洋15-141

「ミケランジェロ・プロジェクト」
    

               2015(平成27)年11月23日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督・製作・共同脚本:ジョージ・クルーニー
原作:ロバート・M・エドゼル『ミケランジェロ・プロジェクト』(角川文庫刊)
フランク・ストークス(ハーバード大学付属美術館館長、美術史学者)/ジョージ・クルーニー
ジェームズ・グレンジャー(メトロポリタン美術館主任学芸員)/マット・デイモン
リチャード・キャンベル(シカゴの建築家)/ビル・マーレイ
クレール・シモーヌ(ジュ・ド・ポーム国立美術館学芸員)/ケイト・ブランシェット
ウォルター・ガーフィールド(彫刻家)/ジョン・グッドマン
ジャン=クロード・クレルモン(フランス人の元美術学校主任、美術商)/ジャン・デュジャルダン
ドナルド・ジェフリーズ(イギリスの元歴史家)/ヒュー・ボネヴィル
プレストン・サヴィッツ(美術史学者、舞台興行主)/ボブ・バラバン
サム・エプスタイン/ディミトリー・レオニダス
2013年・アメリカ映画・118分
配給/プレシディオ

<本作は社会派系?それともエンタメ系?>
 本作で主演すると共に監督・製作・共同脚本を務めたジョージ・クルーニーは、今や「ハリウッドの至宝」と呼ばれる存在になっている。彼のエンタメ系の代表作は『オーシャンズ』シリーズ(01年、04年、07年)(『シネマルーム1』32頁、『シネマルーム7』140頁、『シネマルーム15』28頁参照)。そして、社会派系の代表作は『グッドナイト&グッドラック』(05年)(『シネマルーム11』175頁参照)、『スーパー・チューズデー 正義を売った日』(11年)(『シネマルーム28』126頁参照)、『シリアナ』(05年)(『シネマルーム10』136頁参照)だ。しかして、本作はどっち?
 『パリよ、永遠に』(14年)は、ヒトラーが計画し命令した「パリ爆破計画(命令)」の実行を義務付けられたナチス将校と、それを阻止しパリを守るべく説得するスウェーデン総領事の息詰まる攻防を描いたシリアスな映画だった(『シネマルーム35』273頁参照)。したがって、同じくヒトラーが1945年3月に下した、各国から略奪した美術品を「ドイツが敗北した際には敵国に何一つ渡さず、全てを破壊すること」という「ネロ命令」を阻止し、美術品を奪還する任務を負った「モニュメンツ・メン」たちの活躍を描く本作も、当然シリアスな社会派系?しかも、ジョージ・クルーニーは『アルゴ』(12年)(『シネマルーム30』10頁参照)や『ゼロ・グラビティ』(13年)(『シネマルーム32』16頁参照)でアカデミー賞を狙ったのだから、多くのビッグネームを集め多額の製作費をつぎこんだ本作も、当然そんな路線?そう思うのは当然だが、パンフによると、意外にもジョージ・クルーニーは、「我々は今回そもそも、アカデミー賞が取れそうな作品なんかより、ただただ面白くて、しっかりしたエンターテインメントを作ろうって思ってた。」と語っている。
 「オーシャンズ」のメンバーは11→12→13名と増えてきたが、徹底したエンタメ作品としての性格上、誰も死なないのが大前提。しかし、第2次世界大戦末期に敢行された1944年6月のノルマンディー上陸作戦の中でヨーロッパに入り、「略奪された美術品の奪還」という危険かつ困難な任務に立ち向かった7名の「特殊部隊」である「モニュメンツ・メン」に、多少の犠牲が出るのは仕方ない。そんなシリアスさはキープしつつ、本作は社会派系ではなく、とことんエンタメ系に!

<七人の侍ならぬモニュメンツ・メンの立場は?報酬は?>
 黒澤明監督の『七人の侍』(54年)はリアリズムに富んだ名作中の名作だったが、そこでの「七人の侍」の立場は貧しい農民たちに雇われた侍(用心棒)という位置づけだった。当初はそんなカネを媒介とした契約によって成立した雇用関係(いわば傭兵)も、敵との激しい戦闘の中で互いの心の絆が生まれてきたから、すばらしい映画になったわけだ。しかして、ハーバード大学付属美術館館長のフランク・ストークス(ジョージ・クルーニー)がルーズベルト大統領を説得して結成した「七人の侍」ならぬ7人の「モニュメンツ・メン」の立場は?
 フランク・ストークス以外の他の6名は①メトロポリタン美術館主任学芸員のジェームズ・グレンジャー(マット・デイモン)、②シカゴの建築家のリチャード・キャンベル(ビル・マーレイ)、③彫刻家のウォルター・ガーフィールド(ジョン・グッドマン)、④美術商のジャン=クロード・クレルモン(ジャン・デュジャルダン)、⑤イギリスの元歴史家のドナルド・ジェフリーズ(ヒュー・ボネヴィル)、⑥美術史学者のプレストン・サヴィッツ(ボブ・バラバン)だから、ハッキリしているのは、全員軍人ではなく、どちらかというと学者だということ。しかも、それぞれ自分の立場(身分)をもっているから、それぞれの職場でそれなりの給料(高給?)をもらっていたことはまちがいない。
 そんな彼らが自発的に家族と離れてヨーロッパに渡り、命の危険を伴う困難な任務についたのは一体なぜ?もちろん、貴重な美術品をナチスから奪還するという任務に各自がそれぞれ崇高な社会的使命を見い出していたのは当然だが、それに伴う報酬や危険手当的な待遇は?本作は自分自身がほとんど知らなかったモニュメンツ・メンの活躍を、ロバート・M・エドゼルの『ミケランジェロ・プロジェクト』という原作で知ったジョージ・クルーニーが、軽妙な娯楽作として映画化したものだから、そこらあたりのリアリズム(?)については一切触れていない。しかし、超リアリストの弁護士である私には、そこらにも興味と関心がある。ちなみに、「七人の侍」では三船敏郎が演じた菊千代をはじめ4人が死亡し、志村喬が演じた勘兵衛、木村功が演じた勝四郎、加東大介が演じた七郎次の3名が生き残ったが、7名の「モニュメンツ・メン」の中でもドナルド、ウォルター、ジャンの3人は崇高な任務遂行中に死亡(名誉の戦死)している。したがって、彼らには当然「遺族補償費」が支払われているはずだが、さて、彼らの報酬や遺族補償費はHow much?

<いかにして情報を?その1 尋問で収集>
 一言でナチに略奪された美術品を捜し出し奪還すると言っても、ヨーロッパは広い。まずは、略奪された数々の美術品はどこに保管されているの?それを調べるのが最初の仕事だが、一体どうやってそれに手をつければいいの?フランクでなくてもまずはそれに悩んだのは当然だ。戦争(軍事行動)における情報の大切さはハッキリしているが、モニュメンツ・メンにとっての情報の大切さはそれ以上。美術品に関する有効な情報がない限り、どんな有効な行動もとれないわけだ。
 そんな場合の情報収集の第1は、尋問での収集。そのためには、美術品の略奪に関与しその保管にあたっているナチス将校を逮捕して尋問し自白させるのがベストだが、本作では農民に扮したリチャードらがあるドイツ人一家の尋問によって大量の絵画を発見する面白いシークエンスが登場するので、それに注目!彼らは壁一面に飾られている絵をすべて複製だと弁明していたが、詳細に調べてみると・・・?「ハイルヒトラー!」と掛け声をかけると大人たちは反応なしだったが、子供たちは即座に反応したから、大人たちも忠実なナチの党員であったことがバレバレに・・・。しかも、このナチ党員がもっていた地図によって、多くの美術品がメルケルス岩塩鉱の坑道に隠されているのではないかという貴重な推測が働くことに・・・。

<いかにして情報を?その2 内部通報>
 近時は企業の「不祥事」が相次いで発見され公表されているが、実はその情報源の多くは内部通報。かつては内部通報者は「裏切り者!」というイメージが強かったが、近時は勇気ある正義の味方とされ、それを保護し推奨する法律まで制定されている。
 しかして、フランクの片腕ともいえるモニュメンツ・メンの一員であったグレンジャーがアテにしたのが、美術品の貯蔵庫として使用されていたジュ・ド・ポーム国立美術館で学芸員として働いている女性クレール・シモーヌ(ケイト・ブランシェット)。クレールは、芸術を愛する心を胸に美術品の行方を細かに記録し続けていたから、内部通報によってその情報を得ることができれば上々。さあ、グレンジャーはそんなキーウーマンとなるクレールの心を動かし、貴重な内部通報を得ることができるのだろうか?ドイツには現在でも有名な観光名所になっている中世のお城があちこちに存在する。その一つであるノイシュヴァンシュタイン城にはクレールの貴重な内部通報によって得られた大量の美術品が保管されていたが、その品々は?

<発見された金塊の量は?「M資金」と比べると?>
 菅乃廣監督、井上淳一脚本の『あいときぼうのまち』(13年)の冒頭には、2011年の3.11東日本大震災で津波被害に襲われた福島県双葉町に住む敗戦直前に15歳だった少年が学徒動員に駆り出され、つるはしで天然ウランを掘る作業に従事する姿が描かれていた(『シネマルーム33』68頁参照)。原爆開発競争では結局アメリカが勝利したが、日本のそんなチンタラした開発状況に比べると、ナチス・ドイツの原爆開発作業ははるかに進んでいた。Uボートの開発をはじめ、ドイツは兵器開発競争でも世界のトップを走っていたわけだ。そんな技術の先進国ドイツだから、ヒトラーがヨーロッパ各地で略奪した美術品の保管についても、当時としては世界最高水準の技術で保管されていたのは当然だが、驚くべきその量とは?
 他方、福井晴敏の原作を基に阪本順治監督が映画化した『人類資金』(13年)の冒頭では、帝国軍人が「M資金」と称する大量の金塊を軍の命令によって回収しておきながらそれを軍に戻さず、あえて海の中に沈めてしまう行為が描かれていた。この日本国民の血と涙の結晶である金塊は、総量600トンにも及ぶらしい(『シネマルーム32』209頁参照)。しかし、1945年4月にモニュメンツ・メンがメルケルス岩塩鉱で発見したナチス・ドイツの秘密資金である金塊の量は、スクリーン上で見る限りはるかにそれより多そうだ。ルーズベルト大統領は美術品奪還の意義に同意してモニュメンツ・メンの派遣を決定したが、その規模は微々たるものだった。このように美術品の回収にはあまり意欲を示さなかったアメリカの世論も、大量の金塊の発見には大喜びで、大ニュースに!しかして、その金塊の量はHow much?また、そんな大成果を得たモニュメンツ・メンへのボーナスはHow much?

<ソ連軍との競争にも大勝利!>
 モニュメンツ・メンの任務は、ナチスに略奪された美術品を奪還し、元の所有者に戻すこと。しかし、『黄金のアデーレ』(15年)を観ればわかるとおり、オーストリア政府はナチスから回収した「黄金のアデーレ」を元の所有者であるユダヤ人の女性に返還せず政府のものにしていたから、世の中は必ずしも理念どおりに進まないことがよくわかる。しかし、絵画の額縁に記されていたユダヤ人の名前を見てその家を捜し出し、今やもぬけの殻となっている部屋の元の位置にその絵をかけているグレンジャーを見ると、彼はモニュメンツ・メンの理念どおりの行動をとっていることがわかる。当初は協力を拒否していたクレールが最終的にグレンジャーに協力することになったうえ、2人が恋人関係にまでなったのは、そんなグレンジャーの誠実さのおかげだが、さてこれはTrue story?それとも映画での脚色?
 それはともかく、『スターリングラード』(01年)(『シネマルーム1』8頁参照)で描かれたスターリングラードでの死闘に勝利し、東から西に向かって進撃してきたのが、ソ連軍。『聖なる嘘つき その名はジェイコブ』(99年)は、ポーランドまで進攻しているソ連軍によって、自分たちがまもなく解放されるという情報を「生きる希望」として収容所で生活しているユダヤ人家族の姿を描いた感動作だった(『シネマルーム1』50頁参照)が、本作ではソ連軍はそんないいものではなく、ナチスが略奪した美術品を更に略奪しようとしている、極悪非道な軍隊として描かれている。
 メルケルス岩塩鉱に大量の美術品が隠されていることを知ったモニュメンツ・メンは次々とそれを発見し回収していたが、将来的にはソ連の占領地域になろうとしているオーストリアのある鉱山は既にネロ計画によって破壊済み?そう思っていたが、いざ現地に行ってみると、破壊されたのは入口だけだったからアレレ・・・。これは、ナチスに反感を持つ住人たちが、美術品を破壊するためにナチスが侵入するのを阻止するためだということが、フランクが中に入ってみてわかったから、万々歳だ。しかも、そこにはドナルドが命を失ってまで奪還しようとしたミケランジェロの聖母子像もあったから、早く坑内から回収しなければ・・・。ソ連軍の大部隊はすぐそこまで迫っていたが、さてモニュメンツ・メンはそんなソ連軍に大勝利できるの?
                                 2015(平成27)年11月27日記