洋15-34

「スペシャルID 特殊身分」
    

                   2015(平成27)年3月17日鑑賞<シネ・リーブル梅田>

監督:霍耀良(クラレンス・フォク)
アクション監督:甄子丹(ドニー・イェン)
製作:鮑德熹(ピーター・パウ)、甄子丹(ドニー・イェン)
陳子龍(チェン・チーロン)(香港警察の警察官、潜入捜査官)/甄子丹(ドニー・イェン)
羅志偉(ルオ・ジーウェイ)(サニー)(ロンの兄弟分のヤクザ)/安志杰(アンディ・オン)
方靜(ファン・ジン)(広東省南海市の中国警察の女刑事)/景甜(ジン・ティエン)
張(チャン)警部(ロンの上司)/鄭中基(ロナルド・チェン)
長毛雄(ホン)(香港の黒社会のボス)/鄒兆龍(コリン・チョウ)
テリー/尹子維(テレンス・イン)
エイミ―(ロンの母)/鮑起靜(パウ・ヘイチン)
刀鋒(ダオフォン)/張涵予(チャン・ハンユー)
雷(レイ)隊長/楊志剛(イン・チーガン)
泰國佬(パオ)/盧惠光(ケネス・ロー)
坤哥(クン)(ホンの部下)/麦長青(マク・チョンチン)
2013年・中国、香港映画・99分
配給/彩プロ

<ドニー・イェンのアクション映画を整理してみると・・・>
 甄子丹(ドニー・イェン)が登場するアクション映画は実に多い。近時私が観たもので、『シネマルーム34』に収録したものだけでも、①『エンプレス-運命の戦い- (江山美人)』(08年)(『シネマルーム22』189頁、『シネマルーム34』47頁参照)、②『孫文の義士団(十月圍城)』(09年)(『シネマルーム26』143頁、『シネマルーム34』107頁参照)、③『イップ・マン 葉問(葉問2)』(10年)(『シネマルーム26』213頁、『シネマルーム34』479頁参照)、④『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳 (精武風雲・陳真) 』(10年)(『シネマルーム34』476頁参照)、⑤『処刑剣 14 BLADES (錦衣衛) 』(10年)(『シネマルーム26』139頁、『シネマルーム34』156頁参照)、⑥『三国志英傑伝 関羽 (関雲長/THE LOST BLADESMAN) 』(11年)(『シネマルーム28』109頁、『シネマルーム34』68頁参照)、⑦『捜査官X(武侠)』(11年)(『シネマルーム28』165頁、『シネマルーム34』445頁参照)がある。
 私がドニー・イェンを見て、最初に印象に残ったのは、⑧『HERO(英雄)』(02年)で演じた比類なき槍の名手・長空(チャンコン)役(『シネマルーム5』134頁参照)だが、その後『シネマルーム17』に収録した作品には、⑨『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ (千機變Ⅱ花都大戦/THE HUADU CHRONICLES:BLADE OF THE ROSE/THE TWINS EFFECT 2)』(04年)(『シネマルーム9』53頁、『シネマルーム17』108頁参照)、⑩『SEVEN SWORDS セブンソード(七剣)』(05年)(『シネマルーム9』38頁、『シネマルーム17』114頁参照)、⑪『SPL(殺破狼)/狼よ静かに死ね』(05年)(『シネマルーム10』389頁、『シネマルーム17』73頁参照)がある。
 さらに、もっと古くは⑫『シャンハイ・ナイト』(03年)(『シネマルーム3』304頁参照)もある。
 そんなドニー・イェンが本作では、潜入捜査官となっている香港警察のはぐれ刑事・陳子龍(チェン・チーロン)役でMMA(総合格闘技)のアクションを!MMAの激しさとテクニックは『激戦 ハート・オブ・ファイト』(13年)(『シネマルーム35』参照)で堪能させてもらったが、さて本作でみせてくれるドニー・イェンのMMAアクションは?

<本作にも香港の中国化、本土化が・・・>
 「オキュパイ・セントラル(セントラルと占領せよ)」と叫んで、昨年9月から12月まで展開された香港の反政府デモ(雨傘革命)は、結局強制排除によって終結した。これは、2017年に実施される香港特別行政区行政長官選挙において、1人1票の「普通選挙」とならず、指名委員会の過半数の支持を得た2、3名の候補者に限定される、と中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会が決定したことに、学生や民主化団体が反発したことに端を発したものだが、そこでは、中国共産党の強硬姿勢が際立っていた。すると、やっぱり香港も中国(本土)と一体化する方向にならざるをえないの?香港警察で潜入捜査官をやっていたロンが「特殊身分」として中国広東省南海市に飛び、中国警察の女刑事・方靜(ファン・ジン)(景甜(ジン・ティエン))と組んで捜査に当たるという本作の基本ストーリーを見ていると、そんな感を強くしてしまう。
 本作の製作には、日本の谷垣健治氏がスタント・コーディネーターとして参加している。しかし、①もともとドニー・イェンとジャッキー・チェンが共演することになっていたのに、ジャッキー・チェンが不参加になったこと、②当初監督する予定だったタン・ピンが降板し、作品の企画から関わっていた霍耀良(クラレンス・フォク)が監督することになったこと、を知ると、そりゃ一体なぜ?と考えざるをえない。さらに、パンフレットの「PRODUCTION NOTE」に詳しく書かれている事情を読むと、本作の製作については問題だらけだったことがよくわかる。
 もちろん、それがすべて政治の影響とは言わないが、『三国志』のような時代モノではなく、警察とヤクザの裏側をえぐった現代アクション映画の舞台を中国本土にすれば、当然いろいろと問題が出てくるはずだ。「PRODUCTION NOTE」には、「中国で現代アクションを作るのはすごく面倒なことなんです。当然、銃撃戦は出てくるし、公安警察も登場する。でも公安は撃たれて死んではいけないとか、悪者を英雄的描写してはいけないとか、いろんな規制があるんですね。今回の作品で脚本を作り直す上で、香港とは違う、中国での映画作りをいろいろと知ることができました。絶えず困難なことが起こりましたが、香港の超一流スタッフが集まってそれを乗り越えて作ったアクション作品の面白さを感じて欲しいですね」という谷垣氏の言葉があるので、本作を鑑賞するについては、その意味をしっかり考えたい。

<2013年の北京四大美女の1人に注目!>
 中国の「四大名旦(中国四大女優)」は長い間、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、章子怡(チャン・ツィイー)、徐静蕾(シ ュー・ジンレイ)、周迅(ジョウ・シュン)の4人だったが、これは今なおキープされているはず。ところが、本作には「北京四大美女」の1人というジン・ティエンが、ジャッキー・チェンに代わる(?)、ドニー・イェンの相棒として登場するので、その美人ぶりとアクションに注目!中国映画に詳しいことを自負している私がジン・ティエンのことを全く知らなかったのは、①スン・ホンレイ、中井貴一と共演した時代劇大作『戦国』(未)も、②韓国のクォン・サンウと共演した『7日間の恋人』(12年)も、③チョウ・ユンファ、ニコラス・ツェーと共演した『ゴッド・ギャンブラー レジェンド』(14年)も日本では公開されていないためだ。ジン・ティエンは舞台版『ラスト、コーション』でヒロイン役を演じた他、多くのテレビドラマにも出演しているそうだが、それだけではいくら彼女が「北京四大美女」の1人と言われていても、私が彼女のことを知らないのは当然・・・。
 本作でジン・ティエンが演じる女刑事ジンは、強気一辺倒のイケイケ感が強いが、はじめて人を殺してしまうと、えらく落ち込んでしまうという弱い面も持っているところが面白い。警察官のクセに、長年にわたる潜入捜査でヤクザを演じていたこともあって、とことんガラの悪いロンとジンは当初水と油のパートナーだったが、ジンがそんな弱みを素直にロンの前で見せたことによって、ロンとジンは急接近!といっても、それは昨今の日本の警察でよく暴露されている「不倫」関係ではなく、互いを理解し、信頼し、協力し合うためのものだ。いかにも気の強そうで生意気そうなその顔は私の好みとは少し違うし、線が細すぎるため本作でみせるアクションも少しムリがあるように思えたが、さて本作以外の映画での彼女の活躍は?

<次世代の本格派アクション俳優にも注目!>
 導入部でのロンによる顔見せ的アクションは、香港の黒社会の大物ボス、長毛雄(ホン)(鄒兆龍(コリン・チョウ))の縄張りにおける麻雀の席で展開される。ここでのアクションはジャッキー・チェンを彷彿させるユーモアを含んだものだが、本作ラストのハイライトとなるロンとその義兄弟・羅志偉(ルオ・ジーウェイ)(サニー)(安志杰(アンディ・オン))との男同士のガチンコ対決は、うって変わって真剣そのもののMMAアクションとなる。したがって、そこに至るまでの、香港警察のロンが、なぜ「特殊身分」として広東省南海市に飛んだのか?ロンがなぜサニーと久々の再会を果たしたのか?等のストーリーは、そのメイン対決を最高潮の舞台で見せるための伏線的な「筋書き」にすぎない。本作と同じ日に観た、「緻密な伏線、壮大なトリックが予測不可能なサプライズを呼ぶ失踪ミステリーの<驚愕の事実>とは?」と宣伝されたインド映画『女神は二度微笑む』(12年)のストーリー・テイキングは、あっと驚く見事なものだった。それに比べれば、本作はクライマックスのロンとサニーによるMMA対決をいかに盛り上げるかがメインテーマだから、ストーリー・テイキングは多少どうでもいいもの・・・?
 サニーを演じたアンディ・オンは1975年生まれだから、1963年生まれのドニー・イェンの次世代のアクション俳優。ツイ・ハーク監督に見い出された後、近時は『インビジブル・ターゲット(男兒本色)』(07年)(『シネマルーム21』63頁、『シネマルーム34』462頁参照)や『三国志英傑伝 関羽』に出演していたそうだから、私も数回観ていることになる。本作はドニー・イェンが主役だから、クライマックス対決でサニーがロンに負けてしまうのは当然だが、若さからいっても体格の良さからいっても、決してアンディ・オンはドニー・イェンに負けていないのでは・・・?そう思えるほど、アンディ・オンのアクションは冴えているし、イケメンぶりも相当なものだ。ジャッキー・チェンの引退も近い昨今、ドニー・イェンに続く主役を張れる次世代のアクションスターの1人として、このアンディ・オンに注目したい。
                                  2015(平成27)年3月26日記