洋15-148

「最愛の子(親愛的/DEAREST)」
    

                     2015(平成27)年12月14日鑑賞<ギャガ試写室>

監督:陳可辛(ピーター・チャン)
李紅琴(リー・ホンチン)(ポンポンをジーガンの名で育てた親、ジーファンの養母)/趙薇(ヴィッキー・チャオ)
田文軍(ティエン・ウェンジュン)(ポンポンを連れ去られたネットカフェの経営者)/黄渤(ホアン・ボー)
高夏(カオ・シア)(弁護士)/佟大為(トン・ダーウェイ)
魯暁娟(ジュアン、ルー・シャオジュアン)(ポンポンを連れ去られたティエンの元妻)/郝蕾(ハオ・レイ)
韓(ハン)(“行方不明児を捜す会”の会長)/張譯(チャン・イー)
樊芸(ファン・ユン)(“行方不明児を捜す会”のメンバー、ハンの妻)/張雨綺(キティ・チャン)
田鵬(ティエン・ポン)(ポンポン)(誘拐されたティエンとジュアンの男の子)
楊吉剛(ヤン・ジーガン)(ホンチンに育てられた男の子)
楊吉芳(ヤン・ジーファン)(ホンチンの養女)/李一情
チンシャン(深圳の建設現場で働くホンチンの死んだ夫の同僚)/張國強(チャン・コッキン)
ジュアンが再婚した夫/王志飛(ワン・ジーフェイ)
2014年・中国、香港映画・130分
配給/ハピネット、ビターズ・エンド

<あの映画もこの映画も、まず警察の対応に問題あり!>
 母親の子供に対する純粋で献身的な愛は絶対だが、アンジェリーナ・ジョリーが主演した『チェンジリング』(08年)は、そのことを私たちに骨の髄まで知らしめた傑作だった(『シネマルーム22』51頁参照)。タイトルの『チェンジリング』とは、「取り換えられた子供」という意味で、この言葉の背景には、「さらった子供の代わりに妖精が置いていく醜い子供」という伝説が宿っているらしい。いくら取り換えられた子供から「ママ!ママ!」と呼ばれても、違うものは違う!『チェンジリング』の前半は、「失踪」「発見」「別人」をキーワードとするミステリーめいた展開の中、母親のそんな戸惑いと、自己のミスを認めようとしないロサンゼルス市警の腐敗ぶりが印象的だった。しかして、本作に見る子供の捜索願に対する中国の警察の対応は?
 本作の一方の主人公は、深圳でネットカフェを営む田文軍(ティエン・ウェンジュン)(黄渤/ホアン・ボー)と、今はそのティエンと離婚し、深圳の男と再婚している元妻・魯暁娟(ジュアン、ルー・シャオジュアン)(郝蕾/ハオ・レイ)。その2人の間に生まれた3歳の男の子、田鵬(ティエン・ポン)(ポンポン)(朱子墨)の監護権、養育権はティエンが持っているようで、面会交流を終えたジュアンがポンポンをティエンに返したその日に、ポンポンの誘拐事件が発生!夜になってもポンポンが帰ってこないことを心配したティエンは警察に電話して捜索を願い出たが、中国の警察の規則では「失踪後24時間は事件として扱えない」らしい。仕方なくティエンは近所の人たちの協力も得て必死で心当たりの場所や駅などを片っ端から捜したが、ポンポンは見つからなかった。ところが、失踪後ある場所の防犯カメラに男がポンポンを抱いて連れ去る映像が残っていたから、なぜ警察はあの時もっと早く捜してくれなかったの!ジュアンがそう考え、厳しい言葉で警察にそう食って掛かったのは当然だ。しかし、警察は「誘拐された子の親はみな同じことを言いますが、規則だから」の一点張り。署を出るときジュアンは「息子を返して!」と泣き叫びティエンの頬を打ったが・・・。
 子供の取り換え事件をテーマとした『チェンジリング』でも、毎年20万人もの子供が誘拐されているという中国の子供の誘拐事件をテーマにした本作でも、まずはそんな警察の対応に問題あり!

<ネットでの情報提供協力の効果は?>
 平和で安心安全な国、日本では同一民族である日本人の多くは「性善説」に立ち、人の善意を信じている。しかし、多民族で13億もの人口が広い大陸に散らばり、都市と農村との大きな格差の中で生活している中国では、自分が生きていくために人を欺すなんてことは当たり前。それが悪いとも思っていない人がたくさんいる、まさに自由競争社会だ。したがって、最愛の我が子が誘拐されたことをインターネットで公開し子供捜しの協力を呼びかければ日本では次々と善意で協力する電話がかかってくるはずだ。しかし、さて中国では?
 多くの日本人が当然の常識と思っている常識が中東の国の常識では全く通用しないことを、作家の曽野綾子氏はさまざまなメディアで発言しているが、中国でもそんな日本の常識が通用しないことは、ティエンが報奨金目当ての詐欺かいたずら電話に振り回されるシークエンスを見ているとよくわかる。合成した写真を送りつけて呼び出し、脅して金をせびろうとする者までいたから、ティエンがそこに出向くにはカネと共に護身用のナイフまで持参しなければならないほどだ。なるほど なるほど・・・。ティエンもジュアンも出身は遼西省の農村だからもともと貧乏。ジュアンは再婚した夫(王志飛/ワン・ジーフェイ)がもともと深圳に住む都会の男だったから、生活には困らないようだが、ティエンはポンポン捜しに必死になっていると生業のネットカフェの営業もままならないため、必然的に家賃の支払いも滞りがちに。その結果、今やティエンは借りていた店も大家に明け渡し、屋台をひいて生計をたてながらポンポン捜しに必死になっていた。日本では横田めぐみさんや田口八重子さんたち北朝鮮へ拉致された被害者を捜す家族たちの活動が長い間続いているが、言ってみればティエンはあれから3年間ずっとそれと同じ活動をやっているわけだ。しかし、インチキ情報でも何らかの情報が入ってくる間はまだ希望があるからまし。失踪から3年も経つと、ニュース性が薄まってしまったためか、今や入ってくる情報自体が枯渇状態に・・・。

<行方不明児を捜す会がティエンとジュアンの支えに!>
 「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」があるように、本作には「行方不明児を捜す会」が登場するのでそれに注目!『アメリカン・スナイパー』(14年)では、イラク派遣から無事生還したにもかかわらず、戦場と平和な日常との極端な違和感のためPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に苦しむ元兵士たちが集まる組織が登場した(『シネマルーム35』24頁参照)し、ハリウッド映画ではよく「禁酒の会」という組織が登場する。それと同じように、「行方不明児を捜す会」は同じ境遇で同じ悩みを持つ者同士が集まり、互いに意見を交換し合うことによって元気に生きていく糧にしようという任意の組織だ。
 その会長が韓(ハン)(張譯/チャン・イー)だが、彼が言う「子どもに代替品などありません。新しい子を作らず、捜しましょう」の言葉が印象的。また、互いを元気づけるための各種の儀式や、みんなが声をそろえて歌う歌も印象的だ。もちろん、こんな団体そのものにもインチキで詐欺的なものがありうるが、「行方不明児を捜す会」は信頼できそうだ。そのため、ティエンもジュアンもこの「行方不明児を捜す会」での活動が大きな心の支えになっていることがよくわかる。
 また、ある日誘拐グループが摘発されたという連絡を受けた「行方不明児を捜す会」が、バスをチャーターして犯人グループが収監されている拘置所に向かう姿を見ていると、その行動力に感嘆。拘置所では犯人たちをハンやティエンたちが直接尋問していたが、これは日本では考えられない風景だ。さらに、子供たちを麻袋に入れて輸送しているように見えた怪しげな軽トラを発見した時、ハンたちはバスを体当たりさせてその軽トラに「御用!」をかけたから、その行動力はすごい。もっとも、犯人たちの尋問から何の成果も得られず、また軽トラの運転手を追っかけてやっと捕まえても、麻袋の中に入っていたのが子供ではなく猿だったことがわかった時の、「行方不明児を捜す会」の面々の失望感の大きさは・・・?

<もう一方の主人公をヴィッキー・チャオが熱演!>
 章子怡(チャン・ツィイー)、周迅(ジョウ・シュン)、徐静蕾(シュー・ジンレイ)と並ぶ「中国四大女優」の1人である趙薇(ヴィッキー・チャオ)の近時の出演作は『レッド・クリフPartⅠ(赤壁)』(08年)(『シネマルーム21』34頁参照)、『レッドクリフPartⅡ(赤壁 決戦天下)』(09年)(『シネマルーム22』178頁参照)。しかし、それ以上に目立ったのは、彼女の初監督作品となった『So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ~(致我們終將逝去的青春)』(13年)(『シネマルーム34』385頁参照)の大ヒットと最優秀新人監督賞の受賞だ。美貌だけではなく、監督としての才能も実証されたそんなヴィッキー・チャオが、本作ではノーメイクで、あまり頭の良くない、しかし子供に対する愛情では誰にも負けない農村の女・李紅琴(リー・ホンチン)役を熱演している。
 安徽省の農村で生活しているホンチンの夫は昨年死亡したため、ホンチンは今は1人で6歳の男の子ジーガンと妹のジーファンの2人を育てていた。もっとも、ホンチンは夫から子供を産めない身体だと言われていたため、夫が深圳の女に産ませた子であるジーガンを3年前から育てているらしい。また、ジーファンも夫が深圳の建設現場で拾った子で養女として育てているらしい。本作中盤にはじめて登場したヴィッキー・チャオ演じるホンチンの最初の演技は、庭にいたジーガンがいきなり、ティエンとジュアンにさらわれそうになるのを必死で追いかけるもの。「誰か来て!人さらい!」と叫びながら必死で走り、ティエンとジュアンを追っかけるシーンはかなり長く続くからその熱演はすごい。
 しかも、警察が入ったことによってやっと騒ぎが収まった後、警察署で自分の夫がジーガン=ポンポンの誘拐犯であることを知らされたから、農村の無知な女がそんな事態の急変ぶりについていけないのは当然だ。そのうえ、「ママ!ママ!」と叫ぶジーファンまで、「深圳の建設現場で拾った子」かどうかは別として、ホンチンの養女ではないことがわかり、ジーファンとも引き離されたから、更にホンチンはビックリ!そこで無謀にもジーファンを連れて逃げようとしたため、ホンチンはすぐに公務執行妨害で逮捕され、禁固6ヶ月を言い渡されるとともに、ジーファンは児童養護施設に預けられることに。
 警察も養護施設も誘拐の共犯ではなく、公務執行妨害で済んだことをありがたく思えと言っていたが、さて知識は不十分でも子供に対する愛情だけは人一倍持っているホンチンの今後の行動は?本作後半は、もう一方の主人公であるヴィッキー・チャオ演じるホンチンの、その後の熱演に注目!

<若手弁護士が登場!ホンチンの依頼を受けるべき?>
 本作は2時間10分の長さだが、主要な人物のキャラと存在感がそれぞれ際立っている。ヴィッキー・チャオ演じるホンチンに続いて、後半に至って登場する主要人物は大きな法律事務所に勤めている若手弁護士の高夏(カオ・シア)(佟大為/トン・ダーウェイ)。ホンチンがこの大きな事務所を訪れたのは、安徽省出身の弁護士の名前を知っていたためだが、松本清張の『霧の旗』(65年)と同じように、その弁護士にとっては農村からワケのわからない女がワケのわからない相談を持ち込んできたのは迷惑千万らしい。
 そこで、いろいろな事情で今はその事務所の落ちこぼれ的存在になっている若手弁護士のカオがホンチンの相談を聞くことになったのだが、その依頼内容は養護施設に入っている養女のジーファンを自分の手に取り戻すこと。しかし、養親になるためには子供の養育能力や一定の生活力が不可欠だし、何よりもジーファンが誘拐された子供ではなく、深圳の建設現場に捨てられていた子供であることを証明する必要がある。したがって、児童養護施設を相手にしてホンチンの要求を実現するのは絶対ムリとは言わないまでも、かなりの困難を伴うものだ。
 したがって、当然一定額の弁護士費用も必要だから、ホンチンが着手金がわりにもってきた棗(ナツメ)だけで引き受けるのは到底ムリ。最低当面5000元は必要だというカオに対して、ホンチンは2000元は払うと言うのだが、さて今ドキの日本の若手弁護士と同じように、事務所をクビになり事件に困っているカオはそんなホンチンの依頼を引き受けるのだろうか?

<養女にするためのホンチンの行動は?そこまでやるか!>
 カオ弁護士から、ホンチンがジーファンを養女にするためには、何よりもジーファンが深圳の建設現場に捨てられていた子供だということを証明しなければならないと聞かされたホンチンは、それを証明してもらうべく、夫の元同僚チンシャン(張國強/チャン・コッキン)を訪問。農村からの出稼ぎの男たちが寝起きする建設現場(飯場)に若い女が一人で入り込む勇気は大したものだ。チンシャンから証言してやると言われたホンチンは大喜びでその旨をカオ弁護士に告げ、再度カオ弁護士と共に飯場を訪れたが、何とチンシャンはここでは「俺は証言するとは言ってない」と態度を急変させたからアレレ・・・。チンシャンにしてみれば、弁護士まで連れてきた事態になると、要するに「出稼ぎで来ている身だから面倒に巻き込まれたくない」と考えたわけだが、ある意味それも当然だ。
 しかし、農村の女は執念深い。諦めきれないホンチンは自分の宿泊先を記したメモを渡してチンシャンを宿に誘い、同室の女を追い出したうえで頭を下げて泣きながら証言してくれるよう懇願。さらに、「お金をいくら払えばいいの?」と言いながら懇願したが、それでもチンシャンは応じないとみるとホンチンは最後の切り札として「今晩泊まる?」と切り出したからビックリ!実は、これは松本清張の『霧の旗』の展開と同じだ。もっとも、『霧の旗』では、証拠品となるライターを返してもらうべく柳田桐子の部屋を訪れた大塚弁護士はまんまと桐子の術中にはまってしまったが、ホンチンは身体を犠牲にしてチンシャンから「ジーファンは捨て子である」との供述書をもらえたから大成功!
 そう思ったが、さてそれを証拠として臨んだ児童養護施設長との交渉の行方は?さらに、供述書のためにさらに一夜限りの身体の提供をしたことの思わぬ影響は?

<興味深い交渉と、興味深い裁判>
 本作は裁判モノではないが、本作後半には、カオ弁護士がホンチンの代理人として交渉と裁判で大活躍する姿(?)が登場するので、それに注目!まず、カオ弁護士はホンチンと共に児童養護施設に乗り込み、チンシャンの供述書を証拠として、ジーファンを引き渡すよう要求。ところが、施設長からは「誘拐犯の元に子どもを返すなんて」と突っぱねられたてしまったから、アレレ・・・。
 次に興味深い裁判は、ジーファンをジュアンとホンチンのどちらが養女にするかをめぐる裁判だ。チンシャンの供述書を証拠としてジーファンを養女にすることを求めるのが原告ホンチンと、その代理人のカオ弁護士。他方、やっとティエンとジュアンに懐いてきたポンポンが妹のジーファンと一緒に暮らしたいと願っていることを知ったジュアンはジーファンを養女にしようと決意したから、被告席に座るのがジュアンとその弁護士だ。しかし、考えてみれば再婚したジュアンは、ポンポンが誘拐された後はポンポン捜しに奔走していたから、再婚した夫がそのことに何かと不満をもっていたのは当然。そんなジュアンがポンポンを取り戻した今、さらにジーファンをポンポンの妹として養女にしたいと言い始めたから夫はカンカン。だって、ポンポンを捜している間ジーファンは子供をつくる気になれないと言って夫との夫婦生活を拒否していたのだから。そんなこんなでキレてしまった夫はジュアンに対して離婚を宣言したが、さてそれはジーファンを養女にするための裁判にいかなる影響を?
 深圳の家庭裁判所の審理がかなり混んでいること、また裁判官の職権的訴訟指揮が際立っていることは、この裁判を見ているとよくわかる。当初、深圳の有力弁護士(?)の代理で審理を有利に進めていたジュアンだったが、審理が始まる前に何者かがカオ弁護士に対して、ジュアンは目下離婚手続中だという情報が流されていたから、審理の途中でその切り札が使われると、たちまち形勢は逆転!なぜなら、養女にするためには養父、養母2人の同意が必要なためだ。そうなると、この裁判は必然的にホンチン側の勝訴。私はそう思ったが、何と裁判官はそこでホンチンにもジーファンを養女にする資格はないと宣言し、カオ弁護士に対しても「依頼者を選べ!」とまで言ったからビックリ。こりゃいくらなんでも暴言では・・・?

<ハンはもう限界?第二子の出産許可証はもらえるの?>
 『チェンジリング』も実話にもとづく物語だったが、それは本作も同じ。つまり、ティエンのモデルになったペン・カオフォン(彭高峰)の息子ウェンラー(文楽/ラーラー)が、2008年3月25日に行方不明になり、2011年2月10日に両親の元へ戻ったという話が基になっている。ホンチンのモデルとなったのは、江蘇省に暮らすカオ・ヨンシア(高永侠)だ。さらに、ハンのモデルになったスン・ハイヤン(孫海洋)は、今も息子を捜し続けているそうだ。
 本作中盤のポンポン捜しのストーリーでは、ティエンを支援するハンの「行方不明児を捜す会」のリーダーとしての活躍が目立つが、実はあれだけの活動を展開しても成果が得られたのはティエンだけで、ハンをはじめ他のメンバーたちは何の成果も得られなかったらしい。そのため、取り戻すことができたポンポンの誕生会には「行方不明児を捜す会」の多くのメンバーが集まったが、ハンの活動意欲はもはや限界に達していたようだ。かつてハンは「行方不明児を捜す会」の会長として、「子どもに代替品などありません。新しい子を作らず、捜しましょう」と宣言していたが、この誕生会の席でハンは妻の妊娠とそれは合法であることを告げて、「申し訳ない」と頭を下げた。
 本作はティエンとジュアンそしてホンチンが主役的な位置づけにされているが、実はカオ弁護士とハン会長もストーリー構成上大きな役割を果たす準主役的な立場に置かれている。ちなみに、ハンを演じたチャン・イーは中国のアカデミー賞と呼ばれる第30回金鶏奨において最優秀助演男優賞を受賞している。
 日本人には考えられないような現代中国の問題点が露呈するのは、そのハンが妻・樊芸(ファン・ユン)(張雨綺/キティ・チャン)と共に計画出産事務所を訪れ、第二子の出産許可証をもらおうとするシークエンス。そこで窓口の役人から「第二子の出産許可証を出すには、まず第一子の死亡証明書を提出せよ」と言われたハンは開いた口がふさがらず、怒りに震えたのは当然。ハンは、「俺たちは誘拐された子供を捜すために命をかけて活動しているのだ。なのにその死亡証明書を出せとは一体何だ!」と役人に怒りをぶちまけたが、ここでも規則を振り回す役人の姿勢に何か変化はあるの・・・?

<弁護士としては、明らかな公私混同だが・・・>
 本作でカオ弁護士は当初勤めていた大きな法律事務所をはみ出してしまった、だらしのない、出来の悪い弁護士として登場したが、いやいやながらも(?)ホンチンの相談を聞き、着手金の内金として棗(なつめ)と5000元を受け取った後は、それなりの弁護士活動を見せていく。そればかりか、ホンチンが苦労してチンシャンから供述書を入手すると、意気揚々と児童養護施設長との交渉に臨むことに。そして、ホンチンの正当な要求ですら容易に受け入れられないことを目の当たりにすると、カオ弁護士は俄然「やる気モード」全開となり、ホンチンに対して5000元を返金したうえ、これからは無償で全力を尽くすと宣言したから、その成長ぶりにビックリ!日本でも中国でも、弁護士はこのように1つ1つの現場を経験していく中で成長していくわけだ。
 他方、ピーター・チャン監督はなぜかそんなカオ弁護士の家庭事情も見せていく。独身のカオ弁護士は、認知症の母親と二人暮らしらしい。母親の世話のためにお手伝いさんを雇っているが、母親の暴走ぶり(?)がひどいため、お手伝いさんからは「やめさせて下さい」と言われて困惑気味。そんな時、ホンチンがジーファンを養女にするため本格的に深圳に住み、深圳で仕事を探すと言い始めたから、カオ弁護士は渡りに船とばかりに当面「母親の看護をしてくれ、給料も払う」と言ってホンチンを家の中に入れた。しかし、これは明らかに公私混同で弁護士倫理にも違反するから、弁護士としてはいかがなもの・・・。
 それはともかく、ホンチンが本格的に深圳に住むためには居住証明書やそのための健康診断の書類等が必要らしい。この健康診断書は要するに「良好」という証明だけもらえばいいはずだが、そこでホンチンは看護師から「妊娠しています」という何とも意外な告知を!「えっ、私は子供を産めない身体です」「それは誰から言われましたか?」「去年亡くなった夫からです」という一連の会話が続くが、妊娠は妊娠。レッキとした事実だ。医学上「想像妊娠」ということもあるだろうが、もちろんそれはここでは関係ない。本作は、誘拐された子供を両親が必死に捜す物語だが、他方では何とこんな形で望まない赤ちゃんの誕生も・・・。こんな何ともすごい結末のつけかたにビックリ!ピーター・チャン監督恐るべし!
                                  2015(平成27)年12月18日記

]
朱子墨