洋15-133

「007 スペクター」
    

                2015(平成27)年11月10日鑑賞<TOHOシネマズ梅田>

監督:サム・メンデス
ジェームズ・ボンド/ダニエル・クレイグ
オーベルハウザー(スペクターの首領)/クリストフ・ヴァルツ
マドレーヌ・スワン(ボンドガール、Mr.ホワイトの一人娘)/レア・セドゥ
Q(ボンドの親友、ガジェットやデータ技術を担当)/ベン・ウィショー
マネーペニー(ボンドの同僚の女性)/ナオミ・ハリス
ルチア・スキアラ(マフィアの未亡人、ボンドガール)/モニカ・ベルッチ
M(MI6の責任者、ボンドの上司)/レイフ・ファインズ
C、マックス・デンビー(MI5の責任者)/アンドリュー・スコット
ヒンクス(オーベルハウザーの部下、殺し屋)/デイヴ・バウティスタ
Mr.ホワイト(殺し屋、マドレーヌの父親)/イェスパー・クリステンセン
2015年・アメリカ映画・148分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

<シリーズ第24作は原点回帰!>
 私たち団塊世代にとっては、音楽の原点がビートルズなら、スパイ映画の原点は『007』シリーズ。第1作『007/ドクター・ノオ』(62年)から第5作『007は二度死ぬ』(67年)までの初代ジェームズ・ボンド役を務めたのはショーン・コネリーだ。イアン・フレミングの原作では、「東西冷戦」という時代状況を反映して、ジェームズ・ボンドの敵はソ連の秘密機関「スメルシ」だった。
 しかし、東西冷戦が終わり、ジェームズ・ボンド役も2代目ジョージ・レイゼンビー、3代目ロジャー・ムーア、4代目ティモシー・ダルトン、5代目ピアース・ブロスナン、6代目ダニエル・クレイグと変わりながらシリーズが続く中、その敵はソ連の秘密機関ではなく、国際的な犯罪組織としての「スペクター」に変わっていった。スペクター(SPECTRE)とは、国際犯罪組織「対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関」(Special Executive for Counter-intelligence,Terrorism,Revenge and Extoetion)の頭文字をもった略語で、その首領(ドン)役も、ジェームズ・ボンドと同じように次々と変わっていった。
 しかして、シリーズ第24作となった本作のタイトルは『007 スペクター』とされたから、いわば大きく原点に回帰!もっとも、それまでの『007』シリーズでは、ジェームズ・ボンドの宿敵はスクリーン上に少しだけ登場するのが「約束事」だったが、本作では「スペクター」がタイトルになっていることもあり、クリストフ・ヴァルツ演ずるスペクターの首領オーベルハウザーが多くのシーンで登場する。しかも、ある写真を媒介として、何と少年時代の2人がたくさんの曰く因縁をもっていることを匂わせながらストーリーが展開していくから、それに注目!

<MI5とMI6の縄張り争いは英国の現実?>
 『007』シリーズでは、ジェームズ・ボンドの女性上司Mを演じたジュディ・デンチの存在感が光っていたが、そのMは前作『007 スカイフォール』(12年)(『シネマルーム30』232頁参照)で死亡。その後を継いで新たなMを演じるのはレイフ・ファインズだが、本作では新たにMI6をMI5(合同保安部)に統合しようとするC、マックス・デンビー(アンドリュー・スコット)が登場し、ストーリー構成上大きな役割を果たすことになる。Wikipediaで「秘密情報部SIS(Secret Intelligence Service)」を調べると、MI1からMI6までの役割分担とその変遷が解説されているから、MI5とMI6の縄張り争いを描く本作のストーリーは結構現実に近いのかも・・・?
 ちなみに、リアルな「スパイもの」として最高に面白かったのが、英国諜報部を意味する「サーカス」をタイトルにした『裏切りのサーカス』(11年)。そのテーマは、「サーカス上層部に潜むソ連の二重スパイ“もぐら”を捜し出すこと」だったから、英国諜報部のすごい実態がリアルに描かれていた(『シネマルーム28』114頁参照)。
 それはともかく、冒頭のメキシコでの暴走をMから叱責されたジェームズは次第に孤立し、Cからはクビ宣告まで受けてしまったが、さてジェームズはそこからどう立ち直るの?幸い、データ技術を担当する親友Q(ベン・ウィショー)や、同僚の女性マネーペニー(ナオミ・ハリス)は、Cの目を盗んでジェームズに協力してくれたが、ジェームズは冒頭から一体ナニをしようとしているの?それはMから送られてきた映像の「遺言」にもとづく「ある指令」を実行することだが、さてその指令とは・・・?
 ジェームズ・ボンドの最大の敵がスペクターであり、その首領のオーベルハウザーであることは明らかだが、さてMI6をMI5に統合してイギリスのすべての秘密情報を握るだけではなく、9か国の情報を統合する「ナイン・アイズ」を牛耳るために策動しているCも、ひょっとしてスペクターの一味・・・?

<車や7つ道具は不変だが、ボンドガールはサマ変わり!>
 ジェームズ・ボンドが乗る車(ボンドカー)や身につける時計、そして戦いに不可欠な銃などの「7つ道具」は、第1作からずっと『007』シリーズ特有のブランドを維持してきた。ちなみに、ジェームズ・ボンドの時計は、当初は見た目も地味なロレックス・オイスター・パーペチュアルだったが、ダニエル・クレイグがオメガとのタイアップでその最新型オメガ・シーマスター 300を使ってからは、その商品がバカ売れに・・・?
 また、『007』シリーズは「お色気」も大きな売りだったから、ボンドガールがその都度大きな話題になっていた。ちなみに、『007は二度死ぬ』では日本人離れしたグラマラスな肢体をもつ浜美枝が、日本人女優としてはじめてボンドガールとして登場!本作冒頭には、イタリアの名花モニカ・ベルッチが登場するが、彼女はMの遺言によってジェームズが標的にした男スキアラの妻ルチア役だ。『マレーナ』(00年)で見た彼女の妖艶さには圧倒されたが、そのモニカ・ベルッチも51歳。ボンドガールとしては最年長だから、さすがにベッドシーンはムリ・・・?
 本作後半からは、もう1人のボンドガールというよりも、ジェームズのパートナーとして任務遂行に重要な役割を果たすマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)が登場する。マドレーヌは敵の殺し屋Mr.ホワイト(イェスパー・クリステンセン)の一人娘だが、ジェームズはマドレーヌの命を守ることを条件としてMr.ホワイトからある情報を・・・。マドレーヌを演じるレア・セドゥは、『アデル、ブルーは熱い色』(13年)で圧倒的な存在感を示したフランス人女優(『シネマルーム32』96頁参照)だが、本作では同作で見せた同性愛者の姿とは全く違う、大人の女の魅力をたっぷりと見せてくれる。このように、女性の権利が強くなった今日のシリーズ第24作ともなれば、昔はお飾りだったボンドガールも、ほとんどジェームズと対等の立場に。しかも、ラストにマドレーヌが述べるジェームズとのきっぱりとした別れのセリフはカッコいいから、そんな自立したボンドガールを演じたフランスの名花レア・セドゥに注目!

<本作はダニエル・クレイグ演ずるJ・ボンドの集大成?>
 山田洋次監督の『男はつらいよ』全48作(プラス特別編1作)は、1969年から1995年の26年間につくられたから、ほぼ1年に2本のペース。また、三國連太郎演じるスーさんと西田敏行演じるハマちゃんのコンビで有名な『釣りバカ日誌』は、1988年から2009年までの間に全22作がつくられたから、こちらはほぼ1年に1本のペース。それに対して、『007』シリーズは53年間で24本だから、平均して2年に1本のペースだ。もちろん、製作費は『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』とは比較にならないほど高額だ。
 他方、『男はつらいよ』シリーズでは渥美清が一人で全作の寅さんを演じたが、これは奇跡的なこと。また、『釣りバカ日誌』は三國連太郎の体調不良のため、2009年の第22作の『釣りバカ日誌20 ファイナル』で終了した(その後、2013年4月13に死亡)が、10月23日からは西田敏行がスーさんこと鈴木建設の鈴木社長を演じるテレビドラマ『釣りバカ日誌』が放送されている。それに対して、『007』シリーズではトータルで6人の俳優がジェームズ・ボンドを演じている。
 しかして、ダニエル・クレイグが6代目のジェームズ・ボンドを演じてから10年。その第4作となる本作は、全体的なストーリー構成の点でも集大成と位置づけられている。本作は第3作の『007 スカイフォール』に続いてサム・メンデス監督がメガホンをとっているが、11月27日~29日に全米で先行上映されるや大ヒットしているらしい。その原因はストーリーの面白さはもちろんだが、あらゆる意味で本作が『007』シリーズの原点に回帰したことにあるだろう。しかし、私がそれ以上に注目したのは、ダニエル・クレイグが、第21作『007/カジノ・ロワイヤル』(06年)、第22作『007/慰めの報酬』(08年)、第23作『007 スカイフィール』(12年)に続く本作で、6代目ジェームズ・ボンドの集大成的な役割を果たしていることだ。本作のプレスシートのイントロダクションには、「過去の苦悩を乗り越え、遂に完全なる“007”となったダニエル=ボンド 『007』シリーズは、頂点となるこの一作を待っていた」と書かれているが、その意味は?ひょっとしてそこには、ダニエル・クレイグ演ずるジェームズ・ボンドが本作で終了することが含まれているのだろうか?そこらあたりは、また数年後の第25作で・・・。
                                  2015(平成27)年11月16日記