシャン)/ジェームズ・コーデン
ソール(レコード会社社長)/ヤシーン・ベイ(モス・デフ)
トラブルガム(ヒップホップスター)/シーロー・グリーン
ミリアム(ダンの別居中の妻、音楽ライター)/キャサリン・キーナー
2013年・アメリカ映画・104分
配給/ポニーキャニオン

<前作に続いて、清涼剤的な佳作が!>
 ミュージカル映画ではない、音楽と映画が見事に融合した珠玉の名作が『once ダブリンの街角で』(06年)だった。そのストーリーは至ってシンプルで、タイトルどおりの男女の出会いと別れが、美しい音楽が紡がれる中で描かれていた。そのため、最近の、ヤケに長くかつ複雑・難解な映画が多い中、一服の清涼剤的な佳作になっていた(『シネマルーム16』262頁参照)が、それは本作も同じだ。
 私が驚いたのは、一方では、『つぐない』(07年)(『シネマルーム19』306頁参照)や『アンナ・カレーニナ』(12年)(『シネマルーム30』105頁参照)等の歴史上の大作で歴史上の人物を演じ、他方では、『危険なメソッド』(11年)(『シネマルーム29』121頁参照)や『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(14年)等の個性的な映画(?)でチョー個性的な役柄(?)を演じていた、私の大好きなイギリス人美人女優キーラ・ナイトレイを起用していること。しかし、キーラ・ナイトレイって自分でギターを弾きながら歌を歌えるの?
 そんな不安があったが、『レ・ミゼラブル』(12年)(『シネマルーム30』48頁参照)でアン・ハサウェイがファンテーヌ役を演じて第85回アカデミー賞助演女優賞を受賞したのと同じように(?)、キーラ・ナイトレイも本作では冒頭から堂々と・・・。

<落ちぶれた音楽プロデューサーだが・・・>
 歌手から音楽プロデューサーに転向した(?)つんく♂が、4月4日の近畿大学の入学式で声帯の摘出手術を受けた結果、声を失ったと発表したことには驚かされたが、彼のプロデューサーとしての活動は今なお健在。しかし、1980年代から90年代にかけて一世を風靡した音楽プロデューサー・小室哲哉は、今では完全にダウンし、世間から忘れ去られている。本作でキーラ・ナイトレイ演じる個性的なミュージシャン、グレタの歌を聴いてホレ込み、そのデビューCDをプロデュースしようとするのが、今は落ちぶれた音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)だ。小室哲哉の女性関係は何かと華やかだったが、ダンの女性関係はそれとは大違いで、妻のミリアム(キャサリン・キーナー)とは別居状態になっているうえ、14歳の一人娘・バイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)からは煙たがられているようだ。
 そんな中年男のダンが、一緒にレーベルを立ち上げて大成功したパートナーのソール(ヤシーン・ベイ(モス・デフ))と交わす、商売の路線に関する「議論」を聞いていると、ソールは経営者としてしっかりした理念を持っているのに対し、ダンはまるで音楽好きの少年のような感じ・・・。「お前はクビだ」と宣告され、「上等じゃねーか」と受けたのも子供っぽいが、その後酒に酔って街をほっつき歩いている姿を見ると、まるで浮浪者だ。偶然入ったライブハウスでグレタの歌を聴き、心に留めることができたのはラッキーだったが、ひょっとしてそれは、たまたまダンの気持が荒んでいたため心に響いただけ・・・?
 いやいや、ダンほどの音楽プロデューサーになれば、酔っぱらった中で聴く名曲には同時にオーケストラが鳴るそうだから、やはりダンが見抜いたグレタの才能はホンモノ・・・?

<音楽界でも、商業主義と芸術主義の対立が>
 出来はともかく、売れればいいという商業主義と、いくら売れても芸術性のないものはダメだという芸術主義の対立は、映画界でも音楽界でも同じ。グレタが同じ音楽を志し、共に曲を作っていた恋人のデイヴ(アダム・レヴィーン)と別れたのは、その対立のためだ。冒頭のグレタの歌うシーンの後、2人が作った曲が映画主題歌に抜擢されてメジャー・デビューが決定したため、2人がニューヨークの豪邸に引っ越していくシーンが登場するが、多分、この2人の幸せはこのときが絶頂期。セレブのような生活環境の中でデイヴの音楽活動が続く中、デイヴに新たな女性関係が浮上したため、グレタはたちまち絶望の淵にたたき込まれることに。そんなグレタが飛び込んだのは、売れないストリート・ミュージシャンのスティーヴ(ジェームズ・コーデン)という昔ながらの男友達の部屋。ライブハウスで歌うグレタの姿がスクリーン上に登場したのは、スティーヴが出演していた小さなバーでのライブだが、やはり持つべきはこんな心の友だ。スティーヴの汚い部屋への居候生活だが、グレタにとってはデイヴとのセレブな生活よりこちらの生活の方がもともと性に合ってたのかも・・・?

<なるほど、こんな方法が!出来すぎな面もあるが>
 音楽好き、新曲好きの私は、かつて小室哲哉やつんく♂がプロデュースしていた「夢のオーディションバラエティ」番組・『ASAYAN』を、毎週日曜日の夜、楽しみに観ていた。そこでは、音楽プロデュースという仕事の面白さと大変さがよくわかるうえ、オーディションの合格を夢見て押しかけてくる若者たちの努力と熱意が何よりも面白かった。歌のオーディション番組としては、1971年から1981年まで続いた『スター誕生!』が有名だが、その面白さも全く同じだった。さらに近時は、ジャニーズの『関ジャニの仕分け∞』でカラオケ女王の座に君臨していたMay J.の歌唱力に驚いていたが、その彼女が『Let It Go』の大ヒットによって一躍メジャー・デビューしたのはご存じの通りだ。
 このように、テレビのオーディションバラエティー番組への出場と、そこでの優勝を契機としてプロ歌手にデビューし、大成功を収めた例は多いが、いまや落ちぶれてしまった音楽プロデューサーのダンが、実力ではピカイチと惚れ込んだミュージシャンのグレタをメジャー・デビューさせるには、さてどんな方法が・・・?まさか、ニューヨークの音楽オーディション番組にグレタを出場させるわけではないはずだ。デモテープを1つ作るだけなら簡単だが、レコードやCDを製作し販売するには、スタジオを借り切ったり、伴奏のミュージシャンを集めたり、宣伝会社と契約したり等々、多くの作業が不可欠。誰でもそう思うはずだが、さて、本作にみるダンの自由な創作精神の発露とは?そこでは、人間同士のつながりの中で意外な才能が結集してきたり、ダンの娘・バイオレットが意外なギターの才能を発揮したりと、さまざまな面白いドラマが展開していくのでそれに注目!
 さらに、1つの目標に向けた共同作業の中で、意外にもダンとミリアムとの夫婦仲が復活するという産物まで生まれるから、それにも注目!ちなみに、こんな風な「同士的なつながり」が強まれば、ダンとグレタの間に信頼関係を超えた男女の感情が生まれるのも当然だが、さて、その方面の展開と結末は?そんな人間的、男女的な感情の動きにも注目したいが、本作の本筋はあくまで音楽作りであることだけはしっかり押さえておきたい。ちょっと出来すぎな面はあるものの、どん底にある男女が本作で見せるサクセス・ストーリーは実に爽快!
                               2015(平成27)年4月6日記