日15-35

「新宿スワン」
    

                      2015(平成27)年3月23日鑑賞<GAGA試写室>

監督:園子温
脚本:鈴木おさむ、水島力也
原作:和久井健『新宿スワン』(講談社「ヤングマガジン」刊)
白鳥龍彦(スカウト会社「バースト」のスカウトマン)/綾野剛
南秀吉(スカウト会社「ハーレム」のスカウトマン)/山田孝之
アゲハ(風俗嬢)/沢尻エリカ
真虎(スカウト会社「バースト」幹部)/伊勢谷友介
葉山豊(スカウト会社「ハーレム」幹部)/金子ノブアキ
関玄介(スカウト会社「バースト」幹部)/深水元基
時正(スカウト会社「バースト」幹部)/村上淳
洋介(スカウト会社「バースト」幹部)/久保田悠来
栄子(龍彦にスカウトされるキャバ嬢)/真野恵里菜
梨子(関玄介の愛人)/丸高愛美
松方(スカウト会社「ハーレム」社長)/安田顕
涼子(高級クラブ「ムーランルージュ」のママ)/山田優
山城神(スカウト会社「バースト」社長)/豊原功補
天野修善(ヤクザ組織「紋舞会」会長)/吉田鋼太郎
2015年・日本映画・139分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

<園子温監督作品にしてはイマイチ・・・>
 私は園子温監督作品として最初に観た『愛のむきだし』(08年)(『シネマルーム22』276頁参照)に惚れ込み、その後の『冷たい熱帯魚』(10年)(『シネマルーム26』172頁参照)と『恋の罪』(11年)(『シネマルーム28』180頁参照)にも惚れ込んだ。また、『ちゃんと伝える』(09年)(『シネマルーム23』221頁参照)、『ヒミズ』(12年)(『シネマルーム28』210頁参照)、『希望の国』(12年)(『シネマルーム29』37頁参照)も、それぞれ興味深かった。
 しかし、井上三太の『TOKYO TRIBE2』を原作とした、園子温監督の前作『TOKYO TRIBE』(14年)は、その世界観がイマイチなら、ヒロインのインパクトもイマイチ。さらに、最後の馬鹿げたオチには幻滅させられた(『シネマルーム33』未掲載)。しかして、彼の最新作たる本作も、和久井健の原作漫画をもとにするという企画そのものがイマイチだし、その出来も園子温監督作品としてはイマイチ・・・。

<主演の綾野剛もイマイチ・・・>
 綾野剛が主演した呉美保監督の『そこのみにて光輝く』(14年)は、2014年の第9回おおさかシネマフェスティバルで作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、監督賞、撮影賞を受賞した(『シネマルーム32』166頁参照)。私が最初に綾野剛に注目したのは、NHK大河ドラマ『八重の桜』での若き会津藩主・松平容保役だったが、『そこのみにて光輝く』での演技は、共演した池脇千鶴の演技と並んで実にお見事だった。
 綾野剛は『白ゆき姫殺人事件』(14年)でも、いい加減なテレビ局のディレクター役を「怪演」していた(『シネマルーム32』227頁参照)から、別に端正なイケメン役だけではなく、本作の主人公・白鳥龍彦のような役も可能。龍彦は、親にもツキにも見放され、帰る電車賃もないまま新宿にやって来た野良犬のような男だが、ケンカだけは得意らしい。園子温監督は、そんな主人公・龍彦に綾野剛が最適任と考えて起用したのだろうが、私の目には、綾野剛にこんな役はイマイチ・・・。

<「職業に貴賤がない」のは当然だが・・・>
 本作は、龍彦がボコボコに痛めつけられているところを、スカウト会社「バースト」の幹部である真虎(伊勢谷友介)に助けられ、真虎からスカウトマンに採用されるところから始まる、龍彦の成長物語。「職業に貴賤がない」のは当然だから、スカウトマン自体が悪いとは思わないが、やはり私には、新宿、歌舞伎町を闊歩する女の子に手当たり次第に声を掛けていくスカウトマンが立派な職業だとは思えない。彼らが女の子に紹介する店も、クラブ、ラウンジ、キャバクラならまだしも、マッサージ店、風俗店ともなれば、いくら需要と供給のバランスを調整している立派な職業だといっても、「なるほど」と納得できるものではない。
 したがって、龍彦が言うように、「俺がスカウトした女の子には必ず幸せだって言わせます!」を目指すこと自体が、私に言わせれば基本的にムリ。だって、そもそも新宿、歌舞伎町はヤクザの会長・天野修善(吉田鋼太郎)が仕切っているうえ、本作のストーリー展開の軸となるように、その世界ではシャブなどの薬物の横行が避けられないのだから・・・。

<これが男の生きる道・・・?>
 真虎を演じる伊勢谷友介は、現在NHK大河ドラマ『花燃ゆ』の吉田松陰役で、さかんに「君の志は何か?」と問うている。しかして、本作で見せる龍彦の真虎に対するその回答が、「俺がスカウトした女の子には必ず幸せだって言わせます!」だが、さてそんなことは可能?
 本作には、スカウト会社「バースト」の社長・山城神(豊原功補)、幹部として真虎の他、 関玄介(深水元基)、時正(村上淳)の2人が登場し、それぞれ個性的な役割を見せる。他方、「バースト」と張り合っているスカウト会社「ハーレム」の社長・松方(安田顕)は少し頼りないが、幹部の葉山豊(金子ノブアキ)はしっかり者らしい。また、本作前半では「ハーレム」のスカウトマンの1人にすぎない南秀吉(山田孝之)が最近えらくのし上がっているのが注目点だ。さて、「俺は将来この街を仕切る男になる」とうそぶいている秀吉の力量のほどは・・・?秀吉は葉山と組んで「ハーレム」の乗っ取りを企んでいるようだが、その資金源のためシャブに手を出すのはいくら何でもまずいのでは・・・?
 幕末時代、吉田松陰が主宰する「松下村塾」に集まった若者たちの、「これが男の生きる道」を探すストーリーが展開している『花燃ゆ』と同じように、本作でも新宿、歌舞伎町における「これが男の生きる道」を探すストーリーが展開していく。しかし、それってホントに男の生きる道?さらに、『凶悪』(13年)で観た山田孝之の凶悪ぶりはホンモノだった(『シネマルーム31』195頁参照)が、本作にみる山田孝之はカッコだけ・・・。

<女の生きる道は・・・?>
 新宿、歌舞伎町を舞台として消耗戦のような戦いを続けていく男たちに対して、スカウトマンの対象になる女は、所詮商品。本作では、龍彦がスカウトしたキャバ嬢・栄子(真野恵里菜)の他、久しぶりに沢尻エリカが登場し、「薄幸の女」の代表ともいえるアゲハ役を演じているので、それに注目。
 他方、女の戦いにおける圧倒的勝ち組が、若いながら銀座の高級クラブ・ムーランルージュのママに君臨している涼子(山田優)だ。しかし、それって一体どうやって実現したの?美貌と女の武器を活用して権力者をバックにつければ、女の出世は思いのままだが、さて、涼子のバックについている権力者は誰?そしてまた、表面上はカッコいい涼子だが、ウラでは一体どんな顔を・・・?

<トコトン抗争?それとも友好的合併?>
 本作では、「バースト」の後ろ盾になって、「バースト」から上納金を収めさせているヤクザ組織「紋舞会」の会長・天野修善の存在感が際立っているが、上納金のアップを要求されると、「バースト」の山城社長の対応策は?そんなことを契機として、「バースト」と「ハーレム」の抗争は激しさを増し、トコトン抗争?それとも友好的合併?というストーリーが本作後半のポイントとなる。
 現在、株式会社大塚家具では、3月27日の株主総会に向けて、大塚勝久会長と娘である久美子社長との間で激しい株主の過半数争奪戦が展開されている。それと同じように本作では、関が仕組んだ抗争計画に「バースト」の山城社長も、「ハーレム」の松方社長も乗せられていくのに対して、真虎と葉山が密かに練った両者の友好的合併案が進行していくことに・・・。しかして、どんな男の社会にも共通する、そんな権力闘争の行方は・・・?

<この結末には不満!結局ヤクザが1番偉いの?>
 中間管理職の立場が大変なことは、「バースト」の幹部であり、龍彦の教師役でもある真虎の行動を見ているとよくわかる。同じ「バースト」の幹部である関が、愛人の梨子(丸高愛美)と共に仕組んだ「あるプラン」が失敗した後、真虎は葉山と組んで「バースト」にとってベストの友好的合併案を実現させたのはさすがだ。しかし、問題はそれをいかに維持していくかということになるが、そこで再び浮上するのが天野の存在だ。本作ラストには、クラブ・ムーランルージュの中で天野が1人どっかと腰を下ろし、周りをキレイどころのホステスで固めたシーンが登場するが、現実にはこんなことはありえないはず。だって、そんなことをすれば、クラブ・ムーランルージュの美人ママのバックはヤクザの親分だという噂が広まってしまうはずだから。
 それはともかく、私が本作のラストに納得できないのは、その場に真虎が1人で登場し、いわば天野から杯を受けること。こりゃ一体ナニ・・・?しかも、そこで天野が言うのは、「紹介された男がどんな男かも重要だが、それ以上に、誰が紹介したかが重要だ」というセリフ。これにて真虎は、うまく天野に取り入ることができたわけだが、ひょっとして、これは将来的に真虎が「バースト」の社長の座を乗っ取るための布石・・・?すると、やっぱり新宿、歌舞伎町ではヤクザが一番偉いの?そして、高級クラブ・ムーランルージュは、ヤクザのおかげで商売繁盛しているの?私は、断固この結末には不満!
                                  2015(平成27)年3月26日記