洋15-28(ショートコメント)

「愛して飲んで歌って」
    

                       2015(平成27)年3月6日鑑賞<テアトル梅田>

監督:アラン・レネ
原案戯曲:アラン・エイクボーン『Life Of Riley』(お気楽な生活)
カトリーヌ(コリンの妻)/サビーヌ・アゼマ
コリン(開業医)/イポリット・ジラルド
タマラ(ジャックの妻)/カロリーヌ・シオル
ジャック(リッチなビジネスマン)/ミシェル・ヴュイエルモーズ
モニカ(ジョルジュの元妻)/サンドリーヌ・キベルラン
シメオン(モニカが現在同居している男、農夫)/アンドレ・デュソリエ
ティリー(ジャックとタマラの16歳の娘)/アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ
聖職者の声/ジェラール・ラルティゴ
2014年・フランス映画・108分
配給/クレストインターナショナル

◆団塊世代の私たちは、フランスのルネ・クレマン監督の名前をよく知っている。それは、ルネ・クレマン監督も、そのデビュー作『鉄路の闘い』(45年)は政治色の強いドキュメンタリーだったが、『禁じられた遊び』(52年)や『太陽がいっぱい』(60年)が私たちの中学・高校時代に商業映画として大ヒットしたためだ。
 それに対して、ルネ・クレマンより少し若いアラン・レネ監督については、名前は知っていても、その映画は観たことがない人が多い。それは、アラン・レネ監督の、①ナチスによるアウシュヴィッツ強制収容所を扱った最初の映画の1つと言われている『夜と霧』(55年)や②日本の広島を舞台に製作した初の長編劇映画『二十四時間の情事(別題『ヒロシマ、モナムール』)』(59年)はあまりに難しすぎたためだ。さすがに、中学・高校時代にこれを観た人は少ないはずだ。
 そんなアラン・レネ監督が、2014年3月1日、91歳で亡くなったが、彼は2014年の第64回ベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞(銀熊賞)を受賞した。普通、アルフレッド・バウアー賞は革新的な若手監督に与えられるものだから、アラン・レネ監督の受賞は異例だが、それは彼が年を重ねるごとに常に新境地を開拓してきたことが評価されたためだ。

◆本作には名前だけで登場するジョルジュ・ライリーという男が、病気のため「余命わずか」と宣告されたことをいいことに(?)、開業医のコリン(イポリット・ジラルド)の妻カトリーヌにも、リッチなビジネスマンのジャック(ミシェル・ヴュイエルモーズ)の妻タマラにも、一緒に旅行に出かけようと誘ったことから、女同士の火花が散っていくことになる。ジョルジュの誘いは、今は農夫のシメオン(アンドレ・デュソリエ)と一緒に生活しているジョルジュの元妻モニカ(サンドリーヌ・キベルラン)にも向いていた、というから驚きだ。ジョルジュはコリン、ジャック、シメオンとも仲の良い友人だが、一体なぜ今そんなお誘いを3人の女たちに対してしたの・・・?
 本作はアラン・エイクボーンの戯曲『Life Of Riley』(お気楽な生活)を元にした映画だから、お芝居風の会話劇仕立てになっている。そうなると当然、中年女たちのおしゃべりが中心になるから、共に1949年生まれのサビーヌ・アゼマ扮するカトリーヌと、カロリーヌ・シオル扮するタマラのおしゃべりがストーリーの軸を形成することになる。本作の舞台はイギリスのヨークシャー郊外だが、お芝居のセットのようなスクリーン上で展開される3人の女たちの会話の激しさと、それに翻弄される3人の男たちの狼狽ぶりが面白い。春夏秋冬と季節が変わっていく中、さて余命短いジョルジュの容態は・・・?

◆ジョルジュはカリスマ的な魅力を持った高校教師で、カトリーヌは若い頃そんなジョルジュの恋人だったらしい。しかし、当然ながらカトリーヌには、夫コリンに対してそんな「説明責任」はないうえ、真面目なコリンには妻の過去の男性関係など全く興味がないらしい。したがって、ジョルジュから旅行に誘われたカトリーヌが、何を今さらウキウキしているのか、コリンが全く理解できないのは当然だ。
 他方、ジャックはジョルジュの10代の頃からの親友で、妻のタマラとの間には、まさに目の中に入れても痛くないような、16歳の一人娘ティリー(アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ)がいる。ところが何と、コトもあろうにジョルジュは、このティリーまでも旅行に誘ったらしいから、ジャックはカリカリ!また、モニカはジョルジュの八方美人ぶりに耐え切れずジョルジュを捨てて、今はシメオンと新しい生活を始めていたが、近時はシメオンとの関係もイマイチらしい。したがって、季節が春から夏に変わるにつれて、この6人の大人の男女(プラス16歳の娘)の人間関係には微妙な変化が・・・。

◆スクリーン上には全く登場しない男・ジョルジュがストーリー形成に大きく関与してくるのは、地元の素人演劇一座でやることになっていた4人芝居で、突然1人降板することになったため。そこで、コリン、カトリーヌ、タマラの3人は、その代役としてジョルジュを引っ張り出すことに成功したわけだ。そして、この4人芝居の舞台ではジョルジュとタマラのラブシーンが用意され、リハーサルごとに2人の関係は親密になっていくことに・・・。
 そんな中、ジャックからジョルジュの元に戻って最期を看取ってほしいと懇願されたモニカは、シメオンとの関係に疑問を感じていたこともあり、再びジョルジュに気持が傾いていくことに・・・。このように、3人の女たちの気持が今、一様にジョルジュに向かっていったから、当然そこには、激しい女たちの葛藤が・・・。

◆カトリーヌを演じる1949年生まれの女優サビーヌ・アゼマは、アラン・レネ監督の公私にわたるパートナーだから、90歳を超えたアラン・レネ監督の意向を瞬時に理解し、それを演技に活かすことができるらしい。スクリーン上に全く登場しないジョルジュや、最後の一瞬だけ登場する16歳の娘ティリー以外は、本作に登場するのはサビーヌ・アゼマを含めていずれも芸達者な女優と男優ばかり。したがって、その会話劇は真剣味の中にもユーモアがあって、メチャ面白い。とりわけ、当初は自分だけがジョルジュから旅行に誘われたと思い、それに対してそれぞれの「決断」を下していた3人の女たちが、何のことはない、自分以外の女も誘ってもらっていることを知った後の反応は興味深い。さらに、口が塞がらないほどあっと驚くのは、ジョルジュは何と16歳の娘ティリーもお誘いしていたこと。さて、その真意は・・・?
 本作のラストは、ジョルジュの葬儀のシーンとなるが、ここでも棺の中に入っているであろうジョルジュの姿は見えない。その棺の前に集まった3人の男と3人の女たちは、それぞれ棺に向かって花を投げて立ち去るが、その後、1人だけでそこにやってくる女は一体ダレ?もちろん、それは想定の範囲内だが、さてジョルジュと現実に旅行に行き、ベッドを共にしたのは一体誰なのだろうか・・・?
                                  2015(平成27)年3月10日記