洋15-136

「エベレスト 3D」
    

              2015(平成27)年11月15日鑑賞<TOHOシネマズ西宮OS>

監督:バルタザール・コルマウクル
ロブ・ホール(「AC社」の設立者)/ジェイソン・クラーク
ベック・ウェザーズ(「AC隊」の顧客、病理学医)/ジョシュ・ブローリン
ダグ・ハンセン(「AC隊」の顧客、アメリカ人)/ジョン・ホークス
ジョン・クラカワー(アウトドア雑誌のジャーナリスト、アメリカ人)/マイケル・ケリー
ヘレン・ウィルトン(「AC隊」のチームマネージャー)/エミリー・ワトソン
アンディ・“ハロルド”・ハリス(「AC隊」登山ガイド、ニュージーランド人)/マーティン・ヘンダーソン
マイク・グルーム(「AC隊」の登山ガイド、オーストラリア人)/トーマス・ライト
アン・ドルジェ(「AC隊」のシェルバ頭)/アン・フーラ・シェルパ
キャロライン・マッケンジー(「AC隊」の現場医師)/エリザベス・デビッキ
難波康子(「AC隊」の顧客、日本人)/森尚子
ルー・カシシケ(「AC隊」の顧客、アメリカ人)/マーク・ダーウィン
ジョン・タースケ(「AC隊」の顧客、オーストラリア人)/ティム・ダンテイ
スチュアート・ハッチスン(「AC隊」の顧客、カナダ人)/ディミトリ・ゴリトサス
スコット・フィッシャー(「マウンテン・マッドネス隊」の隊長)/ジェイク・ジレンホール
ガイ・コター(「AC社」の登山ガイド)/サム・ワーシントン
ジャン・アーノルド(ロブの妊娠中の妻)/キーラ・ナイトレイ
ピーチ・ウェザーズ(ベックの妻)/ロビン・ライト
ヘレン・ウィルトン(「AC隊」のチームマネージャー、ベースキャンプの責任者)/エミリー・ワトソン
キャロライン・マッケンジー(「AC隊」の現場医師)/エリザベス・デビッキ
2015年・アメリカ、イギリス映画・121分
配給/東宝東和

<あれも実話なら、これも実話!その実話を3Dで!>
 高倉健が死亡したのは昨年の11月10日。そのため、現在BS放送では高倉健特集を組んでいる。200本以上の映画に出演した彼の代表作の1本が、健さんを含むオールスターが出演した森谷司郎監督の『八甲田山』(77年)だ。そこに描かれた、日本陸軍の威信を賭けた「雪中行軍」と、「天は我々を見放した」のセリフに代表される悲しい結末がすべて実話なら、本作が描いた1996年に起きたエベレスト史上最大と言われる遭難事故も実話。そこでは、8名の登山家が死亡したそうだ。ちなみに、その中には日本人の女性登山家・難波康子も含まれており、その実話は『エベレスト 死の彷徨』(97年)で映画化されているそうだ。
 さらに、大日本帝国陸軍参謀本部陸地測量部の威信を賭けた、劔岳への登頂が実話なら、ナチス政権による国威発揚に燃える中で敢行された、アイガー北陸への挑戦も実話。前者は『劔岳 点の記』(08年)(『シネマルーム22』250頁参照)で、後者は『アイガー北壁』(08年)(『シネマルーム24』52頁参照)でそれぞれ映画化されている。『劔岳 点の記』では、カメラマン一筋の人生を歩んできた木村大作の初監督作品として、超過酷な状況下での撮影風景が注目されたが、本作の注目点は何といっても、超過酷なエベレストへの登頂風景を3Dで撮影したこと。ええ-、そんなことって可能なの・・・?

<商業公募隊とは?>
 エベレストへの登頂にはじめて成功した登山家は、ニュージーランド出身のエドモンド・ヒラリー。その快挙を称えてニュージーランドの5ドル紙幣には彼の肖像が採用されているらしい。
 健康のための山登りなら、誰でもタダで自由にできる。しかし、登山家と名乗るにはそれ相応の覚悟が必要だ。弁護士や医者と違って登山家になるには何の資格も不要だが、エベレストやそれに匹敵する高い山に登るには、体力や勇気の他、膨大な装備や人員確保のための膨大な費用が不可欠。したがって、プロの登山家として生きていくには何よりもスポンサー探しが大変だ。もっとも、フランスには登山ガイドになるための国立の養成所(ENSA)があり、スイスには、プロの登山ガイドになるための国家試験を国がガイド組合に委託して行っているそうだ。他人の登山を手助けすることによって報酬をもらう場合、このような公的システムは不可欠だ。
 しかして、近時生まれたのが、登山者を募りエベレストなどの高峰へ挑む登山隊としての商業公募隊というもの。ウィキペディアによれば、1990年代前半までの公募隊は、従来の登山隊などの組織に縛られない個人同士が、ネパール政府への登山料や資材運搬費の頭割りを図るために結成する互助会的な組織であったらしい。本作が描く1996年のエベレスト史上最大と言われる遭難事故はこの商業公募隊によるものだから、本作を鑑賞するについては、その問題点もしっかり把握する必要がある。
 ちなみにヒラリーは、現在主流になっている商業公募隊によるガイド登山には非常に批判的で、本作の主人公となっている登山ガイドで1996年の大量遭難事故で死亡したロブ・ホールを名指しで非難することもあったそうだ。

<登場人物たちの紹介>
 本作の主人公は登山ガイド会社「アドベンチャー・コンサルタンツ(AC社)」の設立者であるロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)だが、本作の登場人物は多いうえ、『八甲田山』と同じく、男たちは全員が重装備だから誰が誰だかわかりにくい。そこで、以下登場人物たちの紹介を。
 ロブが登山ガイドとして率いるAC隊の主な顧客は①アメリカ人の病理学医ベック・ウェザーズ(ジョシュ・ブローリン)、②前年のエベレスト登山では頂上直前で断念を余儀なくされたアメリカ人顧客のダグ・ハンセン(ジョン・ホークス)、③アウトドア雑誌のジャーナリストで「AC隊」の取材をするため参加したジョン・クラカワー(マイケル・ケリー)等だ。ちなみに、難波康子(森尚子)もその一員だ。
 他方、AC隊と同時にエベレストを目指した別の登山ガイドは、「マウンテン・マッドネス隊」を率いるスコット・フィッシャー隊長(ジェイク・ジレンホール)。また、AC社の登山ガイドだが、ロブ達とは別のチームを率いてプモリを目指していたのが、ガイ・コター(サム・ワーシントン)だ。
 さらに、女性陣として本作のストーリー構成に花を添えるのは、まず①ロブの妻で、目下妊娠中のジャン・アーノルド(キーラ・ナイトレイ)、②2人の子供たちと共にベックの帰りをアメリカで待っているピーチ・ウェザーズ(ロビン・ライト)の2人。また、ベースキャンプで重要な役割を果たす女性陣は、③「AC隊」のチームマネージャーでベースキャンプの責任者になっているヘレン・ウィルトン(エミリー・ワトソン)、④ヘレンと共にベースキャンプからロブ達に指示を送る現場医師のキャロライン・マッケンジー(エリザベス・デビッキ)だ。

<進むべき?退くべき?それが本作でも問題に!>
 エベレストへの登頂をガイドするロブたち登山ガイドは、プロ中のプロ。また、高額の料金を支払ってエベレストに挑む顧客も、そのほとんどが登山のセミプロだ。ロブ率いる「AC隊」はエベレスト登頂については何よりも安全第一で、隊としての統率ある行動をムネとしているが、所詮登山は個人の体力と能力の勝負。基本的に誰かが誰かを助けることはできないものだ。そのため、ベースキャンプでの入念な準備期間中はもちろん、頂上を目指す冒険に向かった後も、ロブはくり返し「午後2時を過ぎれば危険だから、頂上にたどりつけてなくても、引き返す」と厳命していたが、さて現実は・・・?
 本作は、前述した多くの登場人物たち1人1人の登頂風景を描いていく。ロブの目標はもちろん、全員無事にエベレスト登頂を達成して喜んでもらうことだが、さてそれぞれの体力は?また、頂上近くの天候や嵐の具合は?さらに、顧客には初参加者もいれば、前回は途中で断念したから今回は何が何でも!という参加者もいる。本作では、ベックが途中で目がかすみ見えなくなってくる中で登頂を断念したが、ダグは既に体力が消耗し切っているにもかかわらず、「どうしても・・・」と言い始めたから、さあロブは?
 私は『アイガー北壁』の評論でも、「進むべきか?退くべきか?それが問題だ!」という小見出しで1つの論点を抽出したが、そこでは見事に「退く」という決断がなされていた。しかし、同じ論点で本作に見るロブの決断は?その判断の誤りがエベレスト史上最大の遭難事故を生んだ原因とすれば、その全責任はロブにあるのでは?

<こんな二元中継がホントに可能なの?>
 ロブが「AC隊」の隊長としてリーダーシップを発揮していることはまちがいないが、ダクの「わがまま」を聞いてしまうという判断の誤りによって、「AC隊」全員の運命もロブの運命も大きく変わっていくことに。空気も薄く、一歩進むのも大変なエベレストの頂上近くでは、いくらロブが焦っても顧客全員のフォローをするのは到底ムリ。目の前で動けなくなっているダグに対しても、口で励ますことは可能だが、地上のように肩を貸してやって歩くのを手伝うことは不可能だ。しかも、悪いことは重なる、というより午後2時を過ぎたら天候が悪くなる確率が高いと予測していたとおりの天候になってきたから、こりゃ大変。そこでのダグの決断はあっと驚くものだが、一人残されたロブも一歩も動けなくなってしまったから、さらに大変だ。
 そんな状況下スクリーン上で展開されるのは、ロブとベースキャンプを結ぶ無線と、ベースキャンプと身重の妻ジャンが住むニュージーランドを結ぶ電話を「二元中継」して、直接ジャンの言葉でロブを勇気づけようという作戦。たしかに理論的にはこれは可能だが、国際電話はともかく、エベレストの頂上とベースキャンプをつなぐ無線ってそんなに性能がいいの?天候は大荒れだから風の音だけでもすごいはずだし、あんな嵐の中でホントにこんなことが可能なの?
 この二元中継の成功によってロブは再び気力を取り戻し、何とか事態回復の目途がついたかに思えたが、残念ながらその後は『八甲田山』で北大路欣也が「天は我々を見放した」と絶叫したような展開に・・・。

<この生還はにわかに信じ難いが・・・>
 結局「AC隊」では隊長のロブをはじめ、ダグや難波康子が死亡したが、ヒラリー・ステップの渋滞や体調不良等のため、途中下山の決断を下した数名の顧客の命は無事だった。ところで、頂上を目指す途中で目の異常を訴えたベックに対して、ロブはそれなりの適切な指示を出していたが、さてその後のベックは?
 マウンテン・マッドネス隊のスコット・フィッシャー隊長はベースキャンプからの報告を受けてロブたちの救援のため現場に向かったが、結局彼も難波康子らと共に雪の中で死亡してしまった。したがって、それ以上長い中雪の中に埋もれていたベックは当然死んでしまったと思っていると、アレレ・・・。スクリーン上では奇跡的な現象が・・・。目が見えなくなり動けない状態になっていたため、ベックは当然身体が冷え切ってしまったものと思っていたが、ひょっとしてその反面、体力が温存できていたの?嵐がおさまった後、ベックが雪の中からもぞもぞと起き出してきたからビックリだ。そして、何と自分の足でベースキャンプに向かって一歩また一歩と歩き始めたから、死亡したとばかり考えていたベースキャンプのヘレンやキャロラインたちも生還してきたベックの顔を見て大喜びだ。
 しかも、空気が薄いためベースキャンプまでは到底飛べないと考えられていたヘリコプターを強行飛行させることによって、奇跡的にベックの救出に成功!その結果、ベックは凍傷によって両手と鼻を失ったものの、無事アメリカの妻子のもとへ帰国できることに。これはこれで感動的な物語だが、ホントにこんな奇跡的な展開があったの? 
                                  2015(平成27)年11月19日記